うちの猫は液体です

秋葉夕雲

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第一章

第9話 目覚め

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 私はずっと昔から二人の猫と暮らしていた。
 さつまとアワビ。アワビは祖父が飼っていた猫で、私がものごころつくころに亡くなったために父が引き取ったらしい。
 それから保護猫として引き取ったさつまが加わり、全部で五人家族だ、よく父はそう言っていた。
 ずっと、亡くなるまでずっと一緒だ。
 父と母もぽつりとそう漏らすことがあった。その言葉の意味は今ならわかる。猫の寿命は人よりずっと短い。
 だから想像もしていなかったに違いない。
 自分たちの方が先に死ぬなど。



 ちゅんちゅん、というのどかなスズメの鳴き声で目が覚めた。
 いつも使っている布団だ。
 自分の部屋だ。
 明るい陽射しだ。
 数秒ほど、ぼーとしてから。
 突然昨日の光景を思い出した。
「さつま!」
 布団をはねのける。
 ドアを開けてもう一度さつまの名前を呼ぶと返事があった。いつもの猫部屋だ。
 かりかりと扉をひっかく音も聞こえる。その扉を素早く、しかし驚かせないように慎重に開く。
 すると世界一いとおしい猫が私の胸元に飛び込んできた。
「さつま! ああ、よかった! 大丈夫? どこも痛いところはない?」
 麦穂のように輝く毛並みを撫でつつ、様子を探る。異常はない気がする。
「目が覚めましたか」
 抑揚のない声。
 振り向きざまに叫ぶ。
「誰よあんた! なんで私の家にいるのよ!」
「……まだ寝ぼけて……いえ、よく考えるとまだ名乗っていませんでしたね。私は平川五月と申します」
「さつき……五月?」
「ええ。ごがつと書いて五月と読みます」
「あんた確か……犬の、アポロちゃんのオーナー……だったっけ」
「はい。気絶していましたので失礼ですがここまで運ばせていただきました」
「人の鞄探って鍵まで開けたの?」
「ええ。言いたいことも聞きたいこともいろいろあるでしょうが……まずは着替えてもらえませんか」
 む。
 と自分の格好を見る。なかなかにあられもない姿だった。



 葵は着替えてから庭前のリビングに向かった。
 リビングのソファには五月が座っており、朝日に照らされた彼女は絵心があればすぐにでもスケッチしたくなるほど美しい姿だった。
 しかし葵はそんなことを露ほどにも思わず事務的な話題を口にした。

「ひとまず自己紹介ね。私は皆本葵。この子がさつま。この家の表札と苗字が違うのは……まあ、いろいろあるのよ」
「……ご両親は……?」
「亡くなってるわ。私が中一の時ね」
「死因を聞いてもよろしいですか?」
 妙に食いついてくる五月に疑問符を浮かべながらも丁寧に答える。
「交通事故よ。それがどうしたの?」
「……いえ、何でもありません」
 しおらしい様子の五月に首をかしげながら葵はソファと向き合うように並べた椅子に座る。もちろんさつまを膝にちょこんと座らせる。不機嫌ながらも本題を切り出した。
「それで? わざわざ私とさつまをここまで運んだってことは何か要求があるのよね?」
「ええ。あなたは私に協力してもらいます」
「断ったら?」
「河登さん……昨日会った関西弁の男性と戦うことになりますね」
 思わず顔が歪んでしまう。
 あの男に何をされたのかさえ全くわからない。いつの間にか気絶してしまった。もう一回戦っても対策がなければ同じ結果になるだろう。
「それ、脅迫?」
「そう受け取ってもらって構いません」
 しばしにらみ合う。
 さつまがリビングの先の庭を気にしていることは気づいている。おそらくアポロちゃんがいるのだろう。こちらが攻撃するのを誘っているようにも思えた。
「わかった。協力するわよ。でもこっちだって見返りくらい求めてもいいわよね」
「そうですね。少なくとも協力している間なら私たちは決してあなたを害しないと約束します。もちろんただの口約束ではありません」
 つう、と一枚の紙を差し出してきた。警戒しながらも受け取る。
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