54 / 67
54.ロナウドの屋敷へ
しおりを挟む
竜騎隊の最高司令官は、第四王子。竜騎隊へきた初日にそう聞いていたことをマルはぼんやりと思い出す。
軍医はロナウドといくつかのやり取りを終えると、お決まりの挨拶を告げて退室した。
ロナウドは一刻も早く帰りたかったようで、マルを両腕に担ぎ上げるとあっという間にマルを屋敷へ連れて帰ったのだった。
おまけにマルの部屋をロナウドと同室にしようと提案してくる。主人と同じ部屋などあり得ない。さすがにマルは訴えたが、ロナウドは聞かなかった。
「一人でいるときにマルの具合が悪くならないか心配だ。誰かと同室になった方がいい」
「えと、でも、だったら料理長と同室になります。それなら俺一人じゃないです」
「いや、料理長は朝が早いから、それではマルの目が覚めてしまうだろう。軍医にも大事にしろと言われたばかりだ。ゆっくり療養に専念できる静かな部屋がいい」
マル自身はどこでも寝られる気がしたが、ロナウドがそう言うのならばと料理長との同室は諦めた。
「えええと、ならホセさんと同室になります」
「いや、ホセは執事も兼ねているから、部屋が地下だ。マルはまだ足腰がふらつくだろう。階段を使わない部屋がいい」
執事はワインセラーの管理をするのが常だ。それゆえホセの部屋は地下にある。階段は這いつくばって昇れないこともないけれど、ロナウドがそう言うのならばとホセとの同室も諦めた。
「えええええと、それなら……うぅ」
「マチルダの部屋は駄目だぞ」
「ですよね」
女性の部屋は立ち入るべきではない。けれどそうなるとロナウドの部屋しか残らなくなってしまう。
「私なら特別早い起床時間ではないし、部屋は地下ではないし、淑女でもない。部屋のベッドも広い。問題なく二人で寝られる。私の部屋が一番適切だと思わないか?」
「えぇええぇえと、でもご主人様は俺と一緒になると困りませんか? 俺、寝ている間にご主人様を蹴飛ばしちゃうかもしれないです」
「眠っていても避けられる自信はある。だが仮に蹴られたとしても怪我をするわけでもない。心配するな」
「失礼な寝言を言っちゃうかもしれないです」
「夢の中の戯れ言に罪はない。心配するな」
「えぇえぇえぇと、えぇえぇえぇ……と、緊張して眠れないかもしれないです……俺が」
療養とは、身体を休めることだ。好きな人と一緒のベッドで果たして眠れるのだろうか。息が止まってしまうような気がした。
「心配するな。そのうち慣れる」
心配だらけだが、マルは観念した。何かしら粗相をする前に早く体力を戻そう、と密かに誓った。
「分かりました……。よろしくお願いします」
「自分の部屋と思って気楽に過ごしてくれ」
こうして緊張感の溢れそうなマルの療養生活は始まったのだが、思いのほか、居心地は良かった。
食事はしばらく眠っていた胃のために、柔らかなパン粥やとろとろに煮込んだスープ。久しぶりの料理長の食事は、
優しさとうま味が詰まっていた。
ロナウドの部屋から眺める庭は、さすが館の主人に相応しい景観だった。芝が茶色くなる冬の中でも、花壇は相変わらず色とりどりの草花で埋められている。この部屋から眺める前提で植えられている草花だ。ホセの見事な腕前に、マルはいつまでも眺められる気がした。
夜はロナウドと再び以前のようにゆったりとした時間を過ごすようになった。
今夜は雪が降っていたけれど、暖炉には薪が焼べられていているので室内は暖かい。時々木の爆ぜる音がしていた。
ロナウドがワインを嗜むのは相変わらず。マルは暖炉の火を使って、串に刺したマシュマロをあぶっていた。チーズも試してみた。美味しくはあったけれど、ロナウドの膝の上で食べさせて貰っても、はちみつをかけて食べてみても、花はおろか一枚の葉すら生まれなかった。
「俺、一生分のつるを生み尽くしたのかな?」
アベルを助けたとき、大量につるを生んだ。
そのせいでもう何も生めないのだとしても、後悔はひとひらの花弁ほどもないけれど。
「花を生めないのは寂しいのか?」
「……そうかもしれないですけど、よく分かりません」
花生みだから、人より苦労したことも辛いことも多かった。花生みになんて生まれたくなかったと思っていた。
それなのに、何も生まれない指の間が妙に涼しい。必要以上に触ってしまう。それが寂しさというものなら、そうなのだろう。
軍医はロナウドといくつかのやり取りを終えると、お決まりの挨拶を告げて退室した。
ロナウドは一刻も早く帰りたかったようで、マルを両腕に担ぎ上げるとあっという間にマルを屋敷へ連れて帰ったのだった。
おまけにマルの部屋をロナウドと同室にしようと提案してくる。主人と同じ部屋などあり得ない。さすがにマルは訴えたが、ロナウドは聞かなかった。
「一人でいるときにマルの具合が悪くならないか心配だ。誰かと同室になった方がいい」
「えと、でも、だったら料理長と同室になります。それなら俺一人じゃないです」
「いや、料理長は朝が早いから、それではマルの目が覚めてしまうだろう。軍医にも大事にしろと言われたばかりだ。ゆっくり療養に専念できる静かな部屋がいい」
マル自身はどこでも寝られる気がしたが、ロナウドがそう言うのならばと料理長との同室は諦めた。
「えええと、ならホセさんと同室になります」
「いや、ホセは執事も兼ねているから、部屋が地下だ。マルはまだ足腰がふらつくだろう。階段を使わない部屋がいい」
執事はワインセラーの管理をするのが常だ。それゆえホセの部屋は地下にある。階段は這いつくばって昇れないこともないけれど、ロナウドがそう言うのならばとホセとの同室も諦めた。
「えええええと、それなら……うぅ」
「マチルダの部屋は駄目だぞ」
「ですよね」
女性の部屋は立ち入るべきではない。けれどそうなるとロナウドの部屋しか残らなくなってしまう。
「私なら特別早い起床時間ではないし、部屋は地下ではないし、淑女でもない。部屋のベッドも広い。問題なく二人で寝られる。私の部屋が一番適切だと思わないか?」
「えぇええぇえと、でもご主人様は俺と一緒になると困りませんか? 俺、寝ている間にご主人様を蹴飛ばしちゃうかもしれないです」
「眠っていても避けられる自信はある。だが仮に蹴られたとしても怪我をするわけでもない。心配するな」
「失礼な寝言を言っちゃうかもしれないです」
「夢の中の戯れ言に罪はない。心配するな」
「えぇえぇえぇと、えぇえぇえぇ……と、緊張して眠れないかもしれないです……俺が」
療養とは、身体を休めることだ。好きな人と一緒のベッドで果たして眠れるのだろうか。息が止まってしまうような気がした。
「心配するな。そのうち慣れる」
心配だらけだが、マルは観念した。何かしら粗相をする前に早く体力を戻そう、と密かに誓った。
「分かりました……。よろしくお願いします」
「自分の部屋と思って気楽に過ごしてくれ」
こうして緊張感の溢れそうなマルの療養生活は始まったのだが、思いのほか、居心地は良かった。
食事はしばらく眠っていた胃のために、柔らかなパン粥やとろとろに煮込んだスープ。久しぶりの料理長の食事は、
優しさとうま味が詰まっていた。
ロナウドの部屋から眺める庭は、さすが館の主人に相応しい景観だった。芝が茶色くなる冬の中でも、花壇は相変わらず色とりどりの草花で埋められている。この部屋から眺める前提で植えられている草花だ。ホセの見事な腕前に、マルはいつまでも眺められる気がした。
夜はロナウドと再び以前のようにゆったりとした時間を過ごすようになった。
今夜は雪が降っていたけれど、暖炉には薪が焼べられていているので室内は暖かい。時々木の爆ぜる音がしていた。
ロナウドがワインを嗜むのは相変わらず。マルは暖炉の火を使って、串に刺したマシュマロをあぶっていた。チーズも試してみた。美味しくはあったけれど、ロナウドの膝の上で食べさせて貰っても、はちみつをかけて食べてみても、花はおろか一枚の葉すら生まれなかった。
「俺、一生分のつるを生み尽くしたのかな?」
アベルを助けたとき、大量につるを生んだ。
そのせいでもう何も生めないのだとしても、後悔はひとひらの花弁ほどもないけれど。
「花を生めないのは寂しいのか?」
「……そうかもしれないですけど、よく分かりません」
花生みだから、人より苦労したことも辛いことも多かった。花生みになんて生まれたくなかったと思っていた。
それなのに、何も生まれない指の間が妙に涼しい。必要以上に触ってしまう。それが寂しさというものなら、そうなのだろう。
82
あなたにおすすめの小説
魔女の呪いで男を手懐けられるようになってしまった俺
ウミガメ
BL
魔女の呪いで余命が"1年"になってしまった俺。
その代わりに『触れた男を例外なく全員"好き"にさせてしまう』チート能力を得た。
呪いを解くためには男からの"真実の愛"を手に入れなければならない……!?
果たして失った生命を取り戻すことはできるのか……!
男たちとのラブでムフフな冒険が今始まる(?)
~~~~
主人公総攻めのBLです。
一部に性的な表現を含むことがあります。要素を含む場合「★」をつけておりますが、苦手な方はご注意ください。
※この小説は他サイトとの重複掲載をしております。ご了承ください。
虚ろな檻と翡翠の魔石
篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」
不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。
待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。
しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。
「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」
記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。
-----------------------------------------
0時,6時,12時,18時に1話ずつ更新
復讐の鎖に繋がれた魔王は、光に囚われる。
篠雨
BL
予言の魔王として闇に閉ざされた屋敷に隔離されていたノアール。孤独な日々の中、彼は唯一の光であった少年セレを、手元に鎖で繋ぎ留めていた。
3年後、鎖を解かれ王城に連れ去られたセレは、光の勇者としてノアールの前に戻ってきた。それは、ノアールの罪を裁く、滅却の剣。
ノアールが死を受け入れる中、勇者セレが選んだのは、王城の命令に背き、彼を殺さずに再び鎖で繋ぎ直すという、最も歪んだ復讐だった。
「お前は俺の獲物だ。誰にも殺させないし、絶対に離してなんかやらない」
孤独と憎悪に囚われた勇者は、魔王を「復讐の道具」として秘密裏に支配下に置く。しかし、制御不能な力を持つ勇者を恐れた王城は、ついに二人を排除するための罠を仕掛ける。
歪んだ愛憎と贖罪が絡み合う、光と闇の立場が逆転した物語――彼らの運命は、どこへ向かうのか。
捨てられた生贄オメガ、魔王城で極上の『巣作り』始めます!~不眠症の魔王様、私のクッションで爆睡して溺愛モードに突入~
水凪しおん
BL
「役立たずのオメガ」として冷遇され、血も涙もない魔王への生贄として捨てられたリノ。
死を覚悟して連れてこられた魔王城は、寒くて硬くて、居住性最悪のブラック環境だった!?
「こんなところで寝られるか!」
極限状態で発動したオメガ特有の『巣作り本能』と、神業レベルの裁縫スキルが火を噴く!
ゴミ同然の布切れをフカフカのクッションに、冷たい石床を極上のラグマットにリフォーム。
すると、不眠症で常にイライラしていた魔王ザルドリスが、リノの作った「巣」のあまりの快適さに陥落してしまい……?
「……貴様、私を堕落させる気か」
(※いいえ、ただ快適に寝たいだけです)
殺されるどころか、魔王様に気に入られ、気付けば城中がリノの虜に。
捨てられた生贄オメガが、裁縫一つで魔王城を「世界一のマイホーム」に変える、ほのぼの逆転溺愛ファンタジー!
【完結】下級悪魔は魔王様の役に立ちたかった
ゆう
BL
俺ウェスは幼少期に魔王様に拾われた下級悪魔だ。
生まれてすぐ人との戦いに巻き込まれ、死を待つばかりだった自分を魔王様ーーディニス様が助けてくれた。
本当なら魔王様と話すことも叶わなかった卑しい俺を、ディニス様はとても可愛がってくれた。
だがそんなディニス様も俺が成長するにつれて距離を取り冷たくなっていく。自分の醜悪な見た目が原因か、あるいは知能の低さゆえか…
どうにかしてディニス様の愛情を取り戻そうとするが上手くいかず、周りの魔族たちからも蔑まれる日々。
大好きなディニス様に冷たくされることが耐えきれず、せめて最後にもう一度微笑みかけてほしい…そう思った俺は彼のために勇者一行に挑むが…
【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】
古森きり
BL
【書籍化決定しました!】
詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります!
たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました!
アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。
政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。
男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。
自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。
行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。
冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。
カクヨムに書き溜め。
小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる