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第二章
第7話 しつけの仕方
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そのまま別の出入り口からスーパーの中に入る。
またスマホが鳴った。今度は葵からの買い物メモだった。
「えーと、お魚、果物……そんなに量はないかなー。あ、そうだ、五月ちゃんとも連絡先交換しとこっか」
「はい。よろしくお願いします」
さっと相手の懐に入る器用さは見習うべきだろうかと五月はわずかに煩悶した。
スーパーでよく流れるテンポの良い曲を背景に、買い物を進める。
「でも意外だったかなー。葵ちゃんが他人を自分の家に上げるどころか住んでもいいっていうなんて」
「祖父同士が知り合いだったので……話がうまく進みました」
これはあらかじめ打ち合わせておいた嘘であるが、実は二人ともお互いの祖父なら気が合うだろうと勝手に予想していた。
「あー、葵ちゃん、亡くなった家族についてすごいなんて言うんだろう……情が深いっていうのかな」
「ですね。あの家の前の御主人である先生についても並々ならぬ尊敬を感じます」
このわずかな会話で、佳穂と五月はどのくらい葵の家庭事情に通じているかということをすり合わせしてた。
葵の家族関係はかなりデリケートな話題であり、うかつに口に出すわけにはいかないので腹の探り合いに近い形になってしまったのだ。
「ねー。一年くらい前の先生が亡くなったころかな? あの頃はすごいピリピリしてたよ。あれだね、子猫を守ろうとする親猫とかそんな感じだった」
「さつまに対する愛情は……ちょっと普通ではありませんから」
「だよねー。さつまちゃんがピンチだったら命がけで助けると思うよ」
佳穂の口調は冗談めいていたが、五月は実際に命がけで助けた場面を見ているため、笑うに笑えない。
「もしかして先生が亡くなったころに皆本さんと仲良くなったんですか?」
「うん。あたし、猫とか犬とか飼ってるってみんなに言ってるから、自分の猫が元気ないみたいでちょっとアドバイスをもらいたい、みたいなこと聞かれたんだよねー」
「今日と同じということですか」
「そーそー。あとで気づいたんだけど、葵ちゃん、自分で面倒見切れるのかかなり悩んでたみたいだけど、他人を家に上げるのもすごく嫌がってたみたいなんだ」
「それでも夢川さんとさつまを会わせることにしたと……やっぱりペットを飼っている人はそういう悩みを持つものなんですね……」
不意に、佳穂は表情を曇らせながら聞いてきた。
「ね、五月ちゃん。もしかしてだけど……アポロちゃんとちょっと距離がある感じ?」
その質問に心臓がどきりと跳ねた。完全なる図星だったからだ。
「どうして、そう思うんですか?」
「うーん、勘、だけど……よそよそしいっていうか積極的に可愛がってないというか……あんなにちゃんとしつけられてるのに……そこがちぐはぐっていうか……」
「その、アポロは……もともと私が飼っていたわけではありません」
アポロとの出会いは完全な偶然で、同時にギフテッドとオーナーという関係が定まった瞬間でもある。
その時と、そのもう少し後の出来事の結果、まっとうなペットと飼い主の関係になるべきではないと自分を戒めていた。
「そのあたりがどっかに距離がある理由なの?」
「……そうですね……」
五月が歯切れ悪く答えると佳穂は逆ににこっと微笑んだ。
「もう、そんな顔しないで。美人が台無しだよ? きっと、アポロちゃんはあなたのこと好きだよ。自信もって」
その慰めはどちらかというと逆効果だった。五月の無表情はギフトを使わせるために捧げられた代償だ。
どうあがいても自分の意志で表情を変化させられない。さらに言えばアポロと関係を良好にはできないわけがある。
それを善意で指摘されているからこそ、気が滅入る。
「それとさ、あたしのことは佳穂でいいよ。もしよかったら、葵ちゃんのことも名前で呼んであげて? あの子、苗字より名前で呼ばれる方が好きみたいだから」
五月は佳穂の太陽のような笑顔をどうしても直視できなかった。
またスマホが鳴った。今度は葵からの買い物メモだった。
「えーと、お魚、果物……そんなに量はないかなー。あ、そうだ、五月ちゃんとも連絡先交換しとこっか」
「はい。よろしくお願いします」
さっと相手の懐に入る器用さは見習うべきだろうかと五月はわずかに煩悶した。
スーパーでよく流れるテンポの良い曲を背景に、買い物を進める。
「でも意外だったかなー。葵ちゃんが他人を自分の家に上げるどころか住んでもいいっていうなんて」
「祖父同士が知り合いだったので……話がうまく進みました」
これはあらかじめ打ち合わせておいた嘘であるが、実は二人ともお互いの祖父なら気が合うだろうと勝手に予想していた。
「あー、葵ちゃん、亡くなった家族についてすごいなんて言うんだろう……情が深いっていうのかな」
「ですね。あの家の前の御主人である先生についても並々ならぬ尊敬を感じます」
このわずかな会話で、佳穂と五月はどのくらい葵の家庭事情に通じているかということをすり合わせしてた。
葵の家族関係はかなりデリケートな話題であり、うかつに口に出すわけにはいかないので腹の探り合いに近い形になってしまったのだ。
「ねー。一年くらい前の先生が亡くなったころかな? あの頃はすごいピリピリしてたよ。あれだね、子猫を守ろうとする親猫とかそんな感じだった」
「さつまに対する愛情は……ちょっと普通ではありませんから」
「だよねー。さつまちゃんがピンチだったら命がけで助けると思うよ」
佳穂の口調は冗談めいていたが、五月は実際に命がけで助けた場面を見ているため、笑うに笑えない。
「もしかして先生が亡くなったころに皆本さんと仲良くなったんですか?」
「うん。あたし、猫とか犬とか飼ってるってみんなに言ってるから、自分の猫が元気ないみたいでちょっとアドバイスをもらいたい、みたいなこと聞かれたんだよねー」
「今日と同じということですか」
「そーそー。あとで気づいたんだけど、葵ちゃん、自分で面倒見切れるのかかなり悩んでたみたいだけど、他人を家に上げるのもすごく嫌がってたみたいなんだ」
「それでも夢川さんとさつまを会わせることにしたと……やっぱりペットを飼っている人はそういう悩みを持つものなんですね……」
不意に、佳穂は表情を曇らせながら聞いてきた。
「ね、五月ちゃん。もしかしてだけど……アポロちゃんとちょっと距離がある感じ?」
その質問に心臓がどきりと跳ねた。完全なる図星だったからだ。
「どうして、そう思うんですか?」
「うーん、勘、だけど……よそよそしいっていうか積極的に可愛がってないというか……あんなにちゃんとしつけられてるのに……そこがちぐはぐっていうか……」
「その、アポロは……もともと私が飼っていたわけではありません」
アポロとの出会いは完全な偶然で、同時にギフテッドとオーナーという関係が定まった瞬間でもある。
その時と、そのもう少し後の出来事の結果、まっとうなペットと飼い主の関係になるべきではないと自分を戒めていた。
「そのあたりがどっかに距離がある理由なの?」
「……そうですね……」
五月が歯切れ悪く答えると佳穂は逆ににこっと微笑んだ。
「もう、そんな顔しないで。美人が台無しだよ? きっと、アポロちゃんはあなたのこと好きだよ。自信もって」
その慰めはどちらかというと逆効果だった。五月の無表情はギフトを使わせるために捧げられた代償だ。
どうあがいても自分の意志で表情を変化させられない。さらに言えばアポロと関係を良好にはできないわけがある。
それを善意で指摘されているからこそ、気が滅入る。
「それとさ、あたしのことは佳穂でいいよ。もしよかったら、葵ちゃんのことも名前で呼んであげて? あの子、苗字より名前で呼ばれる方が好きみたいだから」
五月は佳穂の太陽のような笑顔をどうしても直視できなかった。
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