久々に再会した同級生から告白されて一緒に媚薬を被った結果

わさん

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 ちゅっとくちびるが触れ、竹野は自分でも驚くくらいに身体が跳ねた。触れただけだ。もしかしたら、一度目より短いかもしれない。それでも室内で、小槙だけを意識している状態でのキスはひどく刺激的だった。

「まだいいって言ってない……っ!」
「やだ?」
「や、やじゃない、けど」

 そう応えた途端に、嬉しそうに微笑みながら顔を寄せられ、いやだと言うべきだったのか、と竹野は混乱した。先程よりもずっと、小槙はゆっくりと近づいてくれた。避ける余裕はいくらでもあった。だが竹野の心臓は激しくなっていて、うるさくて、何も考えられない。呼吸の仕方もわからない。手も足も、どうしたらいい。顔も、いま、どんな顔で、どこを向いたらいい。わからない。わからなくて、助けを求めるように小槙を見つめてしまうことしかできない。

 柔らかく触れて、離れる。顎に添えられた手はごつごつとして節がしっかり分かるのに、くちびるは柔らかいのが不思議だった。こんなに柔らかいんだ、なんて、そのことにも驚いてしまう。竹野からすると小槙は大柄で、スポーツもできて、筋肉や骨が丈夫な、あちこちどこも筋張って硬い身体に見えた。そんな小槙に、こんなにも繊細な器官があったのか。
 ちろっと合わせ目をまた柔らかなもので撫でられ、竹野は思わず奥歯を噛み締めた。吐息が触れる距離で小槙が笑う。目尻がほんのり赤く見えるのは、この甘いにおいのせいか。それとも目の錯覚か。こんなにも近くで視線を合わせているのに、手のひらを胸に押し当てられて、やっぱり竹野は飛び上がった。

「竹野、緊張してんね」
「当たり前……っ」

 心臓がばくばくうるさいことを、どう足掻いても隠せるはずがない。たとえ触れなくたって、小槙はわかったはずだ。
 もうずっとだ。ずっと緊張している。駅に着いてからずっと。いや、再会してからずっとかもしれない。頼むから、ほんの少しでいいから、この関係を客観的に見直す時間がほしい。これでいいのか考えさせてほしい。だがそれを竹野は小槙に言えずにいる。言うために勇気を蓄える一息すらつけないからだ。
 ずっとぐるぐるぐるぐる目が回っている。洗濯機の中にでも放り込まれたんじゃないだろうか。ずっとなんの刺激もなく暮らしてきたのに、こんな展開についていけるはずもない。

「竹野も勃ってる」
「だって!」

 小槙が人差し指で竹野のふくらみをするりと撫で上げた。がっちりと抱きこまれていて、逃げ場がない。だって、と竹野は泣きそうになりながら声をあげた。
 否定するよりも先に、相手を詰る言葉が飛び出た。何についても文句を飲み込んでしまう竹野だが、羞恥の許容を振り切ってしまった。誰のせいか。責任の所在は明らかだ。

 仕方ないじゃないか。小槙のにおいがする部屋で、こんなふうに抱きこまれて、キスまでされた。そして大腿には、熱いものが押し当てられている。こんな状況で、冷静でいられるはずがない。

「こ、小槙だって勃ってるし……」
「俺は竹野のこと好きだし」
「ぼ、僕は……」

 好きだから勃起するというのは正しいだろう。だが小槙の理由でいうなら、竹野もそう、ということになる。小槙は竹野を急かすことはないけれど、答えを確信しているようだった。まだ自分の感情さえぐちゃぐちゃなのに。竹野は後ろめたいような、悔しいような居たたまれなさに首を降った。指先が冷たいものに当たり、わっ、と手を引く。そういえば、天板に瓶の中身をこぼしたままだった。つい手を振ってしまったせいで、小槙に水滴が飛んでしまった。

「あっごめん!」
「大丈夫大丈夫」

 小槙が箱ティッシュを引き寄せたので、竹野もティッシュを抜き取る。
 竹野は小槙の頬に手を添え、自分の方へと顔を向けさせた。水滴を飛ばしたのは自分だから、拭わなければ。そう思ったための行動だったはずなのに、小槙との距離が近づいたことでなんだかわけが分からなくなった。
 甘いにおいがする。
 自分からも、小槙からも。無意識に唇を舐めてしまう。

「竹野?」

 小槙の困惑した声に、竹野ははっと我に返った。手の中のティッシュの存在も忘れ、小槙の頬にくちびるを寄せようとしていた。
 いやいやそんなことするわけない。
 竹野はぶんぶんと首を振り、小槙ではなく、自分の手を拭った。

 小槙がテーブルの上を拭き始めたので、竹野もそれに倣う。濃い、甘いにおいのせいで、頭がぼうっとするせいか、いつの間にかふたりとも無言になっている。
 竹野はつい、甘いにおいのする自分の指先を口元に近づける。ぺろ、とくちびるを舐めると、だめだよ、と小槙が竹野の手首を掴んだ。

「だめだよ、舐めちゃ」
「あ……うん……」

 自分でもわかっているはずなのに、どうしてか小槙に窘められるまで止められなかった。竹野はそわそわと身体を揺らす。ひどくおいしそうなにおいにそそられる。あまくてあまくて、舐めてみたいという欲求が膨れ上がる。
 はっと気づくと、竹野は小槙にすっかりもたれかかっていた。ティッシュで拭っても、まだにおいが取れないのだろうか。小槙からにおいがする。竹野は引き寄せられるように、小槙に密着した。

 鼻腔から甘いにおいが頭の中へ入り込んでしまう。頭の奥がジン、と痺れ、指先まで力が入らない。

「竹野」

 耳元で呼ぶ声が、急に熱くなったように感じる。いままで拒否していた理由などが、もはや遠くに感じられる。いろいろ理由があったはずなのに。それらすべてが、いまこの体温の前には小さなものとしか思えなかった。竹野は何を言おうとしたのかも分からないまま、あ、と声を上げてただ小槙に抱き寄せられるままに身体を預けた。

「んっ、あ! あっ!」

 気づいたときには、竹野の下着の中に小槙の手が入り込んでいる。
 他人の手など感じたことのない場所への接触に、竹野は混乱した。やわやわと握られて、思考回路がめちゃくちゃに壊されたようだった。
 なんで、どうしてと理由を考えるよりも先に、どうしよう、と竹野は思う。どうしよう。

「こま、小槙、小槙、どうしよ」

 この状況をもたらしているのは小槙だというのに、竹野には小槙に縋る以外に方法がなかった。
 小槙への、妙な信頼もあった。竹野にとって、小槙は、誰かが困っていたら絶対に助けてくれる男だ。

「竹野」
「どうしよ、小槙……熱くて、きもち、よくて……」

 小槙の手がぴた、と止まる。どうしてと思いながら、竹野は焦れて腰を揺らす。もっと触ってほしい。目を見つめて訴える。

「くそっ」

 こんな余裕のない小槙の声を聞くのは初めてだ。竹野は驚いたあまり固まってしまった。小槙は、焦れた様子で竹野のベルトのバックルに手をかけると、ずるっと下着ごと履いていたボトムスを剥いてしまう。こたつに入っているので、竹野の膝のあたりで布が絡まった。だがそれでも、小槙の手が動くには十分だった。
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