人間の赤ん坊に憑依した悪魔の俺がデーモンサマナー学科に入れられるなんて皮肉でしかない

湯島

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地獄に囚われた心2

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三十三

腐った血と臓物の臭気が充満していた。それは刈り取られた魂の発する匂いだ。
膜から引きずり出された魂が食肉解体場の肉のように吊るされている。

俺はぶら下がった魂を見渡しながら、人面の浮き上がった回廊を歩いた。

「助けて……助けてくれ……」
「苦しいよ……誰か……」

苦悶に身悶え、喘ぐ魂達──こうなると哀れなものだな。まあ、自業自得とも言えるけどな。
転移してきた連中の行動は実に様々で予測がつかない。

最初は悪逆非道を繰り返しても何かの切っ掛けでそれまでの行いを悔い改め、善行を積む者もいれば、
その反対に人々の為に力を使っていたはずが、どんどん私利私欲に走ってカルマを溜め込んでいくのもいる。

転移した世界でどんな振る舞いをしようがそれは個人の自由だ。
ただ、相手を労わる事は自分と労わる事と同じであり、相手を傷つける事は自分を傷つける事に他ならない。

<ヘルバウンドソウル>と呼ばれるこの魂達は、理由もなく煉獄に捕まっているわけじゃない。
こいつらが地獄に囚われたのは、自己の魂を自らの手で破滅させたからだ。

もしも、自分の分身に憐憫や慈悲を掛けてやっていれば、また違ってたはずなんだけどな。
まあ、こうなると正直どうしようもない。

この地獄から抜け出せないわけじゃないが、それだって結局は自分自身の心のあり方が問題になってくる。
体感する苦痛や凄惨な光景が自分の魂が見せる幻影であり、地獄は自らの心の鏡だと悟れば、
抜け出すことが出来るんだがな。

まあ、他人の俺がとやかく言ってもしょうがねえわな。
人間達からは悪魔の王と呼ばれている俺だが、それでも多少は同情を禁じえないがね。

この地獄に囚われた魂達にはな。

もっとも魔王と呼ばれる以前は、俺は豊穣を司る神として人間達から崇められていたんだけどな。
まあ、人間からすれば遠い昔の話だ。

俺はソウルプラズマの貯留タンクを探した。
地獄に囚われた魂達の負の感情から転換したソウルプラズマを貯めておくタンクがどこかにあるはずだ。

相変わらず地獄の亡者と成り果てた魂の呻き声があらゆる場所から聞こえてくる。
自業自得とはいえ、それでも社会心理学の実験通りのパターンにハマってしまったとも言えなくもない。

ミルグラムの<服従実験>とかジンバルドーの<スタンフォード監獄実験>なんかもそうだけど、
人間が他者に危害を加えたり、横暴に振る舞いやすい舞台を用意するわけだから、
転移者が悪に傾きやすくなるっていうのもある。

あるいはキプニスの示した<権力の堕落実験>もそうだ。
それまでは抑止力が働いて自分の思い通りに出来なかった事が、突然なんでも自由に行えるようになる。

絶対的な力、凄まじい権力をいきなり与えられた状態で新しい世界に放り出されるわけだ。
別に誰かからあれをするな、これをするなと禁じられるわけでもないしな。

でもな、それ自体がもう罠であり、呪いなんだよ。自由っていうのは、本当は恐ろしいんだぜ。
何をやってもいい代わりに全ての責任は自分が負う事になるんだからな。

あれだよ、サルトルが言った<人間は自由の刑に処されている>って奴だ。
おっと、早速見つけたぞ。ソウルプラズマのタンクをな。

俺はいくつも並んだ光り輝く繭(まゆ)の一つをもぎ取ると、口を開けて飲み込んだ。
新鮮なソウルプラズマだ。

他の仲間を呼び出し、俺は一斉に繭を食い漁りにかかった。ここは結構な穴場かもしれないな。
美琴と理沙がどちらがより早く繭を吸収出来るか競争をしだす。

そんなふたりを尻目にレブが黙々と繭を飲み込んでいく。
ダレは繭よりも美琴と理沙の尻ばかり見ている。あれは間違いなく七年殺しをかましたいんだろうな。

傍から見れば俺達は畑荒らしみたいなものだし、実際その通りだ。
ただ、俺達も吸収しないと強くなれないからな。

だから全部は吸収しないさ。必要な分だけ食わせてもらうよ。
これからもちょくちょくな。

それから少しすると、何体かのスーパーナチュラルがこちらに向かってやってきた。
この繭の番兵達か?俺は全員に声をかけた。

「おい、繭の見張りがお出ましだぞ」
その言葉に全員が繭を吸収するのを一旦止めて、やってきた相手に身構える。

いつでも戦えるように俺も臨戦態勢を取った。
「我々のソウルプラズマを荒らすなっ、この侵入者めっ」

向こうの連中が怒鳴りながら俺達に襲いかかる。丁度いい。こいつらも食うとするか。
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