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第一章
第24話 相性
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「盛り上がってるわね」
皮肉交じりだが、顔が赤く、汗を流し(そのうちの一部はさつまが操った水)、よろよろと疲労困憊な様子を見て香山、松本、黒井の三人も驚き、気遣わしげになった。
もっとも、その足元でほほを摺り寄せ、液体になった体で可能な限り葵を冷やし続けるさつまを見て怪訝そうな顔にもなっていた。
「で? 犯人はわかったの?」
「はい。確信はあります」
五月はこの場の全員が驚くほど明朗に断言した。
「あら。それじゃあ早速犯人の名前を言ってくれる?」
ふらふらになりながら、葵は挑発的な笑みを浮かべる。
が、それと同時に再び葵と五月の前にカードが空中に現れた。書かれていた文面はこうだ。
『犯人を当てる際に理由を説明すればボーナス』
「……途中式を書かなきゃいけないテストみたいね」
「皆本さん。まだ耐えられますか?」
「ま、あとちょっとならね」
「わかりました。ではまずこのあたりを封鎖しているギフテッドの正体を明かしましょう」
五月はあえてギフテッドというオーナーしかわからないはずの単語を口にすることで動揺を誘ったのだが、三人は全員何のことかわからないという表情をしていた。
間抜けは見つからなかったが、気にせずに続きを始める。
「私たちを襲っているギフテッドの正体は……蜂。おそらくミツバチです」
「そこまでは聞いてるわよ。問題はどうしてミツバチだってわかったかよ」
「皆本さん。自分がここで何を飲んだか覚えていますか?」
「何って柚子蜂蜜……あ」
「はい。あなたは蜂蜜を飲んでいます。おそらくですがこのギフトの発動条件はギフテッドの体の一部に触れる、あるいは体内に摂取することです」
「蜂蜜でしょ? 蜂蜜って花の蜜から作られてるのよね? 体の一部じゃないでしょ」
「いえ、蜂蜜の主成分は確かに花などの蜜ですが、蜜から蜂蜜になる過程で蜂の唾液などを混ぜています」
「え。まじで?」
「はい。マジです」
他人(人ではないが)の唾液が混じっているものを喜んで食べていたと聞いて、葵は複雑そうな顔になったが、美味しいならまあいっか、とすぐに思い直した。
「さらにウォーターボトルからわずかに蜂蜜の臭いがしたそうです。アポロは水を飲んでいないので、さつまにもギフトの効果があったのはそれが理由です」
「そこは理解したわ。でもさすがにそれだけじゃ根拠が弱いでしょ」
「そうですね。では二つ目の根拠。今朝のギフテッドの相性の話を覚えていますか?」
「ああ三十点とかなんとか言ってきたやつね」
三人は完全に話の内容が理解できない様子だったが、もはや五月と葵はこの三人の様子を気にしていなかった。
多少揺さぶったくらいではぼろを出さないと分かり始めたのだ。こうなれば確たる証拠を突き付けるしかない。
「はい。ギフトは神や魔物の力を借りたもの。そして同時に動物であるギフテッドから発露したものでもあります」
「もしかして、動物の相性にも左右されるの?」
「はい。蛇と蛙のように明確な捕食、被食の関係にある生物なら捕食する天敵の方が圧倒的に優位になります」
「じゃあさつまとアポロちゃんはどうなの? そこまで相性が悪そうには見えなかったけど」
「人間のイメージだと犬は猫より強いと思いがちですが、実際のところお互いに肉食獣同士ですから野生下で犬が猫を襲うことはそうありません。むしろ体格に差があれば猫が犬を襲う可能性の方が高いでしょう」
「んー……要するに生物学的な正しさがギフトの相性に影響を与えるってこと?」
「その認識で正しいですね。今考えればあなた方の居場所を正確にわからなかったのは忠一とさつまが天敵関係だったかもしれません。そして最後に重要な点。ギフテッドとギフテッドが持っているギフトの相性です」
「敵との相性じゃなくて?」
「はい。これは純粋に能力の強さや制御能力に関わることです。全体的にギフトは知名度が高いものほど強力になる傾向がありますが、それ以上に重要なことが一つ。授かったギフトとギフテッドがかみ合わなければ能力は十分に発揮されません」
「例えば……チーターが一時間走る能力をもらっても意味ないってこと?」
「正しい認識です。チーターは二百メートルほどしか全速力で走れないと言われています。十秒間だけ加速する能力なら、十分に使いこなせるでしょう」
なるほど、となってから葵は思案した。明確な疑問があったのである。
「アポロちゃんのギフトってもしかして……かみ合わせが悪い?」
「……そうですね。再生する類のギフトは哺乳類では使いこなせません。もともと再生能力の高い両生類などならもっと強力なギフトになったと聞いています」
確かにいちいち自分を傷つけてからでないと能力が使えなかったりと、取り回しが悪かった気もする。
自分に話題が振られたアポロはそっぽを向いていた。
落ち込んでいるのか、すねているのか。
(じゃあ例えばオオサンショウウオならギフトを使いこなせていたわけね。ショロトルはオオサンショウウオにも変身したことがあったはず。あれ? でもオオサンショウウオって爬虫類? いや、両生類だったような……まあどっちでもいいか)
「もしかして善側が強い理由って……」
「きちんと相性のいいギフトとギフテッド。仲の良いオーナーとギフテッド。それらを吟味しているからです」
何度か聞いた気がする言葉。
悪の神は適当。
これだけ細かいルールがあるのに適当じゃあ、そりゃ負ける。いやまあ、相手が失敗してくれたおかげで勝てそうなのだが。
皮肉交じりだが、顔が赤く、汗を流し(そのうちの一部はさつまが操った水)、よろよろと疲労困憊な様子を見て香山、松本、黒井の三人も驚き、気遣わしげになった。
もっとも、その足元でほほを摺り寄せ、液体になった体で可能な限り葵を冷やし続けるさつまを見て怪訝そうな顔にもなっていた。
「で? 犯人はわかったの?」
「はい。確信はあります」
五月はこの場の全員が驚くほど明朗に断言した。
「あら。それじゃあ早速犯人の名前を言ってくれる?」
ふらふらになりながら、葵は挑発的な笑みを浮かべる。
が、それと同時に再び葵と五月の前にカードが空中に現れた。書かれていた文面はこうだ。
『犯人を当てる際に理由を説明すればボーナス』
「……途中式を書かなきゃいけないテストみたいね」
「皆本さん。まだ耐えられますか?」
「ま、あとちょっとならね」
「わかりました。ではまずこのあたりを封鎖しているギフテッドの正体を明かしましょう」
五月はあえてギフテッドというオーナーしかわからないはずの単語を口にすることで動揺を誘ったのだが、三人は全員何のことかわからないという表情をしていた。
間抜けは見つからなかったが、気にせずに続きを始める。
「私たちを襲っているギフテッドの正体は……蜂。おそらくミツバチです」
「そこまでは聞いてるわよ。問題はどうしてミツバチだってわかったかよ」
「皆本さん。自分がここで何を飲んだか覚えていますか?」
「何って柚子蜂蜜……あ」
「はい。あなたは蜂蜜を飲んでいます。おそらくですがこのギフトの発動条件はギフテッドの体の一部に触れる、あるいは体内に摂取することです」
「蜂蜜でしょ? 蜂蜜って花の蜜から作られてるのよね? 体の一部じゃないでしょ」
「いえ、蜂蜜の主成分は確かに花などの蜜ですが、蜜から蜂蜜になる過程で蜂の唾液などを混ぜています」
「え。まじで?」
「はい。マジです」
他人(人ではないが)の唾液が混じっているものを喜んで食べていたと聞いて、葵は複雑そうな顔になったが、美味しいならまあいっか、とすぐに思い直した。
「さらにウォーターボトルからわずかに蜂蜜の臭いがしたそうです。アポロは水を飲んでいないので、さつまにもギフトの効果があったのはそれが理由です」
「そこは理解したわ。でもさすがにそれだけじゃ根拠が弱いでしょ」
「そうですね。では二つ目の根拠。今朝のギフテッドの相性の話を覚えていますか?」
「ああ三十点とかなんとか言ってきたやつね」
三人は完全に話の内容が理解できない様子だったが、もはや五月と葵はこの三人の様子を気にしていなかった。
多少揺さぶったくらいではぼろを出さないと分かり始めたのだ。こうなれば確たる証拠を突き付けるしかない。
「はい。ギフトは神や魔物の力を借りたもの。そして同時に動物であるギフテッドから発露したものでもあります」
「もしかして、動物の相性にも左右されるの?」
「はい。蛇と蛙のように明確な捕食、被食の関係にある生物なら捕食する天敵の方が圧倒的に優位になります」
「じゃあさつまとアポロちゃんはどうなの? そこまで相性が悪そうには見えなかったけど」
「人間のイメージだと犬は猫より強いと思いがちですが、実際のところお互いに肉食獣同士ですから野生下で犬が猫を襲うことはそうありません。むしろ体格に差があれば猫が犬を襲う可能性の方が高いでしょう」
「んー……要するに生物学的な正しさがギフトの相性に影響を与えるってこと?」
「その認識で正しいですね。今考えればあなた方の居場所を正確にわからなかったのは忠一とさつまが天敵関係だったかもしれません。そして最後に重要な点。ギフテッドとギフテッドが持っているギフトの相性です」
「敵との相性じゃなくて?」
「はい。これは純粋に能力の強さや制御能力に関わることです。全体的にギフトは知名度が高いものほど強力になる傾向がありますが、それ以上に重要なことが一つ。授かったギフトとギフテッドがかみ合わなければ能力は十分に発揮されません」
「例えば……チーターが一時間走る能力をもらっても意味ないってこと?」
「正しい認識です。チーターは二百メートルほどしか全速力で走れないと言われています。十秒間だけ加速する能力なら、十分に使いこなせるでしょう」
なるほど、となってから葵は思案した。明確な疑問があったのである。
「アポロちゃんのギフトってもしかして……かみ合わせが悪い?」
「……そうですね。再生する類のギフトは哺乳類では使いこなせません。もともと再生能力の高い両生類などならもっと強力なギフトになったと聞いています」
確かにいちいち自分を傷つけてからでないと能力が使えなかったりと、取り回しが悪かった気もする。
自分に話題が振られたアポロはそっぽを向いていた。
落ち込んでいるのか、すねているのか。
(じゃあ例えばオオサンショウウオならギフトを使いこなせていたわけね。ショロトルはオオサンショウウオにも変身したことがあったはず。あれ? でもオオサンショウウオって爬虫類? いや、両生類だったような……まあどっちでもいいか)
「もしかして善側が強い理由って……」
「きちんと相性のいいギフトとギフテッド。仲の良いオーナーとギフテッド。それらを吟味しているからです」
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