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「あら、アスター様じゃありませんか。まさか今日のお茶会にいらっしゃるとは思いませんでしたわ」
わざとらしいアマンダの演技に、エレノアは内心呆れる。
皇帝派の令嬢が主催するお茶会にアスターがやって来るであろうことは、少し考えればわかるはず。
アマンダが今回フィオナの招待に応じたのは恐らく、アスターであるエレノアと会うためだろう。
舞踏会の日に控室から戻ってきたあと、アマンダが刺し殺しそうな目つきでこちらを見ていたのを覚えている。
(見上げた嫌がらせ根性ね……)
令嬢のみで進められるお茶会ならば、舞踏会の時ほど周りを気にする必要がない。
仕返しをするなら、このような場が好機だと踏んだのかもしれない。
エレノアとアマンダの険悪さを目の当たりにした他の令嬢たちは不安そうな表情をしている。
そんな彼女たちを落ち着かせるように、エレノアは微笑みかけた。
アマンダが喧嘩を売ってきたとしても、フィオナや他の令嬢に迷惑がかからないよう対処しなければ。
一抹の不安がありながらも、フィオナ主催のお茶会は始まった。
話す内容は令嬢らしく、出された茶葉の種類や、流行りの歌劇やドレスのデザインなど、当たり障りないものばかりだった。
ただ――
「あ、申し訳ございません。田舎から出てこられたアスター様はご存じありませんでしたよね?」
何かにつけてアマンダがそう言ってエレノアにマウントを取ってくるのだ。
確かに長年ミラリィーに居たため、最先端の流行は追えていないが、令嬢たちが気を遣ってエレノアに説明しながら話してくれるので、話題についていく分には問題なかった。
しかし、そんな彼女たちの気遣いをぶった切ってアマンダが発言するため、彼女たちはばつが悪そうに口を閉ざしてしまう。
(私にだけ攻撃してくるなら、多少のことには目を瞑ろうと思っていたけど……)
アマンダの言動のせいで間違いなくお茶会全体の雰囲気が悪くなっている。
この状況をさすがに主催者として放っておけなかったのか、フィオナが険しい口調で「アマンダ様」と咎めた。
「アスター様は正式に皇帝陛下がお迎えになられた女神の代理人です。これ以上無礼を働くようであれば、退出して頂くことになります」
しかし、アマンダは不快そうに顔を歪めたかと思えば、「まぁ、無礼だなんて。そんなつもりはありませんでしたわ」と眉を下げる。
「アスター様にも楽しんで頂ける話題を提供しようとしていただけですのに、そんなことを言われてしまうなんて悲しいです。家に帰った後、お父様に泣きついてしまうかも」
アマンダの言葉に、フィオナの表情が陰る。
爵位で言えば伯爵家であるフィオナがアマンダより格上だが、彼女が義理でアマンダに招待状を出すには理由があった。
なぜなら、ウィルズ家が出資しているアクセサリー事業の製造工場で働いている者の多くが伯爵家の領民だからだ。
数年前、伯爵領に隣接していた下位貴族が自らの領地と領民で事業を始めたものの、上手く行かず没落したため、皇帝の指示でその領地は伯爵領に吸収された。
そして、元の領主の下で働いていた者たちの新たな働き先が見つからず、伯爵が思案していたところに、ちょうどゼレンハノン家とウィルズ家の共同事業の話が持ち上がった。
元々アルバートと交流があったマルヴァ伯爵は、公爵から働き手を募っている旨を聞き、新たに領民となった彼らを斡旋したのだった。
実際に雇用に携わっているのはアルバートだろうが、共同出資者に当たる男爵の娘の言葉も無下にはできない。
それに彼女には今、次期公爵夫人の噂が立っている。
フィオナがこれ以上強く出られないことは明白だった。
一連の流れを見ていたエレノアはおもむろに口を開く。
「フィオナ様、ありがとうございます。私のせいで気を遣わせてしまい申し訳ございません」
苦笑したエレノアに、フィオナは恐縮する。
「アマンダ様も、私のためにお心を砕いてくださったようで、ありがとうございます」
エレノアが下手に出たことが爽快だったのか、アマンダは勝ち誇ったような笑みを見せた。
「……ですが、アマンダ様はそのお心配りが誤った方向であることをご自身で理解された方がよろしいかと思います」
同情の視線を向けると、アマンダは数秒間目を瞬いた。
そしてエレノアの言葉の意味を理解すると、カッと顔を赤くする。
まさか直球で言い返してくるとは思わなかったのだろう。
「おっしゃっている意味がわからないのですが?」
怒りを抑えているせいか、言葉の端々が震えている。
(あなたはフィオナ様のお茶会なら好きなようにできると思ったのかもしれないけど、残念ね。それはつまり、私だって他の人の目を気にせず動けるということよ)
ましてや今回のお茶会はフィオナに好意的な令嬢ばかりが集まったお茶会。
主催者の顔に泥を塗るような行いをする参加者を、彼女たちが良く思うはずがない。
今回の件が外部に漏れたとしても、フィオナの味方をしたエレノアを悪し様に言う人は恐らく居ない。
(ずいぶんと好き勝手に振る舞うあなたには、ストレートに言ってあげましょう)
エレノアは何食わぬ顔で口を開いた。
わざとらしいアマンダの演技に、エレノアは内心呆れる。
皇帝派の令嬢が主催するお茶会にアスターがやって来るであろうことは、少し考えればわかるはず。
アマンダが今回フィオナの招待に応じたのは恐らく、アスターであるエレノアと会うためだろう。
舞踏会の日に控室から戻ってきたあと、アマンダが刺し殺しそうな目つきでこちらを見ていたのを覚えている。
(見上げた嫌がらせ根性ね……)
令嬢のみで進められるお茶会ならば、舞踏会の時ほど周りを気にする必要がない。
仕返しをするなら、このような場が好機だと踏んだのかもしれない。
エレノアとアマンダの険悪さを目の当たりにした他の令嬢たちは不安そうな表情をしている。
そんな彼女たちを落ち着かせるように、エレノアは微笑みかけた。
アマンダが喧嘩を売ってきたとしても、フィオナや他の令嬢に迷惑がかからないよう対処しなければ。
一抹の不安がありながらも、フィオナ主催のお茶会は始まった。
話す内容は令嬢らしく、出された茶葉の種類や、流行りの歌劇やドレスのデザインなど、当たり障りないものばかりだった。
ただ――
「あ、申し訳ございません。田舎から出てこられたアスター様はご存じありませんでしたよね?」
何かにつけてアマンダがそう言ってエレノアにマウントを取ってくるのだ。
確かに長年ミラリィーに居たため、最先端の流行は追えていないが、令嬢たちが気を遣ってエレノアに説明しながら話してくれるので、話題についていく分には問題なかった。
しかし、そんな彼女たちの気遣いをぶった切ってアマンダが発言するため、彼女たちはばつが悪そうに口を閉ざしてしまう。
(私にだけ攻撃してくるなら、多少のことには目を瞑ろうと思っていたけど……)
アマンダの言動のせいで間違いなくお茶会全体の雰囲気が悪くなっている。
この状況をさすがに主催者として放っておけなかったのか、フィオナが険しい口調で「アマンダ様」と咎めた。
「アスター様は正式に皇帝陛下がお迎えになられた女神の代理人です。これ以上無礼を働くようであれば、退出して頂くことになります」
しかし、アマンダは不快そうに顔を歪めたかと思えば、「まぁ、無礼だなんて。そんなつもりはありませんでしたわ」と眉を下げる。
「アスター様にも楽しんで頂ける話題を提供しようとしていただけですのに、そんなことを言われてしまうなんて悲しいです。家に帰った後、お父様に泣きついてしまうかも」
アマンダの言葉に、フィオナの表情が陰る。
爵位で言えば伯爵家であるフィオナがアマンダより格上だが、彼女が義理でアマンダに招待状を出すには理由があった。
なぜなら、ウィルズ家が出資しているアクセサリー事業の製造工場で働いている者の多くが伯爵家の領民だからだ。
数年前、伯爵領に隣接していた下位貴族が自らの領地と領民で事業を始めたものの、上手く行かず没落したため、皇帝の指示でその領地は伯爵領に吸収された。
そして、元の領主の下で働いていた者たちの新たな働き先が見つからず、伯爵が思案していたところに、ちょうどゼレンハノン家とウィルズ家の共同事業の話が持ち上がった。
元々アルバートと交流があったマルヴァ伯爵は、公爵から働き手を募っている旨を聞き、新たに領民となった彼らを斡旋したのだった。
実際に雇用に携わっているのはアルバートだろうが、共同出資者に当たる男爵の娘の言葉も無下にはできない。
それに彼女には今、次期公爵夫人の噂が立っている。
フィオナがこれ以上強く出られないことは明白だった。
一連の流れを見ていたエレノアはおもむろに口を開く。
「フィオナ様、ありがとうございます。私のせいで気を遣わせてしまい申し訳ございません」
苦笑したエレノアに、フィオナは恐縮する。
「アマンダ様も、私のためにお心を砕いてくださったようで、ありがとうございます」
エレノアが下手に出たことが爽快だったのか、アマンダは勝ち誇ったような笑みを見せた。
「……ですが、アマンダ様はそのお心配りが誤った方向であることをご自身で理解された方がよろしいかと思います」
同情の視線を向けると、アマンダは数秒間目を瞬いた。
そしてエレノアの言葉の意味を理解すると、カッと顔を赤くする。
まさか直球で言い返してくるとは思わなかったのだろう。
「おっしゃっている意味がわからないのですが?」
怒りを抑えているせいか、言葉の端々が震えている。
(あなたはフィオナ様のお茶会なら好きなようにできると思ったのかもしれないけど、残念ね。それはつまり、私だって他の人の目を気にせず動けるということよ)
ましてや今回のお茶会はフィオナに好意的な令嬢ばかりが集まったお茶会。
主催者の顔に泥を塗るような行いをする参加者を、彼女たちが良く思うはずがない。
今回の件が外部に漏れたとしても、フィオナの味方をしたエレノアを悪し様に言う人は恐らく居ない。
(ずいぶんと好き勝手に振る舞うあなたには、ストレートに言ってあげましょう)
エレノアは何食わぬ顔で口を開いた。
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