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第一章
第16話 朝餉
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「さて、と。何か残ってたかしら」
藍色のエプロンを着て、冷蔵庫と野菜を入れているワイヤーバスケットを確認する。散歩の後で何か買ってくるつもりだったのであまり在庫はない。
「大根と玉ねぎに卵、リンゴ……。ねえ! 忠一ちゃんは大根とリンゴなら食べられるー? 玉ねぎはダメ?」
頭の中でレシピを作りつつ、お米を洗う。
「は、はいで……ぎゃちゅううううううう!? さ、さつ……ぎゅいああああああ!?!?」
私がいなくなったことで自由になったさつまは再び忠一ちゃんに狙いを定めたらしい。
代わりに五月が答えた。
「ラットでも玉ねぎは食べられません」
「りょーかい。さつま。チュール」
魔法の言葉をささやくと、さつまは台所に飛び込んできた。そのまま私の足に向かって頭突きを繰り出す。
若かりし頃は頭突きをされるたびに困惑したものだが、これが愛情表現の一種だと知ってからはこれほどうれしいこともない。
「よーしよし。いい子ね。でももうちょっと待ってね」
さつまの相手をしつつ炊飯器の早炊きボタンを押す。この程度のマルチタスクをこなせなければ猫と暮らすことなどできない。
軽く遊んだ後、大根をいちょう切り、玉ねぎをくし切り。乾燥わかめを水で戻す。
これでみそ汁の具は完成。リンゴもくし切り。あまった大根とリンゴをサイコロカット。これは忠一ちゃんの分。
ちなみにさつまはいつの間にか台所の柱の影から私を監視していた。かわいい。
みそ汁を作るときに余る顆粒だしと薄口醬油に砂糖に水を加え、卵と一緒にかき混ぜる。
沸騰した水に切ったみそ汁の具を入れつつ卵を焼いていく。だしの香りとぱちぱち跳ねる油の音が心地よい。
後はもう体が覚えている。炊飯器のアラーム音が鳴る。
「ちょっと少ないわね。そういえば冷凍したかぼちゃの甘煮もあったわよね。解凍しよっかな」
みそ汁、だし巻き卵、ご飯に海苔をつける。そしてかぼちゃの甘煮。デザートとしてリンゴ。
「よし。できたわよ!」
さつまとアポロちゃんのペットフードを用意する。
さつまはいつもの赤いお皿を。アポロちゃんには昔アワビが使っていた真っ白なお皿。ちょっと小さかったが不満はなさそうだった。がつがつと食べている。
忠一ちゃんをキャリーバッグから出そうとしたのだが。
「すみません。彼をそこから出すのは私が禁止されています」
多分そういう『契約』なのだろう。どうやら特害対のボスとやらはなかなか人間不信らしい。いや、動物不信でもあるのだろうか。しょうがなくキャリーバッグに大根とリンゴを放り込む。
二人で食卓に座って手を合わせる。
「「いただきます」」
まったく意識せずに、声が重なった。自宅で誰かと一緒に朝食を食べるのはずいぶん久しぶりな気がする。
先生はお医者さんなのに割とジャンク好きだったから私が来て健康になったって言ってくれたっけ。
お父さんやお母さんはちょっと失敗した時でもおいしそうに食べてくれてたなあ。お母さんはかぼちゃの煮物が得意だったけれど……あのホクホク感はいまだに再現できない。
ちらりと向かい合っている女の様子を見る。上品そうに食事を口に運んでいる。ただ、猫舌なのか熱いみそ汁には手をつけていなかった。
さっきまでしゃべりっぱなしだったせいか喉が疲れているので黙々と食べる。いやそもそもこいつとは楽しく団欒する関係でもないのだけれど。
食べ終わってから五月は手を合わせ、深々とお辞儀した。
「ごちそうさまでした。おいしくいただきました。ありがとうございます」
「そ。何よりよ。先生から頂いた家だもの。客人をもてなせなかったら申し訳が立たないわ」
さつまたちも腹が膨れた様子だ。
「今から出発すれば目的地にはおそらく昼過ぎにはつくでしょう。できるだけ早く出発しましょう」
「出発するったって……いろいろ準備が必要でしょう? 特にアポロちゃんなんて電車には簡単に乗れないでしょうし」
「ああ、そうでしたね。あなたはオーナーになり立てで知らないんでしたか」
「何を?」
「ギフテッドはどこに行っても誰かに咎められることはありません」
藍色のエプロンを着て、冷蔵庫と野菜を入れているワイヤーバスケットを確認する。散歩の後で何か買ってくるつもりだったのであまり在庫はない。
「大根と玉ねぎに卵、リンゴ……。ねえ! 忠一ちゃんは大根とリンゴなら食べられるー? 玉ねぎはダメ?」
頭の中でレシピを作りつつ、お米を洗う。
「は、はいで……ぎゃちゅううううううう!? さ、さつ……ぎゅいああああああ!?!?」
私がいなくなったことで自由になったさつまは再び忠一ちゃんに狙いを定めたらしい。
代わりに五月が答えた。
「ラットでも玉ねぎは食べられません」
「りょーかい。さつま。チュール」
魔法の言葉をささやくと、さつまは台所に飛び込んできた。そのまま私の足に向かって頭突きを繰り出す。
若かりし頃は頭突きをされるたびに困惑したものだが、これが愛情表現の一種だと知ってからはこれほどうれしいこともない。
「よーしよし。いい子ね。でももうちょっと待ってね」
さつまの相手をしつつ炊飯器の早炊きボタンを押す。この程度のマルチタスクをこなせなければ猫と暮らすことなどできない。
軽く遊んだ後、大根をいちょう切り、玉ねぎをくし切り。乾燥わかめを水で戻す。
これでみそ汁の具は完成。リンゴもくし切り。あまった大根とリンゴをサイコロカット。これは忠一ちゃんの分。
ちなみにさつまはいつの間にか台所の柱の影から私を監視していた。かわいい。
みそ汁を作るときに余る顆粒だしと薄口醬油に砂糖に水を加え、卵と一緒にかき混ぜる。
沸騰した水に切ったみそ汁の具を入れつつ卵を焼いていく。だしの香りとぱちぱち跳ねる油の音が心地よい。
後はもう体が覚えている。炊飯器のアラーム音が鳴る。
「ちょっと少ないわね。そういえば冷凍したかぼちゃの甘煮もあったわよね。解凍しよっかな」
みそ汁、だし巻き卵、ご飯に海苔をつける。そしてかぼちゃの甘煮。デザートとしてリンゴ。
「よし。できたわよ!」
さつまとアポロちゃんのペットフードを用意する。
さつまはいつもの赤いお皿を。アポロちゃんには昔アワビが使っていた真っ白なお皿。ちょっと小さかったが不満はなさそうだった。がつがつと食べている。
忠一ちゃんをキャリーバッグから出そうとしたのだが。
「すみません。彼をそこから出すのは私が禁止されています」
多分そういう『契約』なのだろう。どうやら特害対のボスとやらはなかなか人間不信らしい。いや、動物不信でもあるのだろうか。しょうがなくキャリーバッグに大根とリンゴを放り込む。
二人で食卓に座って手を合わせる。
「「いただきます」」
まったく意識せずに、声が重なった。自宅で誰かと一緒に朝食を食べるのはずいぶん久しぶりな気がする。
先生はお医者さんなのに割とジャンク好きだったから私が来て健康になったって言ってくれたっけ。
お父さんやお母さんはちょっと失敗した時でもおいしそうに食べてくれてたなあ。お母さんはかぼちゃの煮物が得意だったけれど……あのホクホク感はいまだに再現できない。
ちらりと向かい合っている女の様子を見る。上品そうに食事を口に運んでいる。ただ、猫舌なのか熱いみそ汁には手をつけていなかった。
さっきまでしゃべりっぱなしだったせいか喉が疲れているので黙々と食べる。いやそもそもこいつとは楽しく団欒する関係でもないのだけれど。
食べ終わってから五月は手を合わせ、深々とお辞儀した。
「ごちそうさまでした。おいしくいただきました。ありがとうございます」
「そ。何よりよ。先生から頂いた家だもの。客人をもてなせなかったら申し訳が立たないわ」
さつまたちも腹が膨れた様子だ。
「今から出発すれば目的地にはおそらく昼過ぎにはつくでしょう。できるだけ早く出発しましょう」
「出発するったって……いろいろ準備が必要でしょう? 特にアポロちゃんなんて電車には簡単に乗れないでしょうし」
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「何を?」
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