25 / 26
失恋する前よりずっと
しおりを挟む
私は、ルイス様に少しの間だけ治癒室の留守番を頼み、アルビレオ様を追いかけた。
わずかに開いた扉からは、少しだけしか見えなかったけれど……あの黒髪と強いまなざしは、確かにアルビレオ様のものだった。私が見間違えるはずがない。
すぐに追いかけたつもりだったのにアルビレオ様の姿はもう無くて、私は辺りを探して走った。廊下にはいないようだから、もう外に出てしまったのだろうか。
(アルビレオ様……よかった、意識が戻ったのだわ。でも、なぜ何も言わず立ち去ってしまったの……)
裏口から外へ出てみると、今日も裏庭には洗濯物がはためいていた。一面広がるシーツの中を、スタスタと移動する黒髪が見える。アルビレオ様がそこにいる。
「アルビレオ様!」
私はシーツ越しに、アルビレオ様の名を呼んだ。その瞬間、アルビレオ様の動きが止まる。
「アルビレオ様、意識が戻られたのですね……!」
サラサラとなびくその黒髪を見ただけで、私は胸がいっぱいになった。
アルビレオ様の意識が戻った。無事だった。こうして、目の前を歩いていてくれる。そんなことで涙が滲むくらいに嬉しくて、思わずそばへ駆け寄ったのだけれど――
「……来ないで下さい」
アルビレオ様はこちらに背を向けたまま、なぜか私を見ようとしない。その上、近付く私を拒絶するかのように声は固く、他人行儀な距離を取ろうとする。
「アルビレオ様……?」
「せっかくルイス隊長と話をしていたのに、邪魔をしてすみませんでした」
そう言うとアルビレオ様は振り向くことなく歩き出してしまった。
「ま、待ってください! 邪魔なんかじゃありませんでした。アルビレオ様のお姿が見えて、嬉しくて私は……」
「ルイス隊長はもうご存知なのでしょう? ペルラが命の恩人であることを」
慌てて呼び止めるけれど、アルビレオ様はこちらの声を聞こうともしない。歩くのがとても早くて、私の足ではついて行くのがやっとだ。
「良かったですね。これでペルラも報われます」
「そ、そんな。ルイス様とは何も……」
「今もルイス隊長と二人きりでしたよね。俺が意識を失っている間に話はまとまったのですか」
(……アルビレオ様?)
もしかしたら、アルビレオ様は勘違いしているのかもしれない。
ルイス様のことを好きだと言っていた私と、命の恩人が私であることを知ったルイス様。私達が二人きりでいたから、何かあったとでも思ったのだろうか。
でもルイス様と特別な関係になるなんてとんでもない。むしろ私は、ルイス様と話したおかげでアルビレオ様への気持ちに気づいたばかりで――
「わっ……」
アルビレオ様のあとをついて歩いていたつもりが、考え事をした途端につまずいて転んでしまった。べしゃりと前のめりに倒れ込んだ私は無様にも泥まみれになる。
泥で汚れた治癒服と自分の駄目さ加減に、ため息が漏れた。
つくづく上手くいかない。アルビレオ様には誤解されてしまうし、なぜか拒絶されているし……私の顔すら見てもらえなくて。
でも、拒絶されてしまうのも当然かもしれない。
アルビレオ様は私を庇って刺され、生死の境をさまようほどひどい目に遭った。なのに私ときたら、ルイス様と二人きりで楽しげにしていたのだ。そんなところを目の当たりにしたら、幻滅されても仕方ない。
「わ、私のせいで、ごめんなさい……」
このまま相手にもされなくなって、もう友人としても傍にいられないのだろうか。
そうなれば、また私は治癒室から外を眺める日々に戻るだけ。今度はルイス様ではなく、アルビレオ様の姿を探す毎日を送るのだ。
ずっとそんな日々を送り、見ているだけでも平気だと言い聞かせていたけれど――アルビレオ様とのひとときを知ってしまった今、きっと私は立ち直れないに違いない。
そう思うと追いすがりたい気持ちでいっぱいなのに、私は突き放されることが怖くて立ち上がることが出来なかった。
そんな私の視界に、ふと愛しい人の影が落ちる。
「……大丈夫ですか」
思わず顔を上げると、すぐそこにアルビレオ様の姿があった。転けた私の前に跪き、手を差し伸べて下さっている。
「アルビレオ様……」
こんな時でも、アルビレオ様はやっぱり優しい。
その手を取ってしまえば、指先からこの想いが伝わりそうで。触れることを躊躇っていると突然、私の手首がアルビレオ様の力強い手に包まれた。
「あっ……」
「ルイス隊長のところへ、戻らなくていいのですか。俺を追ってきてどうするのですか」
強く切なげな瞳が、私を映してくれている。
どうして私は、この瞳に見つめられて今まで平気でいられたのだろう。こうして見つめ合うだけで、気持ちが溢れ出てしまいそうになるのに。
(好き……)
アルビレオ様のことが大好きだ。ずっとこの人と一緒にいたい。できればこんな辛そうな顔ではなくて――アルビレオ様には、笑っていてもらいたい。
けれどアルビレオ様は苦しそうに顔を歪めたまま、私からフイッと目を逸らす。
「早くルイス隊長のところへ戻って下さい。でないと、俺はペルラに酷いことを言いそうになってしまう」
「で、でも、アルビレオ様がお辛そうです。こんな状態のまま、放っておくことなんて出来ません」
「本当に、あなたは――」
不意に、手が強く引き寄せられた。
バランスを失った私の身体はグラリと傾き、アルビレオ様の胸に抱き止められる。
(えっ……)
「すみません……我慢できませんでした」
信じられない。どういうわけか、アルビレオ様に抱きしめられている。
(どうして? 拒絶されているわけではなかったの?)
こんなことになるとは思わなくて、私はカチカチに固まった。私のものなのかアルビレオ様のものなのか分からないけれど、胸のあたりから激しい動悸も聞こえてくる。
「……ペルラとルイス隊長は、本当なら結ばれるのが自然です。それがあなたのためだと分かっているのに、俺はどうしても二人のことを応援出来ないのです」
アルビレオ様の身体から、直に声が響いてくる。その声はひどく熱っぽくて、聞いているだけで頭がクラクラしてしまいそうだった。
私は必死で自我を保ちつつ、建前の会話を続けようとした。
「あの、どういうことですか……?」
「俺は酷い人間なのです。ペルラには報われて欲しいと言いながら、このままルイス隊長に失恋したままでいて欲しいと思っている」
こうしている間にも、アルビレオ様の腕に力がこもっていく。どうしていいのか分からず、私はそのまま身を委ねるしかなかった。
「好きです、ペルラ。俺はあなたのためなら何でもします。だからどうか……ルイス隊長のものにならないで下さい」
「ちょ、ちょっと待って下さい!」
私は混乱した。いや、抱きしめられた時から混乱はしていたけれど、さらにわけがわからなくなった。
アルビレオ様には、好きな方がいたはずだ。それで私も同じ失恋仲間として、仲間意識を持ったりして……
「アルビレオ様には、好きな方がいらっしゃったのでは……?」
「好きな方?」
「失恋したと仰っていたではありませんか! 失恋してもまだ忘れられない方がいらっしゃると」
「そうです、ペルラのことです。あなたがルイス隊長を想っていると知ってからも、諦めるなんて出来ませんでした」
「わ、私のことだったのですか!?」
「ええ。失恋する前より、ずっと好きです。ペルラがルイス隊長の恋人になるなんて、俺には耐えられそうにない」
アルビレオ様の力はどんどん強くなって、もう抜け出せないほどぎゅうぎゅうに抱きしめられてしまっている。
混乱する頭で、私はこれまでのアルビレオ様を思い返した。友人にしては過剰なほど大事にされていたのも、こんな私をいつも肯定して下さっていたのも、好きでいて下さったからなのか。
納得すると同時に、身体がカッと熱くなった。擦り寄るように抱きしめられ、息の仕方も忘れてしまっている。
「ペルラ、俺の恋人になって下さい」
「こ、恋人……私が、アルビレオ様の恋人!?」
「きっと、あなた好みの男になれるよう努力します。ルイス隊長に近付けるように頑張りますから……どうか俺を好きになって下さい」
「好きです! もう好きです。だから少しだけ休憩させていただけませんか……!」
息も絶え絶えにそう呟くと、アルビレオ様は急に私の顔を覗き込んだ。おかげで一瞬だけ、腕の力が緩んでくれたような気がする。
「……ルイス隊長ではなくて、俺を?」
「そうです。私、アルビレオ様が好きです。ルイス様のようでなくても、そのままでいいのです。何もしなくても、そのままのアルビレオ様が私は……」
「本当に……?」
アルビレオ様は、信じられないとでも言うようにその瞳を瞬かせている。
「本当に本当ですか? 後でやっぱり違ったと言っても、俺はもう離せません」
「ほ、本当です。アルビレオ様のことが大好きです。ただ、いきなり恋人というのは心の準備がまだ――」
「ペルラ……!」
満面の笑みを浮かべたアルビレオ様は、私の身体を再びきつく抱きしめた。
苦しくて、また息が出来なくなってしまった。けれど、アルビレオ様の笑顔がとても嬉しくて――私は腕の中から逃れることを諦め、その背中をきつく抱きしめ返す。
「ありがとうございます、ペルラ。一生大切にします」
アルビレオ様の嬉しそうな声が、胸にじんわりと沁みこんでいく。
その声に、私は一生分の幸せを約束されたような気がした。
わずかに開いた扉からは、少しだけしか見えなかったけれど……あの黒髪と強いまなざしは、確かにアルビレオ様のものだった。私が見間違えるはずがない。
すぐに追いかけたつもりだったのにアルビレオ様の姿はもう無くて、私は辺りを探して走った。廊下にはいないようだから、もう外に出てしまったのだろうか。
(アルビレオ様……よかった、意識が戻ったのだわ。でも、なぜ何も言わず立ち去ってしまったの……)
裏口から外へ出てみると、今日も裏庭には洗濯物がはためいていた。一面広がるシーツの中を、スタスタと移動する黒髪が見える。アルビレオ様がそこにいる。
「アルビレオ様!」
私はシーツ越しに、アルビレオ様の名を呼んだ。その瞬間、アルビレオ様の動きが止まる。
「アルビレオ様、意識が戻られたのですね……!」
サラサラとなびくその黒髪を見ただけで、私は胸がいっぱいになった。
アルビレオ様の意識が戻った。無事だった。こうして、目の前を歩いていてくれる。そんなことで涙が滲むくらいに嬉しくて、思わずそばへ駆け寄ったのだけれど――
「……来ないで下さい」
アルビレオ様はこちらに背を向けたまま、なぜか私を見ようとしない。その上、近付く私を拒絶するかのように声は固く、他人行儀な距離を取ろうとする。
「アルビレオ様……?」
「せっかくルイス隊長と話をしていたのに、邪魔をしてすみませんでした」
そう言うとアルビレオ様は振り向くことなく歩き出してしまった。
「ま、待ってください! 邪魔なんかじゃありませんでした。アルビレオ様のお姿が見えて、嬉しくて私は……」
「ルイス隊長はもうご存知なのでしょう? ペルラが命の恩人であることを」
慌てて呼び止めるけれど、アルビレオ様はこちらの声を聞こうともしない。歩くのがとても早くて、私の足ではついて行くのがやっとだ。
「良かったですね。これでペルラも報われます」
「そ、そんな。ルイス様とは何も……」
「今もルイス隊長と二人きりでしたよね。俺が意識を失っている間に話はまとまったのですか」
(……アルビレオ様?)
もしかしたら、アルビレオ様は勘違いしているのかもしれない。
ルイス様のことを好きだと言っていた私と、命の恩人が私であることを知ったルイス様。私達が二人きりでいたから、何かあったとでも思ったのだろうか。
でもルイス様と特別な関係になるなんてとんでもない。むしろ私は、ルイス様と話したおかげでアルビレオ様への気持ちに気づいたばかりで――
「わっ……」
アルビレオ様のあとをついて歩いていたつもりが、考え事をした途端につまずいて転んでしまった。べしゃりと前のめりに倒れ込んだ私は無様にも泥まみれになる。
泥で汚れた治癒服と自分の駄目さ加減に、ため息が漏れた。
つくづく上手くいかない。アルビレオ様には誤解されてしまうし、なぜか拒絶されているし……私の顔すら見てもらえなくて。
でも、拒絶されてしまうのも当然かもしれない。
アルビレオ様は私を庇って刺され、生死の境をさまようほどひどい目に遭った。なのに私ときたら、ルイス様と二人きりで楽しげにしていたのだ。そんなところを目の当たりにしたら、幻滅されても仕方ない。
「わ、私のせいで、ごめんなさい……」
このまま相手にもされなくなって、もう友人としても傍にいられないのだろうか。
そうなれば、また私は治癒室から外を眺める日々に戻るだけ。今度はルイス様ではなく、アルビレオ様の姿を探す毎日を送るのだ。
ずっとそんな日々を送り、見ているだけでも平気だと言い聞かせていたけれど――アルビレオ様とのひとときを知ってしまった今、きっと私は立ち直れないに違いない。
そう思うと追いすがりたい気持ちでいっぱいなのに、私は突き放されることが怖くて立ち上がることが出来なかった。
そんな私の視界に、ふと愛しい人の影が落ちる。
「……大丈夫ですか」
思わず顔を上げると、すぐそこにアルビレオ様の姿があった。転けた私の前に跪き、手を差し伸べて下さっている。
「アルビレオ様……」
こんな時でも、アルビレオ様はやっぱり優しい。
その手を取ってしまえば、指先からこの想いが伝わりそうで。触れることを躊躇っていると突然、私の手首がアルビレオ様の力強い手に包まれた。
「あっ……」
「ルイス隊長のところへ、戻らなくていいのですか。俺を追ってきてどうするのですか」
強く切なげな瞳が、私を映してくれている。
どうして私は、この瞳に見つめられて今まで平気でいられたのだろう。こうして見つめ合うだけで、気持ちが溢れ出てしまいそうになるのに。
(好き……)
アルビレオ様のことが大好きだ。ずっとこの人と一緒にいたい。できればこんな辛そうな顔ではなくて――アルビレオ様には、笑っていてもらいたい。
けれどアルビレオ様は苦しそうに顔を歪めたまま、私からフイッと目を逸らす。
「早くルイス隊長のところへ戻って下さい。でないと、俺はペルラに酷いことを言いそうになってしまう」
「で、でも、アルビレオ様がお辛そうです。こんな状態のまま、放っておくことなんて出来ません」
「本当に、あなたは――」
不意に、手が強く引き寄せられた。
バランスを失った私の身体はグラリと傾き、アルビレオ様の胸に抱き止められる。
(えっ……)
「すみません……我慢できませんでした」
信じられない。どういうわけか、アルビレオ様に抱きしめられている。
(どうして? 拒絶されているわけではなかったの?)
こんなことになるとは思わなくて、私はカチカチに固まった。私のものなのかアルビレオ様のものなのか分からないけれど、胸のあたりから激しい動悸も聞こえてくる。
「……ペルラとルイス隊長は、本当なら結ばれるのが自然です。それがあなたのためだと分かっているのに、俺はどうしても二人のことを応援出来ないのです」
アルビレオ様の身体から、直に声が響いてくる。その声はひどく熱っぽくて、聞いているだけで頭がクラクラしてしまいそうだった。
私は必死で自我を保ちつつ、建前の会話を続けようとした。
「あの、どういうことですか……?」
「俺は酷い人間なのです。ペルラには報われて欲しいと言いながら、このままルイス隊長に失恋したままでいて欲しいと思っている」
こうしている間にも、アルビレオ様の腕に力がこもっていく。どうしていいのか分からず、私はそのまま身を委ねるしかなかった。
「好きです、ペルラ。俺はあなたのためなら何でもします。だからどうか……ルイス隊長のものにならないで下さい」
「ちょ、ちょっと待って下さい!」
私は混乱した。いや、抱きしめられた時から混乱はしていたけれど、さらにわけがわからなくなった。
アルビレオ様には、好きな方がいたはずだ。それで私も同じ失恋仲間として、仲間意識を持ったりして……
「アルビレオ様には、好きな方がいらっしゃったのでは……?」
「好きな方?」
「失恋したと仰っていたではありませんか! 失恋してもまだ忘れられない方がいらっしゃると」
「そうです、ペルラのことです。あなたがルイス隊長を想っていると知ってからも、諦めるなんて出来ませんでした」
「わ、私のことだったのですか!?」
「ええ。失恋する前より、ずっと好きです。ペルラがルイス隊長の恋人になるなんて、俺には耐えられそうにない」
アルビレオ様の力はどんどん強くなって、もう抜け出せないほどぎゅうぎゅうに抱きしめられてしまっている。
混乱する頭で、私はこれまでのアルビレオ様を思い返した。友人にしては過剰なほど大事にされていたのも、こんな私をいつも肯定して下さっていたのも、好きでいて下さったからなのか。
納得すると同時に、身体がカッと熱くなった。擦り寄るように抱きしめられ、息の仕方も忘れてしまっている。
「ペルラ、俺の恋人になって下さい」
「こ、恋人……私が、アルビレオ様の恋人!?」
「きっと、あなた好みの男になれるよう努力します。ルイス隊長に近付けるように頑張りますから……どうか俺を好きになって下さい」
「好きです! もう好きです。だから少しだけ休憩させていただけませんか……!」
息も絶え絶えにそう呟くと、アルビレオ様は急に私の顔を覗き込んだ。おかげで一瞬だけ、腕の力が緩んでくれたような気がする。
「……ルイス隊長ではなくて、俺を?」
「そうです。私、アルビレオ様が好きです。ルイス様のようでなくても、そのままでいいのです。何もしなくても、そのままのアルビレオ様が私は……」
「本当に……?」
アルビレオ様は、信じられないとでも言うようにその瞳を瞬かせている。
「本当に本当ですか? 後でやっぱり違ったと言っても、俺はもう離せません」
「ほ、本当です。アルビレオ様のことが大好きです。ただ、いきなり恋人というのは心の準備がまだ――」
「ペルラ……!」
満面の笑みを浮かべたアルビレオ様は、私の身体を再びきつく抱きしめた。
苦しくて、また息が出来なくなってしまった。けれど、アルビレオ様の笑顔がとても嬉しくて――私は腕の中から逃れることを諦め、その背中をきつく抱きしめ返す。
「ありがとうございます、ペルラ。一生大切にします」
アルビレオ様の嬉しそうな声が、胸にじんわりと沁みこんでいく。
その声に、私は一生分の幸せを約束されたような気がした。
320
あなたにおすすめの小説
現聖女ですが、王太子妃様が聖女になりたいというので、故郷に戻って結婚しようと思います。
和泉鷹央
恋愛
聖女は十年しか生きられない。
この悲しい運命を変えるため、ライラは聖女になるときに精霊王と二つの契約をした。
それは期間満了後に始まる約束だったけど――
一つ……一度、死んだあと蘇生し、王太子の側室として本来の寿命で死ぬまで尽くすこと。
二つ……王太子が国王となったとき、国民が苦しむ政治をしないように側で支えること。
ライラはこの契約を承諾する。
十年後。
あと半月でライラの寿命が尽きるという頃、王太子妃ハンナが聖女になりたいと言い出した。
そして、王太子は聖女が農民出身で王族に相応しくないから、婚約破棄をすると言う。
こんな王族の為に、死ぬのは嫌だな……王太子妃様にあとを任せて、村に戻り幼馴染の彼と結婚しよう。
そう思い、ライラは聖女をやめることにした。
他の投稿サイトでも掲載しています。
殿下に寵愛されてませんが別にかまいません!!!!!
さくら
恋愛
王太子アルベルト殿下の婚約者であった令嬢リリアナ。けれど、ある日突然「裏切り者」の汚名を着せられ、殿下の寵愛を失い、婚約を破棄されてしまう。
――でも、リリアナは泣き崩れなかった。
「殿下に愛されなくても、私には花と薬草がある。健気? 別に演じてないですけど?」
庶民の村で暮らし始めた彼女は、花畑を育て、子どもたちに薬草茶を振る舞い、村人から慕われていく。だが、そんな彼女を放っておけないのが、執着心に囚われた殿下。噂を流し、畑を焼き払い、ついには刺客を放ち……。
「どこまで私を追い詰めたいのですか、殿下」
絶望の淵に立たされたリリアナを守ろうとするのは、騎士団長セドリック。冷徹で寡黙な男は、彼女の誠実さに心を動かされ、やがて命を懸けて庇う。
「俺は、君を守るために剣を振るう」
寵愛などなくても構わない。けれど、守ってくれる人がいる――。
灰の大地に芽吹く新しい絆が、彼女を強く、美しく咲かせていく。
公爵令嬢ですが、実は神の加護を持つ最強チート持ちです。婚約破棄? ご勝手に
ゆっこ
恋愛
王都アルヴェリアの中心にある王城。その豪奢な大広間で、今宵は王太子主催の舞踏会が開かれていた。貴族の子弟たちが華やかなドレスと礼装に身を包み、音楽と笑い声が響く中、私——リシェル・フォン・アーデンフェルトは、端の席で静かに紅茶を飲んでいた。
私は公爵家の長女であり、かつては王太子殿下の婚約者だった。……そう、「かつては」と言わねばならないのだろう。今、まさにこの瞬間をもって。
「リシェル・フォン・アーデンフェルト。君との婚約を、ここに正式に破棄する!」
唐突な宣言。静まり返る大広間。注がれる無数の視線。それらすべてを、私はただ一口紅茶を啜りながら見返した。
婚約破棄の相手、王太子レオンハルト・ヴァルツァーは、金髪碧眼のいかにも“主役”然とした青年である。彼の隣には、勝ち誇ったような笑みを浮かべる少女が寄り添っていた。
「そして私は、新たにこのセシリア・ルミエール嬢を伴侶に選ぶ。彼女こそが、真に民を導くにふさわしい『聖女』だ!」
ああ、なるほど。これが今日の筋書きだったのね。
婚約破棄された伯爵令嬢ですが、辺境で有能すぎて若き領主に求婚されました
おりあ
恋愛
アーデルベルト伯爵家の令嬢セリナは、王太子レオニスの婚約者として静かに、慎ましく、その務めを果たそうとしていた。
だが、感情を上手に伝えられない性格は誤解を生み、社交界で人気の令嬢リーナに心を奪われた王太子は、ある日一方的に婚約を破棄する。
失意のなかでも感情をあらわにすることなく、セリナは婚約を受け入れ、王都を離れ故郷へ戻る。そこで彼女は、自身の分析力や実務能力を買われ、辺境の行政視察に加わる機会を得る。
赴任先の北方の地で、若き領主アレイスターと出会ったセリナ。言葉で丁寧に思いを伝え、誠実に接する彼に少しずつ心を開いていく。
そして静かに、しかし確かに才能を発揮するセリナの姿は、やがて辺境を支える柱となっていく。
一方、王太子レオニスとリーナの婚約生活には次第に綻びが生じ、セリナの名は再び王都でも囁かれるようになる。
静かで無表情だと思われた令嬢は、実は誰よりも他者に寄り添う力を持っていた。
これは、「声なき優しさ」が、真に理解され、尊ばれていく物語。
とある伯爵の憂鬱
如月圭
恋愛
マリアはスチュワート伯爵家の一人娘で、今年、十八才の王立高等学校三年生である。マリアの婚約者は、近衛騎士団の副団長のジル=コーナー伯爵で金髪碧眼の美丈夫で二十五才の大人だった。そんなジルは、国王の第二王女のアイリーン王女殿下に気に入られて、王女の護衛騎士の任務をしてた。そのせいで、婚約者のマリアにそのしわ寄せが来て……。
義母の企みで王子との婚約は破棄され、辺境の老貴族と結婚せよと追放されたけど、結婚したのは孫息子だし、思いっきり歌も歌えて言うことありません!
もーりんもも
恋愛
義妹の聖女の証を奪って聖女になり代わろうとした罪で、辺境の地を治める老貴族と結婚しろと王に命じられ、王都から追放されてしまったアデリーン。
ところが、結婚相手の領主アドルフ・ジャンポール侯爵は、結婚式当日に老衰で死んでしまった。
王様の命令は、「ジャンポール家の当主と結婚せよ」ということで、急遽ジャンポール家の当主となった孫息子ユリウスと結婚することに。
ユリウスの結婚の誓いの言葉は「ふん。ゲス女め」。
それでもアデリーンにとっては、緑豊かなジャンポール領は楽園だった。
誰にも遠慮することなく、美しい森の中で、大好きな歌を思いっきり歌えるから!
アデリーンの歌には不思議な力があった。その歌声は万物を癒し、ユリウスの心までをも溶かしていく……。
突然決められた婚約者は人気者だそうです。押し付けられたに違いないので断ってもらおうと思います。
橘ハルシ
恋愛
ごくごく普通の伯爵令嬢リーディアに、突然、降って湧いた婚約話。相手は、騎士団長の叔父の部下。侍女に聞くと、どうやら社交界で超人気の男性らしい。こんな釣り合わない相手、絶対に叔父が権力を使って、無理強いしたに違いない!
リーディアは相手に遠慮なく断ってくれるよう頼みに騎士団へ乗り込むが、両親も叔父も相手のことを教えてくれなかったため、全く知らない相手を一人で探す羽目になる。
怪しい変装をして、騎士団内をうろついていたリーディアは一人の青年と出会い、そのまま一緒に婚約者候補を探すことに。
しかしその青年といるうちに、リーディアは彼に好意を抱いてしまう。
全21話(本編20話+番外編1話)です。
悪役令嬢なので最初から愛されないことはわかっていましたが、これはさすがに想定外でした。
ふまさ
恋愛
──こうなることがわかっていれば、はじめから好きになんてならなかったのに。
彩香だったときの思いが、ふと蘇り、フェリシアはくすりと笑ってしまった。
ありがとう、前世の記憶。おかげでわたしは、クライブ殿下を好きにならずにすんだわ。
だからあるのは、呆れと、怒りだけだった。
※『乙女ゲームのヒロインの顔が、わたしから好きな人を奪い続けた幼なじみとそっくりでした』の、ifストーリーです。重なる文章があるため、前作は非公開とさせていただきました。読んでくれたみなさま、ありがとうございました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる