辺境に追放された魔導工学師、古代遺跡の【お節介AI重機】を目覚めさせる。不毛の荒野? 多脚戦車で一瞬で温泉リゾートですが何か?

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第3章:商魂と剣と氷華の嵐

第21話 資材が足りない!

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 『テラ・テルマエ』と名付けられた俺たちの領地は、命名式以来、爆発的なスピードで発展を続けていた。
 エルフたちが管理する畑はさらに拡張され、緑の絨毯が荒野を侵食するように広がっている。
 先日、行商人が訪れたことで、これから外部との接触が増えることも予想された。
 となれば、必要なのは来客用の宿泊施設や、交易所、さらにはエルフたちの人口増加に備えた住居の増設だ。

 カンカン、キンキン。
 今日も朝から、建設の槌音が響き渡っている。
 マザーの3Dプリンタ・アームが動き回り、エルフたちも手伝って新しい倉庫を建てているのだ。

 そんな活気ある風景を、俺は居住ユニットのリビングから眺めていた。

 ……いや、正確には、足元の「癒やし」を眺めていた。

「くぅ……ん……」

 ラグの上で、愛犬シロがお昼寝をしている。
 完全に野生を忘れたヘソ天スタイルだ。
 真っ白なお腹が上下に揺れているのも可愛いが、俺の視線はそこではない。
 シロの「後ろ足」だ。

 仰向けになったことで、無防備に放り出された後ろ足。
 銀色の毛に覆われた太ももから、キュッと引き締まった足首、そして丸みを帯びた足先。
 その裏側には、ピンクと黒が混じった、つやつやの肉球が見え隠れしている。
 時折、夢の中で走っているのか、ピクピクと痙攣するように動くのがたまらない。

「……いい形だ」

 俺は思わず呟き、そっと人差し指で肉球を突っついた。
 プニッ。
 弾力のある感触。
 シロは「むにゃ?」と寝言を言い、後ろ足を縮こまらせたが、起きる気配はない。
 むしろ、縮めたことで足先の毛がモフッと広がり、さらに可愛さが増した。
 この後ろ足の曲線美、そして肉球の配置バランス。まさに神の造形と言えるだろう。

『マスター。シロちゃんの後ろ足フェチに目覚めるのは自由ですが、現実逃避はそこまでです』

 天井のスピーカーから、マザーの冷静なツッコミが降ってきた。

『深刻なアラートが出ています。現実を見てください』

「……分かってるよ。聞きたくないだけだ」

 俺はシロの足から名残惜しく視線を外し、ホログラムモニターに表示された赤い警告表示に向き合った。

 【WARNING: Resource Critical Low】

 資材不足。
 それも、かなり深刻なレベルだ。

「……鉄材の残量が10%を切ったか」

『はい。石材も同様です。周辺の瓦礫や岩山から採取できる分は、あらかた使い切ってしまいました』

 マザーの建設能力は凄まじいが、それは大量の資材を消費するということでもある。
 特に、鉄は深刻だ。
 建物の補強材、農具、パイプライン、そしてマザー自身のメンテナンス用パーツ。
 何を作るにも鉄が必要になる。
 これまでは地表に露出していた鉄鉱石や、マザーが持っていた予備資材で賄っていたが、それも底をつきかけていた。

「このままじゃ、建設ストップだな」

『それだけではありません。私の自己修復用ナノマシンの生成にも、希少金属が必要です。このままでは、私の美容にも影響が出ます』

「それは一大事だな」

 マザーの機嫌を損ねると怖い。風呂の温度をぬるくされたり、食事の味付けを微妙に変えられたりするかもしれない。

「遠くの鉱山まで採掘に行くか? でも、輸送手段がな……」

 マザー本体で移動すれば大量に運べるが、往復のエネルギーコストと時間が馬鹿にならない。
 ここを長期間留守にするのも不安だ。

『マスター。検索クエリを拡大し、近隣エリアの地質調査データを再解析しました。……有力な候補地があります』

 モニターの地図が切り替わる。
 現在地『テラ・テルマエ』から北西へ約20キロ。
 切り立った崖の下に、赤いマーカーが表示された。

『古代の記録によれば、ここにはかつて大規模な「地下採掘施設」が存在していました。現在は廃棄されていますが、深層部には未採掘の鉱脈が残されている可能性が高いです』

「地下採掘施設……要するに、ダンジョンか?」

『こちらの時代の言葉で言えば、そうなるでしょう。入り口は崩落していますが、内部構造は比較的保たれていると推測されます。ここなら、鉄鉱石はもちろん、建築用の石材、うまくいけば魔石や希少金属も回収できるはずです』

 廃棄されたダンジョン。
 冒険者ギルドの依頼書でよく見る言葉だ。
 普通なら「魔物の巣窟」として忌避される場所だが、俺たちにとっては「宝の山」に見える。

「往復40キロなら日帰りで行けるな。……よし、決まりだ。資源回収に行くぞ」

 俺は立ち上がった。
 足元のシロが、俺の気配を感じて目を覚ます。

 「ん? 散歩?」と言いたげに、大きな欠伸をしながら後ろ足で耳の後ろを掻いている。その仕草もまた可愛い。

「シロ、ごめんな。今日はちょっと遠出してくるから、お留守番だ」

「くぅ~ん?」

 シロは首をかしげ、クリクリとした瞳で俺を見上げる。
 連れて行ってほしそうだが、ダンジョンは危険だ。崩落の危険もあるし、どんな魔物が住み着いているか分からない。
 前回の森のような開けた場所ならともかく、閉鎖空間での戦闘にシロを巻き込むわけにはいかない。

「リーリャたちと遊んで待っててくれ。お土産に美味い骨を見つけてくるから」

 俺はシロの頭を撫でて言い聞かせた。
 シロは少し不満そうに鼻を鳴らしたが、賢い子だ。俺が本気で言っているのを察して、「わふっ」と短く返事をしてお座りをした。

 出発の準備は迅速に行われた。
 今回は「戦闘」と「運搬」がメインだ。
 マザーは背中のカーゴスペースを拡張し、最大積載量を増やした「輸送特化モード」へと換装する。
 さらに、狭い坑道での作業を想定し、両腕のアタッチメントを「削岩ドリル」と「グラップル」に変更した。

「リーリャ、留守を頼む。何かあったら防衛システムを使ってくれ」

「ああ、任された。……気をつけてな、アルド。ダンジョンは魔物の巣だ。油断するなよ」

 見送りに来たリーリャが、心配そうに俺の肩に手を置いた。
 彼女は自分も行きたいと言ったが、領地の守りと、シロの世話を任せられるのは彼女しかいないと説得したのだ。

「大丈夫だ。俺には最強のボディガードがいるからな」

『お任せください、リーリャさん。マスターに指一本触れさせませんし、お土産には綺麗な宝石でも見つけてきますよ』

「ふふ、期待している」

 リーリャに見送られ、俺たちはテラ・テルマエを出発した。
 目指すは北西の山岳地帯。
 資源不足を解消し、領地をさらに発展させるための、初めての本格的な遠征だ。

 移動すること30分。
 マザーの脚力をもってすれば、荒野の移動など散歩のようなものだ。
 目の前には、空を突き刺すような険しい岩山がそびえ立っていた。
 植物も生えない、灰色の岩肌が露出した断崖絶壁。
 その中腹あたりに、人工的に開けられたような巨大な亀裂が見える。

『目的地周辺に到着。……反応あり。亀裂の奥に、空間が広がっています』

「あそこが入り口か。崩れてるな」

 入り口は土砂で半分埋まっている。
 普通の冒険者なら、ここから中に入るだけで一苦労だろう。
 だが、俺たちには「重機」がある。

「マザー、開通作業だ。瓦礫をどかして道を作れ」

『了解。――パワーアーム、出力上昇』

 マザーがアームを伸ばし、巨大な岩を掴む。
 ゴゴゴゴ……!
 油圧の音が唸り、人間数人掛かりでも動かないような岩が、軽々と持ち上げられ、放り投げられた。
 次々と瓦礫が撤去され、暗い穴が口を開けていく。

『入り口、確保。センサー有効範囲内、クリア。……突入します』

 マザーのヘッドライトが点灯し、闇を切り裂く。
 俺はコクピットのモニターをナイトビジョンモードに切り替えた。

 内部は意外にも広かった。
 高さ5メートル、幅10メートルほどのトンネルが、緩やかな下り坂となって奥へと続いている。
 壁面は滑らかに加工されており、明らかに自然の洞窟ではない。
 古代の文明が、掘削機械を使って掘り抜いた跡だ。

「……すごいな。数千年前の施設なのに、まだ崩れずに残ってるなんて」

『古代のコンクリートは、現代のものより遥かに耐久性が高いですから。……マスター、右側の壁を見てください』

 ライトが照らした壁面に、赤茶色の筋が走っていた。

「鉄鉱石か!?」

『はい。純度はそれほど高くありませんが、量は豊富です。入り口付近でこれなら、奥にはもっと有望な鉱脈があるでしょう』

「よし、まずは手当たり次第に回収だ!」

 俺たちは進みながら、目につく鉱石を片っ端から回収していった。
 マザーのアームが壁を削り、鉱石を砕き、背中のカーゴへと放り込んでいく。
 ガラガラガラ!
 心地よい音が響く。
 これはただの石ではない。俺たちの街を作る材料だ。
 鉄が増えれば農具が作れる。石が増えれば家が建つ。
 そう思うと、単調な作業も宝探しのように楽しかった。

 だが、ダンジョンはただの採掘場ではない。

『――警告。前方より生体反応、多数接近。敵性体です』

 マザーのアラートが鳴った。
 暗闇の奥から、無数の赤い光が浮かび上がる。
 カサカサカサ……という、虫が這い回るような不快な音が反響する。

「……出やがったな」

 現れたのは、犬ほどの大きさがある巨大な蜘蛛たちだった。

 『ケーブ・スパイダー』。

 毒を持ち、粘着性の糸で獲物を捕らえる厄介な魔物だ。
 数は20匹以上。壁や天井を張り付いて、四方八方から迫ってくる。

『採掘の邪魔です。排除しますか?』

「ああ、頼む。資源を傷つけないようにな」

『お任せを。「害虫駆除」モード、起動』

 マザーの肩部から、小型の火炎放射器と、マシンガンが展開された。
 蜘蛛たちは一斉に糸を吐き出してきたが、マザーのエネルギーシールドの前では無力だ。糸は触れた瞬間に焼き切れる。

「ギャギィッ!」

 蜘蛛が飛びかかってくる。
 マザーは慌てず、冷静にアームを振るった。
 ブンッ!
 鋼鉄の拳が蜘蛛を薙ぎ払う。潰れた蜘蛛が壁に叩きつけられる。

『汚物は消毒です』

 ボオオオオッ!
 火炎放射が群れを焼く。
 狭い通路が一瞬にして灼熱地獄と化した。
 断末魔を上げる蜘蛛たち。
 圧倒的だ。
 閉所においても、マザーの戦闘力は揺るがない。むしろ、逃げ場のない相手を一方的に蹂躙する処刑マシーンと化している。

「……相変わらず、容赦ないな」

『資源回収の効率を最大化するためです。さあ、掃除も終わりましたし、奥へ進みましょう。最深部には「レアメタル」の反応もあります』

 俺たちは蜘蛛の残骸を乗り越え、さらに奥へと進んだ。
 地下深くへ潜るにつれ、空気は重く、そしてどこか別の気配を帯びていく。
 ただの廃棄施設ではない。
 何かが、眠っているような気配。

『マスター、心拍数が上がっています。大丈夫ですか?』

「ああ、少し武者震いがな。……嫌な予感と、期待が半々だ」

 職人の勘が告げている。
 この先には、鉄や石以上の「何か」がある。
 それが俺たちの領地にとって吉と出るか凶と出るか。

「行こう、マザー。掘り尽くすまで帰らないぞ」

『はい、マスター! カーゴがいっぱいになるまで、とことんやりましょう!』

 頼もしい相棒と共に、俺はダンジョンの闇へと踏み込んでいった。
 シロが待つ家に、最高のお土産を持ち帰るために。
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