ただの道具屋の娘ですが、世界を救った勇者様と同居生活を始めます。~予知夢のお告げにより、勇者様から溺愛されています~

小桜

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そして始まる新生活②

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 村長の家の屋根には、ハシゴがかかってあった。

 (これは、いるわね……)

「ラウレル様」

 ビオレッタは村長の家の下から声をかけた。しかし屋根からは返事がない。

「お願いです、出てきて下さい」

 応答がない。

 ……だが、しばらく待っているとラウレルが申し訳なさそうに顔を出した。

「ビオレッタさんから『お願い』なんて言われたら観念するしかないじゃないですか」

 そう言いながらラウレルは屋根から飛び降りると、ビオレッタのそばへ華麗に着地した。

「ラウレル様。私から逃げていたでしょう」
「だって、ビオレッタさんがわざわざ俺を探すなんて……きっとまた『お引き取りを』とか言いに来たのでしょう?」
「なぜ……それを」

 図星だった。正確には、街へ帰る気はないのかと帰宅を促したかっただけなのだが。

「ラウレル様はオルテンシアの街が御出身だと伺っています。一度お戻りになられては? 皆さん心配されておりますでしょう」

 やんわりと伝えてみると、彼は首を横に振った。

「戻りません」
「どうしてですか。ご自宅がありますよね?」
「オルテンシアなど、戻った途端に姫と結婚させられるでしょうから」

(姫!?)
 
 オルテンシア王の愛娘、コラール姫のことだろうか。
 世界を救った勇者と、オルテンシアの姫。なんてお似合いなのだろう。

「素晴らしい名誉じゃないですか! 姫とご結婚だなんて」
「俺はビオレッタさんと結婚したいんです、姫とではありません」

 そんな名誉も、ラウレルにとってはちっとも喜ばしいものでは無いようだ。

「姫との結婚が『褒美』などと言うのですよ、あのオルテンシア王は。姫のことも俺のことも馬鹿にしているとしか。ねえ、そう思いませんか」
「あ、はい……」

 彼は王に対し随分とご立腹の様子。その勢いに、ビオレッタも思わず相槌を打ってしまった。
 このラウレルの怒りよう。もしかしたらビオレッタへの求婚を隠れ蓑にして、グリシナ村に身を隠すことが真の目的なのかもしれない……と深読みしてしまう。
 ただ、目的はどうであれ、これ以上ここに居座られるのは困る。単純に居場所がないのだから。

「ですがこれ以上、ラウレル様が村の宿屋に居座るのも難しいのですよ。何せ小さな宿屋ですので」
「はい。俺も女将のオリバさんから圧を感じてました。ですから、村長様へ直談判しに来たんですよ」
「直談判?」

 ラウレルは、このグリシナ村でどこか身を寄せられる場所を提供して欲しいと村長に頼み込んだらしい。なんという勇者の特権を行使したのだろうか。
 すると村長は、屋根の修繕を交換条件として、住む場所を提供しようと約束したようだ。

「修繕も終わったので、これから村長様のところへ返事を伺いに向かいますが……ビオレッタさんも来ますか?」

 なんとなく……胸騒ぎがする。やな予感がする。
 ビオレッタは確認のために、村長のもとまでついていくことにした。




「ビオレッタ。道具屋の二階に空き部屋があるじゃろ。そちらに勇者様をおとめできんかの」

(やっぱり……)

 ビオレッタは項垂れた。
 村長もオリバも、道具屋の二階しか当てはなかったようだ。

「シリオの武器屋にも、空き部屋はあると思います……」

 彼も隣の家に一人で暮らしている。一時的でも住むなら、男同士のほうが……

「あいつに勇者様のお世話が出来ると思うかの?」

(……思わない)

 ビオレッタはシリオの生活を思い浮かべた。人参を生でまるかじり。魚を焼いてまるかじり。部屋は汚部屋と化している。
 無理だ。勇者の住む所ではない。

「ビオレッタさん。俺は便利ですよ」

 項垂れていたビオレッタに、目を爛々と輝かせたラウレルが向かい合った。

「まず、強いです。レベル99の勇者です。女性の一人暮らしはなにかと危険ですが、用心棒になります。誰にも負けるつもりはありません。
 転移魔法も使えます。薬草の採取も、私と一緒ならあっという間です。世界中を旅したので、どこでも転移魔法で連れていって差し上げます。
 旅をしていたので、料理や洗濯もそこそこ出来ます。もちろん自分のことは自分でやりますがビオレッタさんが忙しいなら俺が全て請負っても構いません。
 現在は定職に就いてませんが、魔王を討伐した褒賞を使いきれないほどいただいているので金ならあります。家賃が必要なら言い値をお支払いします。あとは……」

「も、もういいです」

 駄目押しとしてラウレルから怒涛のプレゼンをされ、圧倒されてしまったビオレッタは反論する気力も失せてしまった。

「ビオレッタ、お願いできるかの」
「はい…………」

 ビオレッタは、とうとう首を縦に振ることとなった。

「ビオレッタさんありがとうございます! きっとお役に立ってみせますから!」

 ラウレルは満面の笑みでビオレッタの手をとった。
 ぎゅっと握られるその手からは、喜びが溢れているようだった。

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