自称女神にドラゴン転生させられちまったよ

湯島

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孤児のギャング団

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俺の目の前で女神を自称する女が漂っている。緋色の羽衣を纏った女。半透明で半裸の女。
絶世の美形──如何にも女神でございといった感じの。だからこそ胡散臭い。

胡散臭さがにじみ出てやがる。

こいつが女神を名乗ってる時点で俺にはペテン師に見えた。ああ、そうだとも。

このツラは詐欺師のツラだ。そもそもこいつが女神である証拠はどこにあるんだ?

少なくともコイツが本物の女神か、それとも悪魔なのかは俺には確かめようがない。

「ねえ、貴方は最強の存在に転生したくない?例えばドラゴンとか?」

俺は言った。
「別に興味はねえな」
「そんなこと言わないでよ、話が進まないじゃないの」

「なるほど、それなら転生に興味がある奴を見つけて話してみりゃいいさ」

「いいわ、人型に化けられる能力も与えるわ。これで人間社会に溶け込めるわよ。
いえ、むしろドラゴンに変身できるっていうのはどうかしら。格好いいでしょ?」

俺は思った。この女、ドラッグでもやってラリってんのかって。
「そんな話はどうでもいい。さっきも言ったが興味もねえ」

「金持ちの名門貴族の家に生まれるっていうのもどうかしら」

「くだらねえ」

俺は自称女神の申し出を突っぱね続けた。どうしたってクソな話にしか聞こえないからだ。
クソッタレた申し出を受けるほど俺は落ちぶれちゃいない。真っ平御免だ。


「残念だわ……でもね、もう貴方の転生は始まってるのよ」

「はあ、何言ってんだ、お前は……」
そこで俺の視界はブラックアウトした。ついでに意識もな。



俺とミッキーはゴチャゴチャした狭い路地裏にある隠れ家へと戻った。
のっぺりとした薄暗い空間、打ち捨てられた小さな廃屋、それが俺と仲間の住処だ。

俺達は孤児だ。親を失ったり、親から捨てられたり、それで徒党を組んで生活するようになった。

ガキが一人で生きるには厳しい世の中だからな。

クチャクチャ、ミッキーがドライフルーツを噛む音。ミッキーは俺の相方だ。

今年で八歳になる。こいつはいつも何かを食ってる。常に何か食ってないと不安でしょうがないんだろうな。

「今日は結構稼げたな、パウロ」
「そうだな、ミッキー」

パウロは俺の名前だ。名無しじゃ不便だからな。向こう側で酒を飲んでいるニコルに俺は声をかけた。
「よう、ニコル、調子はどうだ?」

「今日も酒の飲み残しをたんまり集めてきたぜ」

そういうとニコルが再び酒を飲み始めた。葡萄酒、麦酒、林檎酒、蒸留酒のチャンポン(混ぜる)だ。

ニコルの酒は飲み過ぎると確実に悪酔いする。それでも飲まずにはいられない。
ニコルは六歳にして既にアル中だった。非力で幼い孤児。何の庇護も無ければ希望も見えない。

だからニコルは酒に逃げた。そして溺れた。僅か六歳の子供が。

だが、誰もニコルを咎める資格はない。少なくともこの世界の人間と神には。
俺は擦り切れたゴザの上に座ると、乾いたパンを齧った。パンは酷く堅かった。

それでも飯にありつけるだけ、まだ上等だ。

あれから俺は転生した。あのクソ女の言ったとおりな。
それでどっかの貴族の妻の腹に宿ったわけだが、問題が発生した。

領主である夫が戦に出ていて、もう二年も妻と同衾していなかったんだ。

どう考えたって俺は夫である領主の子供じゃなかった。で、俺は生まれるとすぐに捨てられた。

で、籠に乗せられたまま下水道に流された。クソと同じってわけさ。
不要なものは水ごと流せばいいってわけだ。別にそれを恨んでいるわけじゃない。

全員が不幸になる道を回避したってだけだ。むしろ妥当な選択と言えるだろうよ。
もし、恨むとすれば、そいつはあの馬鹿女だ。

全ての原因を作ったのがあの女神とやらだからな。まあ、それでも嘘は言ってないな。
貴族の家に生まれるとは言っていたが、育てられるとは一言も喋ってなかったし。

それにしても食いにくいパンだな。俺をパンをお湯に浸した。うん、今度はそれなりに食えそうだ。

ああ、話の途中だったな。それで下水道に流されたんだが、どういうわけか俺は死ななかった。

んで、自分で下水道から這い上がって適当な場所で休んだ。

目覚めると、俺の身体は六歳児位にまで成長していた。それが今から一年くらい前のことだ。

一晩で赤ん坊から六歳児くらいにまで成長したんだから、すぐに成人になるのかと思った。
でも、今の所は人間の子供と変わらないな。

一年経った今の俺はそこらに居る七歳のガキと大差ないからな。

それで街をうろついて、残飯なんかを漁って食いつないでいたら、
孤児達から声をかけられたってわけだ。

「また酒屋の手伝いにありつけるといいんだけどな、へへ」とニコル。
最近までニコルは、麦酒の詰まった樽運びの仕事にありついていた。きつい仕事だ。

おまけに手間賃だって安い。それでもニコルには旨みがある仕事だ。

古くなって売れなくなった酒なんかを貰ってこれるようだからな。

ニコルは酒の味なんて気にしない。こいつはただ、酔えればそれでいいんだ。

ちなみに俺とミッキーは街のドブさらいをやったり、運んだ汚物を下水道に流して処理したり、
病院にいる病人や年寄りの身体を拭いたり、下の世話をして金を稼いでいる。

医者の奴は俺達を孤児だと馬鹿にして、いつも足元見るがな。それで賃金を値切られる。本当に腹の立つ医者だ。

ミッキーはいつか、あの医者を絞め殺してやると息巻いてるが、まあ、気持ちはわからないでもないな。

「なあ、パウロ、ニコル、少し暇だから投げナイフの練習しておこうぜ」とミッキーが、俺達に話しかける。
「ああ、いいぜ。それじゃあ、するか」

それから俺達は標的に向かってナイフを投げ始めた。これも生きるための必要な技術だ。

大人と比べて非力な子供達は、必然的に飛び道具に頼ることになる。
街中だって安心はできないからな。

頭のおかしい奴はどこにでもいるし、人身売買を生業にしてる輩もいる。
そしてそんな奴らから身を守るには、自分達でどうにかしなければならない。

それがルールだ。ここでの。とにかく皆、生きる為に必死だった。

ミッキーが連続して的の中心にナイフを三本突き立ててみせる。上手いもんだ。
これなら大道芸で稼げるかもな。

とにかくこいつらは身を守る術と稼げる手段を模索していた。

少しでもこのどん底から這い上がりたいと足掻いていた。

そして俺はといえば、徐々に目覚めつつある化物の力に少々戸惑っていた。
なるほどな。最強の存在か。それだったら他のなりたい奴にさせればよかったんだ。

少なくとも俺はこんな力望んじゃいない。
誰が化物にしろと頼んだっていうんだ。ふざけんじゃねえぞ、あの腐れアマがッ。



袋小路の物陰から聞こえてくるのは女の喘ぎ声、性交の物音、そして空虚な愛の囁きだ。

トラブルは無さそうだ。少なくとも、今の所は。

物陰から顔を出したミリアが、得意げに俺に百ジャッド銀貨を見せつける。

ミリアは娼婦だ。愛嬌のある顔をしている。彼女はここでたまに客を取る。
その時は俺達が見張り役をした。何かトラブルが起きた時はナイフでカタをつける為に。

「今日もありがとうね、ミッキー、パウロ」

ミリアが礼を言いながら駄賃を投げてよこした。
その金をキャッチするミッキー、クチャクチャ、いつものように忙しなく口を動かしている。

「なあ、パウロ、シェリルを迎えに行きがてら何か買って帰ろうぜ」
「そうだな、そうするか」

シェリルは俺達孤児仲間の一人で、雑貨屋の手伝いをしている。可愛らしい女の子だ。
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