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男女のデーモンバスター
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目の前の廊下には部屋が二つ並んでいた。右側にあった一番手前のドアを開けて中に入るが何もない。
腐って表面がほつれた畳が敷いてあるだけだ。
イグニス・ファトゥスもスライムも見当たらないな。恐らくは食われたんだろう。
他の奴にな。俺はさっさと出ると残りの部屋に足を踏み入れた。
途端に肌に冷気を感じた。目の前には首を下げた女が佇んでいる。黒いワンピースを着た女だ。
こいつが冷気の正体だ。女が頭を上げると俺をジロリと睨んだ。
俺は女に近づくとその両眼をじっと見据えた。
こいつに会話できるだけの理性があるのか、それとも妄執にとりつかれて狂っているのか。
それが問題だ(注十八)。
流石の俺でも理性があって協力的な相手を食う気はしないからな。
注十八「言っておくがシェイクスピアのハムレットのパロディーじゃないぞ」
「見たところ、バンシーのようだな。他のイグニス・ファトゥスやスライムを食ったのはお前か?」
だが、俺が尋ねても女は黙ったままだ。
「おい、バンシー、我が主の問いに答えよっ」
レブがバンシーに向かって怒鳴る。それでもバンシーは沈黙している。
どうしたものかと俺は顎を指で掻きながら考えた。
「おい、バンシー、ここがお前の縄張りだってのはわかる。ただな、俺も力が必要なんだ。
だから当分の間、ここを狩場として使わせてもらうぞ。ああ、勿論、礼をするさ」
俺の申し出にバンシーに対し、パンシーは少しばかり視線を動かした。
しかし無口なバンシーだな、こいつは(注十九)。
注十九「大抵のバンシーはうるさいもんだ。なんせ、泣き女って呼ばれるくらいだからな」
とりあえず、こっちに敵対するつもりは無さそうだから俺は放っておくことにした。
あとは勝手に食わせてもらう。
俺はレブを連れ立って部屋から出ようとした。その時、誰かが階段を駆け上がってくる足音が聞こえてきた。
咄嗟にドアの横の物陰に隠れ、俺は新しい侵入者を確かめた。
入ってきたのは一組の男女だった。
男女ともお揃いの茶色いロングブーツを履き、黒いトレンチコートを着こなしている。
「異界化してるって聞いたから、来てみたけど、どうやらバンシーがいたみたいね」
ポニーテールの髪型をした女が、横に立っている男に振り返った。
「そうだな。始末しておくか」
デーモンバスターのペアか。男が純銀でできたボウイナイフを鞘から引き抜く。
刃渡りは四〇センチってとこだ。
女が腰からぶら下げたホルスターから拳銃を抜き取った。弾丸は純銀製ってとこか。
銀は下級のデーモンに効果があることで知られている。
だから大抵のデーモンバスターやハンターは銀製品の武器を携帯してるものだ。
中級辺りのスーパーナチュラルには、何の効果もないけどな。
俺は後ろから二人に声をかけた。
「そのバンシーは大人しいもんだ。こっちに危害を加えるつもりもなさそうだし、放っておいたらどうだ?」
驚いた二人が同時に俺に視線を向けた。どうやら俺の存在に本当に気づいていなかったようだ(注二十)。
注二十「この二人の名誉のために言っておくが、今の俺も隠れたり、
気配をある程度までは消すスキルをある程度までは身につけている。だからこの二人が特別に鈍いってわけじゃない」
「なんで、子供がこんな場所に?」
男が眉根を潜めて俺を訝しんだ。
俺は何か言われる前に腕に巻いた召喚用デバイスを見せてやった。
「そうか、ちょっとおかしいとは思ってたけど、イグニス・ファトゥスやスライムを見かけなかったのは君が退治したから?」
女の言葉に俺は黙って頷いた。正確には退治じゃなくて、吸収したんだけどな。
「そのバンシーはここにひっそりで暮らしているだけだ。別に悪さするつもりもなさそうだし、構わないでおいてやればいい」
「そういうわけにもいかないわ。異界化すると他の人たちが困るし、私達も仕事で来てるんだからね」
腐って表面がほつれた畳が敷いてあるだけだ。
イグニス・ファトゥスもスライムも見当たらないな。恐らくは食われたんだろう。
他の奴にな。俺はさっさと出ると残りの部屋に足を踏み入れた。
途端に肌に冷気を感じた。目の前には首を下げた女が佇んでいる。黒いワンピースを着た女だ。
こいつが冷気の正体だ。女が頭を上げると俺をジロリと睨んだ。
俺は女に近づくとその両眼をじっと見据えた。
こいつに会話できるだけの理性があるのか、それとも妄執にとりつかれて狂っているのか。
それが問題だ(注十八)。
流石の俺でも理性があって協力的な相手を食う気はしないからな。
注十八「言っておくがシェイクスピアのハムレットのパロディーじゃないぞ」
「見たところ、バンシーのようだな。他のイグニス・ファトゥスやスライムを食ったのはお前か?」
だが、俺が尋ねても女は黙ったままだ。
「おい、バンシー、我が主の問いに答えよっ」
レブがバンシーに向かって怒鳴る。それでもバンシーは沈黙している。
どうしたものかと俺は顎を指で掻きながら考えた。
「おい、バンシー、ここがお前の縄張りだってのはわかる。ただな、俺も力が必要なんだ。
だから当分の間、ここを狩場として使わせてもらうぞ。ああ、勿論、礼をするさ」
俺の申し出にバンシーに対し、パンシーは少しばかり視線を動かした。
しかし無口なバンシーだな、こいつは(注十九)。
注十九「大抵のバンシーはうるさいもんだ。なんせ、泣き女って呼ばれるくらいだからな」
とりあえず、こっちに敵対するつもりは無さそうだから俺は放っておくことにした。
あとは勝手に食わせてもらう。
俺はレブを連れ立って部屋から出ようとした。その時、誰かが階段を駆け上がってくる足音が聞こえてきた。
咄嗟にドアの横の物陰に隠れ、俺は新しい侵入者を確かめた。
入ってきたのは一組の男女だった。
男女ともお揃いの茶色いロングブーツを履き、黒いトレンチコートを着こなしている。
「異界化してるって聞いたから、来てみたけど、どうやらバンシーがいたみたいね」
ポニーテールの髪型をした女が、横に立っている男に振り返った。
「そうだな。始末しておくか」
デーモンバスターのペアか。男が純銀でできたボウイナイフを鞘から引き抜く。
刃渡りは四〇センチってとこだ。
女が腰からぶら下げたホルスターから拳銃を抜き取った。弾丸は純銀製ってとこか。
銀は下級のデーモンに効果があることで知られている。
だから大抵のデーモンバスターやハンターは銀製品の武器を携帯してるものだ。
中級辺りのスーパーナチュラルには、何の効果もないけどな。
俺は後ろから二人に声をかけた。
「そのバンシーは大人しいもんだ。こっちに危害を加えるつもりもなさそうだし、放っておいたらどうだ?」
驚いた二人が同時に俺に視線を向けた。どうやら俺の存在に本当に気づいていなかったようだ(注二十)。
注二十「この二人の名誉のために言っておくが、今の俺も隠れたり、
気配をある程度までは消すスキルをある程度までは身につけている。だからこの二人が特別に鈍いってわけじゃない」
「なんで、子供がこんな場所に?」
男が眉根を潜めて俺を訝しんだ。
俺は何か言われる前に腕に巻いた召喚用デバイスを見せてやった。
「そうか、ちょっとおかしいとは思ってたけど、イグニス・ファトゥスやスライムを見かけなかったのは君が退治したから?」
女の言葉に俺は黙って頷いた。正確には退治じゃなくて、吸収したんだけどな。
「そのバンシーはここにひっそりで暮らしているだけだ。別に悪さするつもりもなさそうだし、構わないでおいてやればいい」
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