■完結■ 竜騎士と花生み〜逃亡奴隷はご主人様に恋をする〜

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54.ロナウドの屋敷へ

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 竜騎隊の最高司令官は、第四王子。竜騎隊へきた初日にそう聞いていたことをマルはぼんやりと思い出す。
 軍医はロナウドといくつかのやり取りを終えると、お決まりの挨拶を告げて退室した。
 ロナウドは一刻も早く帰りたかったようで、マルを両腕に担ぎ上げるとあっという間にマルを屋敷へ連れて帰ったのだった。
 おまけにマルの部屋をロナウドと同室にしようと提案してくる。主人と同じ部屋などあり得ない。さすがにマルは訴えたが、ロナウドは聞かなかった。

「一人でいるときにマルの具合が悪くならないか心配だ。誰かと同室になった方がいい」
「えと、でも、だったら料理長と同室になります。それなら俺一人じゃないです」
「いや、料理長は朝が早いから、それではマルの目が覚めてしまうだろう。軍医にも大事にしろと言われたばかりだ。ゆっくり療養に専念できる静かな部屋がいい」

 マル自身はどこでも寝られる気がしたが、ロナウドがそう言うのならばと料理長との同室は諦めた。

「えええと、ならホセさんと同室になります」
「いや、ホセは執事も兼ねているから、部屋が地下だ。マルはまだ足腰がふらつくだろう。階段を使わない部屋がいい」

 執事はワインセラーの管理をするのが常だ。それゆえホセの部屋は地下にある。階段は這いつくばって昇れないこともないけれど、ロナウドがそう言うのならばとホセとの同室も諦めた。

「えええええと、それなら……うぅ」
「マチルダの部屋は駄目だぞ」
「ですよね」

 女性の部屋は立ち入るべきではない。けれどそうなるとロナウドの部屋しか残らなくなってしまう。

「私なら特別早い起床時間ではないし、部屋は地下ではないし、淑女でもない。部屋のベッドも広い。問題なく二人で寝られる。私の部屋が一番適切だと思わないか?」
「えぇええぇえと、でもご主人様は俺と一緒になると困りませんか? 俺、寝ている間にご主人様を蹴飛ばしちゃうかもしれないです」
「眠っていても避けられる自信はある。だが仮に蹴られたとしても怪我をするわけでもない。心配するな」
「失礼な寝言を言っちゃうかもしれないです」
「夢の中の戯れ言に罪はない。心配するな」
「えぇえぇえぇと、えぇえぇえぇ……と、緊張して眠れないかもしれないです……俺が」

 療養とは、身体を休めることだ。好きな人と一緒のベッドで果たして眠れるのだろうか。息が止まってしまうような気がした。

「心配するな。そのうち慣れる」

 心配だらけだが、マルは観念した。何かしら粗相をする前に早く体力を戻そう、と密かに誓った。

「分かりました……。よろしくお願いします」
「自分の部屋と思って気楽に過ごしてくれ」

 こうして緊張感の溢れそうなマルの療養生活は始まったのだが、思いのほか、居心地は良かった。
 食事はしばらく眠っていた胃のために、柔らかなパン粥やとろとろに煮込んだスープ。久しぶりの料理長の食事は、
優しさとうま味が詰まっていた。
 ロナウドの部屋から眺める庭は、さすが館の主人に相応しい景観だった。芝が茶色くなる冬の中でも、花壇は相変わらず色とりどりの草花で埋められている。この部屋から眺める前提で植えられている草花だ。ホセの見事な腕前に、マルはいつまでも眺められる気がした。
 夜はロナウドと再び以前のようにゆったりとした時間を過ごすようになった。
 今夜は雪が降っていたけれど、暖炉には薪が焼べられていているので室内は暖かい。時々木の爆ぜる音がしていた。
 ロナウドがワインを嗜むのは相変わらず。マルは暖炉の火を使って、串に刺したマシュマロをあぶっていた。チーズも試してみた。美味しくはあったけれど、ロナウドの膝の上で食べさせて貰っても、はちみつをかけて食べてみても、花はおろか一枚の葉すら生まれなかった。

「俺、一生分のつるを生み尽くしたのかな?」

 アベルを助けたとき、大量につるを生んだ。
 そのせいでもう何も生めないのだとしても、後悔はひとひらの花弁ほどもないけれど。
 
「花を生めないのは寂しいのか?」
「……そうかもしれないですけど、よく分かりません」

 花生みだから、人より苦労したことも辛いことも多かった。花生みになんて生まれたくなかったと思っていた。
 それなのに、何も生まれない指の間が妙に涼しい。必要以上に触ってしまう。それが寂しさというものなら、そうなのだろう。
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