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しおりを挟むふと西の空を眺めると、夜空に浮かんでいた細い三日月が沈んでしまっていた。
もう2時間近く星を眺めていることが分かった。
星を見る前に、副会長が望遠鏡に思いっきり鼻をぶつけていたけど、あれから出血もなさそうだし、少し安心した。
堅実でミスなどは全くなさそうな印象だったというのもあり、そそっかしいところがあるなんて、なんだか可愛いらしい人かもしれない。
こんなこと思うのは、高位貴族である彼に対して失礼極まりかもしれないが、これが俗に言うギャップ萌えなのではないだろうか。
彼の新たな一面を見れて、嬉しく感じた。
星を見せるキッカケを作ってくれた殿下には、後でお礼を言わないといけないと思った。
「ステラ嬢、もう少し見ていたいのだが、完全下校時刻を過ぎてしまっているようだ。今日は本当に楽しかった!君さえ良ければ、また生徒会の仕事が終わった後で星を見せてくれないか?」
彼に話しかけられるまで、下校時間のことをすっかり忘れていた。すごく機嫌が良さそうな様子で、その美しい笑顔に不覚にもときめきそうになってしまった。
「あっ…はい!」
私が返答した直後、目の前で副会長がよろけた。
その途端に黒い影が現れ、崩れて落ちて気を失った彼を受け止めている。
何が起きたのか分からず私は警戒する。新手の襲撃者だと思い込み体勢を整えようとすると、不審者が副会長を支えながら、突然話し始めた。
「主は寝不足で無理がたたったようで、安心して気が抜けて眠ってしまっただけです。お先に悪いですが帰らせて頂きますね。機材の撤収は、侯爵家の家令達に頼みますので、お気になさらず。」
その怪しい人物は、シェダル副会長の侍従らしい。学院で側にいるのを最近見たことがあったので間違いない。
話を聞いて、寝不足で疲れているのに付き合ってくれた彼に対して申し訳なく思った。
今度会った時にはちゃんと謝りたい。
それからシェダル副会長は、小柄な侍従に担ぎ上げられて連れて行かれてしまった。
その後、侯爵家の人たちの手伝いもあって、機材の撤収は5分も立たないくらいにあっという間に終わった。
時間が気になり腕時計を見てみると、乗合馬車の終発は既に出てしまっていることがわかる。かなり遅くまで学院に残っていたのだと改めて実感した。
どうやって帰ろうか悩んでいると、侯爵家の老執事が、私が困っている様子に気づき、家まで送ると申し出てきた。
お受けしたいところだが、シェダル副会長に良くない噂になる可能性もあるので、
「お断りさせて下さい。歩いて帰れますので。」
高位貴族の家からご好意を受けとるのはこの世界の常識だが、私を特別扱いにしていると噂が立って副会長に迷惑を被るかもしれないと思った。
「若い女性を一人置いて帰るなどできません。なるべく人通りの少ない道を通って人目につかないように帰りますので、乗って頂けないでしょうか。」
しかし、断らせまいという意思を感じる勢いで、
「私がお送りしないと後で坊ちゃんに叱られますのでお願いですから乗って頂かないと困るんです。」
こんな頼み方をされるのは卑怯だ。
私が断って一人で帰ってしまえば、執事は後で処罰を受けるかも知れないと思うと申し訳なくて、断るにも断れなく諦めて乗車することにした。
▽
ガタン…。
いつもは通らない田舎道で揺れる車内で一人、私は今日の出来事を思い返す。
シェダル副会長が、また星を見ようと言ってくれたのは本当に嬉しかった。こうやって誰かに誘われるのって前世以来な気がする。
それにしても副会長の体調が心配だな。
原因は、生徒会が正常に機能していないからだということは言わなくても分かる。
この状況に陥っているのが、乙女ゲームの筋書きだとすれば酷い話だ。このままだと若いうちに過労死してしまいそうだ。
出会いは最悪だったけど、自分の危機を救ってくれた優しい人を、苦しんでいく姿をただ傍観して見ているなんて、良心が痛んでできない。なんとか彼を救えないだろうか。
目の前で倒れた副会長を見て、切実に思った。
彼の体調に悪影響を及ぼす仕事の負担をなくす良い方法はないだろうか。
そう言えば、ミルザムの事件の真犯人はまだ見つかっていない。冤罪をかけられそうになったのもあり、思い出すのも忌まわしい事件だ。
あれからミルザムには実害は出ていないらしいが、これからまた被害に遭う可能性もある。
例の事件は、生徒会預かりで副会長が手腕で真犯人探しをしている。犯人探しは難航していて一向に進んでいない。
事件の調査を手伝わさせてくれるかどうか、今度会った時に一度聞いてみよう。
正直、あの事件に関わるのは気がひけるのだが、野放しにしておくとさらに状況が悪化しそうな予感に襲われた。
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