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「正直なところ、アマンダ様のお気の遣われ方は不快でしかありませんでした。私だけに仰るようであれば黙っておこうと思ったのですが、私を招待してくださったフィオナ様まで困らせていらっしゃるようでしたので……本当に自覚がおありでないのですか?」
貴族特有の言い回しが理解できていないなんて貴族令嬢の風上にも置けないと言われそうだ。
しかし、こちらには田舎から出てきたばかりの元平民というカードがある。多少多めに見てくれるだろう。
「主観をさも正論かのように……。私がいつフィオナ様を困らせたというのです!」
アマンダは肩を怒らせながら立ち上がったが、周囲の令嬢がしらけた顔をしていることに気づいたようだった。
自身に向けられる嫌悪で、アマンダの額には冷や汗が滲む。
令嬢たちの間に微妙な沈黙が生まれた時、主催者であるフィオナが手を叩いた。
ぱん、という軽い音が空間に響き、張りつめた空気が霧散する。
「少し早いですが、お茶会はここまでに致しましょう。せっかく来てくださったのに、早い解散になってしまい申し訳ございません」
謝罪したフィオナに周囲の令嬢は、「お気になさらないでください」「次は私からお誘いさせてください」と気遣いの声をかける。
アマンダは居心地の悪さに耐えかねたのか、皆が帰り支度を進める中、真っ先に温室を出ていった。
彼女が居なくなったのを確認した令嬢たちは、顔を見合わせる。
口には出さずとも、お互いが何を考えているのかはわかっていた。
「皆様、本日はご迷惑をお掛けし申し訳ございませんでした」
エレノアは誠心誠意頭を下げる。
元凶はアマンダにあると言っても、エレノアが売られた喧嘩を買ったのは事実だ。
「お顔を上げてください。今回のことは主催者である私に責任があります」
フィオナは沈痛な面持ちで告げる。
「フィオナ様もアスター様も謝罪される必要はありませんわ」
「そうです。もとはと言えば普段招待に応じないような方が突然来られたのがいけないのです」
令嬢たちは口をへの字に曲げながら、アマンダへの不満を漏らした。
アマンダは数分前に温室を出たため、恐らくもう帰りの馬車に乗っていると思われる。
そのためか、二人の令嬢は門に向かって歩きながら、周囲を気にすることなくアマンダに対する愚痴を零していた。
(……やっぱり、今回のことで私が悪く言われることはなさそうね)
愚かなアマンダの行為に内心感謝しながら、フィオナを含めた四人で移動をしていると、門の方から甲高い声が聞こえてきた。
「こんなところでお会いできるなんて光栄ですわ」
彩度の高い赤髪が機嫌よく揺れている。
「もしかして、私が本日ここに来ることをお聞きになって迎えに来てくださったのですか?」
エレノアが皇宮から乗ってきた白い馬車の前に、二人の人影が見える。
アマンダと、もう一人――
「もしかして、ゼレンハノン公爵様がいらっしゃっているのでしょうか?」
令嬢がそう言葉にしたのと同時に、騎士団の制服に身を包んだ彼と目が合った。
エレノアが一歩後ずさると、彼の視線を追いかけたアマンダがこちらを振り向く。
四人の姿を目に留めた彼女は、一層笑みを深めた。
「まぁ、皆様。先ほどはありがとうございました。……実は公爵様が迎えに来てくださいまして、私はお先に失礼させて頂きますわ」
アマンダはそう言って、彼の腕に自身の腕を絡める。
エレノアの心が激しくざわついた。
「やっぱり、アマンダ様がゼレンハノン家の次期公爵夫人という噂は本当なんでしょうか」
令嬢の不安そうな声に、エレノアは視線を落とす。
(ゼレンハノン家とウィルズ家の結びつきが強くなるなら……別に悪いことじゃないわよね)
元々、皇命で両家の婚姻が結ばれたのだから、エレノアが居なくなった今、ウィルズの姓を持つアマンダが公爵家に嫁いでも何らおかしい話ではない。
それでも、愛する人が自分以外の女性と接触している姿を直視できず、エレノアは黙って敷石を見つめていた。
すると、足音が近づいてきて、俯いた視界の中にブーツが映る。
「エリー様、お迎えに上がりました。皇宮までお送り致します」
アルバートはそう言ってエレノアの手を取る。
エレノアがあっけに取られている間に、彼の唇が手の甲に落ちてきた。
周囲の者たちが息を呑む音が聞こえる。
彼の行動は、騎士が主に忠誠を誓う所作の一つだ。
しかし、アルバートがそのような行動を取る姿はこれまで誰も見たことがなかった。
甘く溶けた瞳でこちらを見る彼の後ろには、呆然と立ち尽くしているアマンダがいる。
エレノアは何が何だかわからなかった。
「え、えっと、グレイソン卿は……?」
今日、ここまで護衛をしてくれたのはグレイソンだ。
そして、お茶会が終わるまで馬車の傍で待機してくれているはずだった。
それにアルバートはまだ休暇中のはずだ。どうしてここに居るのだろう。
「グレイソン卿は急用が入ったため帰らせました。その他の騎士も別件で忙しくしているため、私が馳せ参じた次第です」
「……そう、でしたか」
事情を説明されても、突然彼が登場したことによる動揺は消えない。
そしてエレノアの他にも狼狽している女性がもう一人。
「どういうことですかアルバート様!」
憤慨した様子のアマンダが、アルバートに食ってかかった。
貴族特有の言い回しが理解できていないなんて貴族令嬢の風上にも置けないと言われそうだ。
しかし、こちらには田舎から出てきたばかりの元平民というカードがある。多少多めに見てくれるだろう。
「主観をさも正論かのように……。私がいつフィオナ様を困らせたというのです!」
アマンダは肩を怒らせながら立ち上がったが、周囲の令嬢がしらけた顔をしていることに気づいたようだった。
自身に向けられる嫌悪で、アマンダの額には冷や汗が滲む。
令嬢たちの間に微妙な沈黙が生まれた時、主催者であるフィオナが手を叩いた。
ぱん、という軽い音が空間に響き、張りつめた空気が霧散する。
「少し早いですが、お茶会はここまでに致しましょう。せっかく来てくださったのに、早い解散になってしまい申し訳ございません」
謝罪したフィオナに周囲の令嬢は、「お気になさらないでください」「次は私からお誘いさせてください」と気遣いの声をかける。
アマンダは居心地の悪さに耐えかねたのか、皆が帰り支度を進める中、真っ先に温室を出ていった。
彼女が居なくなったのを確認した令嬢たちは、顔を見合わせる。
口には出さずとも、お互いが何を考えているのかはわかっていた。
「皆様、本日はご迷惑をお掛けし申し訳ございませんでした」
エレノアは誠心誠意頭を下げる。
元凶はアマンダにあると言っても、エレノアが売られた喧嘩を買ったのは事実だ。
「お顔を上げてください。今回のことは主催者である私に責任があります」
フィオナは沈痛な面持ちで告げる。
「フィオナ様もアスター様も謝罪される必要はありませんわ」
「そうです。もとはと言えば普段招待に応じないような方が突然来られたのがいけないのです」
令嬢たちは口をへの字に曲げながら、アマンダへの不満を漏らした。
アマンダは数分前に温室を出たため、恐らくもう帰りの馬車に乗っていると思われる。
そのためか、二人の令嬢は門に向かって歩きながら、周囲を気にすることなくアマンダに対する愚痴を零していた。
(……やっぱり、今回のことで私が悪く言われることはなさそうね)
愚かなアマンダの行為に内心感謝しながら、フィオナを含めた四人で移動をしていると、門の方から甲高い声が聞こえてきた。
「こんなところでお会いできるなんて光栄ですわ」
彩度の高い赤髪が機嫌よく揺れている。
「もしかして、私が本日ここに来ることをお聞きになって迎えに来てくださったのですか?」
エレノアが皇宮から乗ってきた白い馬車の前に、二人の人影が見える。
アマンダと、もう一人――
「もしかして、ゼレンハノン公爵様がいらっしゃっているのでしょうか?」
令嬢がそう言葉にしたのと同時に、騎士団の制服に身を包んだ彼と目が合った。
エレノアが一歩後ずさると、彼の視線を追いかけたアマンダがこちらを振り向く。
四人の姿を目に留めた彼女は、一層笑みを深めた。
「まぁ、皆様。先ほどはありがとうございました。……実は公爵様が迎えに来てくださいまして、私はお先に失礼させて頂きますわ」
アマンダはそう言って、彼の腕に自身の腕を絡める。
エレノアの心が激しくざわついた。
「やっぱり、アマンダ様がゼレンハノン家の次期公爵夫人という噂は本当なんでしょうか」
令嬢の不安そうな声に、エレノアは視線を落とす。
(ゼレンハノン家とウィルズ家の結びつきが強くなるなら……別に悪いことじゃないわよね)
元々、皇命で両家の婚姻が結ばれたのだから、エレノアが居なくなった今、ウィルズの姓を持つアマンダが公爵家に嫁いでも何らおかしい話ではない。
それでも、愛する人が自分以外の女性と接触している姿を直視できず、エレノアは黙って敷石を見つめていた。
すると、足音が近づいてきて、俯いた視界の中にブーツが映る。
「エリー様、お迎えに上がりました。皇宮までお送り致します」
アルバートはそう言ってエレノアの手を取る。
エレノアがあっけに取られている間に、彼の唇が手の甲に落ちてきた。
周囲の者たちが息を呑む音が聞こえる。
彼の行動は、騎士が主に忠誠を誓う所作の一つだ。
しかし、アルバートがそのような行動を取る姿はこれまで誰も見たことがなかった。
甘く溶けた瞳でこちらを見る彼の後ろには、呆然と立ち尽くしているアマンダがいる。
エレノアは何が何だかわからなかった。
「え、えっと、グレイソン卿は……?」
今日、ここまで護衛をしてくれたのはグレイソンだ。
そして、お茶会が終わるまで馬車の傍で待機してくれているはずだった。
それにアルバートはまだ休暇中のはずだ。どうしてここに居るのだろう。
「グレイソン卿は急用が入ったため帰らせました。その他の騎士も別件で忙しくしているため、私が馳せ参じた次第です」
「……そう、でしたか」
事情を説明されても、突然彼が登場したことによる動揺は消えない。
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「どういうことですかアルバート様!」
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