うちの猫は液体です

秋葉夕雲

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第一章

第22話 潜む敵

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 五月は冷蔵庫からお茶のペットボトル。開封済みのものではなく、未開封のもの。さらに冷凍庫から氷、手近にあったビニール袋。適当に漁った棚からタオルを引っ張り出し、風呂場に向かう。
 アポロとは別行動をとっていた。この家を探ってもらうためだ。
 ノックしてから話しかける。
「皆本さん。ご無事ですか?」
 風呂場のドア越しに会話する。
「ん……まあ、平気よ。それに……」
「それに?」
「こう……さつまが液体とはいえ私の体をまさぐってると思うと……ちょっと興奮するわ」
「……できるだけ冷静になって体温を下げてくださいね」
 声の熱っぽさがどういう原因なのかはわからないが、それでもどこか弱弱しい様子はある。
 あまり時間はかけられないと五月は再認識した。

「それと、何かに咬まれた後はなかったわ。まあ、鏡じゃ限界はあるけど……かゆみとかも多分ないわ」
 五月はしばし考え込んだ。
 この手の相手の体に何か仕掛けるギフトと戦ったことはある。あの時は相手がへまをしてくれたのと、アポロの鼻のおかげで勝利した。
 この敵は用心深く、おそらくはこちらを待ち構えており、計画的に襲ってきた気がする。
 この場を切り抜けるには協力する必要がある。二人の知識が必要なはずだ。
「ちょっと考えたんだけどさ。ここでベットしたらどうなるの? オーナーにカードが浮かんだりしない?」
「しませんね。相手を認識せずに行ったアクションではカードが透明になります」
 必死で考えた策を却下されて葵は呻いた。
「あー……もう、頭もうまく回んない。他人を病気にさせる神様なんていくらでもいるし……」
「いえ……もしかすると病気ではないのかもしれません」
「え、でも、私めちゃくちゃしんどいんだけど……」
「皆本さん。かゆみはありませんよね。のどや鼻、どこでもいいです。痛みはありますか?」
「ん……それはあんまりないかも。体が熱いだけかな……」
「病気やケガではなく、サウナやお風呂に長時間入っているような気分ではありませんか?」
「言われてみればそんな気もするけど……あんまり長風呂しないのよね。さつまが不安そうに見てくるし」
「猫は飼い主がおぼれていないか心配だそうですね」
「そう! そうなのよ! ちらっと見てくる瞳が可愛いのよ! ……って、今そんな話してる場合じゃないわよね。何かギフトかオーナーの手がかかりはないの?」
「確証はありませんが……ギフテッドが何かならわかります」
「ほんとに? 見つけたの?」
「いいえ。状況からの推測です。ただ、私ではギフテッドはわかってもギフトは推測できません。私が容疑者たちから話を聞いている間、あなたは体温を下げつつ、ギフトを推理してください。おそらくですが、このギフトは相手を病気にさせるのではなく、体温を上げるだけです」
「体温を上げる。それなら火の神様とか魔物……やっぱりまだ絞れないわね」
 相手のギフトを見破り、オールインに成功すれば戦いに勝利するだけでなく、この苦しさからも解放される。そうあってはどれほど辛くとも葵は頭を動かすしかなかった。
「それで? 結局ギフテッドは何よ」
 五月は自分の推測を口にした。それを聞いた葵はぶつぶつと呟く。
「絞るのは厳しいわ。ある意味文明ができるよりも先に利用していた生き物だし。そのうえで体温を上げる能力……うーん……思いつかないわね。もうちょっとヒントがあれば……」
 ぶつぶつと自分の世界に没頭し始めた葵に最後の用件を伝える。
「水分とタオル、それに氷を渡しておきます」
「ん、ありがと」
 風呂場のドアからにゅっと手が伸びてそれらを引きずり込んでいく。
 すると不安そうに葵が尋ねてきた。
「ねえ、これ……ちゃんと許可っていうか……店主さんにもらったの……?」
「快く譲っていただきました。それにこの件が終わればラプラスが記憶を消してくれるので何も問題はありません」
 五月はしゃあしゃあとうそぶいた。
「どこからどう聞いても問題しかないわよ。あんた、結構強引よね」
「多少強引にことを進めたほうが結局被害は少なくなると河登さんに教わりましたので」
「完全に悪い大人に悪いこと教わった構図ね……」
 呆れてはいたが、非常事態でもあるので渡されたものを使うのにためらいはなかった。
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