やけに居心地がいいと思ったら、私のための愛の巣でした。~いつの間にか約束された精霊婚~

小桜

文字の大きさ
8 / 29

熱愛発覚

しおりを挟む
「ネネリア! これはどういうことなの!?」

 翌日、朝食の後片付けをしていたところに、機嫌の悪い義母とミルフィが現れた。
 朝食といっても、二人とも起きてきたのは昼近く。そのせいで、私は片付けを終えたら急いで昼食の準備にかからなければならない。というわけでこの時間はとっても忙しい……のに、これは長くなりそうな予感がする。
 
 わなわなと震える義母の手には、くしゃくしゃに丸めた新聞が握られていた。
 彼女達はいつもゆっくりと朝食を取りながら、街新聞に目を通す。中でもゴシップ記事がお気に入りのようで、そこには誰と誰が破局しただとか、不正役人が捕まっただとか、有名人のスキャンダルが面白おかしく記されているのだ。

 我が家の朝は、いつもその話題で持ちきりだった。「こいつは馬鹿だ」「この男は見る目がない」と……記事に対して言いたい放題。そのほとんどが悪口なので、私はそそくさと退散してしまうのだけれど。

 私は、義母の手に握られた新聞を見て、昨日出会ってしまった新聞記者を思い出した。
 水の精霊に心奪われて、すっかり忘れていたのだ。そういえばあの記者――『このことは記事にする』と言って去っていったじゃないか。
 まさか……

「この新聞には、精霊守の相手がネネリアって書いてあるわ!?」
「私がお義姉さまに聞いた時には『違う』って言ってたじゃない! 嘘ついたの!?」

 義母は、私の目の前にくしゃくしゃの新聞を広げた。

【若き精霊守ルディエル・アレンフォード、熱愛発覚!
 丘の上で育まれた秘密の恋!
 お相手は街外れに住むネネリア・ソルシェか――】

「なっ……なんなのこれ!」

 そこには、本当にルディエル様と私の熱愛が記されてあった。名乗ったりしていないはずなのに、バッチリ名前まで載っている。さすが新聞記者と言うべきか……どうやって調べたのだろう。

【今後のご予定について伺ったところ、「近いうちに両家を交えて話し合いの場を設ける」との事。現在は結婚準備に忙しいようだ。
 ルディエル・アレンフォードは記者の話を終わらせると、彼女の肩を抱き寄せ丘の上へと去っていった。】

(嘘ばっかりじゃない……!!)

 多少は大袈裟に、誇張した記事が書かれるとは思っていた。でもこれは嘘だらけだ。好き勝手書かれてしまっている。
 もし、街の人達がこれを信じてしまったらどうする……? ルディエル様には、本当のお相手がいらっしゃるのに。

「ち、違います! 結婚の話なんてありません!」
「じゃあなんでこんな記事が出るのよ! なにかやましいことがあったんでしょ!?」

 やましいことなんて無い。私達はただの幼なじみなのだ。私を新聞記者から守ろうとしたせいで、私が尾行したせいで、こんなことになってしまって――

「いい? 私はネネリアの結婚を認めませんからね。ミルフィを差し置いて、あなただけ幸せになろうなんて思わないでちょうだい」
「もしかしてもう精霊守からプロポーズされてるの? 婚約指輪なんて貰ってたら、私お義姉さまのこと許さないから」

 彼女達はすっかりゴシップ記事を信じてしまっているようで、手がつけられない。
 腹が立つ気持ちは分かるけれど……ミルフィ自身の縁談が上手くいっていないのに、こんな記事を見てしまったら。

「とにかく、これはすべて嘘です。たしかにルディエル様とはお会いしましたが、記事のようなことは一切ありません。プロポーズなんてありえないし……婚約指輪だって貰うはずないでしょう」

 信じてもらえないかもしれないけれど、私はきっぱりと否定した。彼女達も落ち着いてきたけれど、まだ納得のいかない顔をしている。

「じゃあ……両家の話し合いは?」
「そんな予定ありません。そもそも、私の結婚は許さないのでしょう?」
「ゆ、許さないけど……なーんだ。焦って損したわ」

 記事がデマだと分かって安心したのか、義母とミルフィはやっとリビングへと戻っていった。

(つ、つかれた……)

 思わず、大きなため息がもれる。まだ朝食の後片付けが残っているのに、私には既にひと仕事終えたような疲労感が残った。

 プロポーズ、婚約指輪。
 今の私には縁のないもの。

(ルディエル様は……もう、お相手にプロポーズされたのかしら)

 食器を一枚一枚洗いながら、少し切ない気持ちに襲われる。
 そんな私の後ろでは、何かを思いついたような精霊が森へ向かって飛んでいった。
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

狂おしいほど愛しています、なのでよそへと嫁ぐことに致します

ちより
恋愛
 侯爵令嬢のカレンは分別のあるレディだ。頭の中では初恋のエル様のことでいっぱいになりながらも、一切そんな素振りは見せない徹底ぶりだ。  愛するエル様、神々しくも真面目で思いやりあふれるエル様、その残り香だけで胸いっぱいですわ。  頭の中は常にエル様一筋のカレンだが、家同士が決めた結婚で、公爵家に嫁ぐことになる。愛のない形だけの結婚と思っているのは自分だけで、実は誰よりも公爵様から愛されていることに気づかない。  公爵様からの溺愛に、不器用な恋心が反応したら大変で……両思いに慣れません。

じゃない方の私が何故かヤンデレ騎士団長に囚われたのですが

カレイ
恋愛
 天使な妹。それに纏わりつく金魚のフンがこの私。  両親も妹にしか関心がなく兄からも無視される毎日だけれど、私は別に自分を慕ってくれる妹がいればそれで良かった。  でもある時、私に嫉妬する兄や婚約者に嵌められて、婚約破棄された上、実家を追い出されてしまう。しかしそのことを聞きつけた騎士団長が何故か私の前に現れた。 「ずっと好きでした、もう我慢しません!あぁ、貴方の匂いだけで私は……」  そうして、何故か最強騎士団長に囚われました。

私を溺愛している婚約者を聖女(妹)が奪おうとしてくるのですが、何をしても無駄だと思います

***あかしえ
恋愛
薄幸の美少年エルウィンに一目惚れした強気な伯爵令嬢ルイーゼは、性悪な婚約者(仮)に秒で正義の鉄槌を振り下ろし、見事、彼の婚約者に収まった。 しかし彼には運命の恋人――『番い』が存在した。しかも一年前にできたルイーゼの美しい義理の妹。 彼女は家族を世界を味方に付けて、純粋な恋心を盾にルイーゼから婚約者を奪おうとする。 ※タイトル変更しました  小説家になろうでも掲載してます

緑の指を持つ娘

Moonshine
恋愛
べスは、田舎で粉ひきをして暮らしている地味な女の子、唯一の趣味は魔法使いの活躍する冒険の本を読むことくらいで、魔力もなければ学もない。ただ、ものすごく、植物を育てるのが得意な特技があった。 ある日幼馴染がべスの畑から勝手に薬草をもっていった事で、べスの静かな生活は大きくかわる・・ 俺様魔術師と、純朴な田舎の娘の異世界恋愛物語。 第1章は完結いたしました!第2章の温泉湯けむり編スタートです。 ちょっと投稿は不定期になりますが、頑張りますね。 疲れた人、癒されたい人、みんなべスの温室に遊びにきてください。温室で癒されたら、今度はベスの温泉に遊びにきてくださいね!作者と一緒に、みんなでいい温泉に入って癒されませんか?

聖女様と間違って召喚された腐女子ですが、申し訳ないので仕事します!

碧桜
恋愛
私は花園美月。20歳。派遣期間が終わり無職となった日、馴染の古書店で顔面偏差値高スペックなイケメンに出会う。さらに、そこで美少女が穴に吸い込まれそうになっていたのを助けようとして、私は古書店のイケメンと共に穴に落ちてしまい、異世界へ―。実は、聖女様として召喚されようとしてた美少女の代わりに、地味でオタクな私が間違って来てしまった! 落ちたその先の世界で出会ったのは、私の推しキャラと見た目だけそっくりな王(仮)や美貌の側近、そして古書店から一緒に穴に落ちたイケメンの彼は、騎士様だった。3人ともすごい美形なのに、みな癖強すぎ難ありなイケメンばかり。 オタクで人見知りしてしまう私だけど、元の世界へ戻れるまで2週間、タダでお世話になるのは申し訳ないから、お城でメイドさんをすることにした。平和にお給料分の仕事をして、異世界観光して、2週間後自分の家へ帰るつもりだったのに、ドラゴンや悪い魔法使いとか出てきて、異能を使うイケメンの彼らとともに戦うはめに。聖女様の召喚の邪魔をしてしまったので、美少女ではありませんが、地味で腐女子ですが出来る限り、精一杯頑張ります。 ついでに無愛想で苦手と思っていた彼は、なかなかいい奴だったみたい。これは、恋など始まってしまう予感でしょうか!? *カクヨムにて先に連載しているものを加筆・修正をおこなって掲載しております

7年ぶりに私を嫌う婚約者と目が合ったら自分好みで驚いた

小本手だるふ
恋愛
真実の愛に気づいたと、7年間目も合わせない婚約者の国の第二王子ライトに言われた公爵令嬢アリシア。 7年ぶりに目を合わせたライトはアリシアのどストライクなイケメンだったが、真実の愛に憧れを抱くアリシアはライトのためにと自ら婚約解消を提案するがのだが・・・・・・。 ライトとアリシアとその友人たちのほのぼの恋愛話。 ※よくある話で設定はゆるいです。 誤字脱字色々突っ込みどころがあるかもしれませんが温かい目でご覧ください。

虐げられた私、ずっと一緒にいた精霊たちの王に愛される〜私が愛し子だなんて知りませんでした〜

ボタニカルseven
恋愛
「今までお世話になりました」 あぁ、これでやっとこの人たちから解放されるんだ。 「セレス様、行きましょう」 「ありがとう、リリ」 私はセレス・バートレイ。四歳の頃に母親がなくなり父がしばらく家を留守にしたかと思えば愛人とその子供を連れてきた。私はそれから今までその愛人と子供に虐げられてきた。心が折れそうになった時だってあったが、いつも隣で見守ってきてくれた精霊たちが支えてくれた。 ある日精霊たちはいった。 「あの方が迎えに来る」 カクヨム/なろう様でも連載させていただいております

本の虫令嬢ですが「君が番だ! 間違いない」と、竜騎士様が迫ってきます

氷雨そら
恋愛
 本の虫として社交界に出ることもなく、婚約者もいないミリア。 「君が番だ! 間違いない」 (番とは……!)  今日も読書にいそしむミリアの前に現れたのは、王都にたった一人の竜騎士様。  本好き令嬢が、強引な竜騎士様に振り回される竜人の番ラブコメ。 小説家になろう様にも投稿しています。

処理中です...