完全無欠な学園の貴公子は、夢追い令嬢を絡め取る

小桜

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本当だったらいいのに

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 フランシーナは元来、単独行動を好む人間だった。


 友人であるヴィヴィアナと昼食をとったり、寮に帰ればお互いの部屋を行き来したりはするものの、基本的に移動は一人きりで平気だし、教室でも自席で一人の時間を過ごしていることが多い。

 それが当たり前の毎日であって、心穏やかに過ごせる日常であったのに。

「ねえ、エドゥアルト様とどんな話をするの?」
「彼はあなたのこと何て呼ぶの?」

 エドゥアルドに噂を黙認されたことで、それは生徒間で真実味を帯びて。
 フランシーナは公式に彼の『恋人』となってしまった。

 昨日以来、これまで話したこともなかったような人達が自席のまわりを取り囲む。
 そのたびにエドゥアルトとのことを聞かれ、彼を慕う女生徒からは遠目で睨まれ……フランシーナの平和な毎日は『エドゥアルドの恋人』となった途端に消え去ってしまった。

 本当のところエドゥアルドの『恋人』という立場は、取引にすぎないであるのだが。

「……エドゥアルド様とは、勉強のお話を。私はそのまま、『フランシーナ』とよばれてますが」
「やっぱり成績トップの二人は違うわね。勉強の話でも愛が深まるなんて」
「いえ、そういうわけではなくて……ただ本当に勉強のお話をしているだけなのですが」
「私達も知的な愛を育みたいわ……!」
 
 机を囲む彼女達は胸の前で両手を組み、うっとりとした瞳のままため息をつく。
 そんな彼女達とほぼ同時に、フランシーナからもため息が出た。別の意味で。
 
(話が通じない……!)

 こちらが何をどう返事したとしても、すべて恋人同士の戯れとして受け取られてしまうのだ。

 フランシーナが何を言おうと、彼女達にかかれば『エドゥアルドとの恋愛話』に変換される。勘弁して欲しい。

 けれど、それを否定するわけにも行かないのだった。
 これはエドゥアルドとの約束。貴重な問題集を譲ってもらったかわりに、卒業までは彼の恋人役をやり遂げる――そう取引をしたのだから。

「フランシーナから思いを告げたんですって?」
「入学してからずっと、エドゥアルド様のことが好きだったんでしょう?」
「もう、あと少しで卒業だものね……卒業したら会えなくなるもの。その勇気、尊敬するわ」

(おっ……これは新情報だわ……)

 しかもこの関係は、フランシーナの告白から始まっていたらしい。
 人から人へ噂が広まるうちに、どういうわけか『恋する女子フランシーナ』の独り歩きが始まってしまっていた。これは自分でも知り得ない馴れ初めで驚いている。
 
 他にも、バレないようにこっそり手紙でやり取りをしていたとか、放課後の自習室ではわざと離れて座っていただとか――さも事実であったような話も度々耳に入ってくる。
 すべて根も葉もない噂であるのだが。

 改めて、彼の影響力には驚かされている。
 エドゥアルドの『恋人』になるだけで、こんなにも興味を持たれてしまうなんて。



「フランシーナ」
「あ……エドゥアルド様」

 困っていたフランシーナのもとへ、エドゥアルドが迎えにやってきた。優しい『恋人』のふりをして。

 するとそれまで周りを取り囲んでいた女生徒達が、嘘のように散っていった。
 おそらく二人の邪魔をしないように気を遣ったのだと思うが、それにしてもあからさまである。

「そろそろ、自習室へ行く時間じゃない?」
「そうですね。では皆さま、私はこれで……」

 助かった。これで妙な詮索から開放される。
 フランシーナは逃げるように教室を出た。

(もしかしてエドゥアルドは助け舟を出してくれたのかしら)

「エドゥアルド様、ありがとうございました」
「え? 何のことかな」
「皆の追求からなかなか抜け出せなくて少し困っていたのです。迎えに来て下さって助かりました」
「別に……ああなったのも、僕が原因だから」

 自習室への廊下を歩きながら、隣を歩くエドゥアルドの涼しげな横顔を見上げた。
 その顔は、自分の噂話などまったく気にしていないかのように落ち着いて見える。さすがだ。

「皆、暇なんだな本当に」
「エドゥアルド様は憧れの存在ですし、興味津々なのですよ。そういえば先程聞いた話なのですが……『私』もずっとエドゥアルド様に憧れていたそうですよ」
「は?」
「入学してからずっとエドゥアルド様のことが好きだったんですって。卒業を前に勇気をだして告白したらしいです。噂の『私』は」

 フランシーナは先程仕入れたばかりの噂をさっそく彼に教えてみた。
 彼は怪訝な顔をして、言葉をなくす。

「たしかに、地味な私がエドゥアルド様に憧れていた……っていう構図は、自然でしっくりきますものね」
「――それ、本当だったらいいのにね」

 そう言って、エドゥアルドはニッコリと笑う。

(どういう意味?)

 フランシーナはわけも分からず、とりあえずニッコリと笑い返した。
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