うちの猫は液体です

秋葉夕雲

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第二章

第11話 うつろな風景

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 まず深呼吸する。
 そして当たり前のことを確認する。
「わたしの名前は皆本葵。大水市在住。飼い猫のさつまと一緒の一人暮らしだったけど、最近同居人が増えた……」
 記憶におかしいところはない……はずだ。
「で、ここはどこ……え!?」
 景色がぐにゃりと歪む。
 エレベーターが急上昇した時のような耳がつんと詰まる感覚。ふらついておもわず地面に手がつく。
 すると……自宅、それも寝室にいた。いや、今までここが寝室だと認識できなかったのか。
「幻覚? 夢? ああもう、自分の正気を疑わなくちゃいけないなんて厄介なギフトね。ううん、それよりも……さつま!」
 最も彼女が憂慮するべきことは飼い猫の安否だ。
 葵はさつまと一緒に寝ない。
 本音を言えば一緒に寝たかったのだが、両親や後見人に成長期が終わるまで睡眠時間を確保するために一緒に寝ることを禁止されていたのだ。
 そのためこの家に来てからはさつま専用の寝室を作り、そこで寝てもらうようにしていた。もともと大家族で住むことが想定されていたこの家ではそうできるだけの余裕があったのだ。
 だから急いでさつま用の寝室に向かう。たいていさつまはそこに寝ている。
 だだだと足音を轟かせ、しかしさつまを驚かせないようにそっとドアを開ける。
 そして、どんな金銀財宝とも比べられないほどいとおしい猫がきれいなへそ天で眠っていた。
 一年前に買った猫用ベッドの上で気持ちよさそうに眠っている。感動のせいなのか、ワサビでも食べた時のように鼻やのどの奥がつんとした気がした。
 なお、トンネル型のベッドなので正しい使用法はトンネルに潜ることなのだが、二、三回しか潜ったところは見たことがない。もちろんそんなことはどうでもいいことだ。さつまが気持ちよく眠れるのなら人間が定めた正しい利用方法などゴミ箱にでも捨てればいい。
「よかったあ。さつま。ああー寝顔も可愛い……って待って、もしかしてここが夢なら本物のさつまじゃない……?」
 わたしの独り言が聞こえたのか、眠そうな瞳がこちらを射すくめた。
「あ、うん、そんなことどうでもいいわ。さつま可愛い。うん、それがわかってれば十分よね」
 そっと手を差し出すと、ふんふんと鼻を動かし、それから額をすりすりとこすりつけてきた。
「はふう。あー幸せー……でもわたしがここにいるなら……五月やアポロちゃんもここにいるのかしら」
 さつまの背後に回り込んでからそっと抱きかかえる。寝起きだからなのか、全く抵抗はしなかった。
 そのまま自宅を捜索する。
「五月―。アポロちゃーん。いないのー?」
 しばらく呼び出しても、歩き回っても誰もいない。忠一のケージや購入した犬、ラットのペットフードなどはあることから現在の自宅から生き物だけを取り除いているような状態になっているらしい。
「五月とアポロちゃんはいない? さつまがいるのは……やっぱりオーナーとギフテッドの関係だから?」
 しばし考え込む。
 ふと確認しなければならないことを思いつき、さつまを置いてからソーイングセットを取り出し、針で自分の指をつつく。
 痛みもなく、血は流れず、いつも通りの指だった。
(出血はない。さつまのギフトの代償は私の出血。これじゃあギフトが使えるかどうかさえ確認できない。わたし自身のギフトは使えるかもしれないけど……もしも敵に監視されてたりしたらこっちの情報を渡すことになりかねないわ)
 ふうっとため息をつく。
「そもそもこの敵何がしたいのよ。夢の中じゃわたしは傷つかないみたいだし……もしかしたら致命傷は回復しないのかしら」
 うんうんと唸っても状況は好転しない。
 ならばと、敵のギフトを推測してみることにした。
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