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救出作戦は間に合うか?
しおりを挟む激しく心臓が鼓動する中、タクシーを乗り付け、車道が無くなったあとは自分の足で、全速力でその場所へ近づいていった。なぜリャオリイの居場所を知っているかって?メイウェイは用意周到だ。過保護気質な(ともすればストーカー気質な)彼は、以前花束と共にリャオリイに送ったお守りに密かに入れていた小型のGPS機器で彼の居場所を特定したのだ。
メイウェイは“お守り”によってリャオリイの行動範囲を把握しており、リャオリイに変な虫がつかないよう、普段の行動範囲から大きく逸脱するような場合はメイウェイのスマホに通知が行くように設定してある。だから瞬時に行動を起こすことができた。
スマホの画面が指し示す場所。ここは周りに迷惑をかけたくない人が来る自殺の名所で有名な森だ。人は社会性の動物だ。生きている限り誰かと繋がらざるを得ない。そして周りの人間は『自分にもっと何かができたのではないか』と後悔に縛られる。何年でも、何十年でも。自分の父親がそうだった。
自殺は必ず誰かを不幸にする。だから『誰にも迷惑をかけたくない』自殺の森なんて、とても独りよがりで皮肉な話だ。ここに来るまでに2回人影が見えたが、どれもリャオリイではなかった。
そして気づけばGPSの指し示す場所に到着した。この辺りのはずだ。必死に探していると、木々の間から見える細っこくて頼りない、3着しか着まわせる服を持っていないリャオリイのいつもの見慣れた服装が、次第に自分に近づいてくる。心臓の鼓動が速まり、メイウェイの不安と焦りが胸を突き刺し抜けていくようだった。そして、リャオリイの体が木の下で、首にロープをかけられ、地上30㎝くらいの距離をぶら下がった状態でいるのがようやくはっきりと見えた。メイウェイは声を上げて近寄り、ほとんど倒れこむようにリャオリイの足元に駆けこんだ。
「リャオさん、大丈夫!?」
メイウェイが声をかけながら、これ以上首が締まらないように手探りでリャオリイの体を支える。しかし、ロープを切るものがないことに気づくと、焦りがさらに増す。完全に失念していた。
意識のないリャオリイに絡みついたロープを切り取るため、メイウェイは慌ててポケットの中をまさぐり、何か切れるものを探し始めた。しかし、手元には何もない。彼は身の回りを探し、地面に散らばった小枝や葉を見つけ、折れて尖った枝を手に取りながらロープに手を伸ばした。
「リャオリイ、しっかりして!お願い!お願いだから!」
メイウェイが懸命にロープを引き裂こうとするが、なかなか簡単にはいかない。首が締まったままのリャオリイは、呼吸もままならぬ状態で、苦しそうに白目を剥いていた。
「くそっ、こんなんじゃだめだ!」
メイウェイはロープを引き裂くのを諦め、再び周囲を見渡す。すると、リャオリイのズボンのポケットから何かがはみ出ているのが見えた。
「カッターナイフだ!」
おそらくロープの長さを調整するために用いたものだろう、メイウェイは急いでそれを取り出し、ロープに切り込みを入れた。首が締まったせいで、リャオリイの体からはすでに尿が漏れている。それを気にも留めずにメイウェイは手際よくロープを切り離していった。
ドサッと大きな音がしてリャオリイがおそらく数分ぶりに地面に着地した。
急いで心臓マッサージと人工呼吸を繰り返す。すると大きく咳き込みながら、リャオリイが息を吹き返した。首が締まってから平均して14分でたいていの人は死ぬ。間に合った。肋骨が折れるのではないかと言う程強く心臓マッサージをして、必死に、リャオリイの止まった呼吸を蘇らせることができた。
「リャオさん、よく耐えたね。君は強い。首も骨折してないみたいで良かった。本当に運が良かった。」
メイウェイは言葉をかけながら咳き込むリャオリイを支え、地面に横にならせたまま、横向きに体を回転させて背をさすった。
「メ、…イウェイさん。なんで…ここに?」
リャオリイの声は完全に潰れていて集中して聞かなければほとんど聞こえない。声が戻るまで数週間はかかるだろう。彼は驚きと同時に、すがるような表情を浮かべてメイウェイを見た。
「君の手紙を読んで、君が…」
メイウェイは言葉に詰まり、激しく揺れる感情を抑えようとした。「リャオさんがどこかへ行こうとしているんじゃないかって、追いかけてきたんだ。」
リャオリイはしばらく黙ってメイウェイを見つめた後、深いため息をついた。
「ごめんなさい。君に、心配をかける、つもりは…。ごめんなさい。」
メイウェイはリャオリイの手を握りしめ、「僕はリャオさんが生きていてくれるだけで十分だよ。だけど、それじゃあリャオさんは納得しないよね、自分に価値がないなんて暗示をかけ続けてるんだから。…だから。」と顔を覗き込んでハッキリ宣言した。
「だから、僕があなたの命を買います!」
「?」
リャオリイはきょとんとした。日本語は分かるが、メイウェイの言っていることがひとつも分からなかったからだ。
「平均的な社会人が定年まで働いて稼ぐお金が2億だそうです。僕、一生懸命貯金してきたんで2億出せます。これから住み込みで、僕専属の家事代行をやってくれませんか?宿・食事代も出します。体がきつければ週5じゃなくて今みたいに週3でいいです。そうしましょ。ね?リャオさん。僕はもうリャオさんなしじゃ生きていけない。」
そうして畳みかけるように言った。
「リャオさん、お願いします。僕を救って下さい。」
それを聞いたとたん、リャオリイは初めて涙を見せた。
次第に嗚咽が混じり、やがて止まらなくなった。
二人は抱き合い、未来への一歩を共に歩むことを決意した。
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