完全無欠な学園の貴公子は、夢追い令嬢を絡め取る

小桜

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金色のコサージュ

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「うー……寒い……っ」

 ヴィヴィアナが結露で曇った窓を拭う。
 そこから見える空は白く、雲はどんよりと暗い。

「なんで、こんな寒い季節に式典なんてするのかしら……」
「なんでってヴィヴィアナ、新年祭は寒いものでしょ」
「講堂はここよりもっと寒いのよ。あそこで何時間耐えなければならないの……」

 延々と文句を言いながら、ヴィヴィアナは重い足取りで窓際を離れる。そしてベッドに腰掛けると、しぶしぶコサージュ作りを再開した。

 現在、フランシーナのベッドには無数のコサージュが並べられている。金に輝く美しいコサージュは、すべてヴィヴィアナの手によるものだった。

「ヴィヴィアナって本当に器用ね。売り物みたい」
「こんなもの、これだけ作れば誰でも上手くもなるわよ。これからあと何十個作ればいいのよ……もうやだ!」

 ヴィヴィアナの愚痴は止まらない。

 気持ちは分かる。彼女はすでに数え切れないほどのコサージュを作ってる。もう金色のリボンなんて見たくもないだろう……。
 
 我が学園伝統の新年祭。
 有志を集め生徒主導で準備する――というのは表向きに過ぎない。

 実際のところは有志なんて数える程しかおらず、準備の為に足りない人員はくじ引きで決められることが通例だった。
 不運にもくじを引き当てた者には、新年祭まで膨大な仕事が待っている。

 そしてヴィヴィアナは今回、『コサージュ制作担当』を引いてしまったのだった。

 毎年、くじによって選ばれた不運な数名によって、全生徒分のコサージュは制作される。
 学業の傍ら、金のリボンを人数分切って、造花をリボンをまとめて、バランスを整えて、ピンを付けて……代々伝わる、根気の要る仕事なのであった。
  
「私も手伝うって言ってるじゃない」
「駄目! フランシーナは試験目前でしょ。こんなことを手伝わせるなんてとんでもないわよ。まあ、ここにいるだけでも勉強の邪魔はしているけど……」

 今日なんかは「気が狂いそう!」と、ヴィヴィアナが飛び込んできたのだ。
 たしかに、一人きりの部屋でギラギラと光るコサージュを作り続けるのは辛いものがあるかもしれない。

「有志で集まってる人は凄いわよ……尊敬する。エドゥアルド様がその筆頭ではあるけれど」
「そうね、お一人で色々と仕事を抱えていたわ」
「このコサージュ作りも、最初はエドゥアルド様が教えてくれたのよ。あの人なんでも出来るのね」
「へえ……」

 コサージュ制作担当に選ばれた生徒達は一同に集められ、エドゥアルドから直々に作り方の講習を受けたという。

「エドゥアルド様が手取り足取り教えてくれるものだから、免疫のない子なんてポーっとしちゃって……一年生の女子なんて、彼の顔ばかり見て作り方なんてまったく覚えてなかったわよ」
「さすが、『学園の貴公子』ね……」
「フランシーナは、その貴公子のだけどね」

 そう言って、ヴィヴィアナは意味深な笑みを浮かべた。なんとなくモヤモヤする。

「……ヴィヴィアナは分かってるでしょ、あんなの嘘だって」
「そうね。急に不自然だなー、とは思ったけれど」
「でしょ。なぜ、みんな信じるのかしら」
「みんな、エドゥアルド様が言うことなら無条件に信じてしまうのよ」

 生徒代表を務めるエドゥアルド。
 誰にでも優しく、明るく、平等で――期待を裏切ることがない男。
 そんな彼の選んだ人物というのが、フランシーナであっただけ。
 
 皆、フランシーナが選ばれたことを驚いたり恨んだりするけれど、疑われたことは一度もなかった。
 それだけ、エドゥアルドが信用に足る人物であるのだろう。

「最近は、『お似合いだ』って言われてるのもたまに聞くわよ」
「似合ってるはずが無いじゃない。まだ『なぜあんな女が』って言われたほうがしっくりくるわ」
「『喧嘩中?』って言うのも、今日聞いたけど」
「え……」
「……エドゥアルド様と、喧嘩したの?」

 突然の真面目な声に振り向くと、ヴィヴィアナはコサージュ作りの手を止めてこちらを見ていた。

 その目はとても心配げで。
 もしかしたら今日ここへ来た本題は、このことだったのかもしれない。

「ヴィヴィアナ……」
 
 喧嘩なんてしていない、エドゥアルドと喧嘩する理由もない。

「喧嘩なんてしていないわ」
「でも最近、エドゥアルド様が迎えにこなくなったでしょ? あんなに毎日、教室まで迎えに来ていた人が」
「……飽きたんじゃないかしら、私に構うのも」
「そんな人だと思う?」

 そんな人……だと思うはずもない。

『君は隣で頑張っているのに、自分だけ帰るなんて……僕はそんなの許せない』

 疲れ果てた身体で、自分のことを許せないと言い張る頑固な人だった。
 飽きたから――なんて理由で離れていくはずがない。けれど。
 
『僕にとっては、フランシーナこそが憧れの人だったのかもしれない』

 そう告げられたあの日を境に、彼はフランシーナの前に姿を見せなくなってしまった。

「――私も、よく分からないの」
  
 自分が彼の憧れ?

 どこが? なぜ? どうして。
 あの時、混乱したフランシーナはなにも言えず、ただ立ち尽くすだけだった。

 何でもいいから、反応出来ていたら違っていただろうか。冗談にすればよかったのだろうか――でも、エドゥアルドの顔は真剣なものだったから笑ったりもできなくて。

「これ、あげる」

 ヴィヴィアナは、金のコサージュをひとつフランシーナに手渡した。
 さきほど、一番きれいにできたと言っていたものだ。

 金のコサージュ。去年はヴィヴィアナと交換した。
 でも、今年は―― 

「私、当日は試験よ。新年祭には参加できないの」
「いいから。ちゃんと仲直りしなさいよ。交換する時間くらいあるでしょ?」
「え……」

 交換……エドゥアルドと。
 大切な人に贈る、金のコサージュを?
 
『恋人』としてなら、贈るべきなのだろうか。
 しかし、エドゥアルドから離れていったのなら、このまま疎遠になったほうが良いのかもしれない。
 そもそも、釣り合いが取れていないのだから。わざわざ自分と交換しなくても、彼のコサージュなら欲しがる人は多いだろうし。

「私、わりと誇らしかったの。フランシーナを選ぶなんて、さすがエドゥアルド様は見る目あるなって」
「そ、そんなことない。ただ彼にとって都合がよかっただけだから……」
「好きじゃなければ、恋人の真似事なんて頼まないわ」 

 逃げそうになる気持ちは、またヴィヴィアナの強い言葉に引き戻されて。

 フランシーナは迷う心を持て余したまま、手渡されたコサージュを見つめた。
 
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