うちの猫は液体です

秋葉夕雲

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第一章

第23話 告発

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「五月様。ご報告がありますワン」
 家を探っていたアポロが五月の元に戻ってきた。説明するまでもないことだが、犬は優れた嗅覚を持っており、人間では見つけられない相手も容易に見つけてしまえる。
「どうでしたか」
「間違いなく、今この場所にいるのは三人ですワン。ですがギフテッドは見つからなかったですワン……」
 最初の方は堂々としていたが徐々に背中を丸めた。落ち込んでいるのだろう。
(こういう時、皆本さんなら慰めるのでしょうか)
 アポロと五月はある種の契約関係にある。五月自身が望んだことであり、アポロも了承したことだ。
 それが五月の覚悟だ。目的を果たすためにアポロを使い潰す。
 もっともそれは……。
「構いません。他に気づいたことは?」
「は! まず、ウォーターボトルに入っていた水ですが……」
 五月はアポロからの報告を聞いても完全な無表情を保ったままだったが、ねぎらいの言葉を口にした。
「よくやりました。これでギフテッドはほぼ確定です。あとは何とかしてオーナーを特定しないといけません」
「ありがとうございます! ワン!」
 尻尾をぶんぶんと振るアポロ。
 その頭に手を伸ばそうとして止めた。
(私には……この子を撫でる資格なんて……)
 首を振る。この戦いがどういう結末を迎えるにせよ、アポロと五月は離別が決まっている。お互いにそれは理解したうえで戦っている。
「行きましょう。会話すればぼろを出すかもしれません」
 あえて、淡泊な物言いをする。
 彼女自身うすうす気づいていた。
 思い入れや愛情のある動物を戦わせるという非道な行為に手を染める覚悟がないからこそ、線を引いているのだということを。

 黒井、香山、松本の三人はびくびくしながら座っていた。
 当然ながら会話が弾むはずもなく、誰もが無言で誰かどうにかしてくれ、という空気を醸し出していた。
 そこに現れたのは悪魔のごとき体躯の犬。それを引き連れるのは五月であり、年若いながらもはっとするほどの美貌と相まって魔女のようにも見えただろう。
「端的に申し上げます。現在、ここからは誰も出られなくなっており、この中に犯人がいます」
 率直な言葉に真っ先に反応したのは香山だった。
「あ、あなたねえ。何様のつもり!? そんな探偵小説みたいなこと、あるわけないでしょう」
「異論も反論も聞きません。失礼ながら私の質問に答えていただきます」
 まさかここまで取りつくしまがないとは思っていなかったのか、口をぱくぱくさせて絶句していた。
「犯人を捜すために皆様に聞きたいことがあります。構いませんね?」
「ま、待ってくれ。もしかして私たちを疑っているのか?」
 店主である黒井の質問にも五月は動じない。
「はい。私にとって容疑者でないのは自分自身と……私の友人だけです」
 彼女との関係を友人と言ってよいものか、そう考えながらも今のところそうとしか説明しようがない。
「まず、香山さんからあなたは観光客ですよね。何故ここに?」
「こ、ここにはハーブティーを飲みに来たの。あと、その、こういう田舎の空気が健康にいいと思ったのよ」
 びくびくと体を震わせながら、恐怖に染まった顔ではせっかくのおしゃれが台無しだった。
 そしてそれに食いついたのは松本だった。
「うさんくさいな。都会にだっていくらでも店はあるだろ」
「なによ! そもそもあんただってどうしてここにいるのよ!」
「俺はここに品物を卸しに来ただけだよ! 黒井さんとも顔なじみだよ! なあ!」
 水を向けられた黒井は黒のエプロンからハンカチを取り出し、額を拭いながら答える。
「そ、そうですよ。私と松本君はこの村の出身で、彼は農家なんです。たまに野菜や果物なんかを頂いたりしますよ」
 香山はうっとひるむ。
 同性で、同郷の二人というわかりやすいつながりがある以上、仲間外れである自分が疑われる立場になるのは明白だった。
 もはや彼女は涙目になりつつあった。こういう時、人間というのは弱い立場の人間を攻撃することで自分を守ろうとする。あまりにもわかりやすい人間の醜悪さが発揮されようとしたとき現れた人影があった。
 葵だ。
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