辺境に追放された魔導工学師、古代遺跡の【お節介AI重機】を目覚めさせる。不毛の荒野? 多脚戦車で一瞬で温泉リゾートですが何か?

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第4章:微笑みの鉄壁と叡智の集結

第37話 エルフたちの拒絶と決別宣言

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 テラ・テルマエの地下には、マザーが掘削した巨大な空間を利用した「氷室」がある。
 年間を通して低温に保たれたこの場所は、収穫した野菜や肉、そして酒を保存するための天然の冷蔵庫だ。
 その最深部で、俺は厚手の上着を羽織り、一人の女性と向き合っていた。

「……ふぅ。これでいいかしら?」

 銀の髪をなびかせ、涼しげな顔で息をついたのは、ガレリア帝国の将軍シルヴィアだ。
 彼女が細い指先を振るうと、空中に浮かんでいた水球が瞬時に凝固し、透き通るような氷塊となって棚に収まった。
 彼女の氷魔法は、戦闘だけでなく、こうした設備維持にも絶大な効果を発揮している。

「ああ、完璧だ。ありがとう、シルヴィア。おかげで食材が長持ちする」

「べ、別にお礼なんていいわよ。……家賃代わりって言ったでしょ」

 彼女はそっぽを向いたが、その頬はほんのりと赤い。
 氷の洞窟の中でも、彼女の横顔は冷たさを感じさせないほど可憐だった。

「さて、仕事も終わったし……報酬の時間だ」

 俺は持参したバスケットを開けた。
 中から取り出したのは、ガラスの器に入った色鮮やかな冷菓だ。
 完熟した「黄金桃」と「蜜柑」の果汁を凍らせ、細かく砕いた氷菓子。
 その上に、練乳をたっぷりと回しかけてある。

「……!」

 シルヴィアの目が輝いた。
 彼女は氷室の寒さなどものともせず、スプーンを手に取った。

「いただくわ」

 一口運ぶと、シャリッとした食感と共に、果実の甘酸っぱさと練乳の濃厚な甘みが口いっぱいに広がる。

「んんっ……。美味しい……」

 彼女がとろけるような笑顔を見せる。
 冷徹な将軍の仮面が剥がれ落ちる瞬間だ。
 俺たちは氷の椅子に並んで座り、冷菓を味わった。
 静かで、冷たくて、でも甘い時間。
 これは「氷室の点検」という名目の、ささやかな逢瀬だ。

『マスター。……甘いところ失礼します』

 マザーの通信が入ったのは、二つ目の氷菓子に手を伸ばそうとした時だった。

『南の街道より、来訪者あり。徒歩で二名。……識別信号、照合しました』

「誰だ?」

『元勇者パーティ所属。賢者ミリア、および聖女エレナです』

 俺の手が止まった。
 シルヴィアもスプーンを置き、鋭い眼光を取り戻す。

「……来たか」

 カイルに続き、残りの二人も。
 俺は立ち上がった。
 過去を清算する時が来たようだ。

 拠点の入り口には、すでにリーリャたちエルフの自警団と、ソフィアが待ち構えていた。
 俺とシルヴィアが到着すると同時に、荒野の向こうから二つの人影がよろめきながら歩いてくるのが見えた。

 かつての栄華は見る影もなかった。
 賢者ミリアの豪奢なローブは泥に汚れ、裾が裂けている。自慢の杖も宝石が欠け、ただの木の棒のようだ。
 聖女エレナも同様だ。純白だった聖衣は薄汚れ、疲労困憊で足を引きずっている。
 馬車も護衛もなく、命からがら逃げてきた敗残兵のようだった。

「ア、アルド……!」
「アルドさん……!」

 俺の姿を見つけると、二人は縋るような目で駆け寄ってきた。
 だが、マザーの子機たちが立ちはだかり、それ以上の接近を許さない。

「……何の用だ」

 俺は冷たく言い放った。
 かつて仲間だった女たち。だが、今の俺に湧く感情は、哀れみですらなかった。

「助けて、アルド! お願い!」

 ミリアが叫んだ。
 プライドの高かった賢者が、なりふり構わず涙を流している。

「カイルは……カイルはおかしくなってしまったの! 貴方がいなくなってから、何もかも上手くいかなくなって……八つ当たりばかりして……! 私たち、もう耐えられなくて逃げてきたの!」

「王都もひどい有様なんです……」

 エレナも震える声で訴える。

「結界が不安定で、魔物が街に入り込んで……疫病も流行り始めて……。神殿も王宮も大混乱で……。もう、頼れるのはアルドさんしかいないんです!」

 二人は口々に、自分たちの不幸と、王国の惨状を訴えた。
 そして、最後にこう言った。

「私たち、反省したわ。貴方の重要性が分かったの。だから……ここで、一緒に暮らさせて? 私たちの知識と魔法があれば、きっと役に立つはずよ!」
「はい! 私も治癒魔法でお手伝いします! だから、どうか……!」

 虫のいい話だ。
 自分たちで俺を追い出しておいて、困ったら「やっぱり必要だ」と戻ってくる。
 しかも、対等な仲間として受け入れろと言う。

「……お断りだ」

 俺は即答した。

「え……?」

「俺はもう、お前たちの道具じゃない。それに、ここは俺と、俺の大切な家族たちが暮らす場所だ。お前たちの席はない」

「そ、そんな! 私たちは賢者と聖女よ!? エルフなんかよりずっと優秀だわ!」

 ミリアが叫んだ瞬間。
 ヒュンッ!
 鋭い風切り音と共に、一本の矢がミリアの足元に突き刺さった。

「ひっ!?」

 射たのは、リーリャだった。
 彼女は弓を構えたまま、燃えるような瞳で二人を睨みつけていた。
 その背後には、数十人のエルフたちが、殺気立って並んでいる。

「……その杖。その魔力」

 リーリャが低い声で唸るように言った。

「忘れるものか。私たちの森を焼いたのは……貴様らの放った『浄化の炎』だ!」

「なっ……!?」

 ミリアが息を呑む。
 そうだ。数ヶ月前、王国の北部に魔物の巣窟が発生した際、勇者パーティが派遣された。
 カイルとミリアは、面倒な索敵を嫌い、森ごと焼き払うという暴挙に出たのだ。

 『魔物ごと浄化する』という名目で。

「ま、待って! あれは王命で……! 仕方なかったのよ!」

「黙れ!」

 リーリャの怒声が響く。

「貴様らの『仕方ない』で、どれだけの同胞が死んだと思っている! 住処を奪われ、荒野を彷徨い……アルドに救われるまで、私たちは地獄を見たのだ!」

 エルフたちが一歩前に出る。
 殺意。
 当然だ。彼女たちにとって、ミリアたちは仇敵なのだ。

「ひ、ひぃぃ……! アルド、助けて! この野蛮人たちを止めて!」

 ミリアが俺に助けを求める。
 どこまでも自分勝手な女だ。

「……野蛮なのは、どっちだ」

 俺は静かに告げた。

「技術を軽視し、他者の痛みを想像せず、力だけで解決しようとする。……お前たちは、何も学んでいない」

 俺は背を向けた。

「ソフィア。あとは任せる」

「はい、承りました」

 ソフィアが進み出た。
 彼女は一枚の羊皮紙を広げ、事務的な、しかし絶対的な口調で宣言した。

「ギルド支部長権限により、通達いたします。元賢者ミリア、元聖女エレナ。貴女方を『特定危険人物』に指定し、当領地への立ち入りを永久に禁止します」

 彼女は羊皮紙――『絶縁証明書』にサインをし、二人に突きつけた。

「これは国際的にも有効な書類です。今後、半径10キロ以内に接近した場合、防衛システムによる『排除』が合法的に執行されます」

「そ、そんな……嘘よ……」

「嘘ではありません。……マザーさん」

『了解。ロックオン』

 カシャン、カシャン!
 マザーの巨体から無数の砲門が展開され、二人を狙った。
 さらに、上空には数十機の子機が旋回し、赤いレーザーサイトを二人の額に合わせている。

「ひっ、あ、ああぁ……!」

 圧倒的な武力と、法的な絶縁。
 二人は完全に詰んだことを悟り、腰を抜かした。

「さあ、お引き取りを。……それとも、今すぐ『排除』なさりたくて?」

 シルヴィアが冷ややかに剣の柄に手をかける。
 その横で、ヴァネッサも「斬るか?」と物騒なことを呟いている。

 ミリアとエレナは、恐怖に顔を歪め、悲鳴を上げながら逃げ出した。
 ボロボロの姿で、荒野の彼方へ。
 王都に戻ることもできず、ここにも居場所はない。
 彼女たちがこれからどうなるのか、それは俺の知るところではない。

「……終わったな」

 二人の姿が見えなくなるまで見届けた後、俺は大きく息を吐いた。
 これで、本当に終わった。
 過去との決別。

「アルド……」

 リーリャが近づいてきた。
 彼女の目には涙が溜まっていた。

「……すまない。私たちが、感情的になって」

「いいんだ。当然の権利だ」

 俺は彼女の肩を抱いた。
 震える彼女を支えるように。

「これからは、ここが君たちの家だ。誰にも邪魔はさせない」

「ああ……! ありがとう、アルド……!」

 エルフたちが俺を取り囲み、感謝の言葉を口にする。
 その温かい輪の中で、俺は確かに感じていた。
 俺が選んだのは、この場所だと。

 その日の深夜。
 俺は再び、地下の氷室にいた。
 隣にはシルヴィアがいる。
 彼女もまた、俺の選択を見届けてくれた一人だ。

「……意外と、非情なのね。貴方も」

 シルヴィアが新しい氷菓子をスプーンでつつきながら言った。

「そうか? 当たり前のことをしただけだよ」

「昔の仲間でしょう? 少しは心が痛むかと思ったけれど」

「痛まないさ。……俺にはもう、守るべきものが多すぎるからな」

 俺は一口、氷菓子を食べた。
 冷たくて、甘い。
 頭が冴えていく。

「それに、俺一人で決めたことじゃない。みんなで決めたことだ」

 俺はシルヴィアを見た。
 彼女は少し驚いた顔をして、それからふわりと微笑んだ。

「……そうね。貴方は、一人じゃないものね」

 彼女が俺の肩に頭を乗せてきた。
 ひんやりとした冷気と、甘い香り。

「私も……その『守るべきもの』に入っているのかしら?」

「もちろん。大事な空調係……じゃなくて、用心棒だからな」

「もう! 素直じゃないわね!」

 シルヴィアがポカポカと俺の腕を叩く。
 痛くはない。
 そのじゃれ合いが、昼間の殺伐とした空気を溶かしてくれるようだった。

 外の世界は崩壊に向かっているかもしれない。
 だが、ここには確かな絆がある。
 冷たい氷菓子と、温かい体温。
 相反する二つを感じながら、俺はテラ・テルマエの夜を過ごした。

 明日もまた、忙しい一日が始まる。
 けれど、もう迷いはない。
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