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ネクロマンサーとスライムその2
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そこで丁度良い食堂を見つけると、セイジロウはスライムを連れて中へとはいった。
二人分の軽食を頼み、一番端にあるテーブル席へとつく。
「そういえば自己紹介がまだだったね、僕の名前はセイジロウ、ネクロマンサーさ」
「俺はエリック、見ての通りのスライムだ」
エリックがその水色の粘液状の身体を震わせながら自分の名前を告げる。
それから二人は運ばれてきたサラダと焼きたてのパンを食べた。
「人間だってスライムだって空腹だと嫌な気分になるものだよ。所でエリック、少しは気分が紛れたかな?」
「ああ、満腹になったからか、あの時感じていた虚しさも少しは薄まったよ」
その言葉にセイジロウは嬉しそうに微笑むと頷いて見せる。
「それはよかった」
そんな二人の会話を尻目に酒場の主と給仕は無言で俯いていた。
それは他の客も同様だ。スライムを相手に会話し、同じテーブルで食事を取るネクロマンサー。
傍から見れば異様な光景でしかなかったのだ。少なくとも一般人から見ればそうだ。
この国の常識からすれば少なくともそうなのだ。
スライムと会話をする──それは同じ魔物か、あるいは狂人でしかない。
それがこの国の一般的な常識というものだ。
「それでエリック、何故君は人の手に掛かって死のうとしたんだい?」
エリックがパンを千切っていた触手を止め、何か考え込むような素振りを見せる。
「そうだなあ……俺は自分で自分の命を絶つのが怖かったんだ。死にたいとは思っていても、やっぱり死ぬのは怖い。
何だか矛盾しているように感じるだろうが、それがあの時の俺の心境だったんだ。全く情けない話だよ、我ながら」
「そんな事はないさ、エリック。僕もそうだ。誰だって死は恐ろしいものだよ」
「セイジロウ、あんたは良い奴だ。スライムの俺にここまでしてくれるなんて……俺たちの種族は馬鹿にされる。
それは俺達が馬鹿で力も弱く、脆いからだ。だから、俺は馬鹿なりに学ぶことにしたんだ。
少しでも賢くなろうと。だが、現実は残酷だった。これだったら俺は無知なままの方が良かった……」
気落ちしたエリックの触手にセイジロウが慰めるように手を添える。
「そんな事はない。君が学んだことは何よりもかけがえの無いものだよ。
ただ、君は少し混乱しているだけさ。急激に様々な知識を知ったことでね……そうだ、エリック、
僕から君にプレゼントを上げよう。君が喜んでくれると嬉しいんだけど」
そう言うとセイジロウは己の袖を弄り、何かを取り出した。
セイジロウが取り出したのは楕円形の小さな紅い石だ。
エリックは興味深そうにその紅い石を見つめた。
「これはグラコスの血の結晶っていうアイテムなんだ。これを使うことで今よりもずっと君の能力は強化されるよ。
そして強くなってもう一度学んでみるといい。きっと、他の発見があるはずさ」
その言葉にエリックは頷くと、セイジロウからグラコスの血の結晶を受け取った。
アイテムデータ 「グラコスの血の結晶」 レア度 星四つ
解説
「身も凍るような氷雪の世界に凶獣グラコスは今でも眠っている。
このアイテムは眠れる凶獣グラコスの流す血が結晶化したものである。
グラコスの血の結晶を飲んだ魔物は一定数の能力値まで強化される。
また、人間が服用した場合、徐々にその身体が魔物化していくのもこのアイテムの特徴である」
一方、モルケス城にある礼拝堂では狂乱の坩堝に飲み込まれた人々が、神へ捧げる生贄を求めて年頃の娘たちを探していた。
神に生贄を捧げることで自らを守ってもらおうというわけだ。
「いやああっ、いやああああっ、お願いだから殺さないでっっ」
泣き喚きながら荒縄で縛られた娘達が次々に礼拝堂へと運び込まれていく。
「仕方のないことなのだっ、このモルケスに住まう人々を救う為にも生贄が必要なんだっ」
自己保身に走った人々は年頃の娘達を生贄に差し出すことに決めた。
それは僧侶であるトーマスも例外ではなかったのである。
人々は血走らせた眼を向け、口角から泡を吹きながら叫び続けた。
生贄をっ、生贄をっ、神への生贄をっ、それは混乱の中から生まれた集団ヒステリーだった。
中庭では大量の枝が積み重ねられ、炎が焚かれた。
涙を流しながら必死で助けを求める娘の頬を老婆がしたたかに殴りつけた。
「ぎゃあぎゃあと喚くんじゃないよっ、これからあんたは神の生贄として捧げられるんだからねっ」
老婆が歯を剥きだして娘に怒鳴りつける。そして罪人の如く縛り上げられた娘達は太い幹にくくりつけられていった。
その頃、セイジロウとエリックは並んで街路を歩いていた。
穏やかな陽射しがとても心地よい。ふたりが銀杏の木を通るとどこからか小鳥の鳴き声が聞こえてきた。
下を見ると木の根元に鳥のヒナが蹲っているではないか。どうやら巣穴から落ちてしまったようだ。
梢に停まった親鳥たちが心配そうにこちらを見ている。
「巣穴はあそこか、ちょっと届かないな……」
「それなら俺が手伝おう。セイジロウが俺を持ち上げて、俺が雛を持ち上げれば何とか巣穴に戻せそうだ」
そして二人は力を合わせて雛を巣穴に戻してやったのだった。
エリック スライム レベル1→15
体力2→40
物理攻撃力1→50
物理防御力1→48
魔法攻撃力2→56
魔法防御力2→53
精神力7→78
素早さ4→55
運4→89
エリックは努力のできるスライムだった。そして彼は独学で文字の読み書きを習得し、
知識を身につけて行ったのである。だが、現実を知ってしまったエリックはこの世に絶望した。
二人分の軽食を頼み、一番端にあるテーブル席へとつく。
「そういえば自己紹介がまだだったね、僕の名前はセイジロウ、ネクロマンサーさ」
「俺はエリック、見ての通りのスライムだ」
エリックがその水色の粘液状の身体を震わせながら自分の名前を告げる。
それから二人は運ばれてきたサラダと焼きたてのパンを食べた。
「人間だってスライムだって空腹だと嫌な気分になるものだよ。所でエリック、少しは気分が紛れたかな?」
「ああ、満腹になったからか、あの時感じていた虚しさも少しは薄まったよ」
その言葉にセイジロウは嬉しそうに微笑むと頷いて見せる。
「それはよかった」
そんな二人の会話を尻目に酒場の主と給仕は無言で俯いていた。
それは他の客も同様だ。スライムを相手に会話し、同じテーブルで食事を取るネクロマンサー。
傍から見れば異様な光景でしかなかったのだ。少なくとも一般人から見ればそうだ。
この国の常識からすれば少なくともそうなのだ。
スライムと会話をする──それは同じ魔物か、あるいは狂人でしかない。
それがこの国の一般的な常識というものだ。
「それでエリック、何故君は人の手に掛かって死のうとしたんだい?」
エリックがパンを千切っていた触手を止め、何か考え込むような素振りを見せる。
「そうだなあ……俺は自分で自分の命を絶つのが怖かったんだ。死にたいとは思っていても、やっぱり死ぬのは怖い。
何だか矛盾しているように感じるだろうが、それがあの時の俺の心境だったんだ。全く情けない話だよ、我ながら」
「そんな事はないさ、エリック。僕もそうだ。誰だって死は恐ろしいものだよ」
「セイジロウ、あんたは良い奴だ。スライムの俺にここまでしてくれるなんて……俺たちの種族は馬鹿にされる。
それは俺達が馬鹿で力も弱く、脆いからだ。だから、俺は馬鹿なりに学ぶことにしたんだ。
少しでも賢くなろうと。だが、現実は残酷だった。これだったら俺は無知なままの方が良かった……」
気落ちしたエリックの触手にセイジロウが慰めるように手を添える。
「そんな事はない。君が学んだことは何よりもかけがえの無いものだよ。
ただ、君は少し混乱しているだけさ。急激に様々な知識を知ったことでね……そうだ、エリック、
僕から君にプレゼントを上げよう。君が喜んでくれると嬉しいんだけど」
そう言うとセイジロウは己の袖を弄り、何かを取り出した。
セイジロウが取り出したのは楕円形の小さな紅い石だ。
エリックは興味深そうにその紅い石を見つめた。
「これはグラコスの血の結晶っていうアイテムなんだ。これを使うことで今よりもずっと君の能力は強化されるよ。
そして強くなってもう一度学んでみるといい。きっと、他の発見があるはずさ」
その言葉にエリックは頷くと、セイジロウからグラコスの血の結晶を受け取った。
アイテムデータ 「グラコスの血の結晶」 レア度 星四つ
解説
「身も凍るような氷雪の世界に凶獣グラコスは今でも眠っている。
このアイテムは眠れる凶獣グラコスの流す血が結晶化したものである。
グラコスの血の結晶を飲んだ魔物は一定数の能力値まで強化される。
また、人間が服用した場合、徐々にその身体が魔物化していくのもこのアイテムの特徴である」
一方、モルケス城にある礼拝堂では狂乱の坩堝に飲み込まれた人々が、神へ捧げる生贄を求めて年頃の娘たちを探していた。
神に生贄を捧げることで自らを守ってもらおうというわけだ。
「いやああっ、いやああああっ、お願いだから殺さないでっっ」
泣き喚きながら荒縄で縛られた娘達が次々に礼拝堂へと運び込まれていく。
「仕方のないことなのだっ、このモルケスに住まう人々を救う為にも生贄が必要なんだっ」
自己保身に走った人々は年頃の娘達を生贄に差し出すことに決めた。
それは僧侶であるトーマスも例外ではなかったのである。
人々は血走らせた眼を向け、口角から泡を吹きながら叫び続けた。
生贄をっ、生贄をっ、神への生贄をっ、それは混乱の中から生まれた集団ヒステリーだった。
中庭では大量の枝が積み重ねられ、炎が焚かれた。
涙を流しながら必死で助けを求める娘の頬を老婆がしたたかに殴りつけた。
「ぎゃあぎゃあと喚くんじゃないよっ、これからあんたは神の生贄として捧げられるんだからねっ」
老婆が歯を剥きだして娘に怒鳴りつける。そして罪人の如く縛り上げられた娘達は太い幹にくくりつけられていった。
その頃、セイジロウとエリックは並んで街路を歩いていた。
穏やかな陽射しがとても心地よい。ふたりが銀杏の木を通るとどこからか小鳥の鳴き声が聞こえてきた。
下を見ると木の根元に鳥のヒナが蹲っているではないか。どうやら巣穴から落ちてしまったようだ。
梢に停まった親鳥たちが心配そうにこちらを見ている。
「巣穴はあそこか、ちょっと届かないな……」
「それなら俺が手伝おう。セイジロウが俺を持ち上げて、俺が雛を持ち上げれば何とか巣穴に戻せそうだ」
そして二人は力を合わせて雛を巣穴に戻してやったのだった。
エリック スライム レベル1→15
体力2→40
物理攻撃力1→50
物理防御力1→48
魔法攻撃力2→56
魔法防御力2→53
精神力7→78
素早さ4→55
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