辺境に追放された魔導工学師、古代遺跡の【お節介AI重機】を目覚めさせる。不毛の荒野? 多脚戦車で一瞬で温泉リゾートですが何か?

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第2章:エルフの難民と温泉リゾート

第19話 自動防衛タレット設置

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 『マザー式・ハイブリッド温室』の稼働と『シルバーストリーム・ハイツ』への入居が完了し、エルフたちの生活も軌道に乗ってきた。

 朝は畑から収穫の喜びを伝える声が聞こえ、夕暮れ時には各家庭から夕食のいい匂いが漂ってくる。
 かつて死の荒野と呼ばれたこの場所は、今や緑と笑顔に溢れる「村」へと成長しつつあった。

 だが、領地が広がるということは、それだけ守るべき範囲も広がるということだ。

「……死角が増えたな」

 俺は居住ユニットの屋上に立ち、領地全体を見渡しながら呟いた。
 北側の岩山地帯、西側の植林予定地、そして南側の広大な農地。
 これまではマザー本体のセンサーだけで全域をカバーできていたが、建物が増え、人の往来が活発になると、どうしても目の届かない場所が出てくる。
 今は平和だが、ここは魔物の住処に近い辺境だ。いつまたオークのような群れや、空からの襲撃者が現れないとも限らない。

『マスターの懸念、共有しました。私も最近、右舷後方のセンサー感度に死角が生じていることを危惧していました』

 懐から取り出した通信端末から、マザーの声がする。

「ああ。エルフたちに自警団を組んでもらってはいるが、彼らにも休息は必要だ。24時間の監視体制を強いるのは酷だからな」

『同感です。睡眠不足は美容と健康の敵です。……そこで、提案があります』

 マザーの声が、どこか楽しげに弾んだ。

『拠点の拡張に合わせて、私の「分身」たちを展開しましょう。以前からバックグラウンドで製造を進めていた「自律型防衛端末」の配備準備が整いました』

「分身? ドローンのことか?」

『いえ、ただの偵察機ではありません。戦闘能力を有した、頼れる「子供たち」です。……みんな、出ておいで!』

 マザーの号令と共に、本体の格納ハッチが一斉に開放された。

 シュババババッ!!

 飛び出してきたのは、子供の頭ほどの大きさの球体たちだった。
 全部で20機ほどだろうか。
 銀色に輝くボディに、小さな翼と可愛らしい一つ目のカメラアイが付いている。
 ふわふわと空中に浮かび、俺の周りを旋回し始めた。

「ピピッ!」「ポポッ!」「プイッ!」

 電子音で何やらお喋りをしているようだ。
 まるで小鳥の群れか、あるいは無邪気な妖精のようにも見える。

「……これが、防衛端末?」

『はい。正式名称は『汎用自律支援ユニット・タイプC』。通称「子機」です』

 マザーが得意げに紹介する。

『一見可愛らしいですが、中身は高性能です。360度全方位センサー、麻痺針発射機構、そして緊急時には自爆……いえ、高出力レーザーによる迎撃も可能です』

「さらっと物騒なことを言ったな。自爆は禁止だぞ」

『冗談ですよ。彼らは私の意識とリンクしつつ、個別の判断で領内をパトロールします。不審者を見つけたら即座に通報、および排除を行います』

「なるほど。頼もしい警備員ってわけか」

 俺が手を伸ばすと、一機の子機がスッと掌に着陸した。
 ずっしりとした金属の重みがあるが、表面は滑らかで温かい。
 カメラアイが瞬きするように点滅し、「ピピッ」と挨拶をしてくる。

「よろしくな。みんなの安全を守ってくれよ」

 俺が言うと、子機は嬉しそうに翼をパタパタさせて飛び立った。

 早速、子機たちの設置作業が始まった。
 といっても、彼らは自律して動くので、俺たちがやるのは「持ち場」まで案内することくらいだ。

 俺はリーリャを誘い、少し離れた南側の境界線まで行くことにした。
 名目は「防衛ラインの視察」だが、実質的には二人きりの散歩――デートだ。
 シロはマザー本体の近くで、他の子機たちと追いかけっこをして遊んでいる。今日は「保護者」が見ていてくれるので安心だ。

「へぇ……。これがマザーの子供たちか。不思議な生き物だな」

 リーリャは、俺たちの周りをフワフワとついてくる2機の子機を見上げて目を丸くした。

「生き物っていうか、機械だけどな。でもまあ、マザーの一部みたいなもんだ」

「ふふっ。マザーに似て、どこか愛嬌があるな。お前について回る姿は、まるで水鳥の親子のようだ」

「俺が親鳥かよ」

 俺たちは軽口を叩きながら、整地されたあぜ道を並んで歩いた。
 風が心地よい。
 日差しは強いが、時折吹く風が汗ばんだ肌を冷やしてくれる。

「……平和だな」

 リーリャがしみじみと呟いた。

「ああ。オークに襲われていたのが嘘みたいだ」

「以前の私なら、こんな風に空を見上げて歩くことなどできなかった。常に周囲を警戒し、次の食事や寝床の心配をしていたからな」

 彼女は少し遠くを見る目をした。
 族長としての重責。生き延びるための必死な日々。
 今の穏やかな表情からは想像もつかないほど、過酷な時間を過ごしてきたのだろう。

「ここでは、背後を気にする必要はない。マザーと、あの子たちが守ってくれる」

 俺が指差すと、子機の一機が「ピポッ!」と敬礼のような動きをして見せた。

「頼もしいな。……だが、それだけではないぞ」

 リーリャが立ち止まり、俺の方を向いた。

「私たちが安心して眠れるのは、お前がいるからだ、アルド。お前がこの場所を作り、守ってくれているからだ」

 真剣な眼差し。
 その瞳に射抜かれて、俺は少し狼狽えた。

「よせよ。俺はただ、自分が快適に過ごしたいだけだって言ったろ?」

「ふふ、そうだったな。お前はそういう男だ。……だが、その『快適さ』の中に、私たちも入れてくれた。それが嬉しいのだ」

 リーリャは微笑み、俺の隣に並び直した。
 肩が触れ合う距離。
 甘い花の香りが鼻をくすぐる。マザー製のシャンプーの香りだろうか、それとも彼女自身の香りだろうか。

 南側の境界線に着くと、そこは見晴らしの良い丘になっていた。
 眼下には広大な荒野が広がり、遠くには蜃気楼が揺らめいている。
 ここより先はまだ手付かずの荒地だ。

「よし、ここを監視ポイントにしよう。マザー、聞こえるか?」

『はい、マスター。映像、クリアです。見晴らし最高ですね』

 端末から余計な一言が聞こえたが無視する。

「ここに2機配置する。異常があったらすぐに知らせてくれ」

『了解しました。――配置につけ、子どもたち!』

 俺たちが連れてきた2機の子機が、「ピィーッ!」と鳴いて空高く舞い上がった。
 彼らは空中で静止し、周囲への警戒を開始する。
 カメラアイが赤く光り、スキャンモードに入ったようだ。

「これで南側も安心だ」

「ああ。これなら、畑仕事に専念できる」

 仕事を終え、俺たちは丘の上に腰を下ろした。
 マザーが持たせてくれた水筒を開け、冷たいお茶(麦茶のような香ばしいお茶だ)を飲む。

「ぷはぁっ……。生き返るな」

「うむ。……アルド、一つ聞いてもいいか?」

「ん? なんだ?」

 リーリャが少し躊躇うように視線を逸らし、それから意を決したように俺を見た。

「お前は……いつか、王国に戻るつもりはあるのか?」

 その問いに、俺は少し驚いた。
 王国。俺を追放した場所。

「……ないよ。今さら戻る理由がない」

 俺は即答した。
 未練も、恨みも、今の生活の前では霞んで消えてしまった。
 あそこには、俺を必要とする人間はいなかった。
 だが、ここにはいる。

「そうか……。よかった」

 リーリャは心底ほっとしたように息を吐いた。

「いや、すまない。変なことを聞いて。……ただ、お前ほどの才能があれば、国が放っておかないのではないかと思ってな」

「放っておいてほしいもんだよ。俺はここで、温泉に入って、美味い飯を食って、昼寝をする。それが今の夢だ」

「ふふっ。小さな夢だな。世界を変える力を持っているのに」

「世界なんて変えなくていい。手の届く範囲が幸せなら、それで十分さ」

 俺はリーリャの手の上に、自分の手を重ねた。
 彼女はビクリと震えたが、手を引こうとはしなかった。
 温かい。
 マザーの金属的な温かさとは違う、柔らかな体温。

「それに、俺にはもう『家族』がいるからな。マザーと、シロと……」

 俺は言葉を切り、リーリャを見つめた。

「……君たちが」

 リーリャの頬が、夕焼けのように赤く染まった。
 彼女は俯き、長い睫毛を伏せる。

「……家族、か。悪くない響きだ」

 彼女はそっと俺の手に力を込め返してきた。

「私も……お前の家族になりたい。ずっと、傍にいさせてくれ」

 それは、実質的な逆プロポーズにも聞こえた。
 俺の心臓が早鐘を打つ。
 なんて答えるべきか。
 気の利いたセリフなんて思いつかない。

 その時。

『ピピピッ! 警告! 警告!』

 頭上で待機していた子機が、けたたましいアラート音を発した。
 同時に、懐の端末からマザーの緊迫した声が響く。

『マスター! いい雰囲気のところ申し訳ありません! 緊急事態です!』

「な、なんだ!? 敵襲か!?」

 俺たちは慌てて飛び起きた。
 またオークか? それともワイバーンか?

『いえ、敵ではありません。……お客様です』

「客?」

『北側のルートより、一台の馬車が接近中。商会の紋章を確認。……そして、その馬車の屋根に、派手な格好をした人間が乗っています』

「人間……?」

 俺とリーリャは顔を見合わせた。
 こんな辺境に、商人が?

『どうやら、以前マスターが言っていた「特産品」の噂を聞きつけたようですね。……あるいは、この地の異常な発展を嗅ぎつけたか』

 マザーの声には、少し警戒の色が混じっていた。
 平和な開拓生活に、初めて外部からの「波」が押し寄せてこようとしていた。

「……デートは中断だな」

 俺は苦笑いして、リーリャに手を差し出した。

「行こう、リーリャ。俺たちの領地の、最初のお客様をお出迎えだ」

「ああ。……背中は任せろ、領主様」

 リーリャは力強く頷き、俺の手を取って立ち上がった。
 その手は、さっきよりも強く、確かな信頼で結ばれていた。

 俺たちは丘を駆け下り、拠点へと向かった。
 空には、子機たちが編隊を組んで俺たちを先導するように飛んでいた。
 賑やかで、頼もしい、俺たちの新しい日常を守るために。
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