うちの猫は液体です

秋葉夕雲

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第二章

第52話 系統樹

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 飛行機で騒動はあったものの無事到着した二人と二匹。ひとまず特害対に到着の報告とオーナー発見の報告を行った。それから空港の外に出る。
 春らしいさわやかな風と日差しが彼女たちを歓迎……してはくれなかった。
「寒っ!」
「さすが北海道ですね。5月でもこの気温ですか」
 北海道の五月の平均気温は五度から十五度と言われており、本州と同じ格好で過ごすのは難しい気温だった。
 飛行機の中でぬくぬくと過ごしていた彼女たちに空港から出た直後の寒さは身に堪えた。
「あんたの言う通り上着持ってきておいて正解だったわ」
「これでも旅慣れていますので。アポロは大丈夫ですか?」
「は! あったかいですワン!」
 あまり寒さに強くないドーベルマンであるアポロは用意しておいた犬用のジャケットを着ていて、快適そうだった。
 無地のシュッとしているジャケットはアポロにより活動的な印象を与えていた。
「さつまは丸まってるわね。一応カイロも持ち込んでいるけど。今のところ必要なさそうね」
 今までの経験から、もっとさむがっていると毛を逆立てたりするので限界点は超えてないと考えていた。
「目的の牧場は……ここから三キロくらい? 歩いていけなくもない距離ね。また移動中に襲われたりするのは勘弁したいけど……どうする?」
「……いえ、やめておきましょう。ここは北海道ですから」
 五月の言葉に首をかしげていた葵だが、その意味はすぐに分かった。

 葵と五月の目的地である馬が不審死した牧場の一つは空港の近くにある。観光地としての役割があるため、空港から直通のシャトルバスが出ているためかなりアクセスは良いと言える。
 逆に言えばシャトルバスでもなければたどり着くのが困難とも言える。
「……」
 葵は目の前の通り過ぎる濃い緑のじゅうたんに閉口していた。
 バスに乗って数分で都市から森を開拓した道路に直行するとは都市住まいの葵には想像しづらかったらしい。
「北海道は広いわね……あんた、来たことあったの?」
「初めてですが……アメリカの田舎に滞在していたことはあるので……なんというか……日本とは距離の基準が違うんですよ」
「……あんたが旅慣れてて助かったわ」
 ふう、とため息をついた葵。
「下手すると他の牧場も歩き回ることになるのよね」
「はっきり言いますが北海道の奥地にあるような街に行く可能性もありますよ。さすがに特害対の会員が車を出してくれるそうなのでまずは最初の牧場に集中しましょう。それと、少し質問があるのですが」
「どうしたの?」
「先ほどレベルアップで獲得したスキルについて、質問してもいいですか?」
「いいけど……話していいの?」
 葵と五月は協力関係だが、最終的に敵同士になる関係だ。なんでもかんでも相手に知らせる必要はない。
「はい。私たちでははっきり判断できないので……これです」
 五月は葵にスマホを向ける。
 ラプラスの仕業と思われるけったいな絵柄のついた画面にはスキルの説明文が記載されていた。
「太陽のギフトを強化する? ……アポロちゃんのギフトならおかしくないと思うけど……」
「は。ですがどうも、このスキル、わずかしか効果がないようですワン」
 バスの中だからか、普段より小声のアポロが説明する。
「そういうのってわかるの?」
「ギフテッドならなんとなく感じるですワン。さつまはどうかわからないですワン」
「ふうん。……妙に効果の薄いギフト、ね」
 葵も五月が相談してきた理由がわかった。効果の乏しいスキルを使う意味があるのかということだ。ある程度普段使いできるギフトと違い、スキルは例外を除けば戦闘中にしか使えない。
 命がかかっている状態で意味のないスキルは使えない。だが、もしかすると何か隠れた意味があるのではないかと思ったのだろう。
「ごめん。私にも使い道わかんない」
 さりとて葵にも限界はあった。
 五月も別段落胆した様子もなく、この返答は予想通りだったのだろう。
「……ちょっと気になったんだけどさ。レベルを上げるには二親等以内の生き物を殺すのよね」
 ギフテッド同士の戦いに親が巻き込まれたらしい五月には振りづらい話題だったので少し慎重に話を切り出した。
「そうですね」
「ならさ。ある程度ギフテッドは絞れるんじゃない?」
「皆本さん。種牡馬の産駒……いえ、子供がどれくらいいるかご存じですか?」
「え、十頭くらい?」
「千を超える種牡馬は珍しくありません。犠牲になった馬の祖父はすべて共通していますが、なかなかの大種牡馬だったらしく容疑者はそれ以上です」
「千……あ、人工授精とか使えば……」
「サラブレッドの繁殖は自然受精が原則です」
「ま、まじかあ。なんというか、お疲れね」
「ええ。牡馬……つまり男馬の中で、子孫を残せるのは厳しい競争を勝ち残った一部の馬だけですが、そこからもまた競争の連続です。子供が走らなければ子孫を残し続けることはできません」
「気が休まる暇もないわけね。……ならさ」
 葵は目を細め、攻撃的だが妙に艶のある表情だった。
「無理矢理競争に参加させられていることに気づいたサラブレッドのギフテッドって果たして人間をどう思ってるのかしら」
 五月は答えられなかった。
 今まで、ギフテッドをないがしろにしていたオーナーには会ったことがあったが、その逆はない。そういう風に知性を与えられているのか、悪辣なのは人間の特権なのか、それはわからない。
 だが、どこかにオーナーを恨んでいるギフテッドがいてもおかしくはない。
 その状態でこの戦いを勝ち抜けるかどうかはわからない。
 だからこそ、と思う。これは草野も明言していないし、葵も五月も言葉にはしていないが心のどこかで思っている。
 サラブレッドのギフテッドのオーナーは自分のギフテッドが同族を殺しているのをよしとしているのか、と。
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