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深夜に初恋の君を思い出す
しおりを挟むあーあ、やってらんない。
俺は深夜に一人、部屋でそう声を漏らす。
目の前にはいつまで経っても終わる気のしない大学のレポート作成画面が自分を嘲笑するかのようギラギラとブルーライトを輝かせている。
てか、そもそもおかしいだろ。8000字って。ふつーに馬鹿げてる。ぜってー呪ってやるからな、あのクソジジイ‼︎ 深夜だからか謎にテンションが高い自分に我ながら少し引きながらもう一度画面を見る。
『優しさの利点と欠点について』
作成画面のタイトルにはそう書かれてある。
うん、心の底からどーでもいい。そんなん勝手に考えとけよ! このテーマにしたやつ殴りたい。まあ、自分なんだけど。
謎のイキリから始めたこのテーマ。決めた時は他と違って自分イケてる‼︎とか思っていたのは本当に救いようのない馬鹿だ。
過去の自分を恨みつつも俺はひたすらカタカタとキーボードを鳴らしながら文字を打っては消して、打っては消してを繰り返していく。マジでいつ終わるんだろ?
それからしばらくして、俺の前には真っ白な画面が映し出されていた。
「あは、あはは。あははは」
うん、もう笑うしかない。え、なんか全部消えたんだけど。は?狂いそう。
あーあ、いよいよもうダメだ。俺は近くに置いてあった飲みかけの缶チューハイを飲み干し、雑にゴミ箱へと投げ込む。
「一旦、外でよ」
テキトーに転がっていたパーカーを被り、冷静になるため俺は深夜の住宅街へと繰り出した。
春の夜は思ったよりも夜風が冷たく、ストレスとアルコールで上がった体温を適度に冷ましてくれる。深夜&住宅街ということもあって周りは驚くほどに静かで昼間とは完全に別の世界のように感じられた。
俺は何にも考えず、ただ足に任せてひたすらに深夜の住宅街を漂う。その姿は側から見ると完全に不審者で、仮に通報されてしまっても文句は言えないだろう。
夕方は騒がしい小学校も深夜となれば当たり前に静かで変な不気味さすら醸し出していた。何だか、深夜って面白いな。
そういや、母校の中学ここの近くだし、寄ってみるかな。
謎の深夜テンションでいつもより行動力だけはあった俺はその足でふらふらと母校の中学へと向かった。
数分程して、無事に出身である中学校へと辿り着く。
深夜の中学は暗い中静かに佇んでいてなんだか、お城みたいだなとか思ったりした。
「あーマジで戻りてぇ~!」
校門の柵に腕を置き、俺は校舎に向かって酔っぱらいらしく叫ぶ。
本当に、あの頃は我ながら青春してたなぁ~と思う。部活でもレギュラーで、勉強はそこまで出来なかったけどワイワイと毎日楽しく過ごして。そういや、初めて彼女が出来たのも中学だったな。
佐藤優香。
今でも鮮明に覚えている。俺の初恋にして初めての恋人。
名は体を表すという言葉通りに優しい子だった。
いつもの放課後、バスケ部の練習を終えた俺は決まって一人残ってバスケコートの掃除をしていた。別に真面目だったとか、押し付けられてたとかじゃなくて、理由は至ってシンプル。優香と一緒に帰るため。優香も部活終わりにいつも一人だけ残っていた。
今になって振り返ると、もう恥ずかし過ぎて鳥肌が立ってくる。
優香はバレー部でいつもバスケ部の横で練習していた。時折、隣の練習を覗いては人懐こい柔らかな笑顔を見せながら練習する姿に俺は思わず人生初の一目惚れをした。
「私はさ、誰かに必要とされたり、助けることが好きなんだよ」
部活終わりの帰り道。俺は優香に「なんで毎日一人残って片付けてるの?」と聞いたら優香は言った。
俺のような下心しかない野郎とは違って、どうやら彼女は奉仕心だけでやっているらしい。俺はその答えを聞いたとき、驚くと同時に人間として優香を尊敬した。そして更に優香のことが好きなった。
あーマジで懐かしい。中学時代の記憶がみるみる蘇ってくる。
そうだ、あの公園もせっかくだし久しぶりに行っておくか。
行動力お化けになっていた俺は思い浮かぶと同時に足を動かし始めた。
数分後、その公園が見えてきた。夕方は小学生で溢れかえっていて、とても気軽に入れるような場所ではないが深夜ともなると話は別だ。勿論、俺以外に誰もおらず。ブランコも滑り台もジャングルジムも全部独り占めだぜ!
ゴホン、さてとそんな茶番もそこそこに俺は奥にポツンと一つだけあるベンチに腰を下ろした。
「そうそう、ここだよ」
中2の夏。
俺はいつものように部活終わり一緒に帰っていた優香にここで告白した。
確か、その日は部活の練習なんて手につく訳もなく。一日中そわそわしていたのを覚えている。
「あ、えーと。あーと、す、好きです。つっ、付き合ってください!」
本当に過去の自分を殴りてぇ。いくらなんでもダサすぎんだろ。マジでどこのチー牛童貞だよ。
けど、そんな俺の告白を優香は顔を赤らめながらOKしてくれた。その時の優香の表情は五年たった今でも鮮明に頭の中に残っている。マジで可愛かった。
俺は改めてベンチをまじまじと眺める。
そうそう、デートの待ち合わせもここだった。
デートとは言っても、お互いに部活で忙しくてちゃんとしたのは一回だけだった。まあ、中学生カップルなんてそんなもんだろ。
行き先は優香の希望でど定番の水族館。俺はなんとかして楽しませようと必死になってデートプランを練った。その時はとにかく観覧車が近くにあることにこだわった。無論、ファーストキスをするため。
本当に下心しかねぇクズだなこのクソガキ。
まあ、実際に当日は水族館を楽しんだ後、いざ観覧車へと向かったら休業で膝から崩れ落ちたっけな。
それで若干、落ち込んだ帰り道。優香の家の前に着き、じゃあバイバイって感じで解散しようとした頃合い。優香が口を開いた。
「ねえねえ、しなくていいの?」
節目がちの顔を赤らめて言った。
「えーと、何が?」
「キス」
俺は予想外の言葉に戸惑っていると、優香は顔を真っ赤に染めながら強引に体を引っ張り、そっと唇を合わせた。
「優香、今何やってるんだろう?」
俺は誰もいない公園で誰もいないベンチに向けて一人ボソッと呟いた。
そして俺は最後の一箇所だけ寄って帰ることにした。
そ子また近くで、なんの変哲もない横断歩道。
結局、中3になると優香は医者家系だったこともあり、受験が忙しくなり、部活も引退した俺たちは徐々に話さなくなり、俺たちの付き合いはいつの間にか自然消滅した。
そこからまた優香の話を聞いたのは高校二年になってからだった。
その日は特に予定もなく、家でダラダラとスマホをいじる普通の休日だった。そこに夕方、メッセージアプリから一件の通知が来た。相手は中学の時の部活仲間。
「なあ、聞いた?」
「何が?」
「確か、お前って佐藤優香と付き合ってよな?」
「ああ、うん」
「あいつ、さっき死んだらしい」
死因は車に轢かれたことだった。どうやら道路に飛び出した子供を助けようとして死んでしまったらしい。
『私はさ、誰かに必要とされたり、助けることが好きなんだよ』
その言葉通り、実に彼女らしい最後だった。
当時の俺は、中学以来離してなかったことからイマイチ実感が湧かず、どこか遠い国で知らない誰かが死んだニュースを知った。その時の気持ちに似ていた。
だからか参加したお葬式で俺は涙を一粒も流さなかった。
けど今になって思えば、俺は優香の死を受け入れたくなくて必死に記憶自体を隠していただけなのかもしれない。ただの強がりだったんだ。
今こうして思い出を振り返るとどうしても、どうしても。
でもさ、優香。俺、やっぱ無理だわ。泣かないなんて。
午前四時。
地面を濡らしながら、そっと横断歩道に手を合わせた。
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