7 / 38
第1章:追放と最強のオカン
第7話 魔力接続
しおりを挟む
小鳥のさえずりと、柔らかな朝の日差しで目が覚める。
そんな理想的な朝を、俺は人生で初めて迎えたかもしれない。
「……ん、あぁ……」
俺はふかふかの枕に顔を埋めたまま、大きく伸びをした。
背中や腰の痛みがない。
王城の堅いベッドや、遠征中のゴツゴツした地面で寝ていた頃は、朝起きると身体のどこかが軋んでいたものだが、今はまるで雲の上で眠っていたかのように体が軽い。
「マザー製スプリング、恐るべしだな」
俺はむくりと起き上がり、サイドテーブルに置かれていた水差しの水を一気に飲み干した。
適度に冷えた水が、乾いた喉を潤していく。
壁の時計を見ると、時刻は朝の6時。規則正しい生活だ。
「よし、今日も働くか」
パジャマから、洗ってプレスされていた作業着に着替え、俺は居住ユニットの外へと出た。
外は快晴。
荒野の乾いた空気が肌を刺すが、昨日の絶望感とは違い、今はそれが心地よい刺激に感じる。
目の前には、朝日を受けて輝く巨大な金属の塊――我が愛しのオカン重機、ギガント・マザーが鎮座していた。
「おはよう、マザー。昨日はよく眠れ……」
俺は挨拶をしようとして、言葉を呑み込んだ。
様子がおかしい。
いつもなら、俺が起きた瞬間に『おはようございます、マスター!』と元気な挨拶が飛んでくるはずだ。
だが、今のマザーは沈黙している。
機体の各所にあったアンビエントライトも消えており、全体的にドヨーンとした空気を漂わせていた。
まるで、徹夜明けの老人のように生気がない。
「おい、マザー? どうした、故障か?」
俺は慌てて駆け寄り、太い前脚の装甲に手を触れた。
冷たい。
昨日はあれほど熱を帯びていた機体が、今はひんやりとしている。
『……お、おはよう……ございます……マスター……』
スピーカーから聞こえてきた声は、ノイズ混じりで、途切れ途切れだった。
いつもの張りとかつ舌の良さはどこへやら、今の彼女は風邪を引いた老婆のような声だ。
「マザー! おい、しっかりしろ! 何があった!?」
『いえ……ご心配なく……。ただの……エネルギー切れ……です……』
「エネルギー切れだって?」
『はい……。長い休眠から……目覚めたばかりで……昨日は調子に乗って……ワイバーンを焼いたり……お家を建てたり……はしゃぎすぎました……』
マザーは申し訳なさそうに、シュンとした音を立てた。
『自己修復用の……予備電源も……残り3%……。このままでは……システムダウン……スリープモードに……移行します……』
「馬鹿野郎! なんで言わなかった!」
『だって……マスターが……あんなに嬉しそうに……お風呂に入っていたから……水を差したくなくて……』
どこまでお人好しなんだ、このオカンは。
俺は舌打ちをしつつ、しかし内心では冷静に状況を分析していた。
マザーは超古代文明の遺産だ。その動力源は「魔力炉」と呼ばれる、大気中の魔力を取り込んで循環させる半永久機関のはずだ。
だが、数千年の休眠で炉の火が消えかけていたところに、俺が無理やり再起動させ、さらに高出力兵器までぶっ放した。
いわば、ガス欠寸前の車でサーキットを全力疾走したようなものだ。
炉が再臨界に達して自律循環を始める前に、燃料を使い果たしてしまったのだ。
「……3%か。ギリギリだな」
俺は焦る気持ちを抑え、マザーの機体を見上げた。
彼女を動かすには、魔力が必要だ。それも、並大抵の量ではない。
王国の魔導師団全員で儀式魔法を行うレベルの魔力が。
だが、ここに魔導師団はいない。
いるのは、魔力量「中の上」の、しがない魔導工学師だけだ。
「マザー。外部入力ポートを開け」
『え……? でも……マスターの魔力では……容量が……』
「いいから開け。俺を誰だと思ってる」
俺はニヤリと笑ってみせた。虚勢ではない。これは俺の専門分野だ。
「俺は10年間、王国のポンコツ設備を叩き直してきた男だぞ。効率の悪い魔導回路に、いかに少ない魔力で最大出力を出させるか。それに関しては、勇者カイルよりも、賢者ミリアよりも、俺の方が上だ」
『マスター……』
プシュゥ……と、弱々しい音を立てて、マザーの腹部にある装甲板がスライドした。
そこには、昨日の遺跡で見たものと同じ、複雑怪奇な幾何学模様の魔導回路が露出していた。
動力炉への直結ポートだ。
俺は深呼吸をし、両手をこすり合わせた。
指先の感覚を研ぎ澄ます。
職人のスイッチを入れる。
「よし。診察してやるよ、マザー」
俺は両手をポートに押し当てた。
冷たい金属の感触。その奥にある、微かに脈打つ動力炉の鼓動を感じる。
不整脈だ。魔力の循環リズムが乱れている。このまま魔力を注いでも、ザルのように漏れていくだけだ。
「まずは同調だ」
俺は目を閉じ、意識を集中させる。
【魔力変換・接続】――発動。
俺の固有スキルは、単に魔力を「与える」ものではない。
相手の魔力波長を読み取り、自分の魔力をその波長に合わせて「変換」し、ロスなく「接続」する技術だ。
言わば、規格の合わないコンセントに、自在に変形するアダプターを噛ませるようなものだ。
意識が、マザーのシステムへと潜っていく。
広大な電子の海。数億行にも及ぶコードの羅列。
その深淵にある、赤くくすぶる炉心が見えた。
(……見えた。あそこが詰まっているのか)
炉心への燃料パイプの一部が、長年の劣化で目詰まりを起こしている。
これではいくら魔力を注いでも循環しない。
俺は自分の魔力を、極細の「針金」のように変形させ、その詰まりへと送り込んだ。
慎重に、繊細に。
こびりついた魔力の滓を削ぎ落とし、流れをスムーズにしていく。
『あ……んっ……マスター、そこは……くすぐったいです……』
スピーカーから妙な声が漏れたが、無視だ。今は集中しろ。
詰まりが取れた。
道が開通した。
あとは、ここに「着火剤」となる高密度の魔力を流し込むだけだ。
「行くぞ、マザー。少し熱くなるかもしれないが、我慢しろよ」
『は、はい……覚悟はできています……!』
俺は体内の魔力タンクの栓を抜いた。
ただし、一気にドバッとは出さない。
マザーの炉心の回転数に合わせて、波打つように、リズミカルに魔力を送り込む。
吸気、圧縮、燃焼、排気。
エンジンの4工程に合わせて、魔力の圧力を調整する。
ドクン……ドクン……。
炉心の鼓動が強くなる。
「いいぞ、その調子だ。もっと回れ」
俺はさらに魔力を練り上げる。
かつて勇者たちの聖剣を調整していた時は、彼らの雑な魔力操作に合わせるのに苦労した。
だが、マザーは違う。
彼女は超高性能AIだ。俺が魔力を送れば送るほど、それを完璧に受け止め、最適化して返してくれる。
1を与えれば10にして返す。
そのレスポンスの良さに、俺は震えた。
(なんだ、この感覚は……!)
気持ちいい。
魔力を吸われる不快感など微塵もない。
むしろ、俺の魔力がマザーの一部となり、彼女の巨体を駆け巡る血液となる感覚が、快感ですらある。
これが、本物の「相棒」との接続か。
俺の額から汗が噴き出す。
魔力の残量は半分を切った。だが、まだ足りない。
炉心を完全に「再臨界」させるには、最後の一押しが必要だ。
「マザー! 俺の魔力に合わせて、出力を上げろ!」
『はいっ……! お願いします、マスター! 貴方の魔力を……もっと!』
「うおおおおおっ!」
俺は叫びと共に、残りの魔力を叩き込んだ。
瞬間。
ゴオオオオオオオオオンッ!!!!
マザーの体内から、爆発的な駆動音が響き渡った。
それは悲鳴ではない。歓喜の産声だ。
くすぶっていた残り火が、紅蓮の炎となって燃え上がった音だ。
機体の表面を走るラインが、赤から青へ、そして眩い黄金色へと変化していく。
アンビエントライトが復活し、カメラアイが鋭い光を放つ。
『動力炉、出力安定。エネルギー充填率100%……いえ、120%!』
マザーが立ち上がった。
その動作には、昨日の重々しさは微塵もない。
まるで羽が生えたかのように軽やかで、力強い。
俺はポートから手を離し、その場にへたり込んだ。
魔力欠乏特有の倦怠感が襲ってくる。だが、昨日のような死にかけの感覚ではない。
心地よい疲労感だ。
『マスター! 大丈夫ですか!?』
マザーのアームが素早く伸びてきて、俺の体を優しく支えた。
「はは……平気だ。ちょっと、張り切りすぎたかな」
『もう! 無茶をして! ……でも』
マザーは俺を抱き上げたまま、その単眼を近づけてきた。
無機質なレンズの奥に、確かな熱量を感じる。
『凄かったです、マスター。貴方の魔力……すごくエンジンの掛かりが良いんです。私の回路の隅々まで染み渡って、痒いところに手が届くような……こんなに調子が良くなったのは、製造された時以来かもしれません』
「そりゃどうも。……職人冥利に尽きるよ」
俺は笑って答えた。
王国の連中は、俺の魔法を「地味」だと言った。
だが、この超古代兵器は、俺の魔法を「最高」だと言ってくれた。
それだけで、10年間の苦労が報われた気がした。
『ふふ、相性抜群ですね、私たち』
「ああ、違いない」
俺たちの間には、言葉以上の絆が生まれていた。
それは、単なる主従関係ではない。
魔力と機械、魂とシステムが深く結びついた、運命共同体としての絆だ。
『さあ、元気満タンになりました! マスター、今日のご予定は?』
マザーが俺を地面に降ろし、やる気満々といった様子でアームを振り回す。
「そうだな……。まずはこの拠点の周りをもう少し広げようか。整地して、畑を作れるようにしたい」
『お任せください! 今の私なら、山の一つや二つ、更地にしてみせますよ!』
頼もしすぎる言葉に、俺は苦笑した。
エネルギー切れの心配はもうない。
俺の魔力がある限り、マザーは動き続ける。
そしてマザーがいる限り、俺は守られ、豊かな暮らしを築ける。
「よし、行こうかマザー。今日の仕事の時間だ」
『はい、マスター! 安全第一、健康第二、そして――魔力充填で参りましょう!』
荒野に、重機の力強い走行音が響き渡る。
俺とマザーの開拓生活は、ここから本当の意味で加速していくのだ。
そんな理想的な朝を、俺は人生で初めて迎えたかもしれない。
「……ん、あぁ……」
俺はふかふかの枕に顔を埋めたまま、大きく伸びをした。
背中や腰の痛みがない。
王城の堅いベッドや、遠征中のゴツゴツした地面で寝ていた頃は、朝起きると身体のどこかが軋んでいたものだが、今はまるで雲の上で眠っていたかのように体が軽い。
「マザー製スプリング、恐るべしだな」
俺はむくりと起き上がり、サイドテーブルに置かれていた水差しの水を一気に飲み干した。
適度に冷えた水が、乾いた喉を潤していく。
壁の時計を見ると、時刻は朝の6時。規則正しい生活だ。
「よし、今日も働くか」
パジャマから、洗ってプレスされていた作業着に着替え、俺は居住ユニットの外へと出た。
外は快晴。
荒野の乾いた空気が肌を刺すが、昨日の絶望感とは違い、今はそれが心地よい刺激に感じる。
目の前には、朝日を受けて輝く巨大な金属の塊――我が愛しのオカン重機、ギガント・マザーが鎮座していた。
「おはよう、マザー。昨日はよく眠れ……」
俺は挨拶をしようとして、言葉を呑み込んだ。
様子がおかしい。
いつもなら、俺が起きた瞬間に『おはようございます、マスター!』と元気な挨拶が飛んでくるはずだ。
だが、今のマザーは沈黙している。
機体の各所にあったアンビエントライトも消えており、全体的にドヨーンとした空気を漂わせていた。
まるで、徹夜明けの老人のように生気がない。
「おい、マザー? どうした、故障か?」
俺は慌てて駆け寄り、太い前脚の装甲に手を触れた。
冷たい。
昨日はあれほど熱を帯びていた機体が、今はひんやりとしている。
『……お、おはよう……ございます……マスター……』
スピーカーから聞こえてきた声は、ノイズ混じりで、途切れ途切れだった。
いつもの張りとかつ舌の良さはどこへやら、今の彼女は風邪を引いた老婆のような声だ。
「マザー! おい、しっかりしろ! 何があった!?」
『いえ……ご心配なく……。ただの……エネルギー切れ……です……』
「エネルギー切れだって?」
『はい……。長い休眠から……目覚めたばかりで……昨日は調子に乗って……ワイバーンを焼いたり……お家を建てたり……はしゃぎすぎました……』
マザーは申し訳なさそうに、シュンとした音を立てた。
『自己修復用の……予備電源も……残り3%……。このままでは……システムダウン……スリープモードに……移行します……』
「馬鹿野郎! なんで言わなかった!」
『だって……マスターが……あんなに嬉しそうに……お風呂に入っていたから……水を差したくなくて……』
どこまでお人好しなんだ、このオカンは。
俺は舌打ちをしつつ、しかし内心では冷静に状況を分析していた。
マザーは超古代文明の遺産だ。その動力源は「魔力炉」と呼ばれる、大気中の魔力を取り込んで循環させる半永久機関のはずだ。
だが、数千年の休眠で炉の火が消えかけていたところに、俺が無理やり再起動させ、さらに高出力兵器までぶっ放した。
いわば、ガス欠寸前の車でサーキットを全力疾走したようなものだ。
炉が再臨界に達して自律循環を始める前に、燃料を使い果たしてしまったのだ。
「……3%か。ギリギリだな」
俺は焦る気持ちを抑え、マザーの機体を見上げた。
彼女を動かすには、魔力が必要だ。それも、並大抵の量ではない。
王国の魔導師団全員で儀式魔法を行うレベルの魔力が。
だが、ここに魔導師団はいない。
いるのは、魔力量「中の上」の、しがない魔導工学師だけだ。
「マザー。外部入力ポートを開け」
『え……? でも……マスターの魔力では……容量が……』
「いいから開け。俺を誰だと思ってる」
俺はニヤリと笑ってみせた。虚勢ではない。これは俺の専門分野だ。
「俺は10年間、王国のポンコツ設備を叩き直してきた男だぞ。効率の悪い魔導回路に、いかに少ない魔力で最大出力を出させるか。それに関しては、勇者カイルよりも、賢者ミリアよりも、俺の方が上だ」
『マスター……』
プシュゥ……と、弱々しい音を立てて、マザーの腹部にある装甲板がスライドした。
そこには、昨日の遺跡で見たものと同じ、複雑怪奇な幾何学模様の魔導回路が露出していた。
動力炉への直結ポートだ。
俺は深呼吸をし、両手をこすり合わせた。
指先の感覚を研ぎ澄ます。
職人のスイッチを入れる。
「よし。診察してやるよ、マザー」
俺は両手をポートに押し当てた。
冷たい金属の感触。その奥にある、微かに脈打つ動力炉の鼓動を感じる。
不整脈だ。魔力の循環リズムが乱れている。このまま魔力を注いでも、ザルのように漏れていくだけだ。
「まずは同調だ」
俺は目を閉じ、意識を集中させる。
【魔力変換・接続】――発動。
俺の固有スキルは、単に魔力を「与える」ものではない。
相手の魔力波長を読み取り、自分の魔力をその波長に合わせて「変換」し、ロスなく「接続」する技術だ。
言わば、規格の合わないコンセントに、自在に変形するアダプターを噛ませるようなものだ。
意識が、マザーのシステムへと潜っていく。
広大な電子の海。数億行にも及ぶコードの羅列。
その深淵にある、赤くくすぶる炉心が見えた。
(……見えた。あそこが詰まっているのか)
炉心への燃料パイプの一部が、長年の劣化で目詰まりを起こしている。
これではいくら魔力を注いでも循環しない。
俺は自分の魔力を、極細の「針金」のように変形させ、その詰まりへと送り込んだ。
慎重に、繊細に。
こびりついた魔力の滓を削ぎ落とし、流れをスムーズにしていく。
『あ……んっ……マスター、そこは……くすぐったいです……』
スピーカーから妙な声が漏れたが、無視だ。今は集中しろ。
詰まりが取れた。
道が開通した。
あとは、ここに「着火剤」となる高密度の魔力を流し込むだけだ。
「行くぞ、マザー。少し熱くなるかもしれないが、我慢しろよ」
『は、はい……覚悟はできています……!』
俺は体内の魔力タンクの栓を抜いた。
ただし、一気にドバッとは出さない。
マザーの炉心の回転数に合わせて、波打つように、リズミカルに魔力を送り込む。
吸気、圧縮、燃焼、排気。
エンジンの4工程に合わせて、魔力の圧力を調整する。
ドクン……ドクン……。
炉心の鼓動が強くなる。
「いいぞ、その調子だ。もっと回れ」
俺はさらに魔力を練り上げる。
かつて勇者たちの聖剣を調整していた時は、彼らの雑な魔力操作に合わせるのに苦労した。
だが、マザーは違う。
彼女は超高性能AIだ。俺が魔力を送れば送るほど、それを完璧に受け止め、最適化して返してくれる。
1を与えれば10にして返す。
そのレスポンスの良さに、俺は震えた。
(なんだ、この感覚は……!)
気持ちいい。
魔力を吸われる不快感など微塵もない。
むしろ、俺の魔力がマザーの一部となり、彼女の巨体を駆け巡る血液となる感覚が、快感ですらある。
これが、本物の「相棒」との接続か。
俺の額から汗が噴き出す。
魔力の残量は半分を切った。だが、まだ足りない。
炉心を完全に「再臨界」させるには、最後の一押しが必要だ。
「マザー! 俺の魔力に合わせて、出力を上げろ!」
『はいっ……! お願いします、マスター! 貴方の魔力を……もっと!』
「うおおおおおっ!」
俺は叫びと共に、残りの魔力を叩き込んだ。
瞬間。
ゴオオオオオオオオオンッ!!!!
マザーの体内から、爆発的な駆動音が響き渡った。
それは悲鳴ではない。歓喜の産声だ。
くすぶっていた残り火が、紅蓮の炎となって燃え上がった音だ。
機体の表面を走るラインが、赤から青へ、そして眩い黄金色へと変化していく。
アンビエントライトが復活し、カメラアイが鋭い光を放つ。
『動力炉、出力安定。エネルギー充填率100%……いえ、120%!』
マザーが立ち上がった。
その動作には、昨日の重々しさは微塵もない。
まるで羽が生えたかのように軽やかで、力強い。
俺はポートから手を離し、その場にへたり込んだ。
魔力欠乏特有の倦怠感が襲ってくる。だが、昨日のような死にかけの感覚ではない。
心地よい疲労感だ。
『マスター! 大丈夫ですか!?』
マザーのアームが素早く伸びてきて、俺の体を優しく支えた。
「はは……平気だ。ちょっと、張り切りすぎたかな」
『もう! 無茶をして! ……でも』
マザーは俺を抱き上げたまま、その単眼を近づけてきた。
無機質なレンズの奥に、確かな熱量を感じる。
『凄かったです、マスター。貴方の魔力……すごくエンジンの掛かりが良いんです。私の回路の隅々まで染み渡って、痒いところに手が届くような……こんなに調子が良くなったのは、製造された時以来かもしれません』
「そりゃどうも。……職人冥利に尽きるよ」
俺は笑って答えた。
王国の連中は、俺の魔法を「地味」だと言った。
だが、この超古代兵器は、俺の魔法を「最高」だと言ってくれた。
それだけで、10年間の苦労が報われた気がした。
『ふふ、相性抜群ですね、私たち』
「ああ、違いない」
俺たちの間には、言葉以上の絆が生まれていた。
それは、単なる主従関係ではない。
魔力と機械、魂とシステムが深く結びついた、運命共同体としての絆だ。
『さあ、元気満タンになりました! マスター、今日のご予定は?』
マザーが俺を地面に降ろし、やる気満々といった様子でアームを振り回す。
「そうだな……。まずはこの拠点の周りをもう少し広げようか。整地して、畑を作れるようにしたい」
『お任せください! 今の私なら、山の一つや二つ、更地にしてみせますよ!』
頼もしすぎる言葉に、俺は苦笑した。
エネルギー切れの心配はもうない。
俺の魔力がある限り、マザーは動き続ける。
そしてマザーがいる限り、俺は守られ、豊かな暮らしを築ける。
「よし、行こうかマザー。今日の仕事の時間だ」
『はい、マスター! 安全第一、健康第二、そして――魔力充填で参りましょう!』
荒野に、重機の力強い走行音が響き渡る。
俺とマザーの開拓生活は、ここから本当の意味で加速していくのだ。
37
あなたにおすすめの小説
隠して忘れていたギフト『ステータスカスタム』で能力を魔改造 〜自由自在にカスタマイズしたら有り得ないほど最強になった俺〜
桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
ファンタジー
能力(スキル)を隠して、その事を忘れていた帝国出身の錬金術師スローンは、無能扱いで大手ギルド『クレセントムーン』を追放された。追放後、隠していた能力を思い出しスキルを習得すると『ステータスカスタム』が発現する。これは、自身や相手のステータスを魔改造【カスタム】できる最強の能力だった。
スローンは、偶然出会った『大聖女フィラ』と共にステータスをいじりまくって最強のステータスを手に入れる。その後、超高難易度のクエストを難なくクリア、無双しまくっていく。その噂が広がると元ギルドから戻って来いと頭を下げられるが、もう遅い。
真の仲間と共にスローンは、各地で暴れ回る。究極のスローライフを手に入れる為に。
「餌代の無駄」と追放されたテイマー、家族(ペット)が装備に祝福を与えていた。辺境で美少女化する家族とスローライフ
天音ねる(旧:えんとっぷ)
ファンタジー
【祝:男性HOT18位】Sランクパーティ『紅蓮の剣』で、戦闘力のない「生産系テイマー」として雑用をこなす心優しい青年、レイン。
彼の育てる愛らしい魔物たちが、実はパーティの装備に【神の祝福】を与え、その強さの根源となっていることに誰も気づかず、仲間からは「餌代ばかりかかる寄生虫」と蔑まれていた。
「お前はもういらない」
ついに理不尽な追放宣告を受けるレイン。
だが、彼と魔物たちがパーティを去った瞬間、最強だったはずの勇者の聖剣はただの鉄クズに成り果てた。祝福を失った彼らは、格下のモンスターに惨敗を喫する。
――彼らはまだ、自分たちが捨てたものが、どれほど偉大な宝だったのかを知らない。
一方、レインは愛する魔物たち(スライム、ゴブリン、コカトリス、マンドラゴラ)との穏やかな生活を求め、人里離れた辺境の地で新たな暮らしを始める。
生活のためにギルドへ持ち込んだ素材は、実は大陸の歴史を塗り替えるほどの「神話級」のアイテムばかりだった!?
彼の元にはエルフやドワーフが集い、静かな湖畔の廃屋は、いつしか世界が注目する「聖域」へと姿を変えていく。
そして、レインはまだ知らない。
夜な夜な、彼が寝静まった後、愛らしい魔物たちが【美少女】の姿となり、
「れーんは、きょーも優しかったの! だからぽるん、いーっぱいきらきらジェル、あげたんだよー!」
「わ、私、今日もちゃんと硬い石、置けました…! レイン様、これがあれば、きっともう危ない目に遭いませんよね…?」
と、彼を巡って秘密のお茶会を繰り広げていることを。
そして、彼が築く穏やかな理想郷が、やがて大国の巨大な陰謀に巻き込まれていく運命にあることを――。
理不尽に全てを奪われた心優しいテイマーが、健気な“家族”と共に、やがて世界を動かす主となる。
王道追放ざまぁ × 成り上がりスローライフ × 人外ハーモニー!
HOT男性49位(2025年9月3日0時47分)
→37位(2025年9月3日5時59分)→18位(2025年9月5日10時16分)
『追放された底辺付与術師、実は【全自動化】のチートスキル持ちでした〜ブラックギルドを追い出されたので、辺境で商会を立ち上げたら勝手に世界規
NagiKurou
ファンタジー
「お前のような、一日中デスクに座って何もしない無能はクビだ!」
国内最大のギルド『栄光の剣』で、底辺の付与術師として働いていたアルスは、ある日突然、強欲なギルドマスターから追放を言い渡される。
しかし、彼らは知らなかった。ギルドの武器の自動修復、物流の最適化、資金管理に至るまで、すべてアルスの固有スキル【全自動化(ワークフロー構築)】によって完璧にシステム化され、回っていたことを。
「俺がいなくなったら、あの自動化システム、全部止まるけど……まあいいか」
管理権限を解除し、辺境へと旅立ったアルス。彼は自身のスキルを使って、圧倒的な耐久力を誇る銀色の四輪型重装ゴーレムを作り出し、気ままな行商を始める。
一度構築すれば無限に富を生み出す「全自動」のチートスキルで、アルスの商会は瞬く間に世界規模へとスケールしていく!
一方、すべてを失ったギルドは、生産ラインが崩壊し、絶望のどん底へと突き落とされていくのだった……。
ザコ魔法使いの僕がダンジョンで1人ぼっち!魔獣に襲われても石化した僕は無敵状態!経験値が溜まり続けて気づいた時には最強魔導士に!?
さかいおさむ
ファンタジー
戦士は【スキル】と呼ばれる能力を持っている。
僕はスキルレベル1のザコ魔法使いだ。
そんな僕がある日、ダンジョン攻略に向かう戦士団に入ることに……
パーティに置いていかれ僕は1人ダンジョンに取り残される。
全身ケガだらけでもう助からないだろう……
諦めたその時、手に入れた宝を装備すると無敵の石化状態に!?
頑張って攻撃してくる魔獣には申し訳ないがダメージは皆無。経験値だけが溜まっていく。
気づけば全魔法がレベル100!?
そろそろ反撃開始してもいいですか?
内気な最強魔法使いの僕が美女たちと冒険しながら人助け!
世界最強の賢者、勇者パーティーを追放される~いまさら帰ってこいと言われてももう遅い俺は拾ってくれた最強のお姫様と幸せに過ごす~
aoi
ファンタジー
「なぁ、マギそろそろこのパーティーを抜けてくれないか?」
勇者パーティーに勤めて数年、いきなりパーティーを戦闘ができずに女に守られてばかりだからと追放された賢者マギ。王都で新しい仕事を探すにも勇者パーティーが邪魔をして見つからない。そんな時、とある国のお姫様がマギに声をかけてきて......?
お姫様の為に全力を尽くす賢者マギが無双する!?
神眼の鑑定師~女勇者に追放されてからの成り上がり~大地の精霊に気に入られてアイテム作りで無双します
すもも太郎
ファンタジー
伝説級勇者パーティーを首になったニースは、ギルドからも放逐されて傷心の旅に出る。
その途中で大地の精霊と運命の邂逅を果たし、精霊に認められて加護を得る。
出会った友人たちと共に成り上がり、いつの日にか国家の運命を変えるほどの傑物となって行く。
そんなニースの大活躍を知った元のパーティーが追いかけてくるが、彼らはみじめに落ちぶれて行きあっという間に立場が逆転してしまう。
大精霊の力を得た鑑定師の神眼で、透視してモンスター軍団や敵国を翻弄したり、創り出した究極のアイテムで一般兵が超人化したりします。
今にも踏み潰されそうな弱小国が超大国に打ち勝っていくサクセスストーリーです。
※ハッピーエンドです
最上級のパーティで最底辺の扱いを受けていたDランク錬金術師は新パーティで成り上がるようです(完)
みかん畑
ファンタジー
最上級のパーティで『荷物持ち』と嘲笑されていた僕は、パーティからクビを宣告されて抜けることにした。
在籍中は僕が色々肩代わりしてたけど、僕を荷物持ち扱いするくらい優秀な仲間たちなので、抜けても問題はないと思ってます。
【完結】まもの牧場へようこそ!~転移先は魔物牧場でした ~-ドラゴンの子育てから始める異世界田舎暮らし-
いっぺいちゃん
ファンタジー
平凡なサラリーマン、相原正人が目を覚ましたのは、
見知らぬ草原に佇むひとつの牧場だった。
そこは、人に捨てられ、行き場を失った魔物の孤児たちが集う場所。
泣き虫の赤子ドラゴン「リュー」。
やんちゃなフェンリルの仔「ギン」。
臆病なユニコーンの仔「フィーネ」。
ぷるぷる働き者のスライム「モチョ」。
彼らを「処分すべき危険種」と呼ぶ声が、王都や冒険者から届く。
けれど正人は誓う。
――この子たちは、ただの“危険”なんかじゃない。
――ここは、家族の居場所だ。
癒やしのスキル【癒やしの手】を頼りに、
命を守り、日々を紡ぎ、
“人と魔物が共に生きる未来”を探していく。
◇
🐉 癒やしと涙と、もふもふと。
――これは、小さな牧場から始まる大きな物語。
――世界に抗いながら、共に暮らすことを選んだ者たちの、優しい日常譚。
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる