26 / 141
第一章
第25話 犯人はお前だ
しおりを挟む
「で、最初に戻るけど……この体温を上げるギフトは相性がいいの?」
「おそらく。全体的な傾向ですが、遠距離から攻撃できるタイプは相性が良くないと条件が厳しくなったり命中率が大幅に低下したりします。発動条件がかなり厳しかったりすればそのあたりは緩和されますが」
「……いや、でもそもそもミツバチって虫よね。体温の上げ下げなんて関係ないんじゃない?」
「いいえ。ミツバチは昆虫としては例外的に、複数の個体間で協力して巣の中や自分の体温を調節することができます。そしてその性質を攻撃にまで昇華させたものが……熱殺蜂球です」
「ねっさつほうきゅう。……なんだかやたら必殺技みたいな名前ね」
「実際に必殺技ですからね。スズメバチなどに対抗するために体温を大きく上げて敵を蒸し殺す。そういう防衛策です」
ちなみにこの熱殺蜂球を行うのはニホンミツバチで、飼育しやすく、広く流通しているセイヨウミツバチは行わないのだが、そこはあえて説明を省いた。
「ぶ、物騒ね。でもそれなら体温を上げるギフトにもつながるわね」
とりあえずこれで折り返し地点かな、と葵が考えたところで焦れた黒井が叫んだ。
「なあ。君たちいったい何の話をしてるんだ!?」
今まで比較的落ち着いていた店主の黒井が怒りをあらわにしたことには全員が少し驚いているようだった。
「ギフトとかなんとか……もうちょっと現実的な話をしてくれ!」
「ではわかりやすいようにお伝えしましょう。皆本さんとその飼い猫は何者かに毒を盛られていたようなものです。実際に、さつまが飲んでいたお皿からわずかに蜂蜜の匂いがしたそうです」
端的な指摘に顔を青くしたのは怒っていた黒井だった。
「それって、さっきの蜂蜜がどうのこうのってことよね。蜂蜜に毒が入っていたの? じゃあ、怪しいのは店主のおじさんじゃない! 蜂蜜を用意したのも、お皿を用意したのも、黒井じゃない!」
鬼の首を取ったように香山がわめきたてる。飲み物を提供した相手を疑うのは当然だろう。
「ま、待ってくれ! あの蜂蜜はこのあたりで蜂を飼っている人からもらったものだし、猫に渡したお皿は野良猫用なんだ! このあたりには野良猫が多いからたまにエサや水をやってるんだよ!」
泡を食ったような言い訳を続けるその姿は誰が見ても怪しいだろう。
だが。
「いいえ。黒井さんが犯人である可能性は高くありません」
「そうなの?」
さっぱり犯人に心当たりがない葵は驚いていた。
「ギフテッドがグループ型の蜂であると仮定すると、オーナーは蜂に襲われないように、同時に嫌われないように最大限の注意を払わなければいけません」
「どうして? 普通のギフテッドは会話できるはずよね」
「はい。ですがグループ型の場合、多くはリーダーがいます。リーダーではないギフテッドは十分な知性をもちません。ミツバチのギフテッドなら女王蜂が指示して他の働きバチは女王蜂の言うことを聞くという形を取ります」
「必要以上に刺激したらダメってことね。ペットを飼う基本ね」
「その意味では黒井さんの格好は適切とは言えません。蜂は濃い色、特に黒色の衣服を着た人間を集中的に襲います。獣と見間違える、黒が目を刺激するからなどと言われています」
事実として蜂の防護服などはそのほとんどが白、ないしはかなり明るい色になっている。
「ほら言ったじゃないか!」
今度はしたり顔でほっとする。人間の本性が垣間見える一幕だ。
「ちょっと待ちなさいよ! 今度はあたしを疑うの!?」
「そうだ! 俺たちは何もしてねえぞ!?」
松本と香山は先ほどまで言い争っていたとは思えぬほど見事な連帯を見せた。
「ここで重要なのは飲み物です。黒井さん。香山さんが飲んでいたものは何ですか?」
「君と同じハーブティーだけど?」
「それが重要です。念のためにお聞きしますがハーブの中身は何ですか?」
「えっと……三つ葉や紫蘇、ミントだけど……」
「ありがとうございます。アポロ。間違いありませんね?」
「はいですワン! この中でハーブティーを飲んでいたのは五月様と、香山様だけですワン!」
いきなり会話を始めたドーベルマンに三人はぎょっとした。
葵はさすがに慣れてきたが、これが本来普通の反応なのだ。
「ハーブがそんなに重要なの?」
「はい。基本的にミツバチはハーブ、特にミントの香り成分が苦手です」
「ってことはなんだ? こいつは蜂に襲われないためにわざとそんなものを飲んだのか?」
まくしたてる松本に香山は反論しようとするが、それを制するように五月が言葉をつなげた。
「その可能性も考えましたが、このハーブティーはかなり匂いがきついので、しばらく体や口臭にミントの匂いがつく可能性が高いでしょう」
「んー……私たちにとってはさわやかな匂いだけど、蜂からすれば悪臭ってことよね」
香山は誰が悪臭をさせているだって? と言わんばかりの視線を向けてきたが、葵はそれに全く気付いていないようだった。
「はい。それはおそらく、蜂にとって不愉快です。わざわざ自分の相棒にそんな思いをさせるとは思えません。皆本さんも言っていたように、ペットを必要以上に刺激することは極力避けるべきです」
これはほぼありとあらゆるペットに言えることだが、ペットと人との距離感が大切だ。攻撃性を刺激するのはもちろん駄目だが、相手を必要以上に遠ざけさせる行為はペットのストレスにつながる。
「ってことは」
三人のうち二人が容疑者から外れた。
すべての不可能を除けばそれがどのようなものであっても真実になる……消去法によって導かれる答えは単純だ。
この場の全員が松本を見る中、五月は宣言した。
「松本雄太さん。オーナーはあなたです」
ぱんぱかぱーん、という奇妙なファンファーレが響いた。
「おそらく。全体的な傾向ですが、遠距離から攻撃できるタイプは相性が良くないと条件が厳しくなったり命中率が大幅に低下したりします。発動条件がかなり厳しかったりすればそのあたりは緩和されますが」
「……いや、でもそもそもミツバチって虫よね。体温の上げ下げなんて関係ないんじゃない?」
「いいえ。ミツバチは昆虫としては例外的に、複数の個体間で協力して巣の中や自分の体温を調節することができます。そしてその性質を攻撃にまで昇華させたものが……熱殺蜂球です」
「ねっさつほうきゅう。……なんだかやたら必殺技みたいな名前ね」
「実際に必殺技ですからね。スズメバチなどに対抗するために体温を大きく上げて敵を蒸し殺す。そういう防衛策です」
ちなみにこの熱殺蜂球を行うのはニホンミツバチで、飼育しやすく、広く流通しているセイヨウミツバチは行わないのだが、そこはあえて説明を省いた。
「ぶ、物騒ね。でもそれなら体温を上げるギフトにもつながるわね」
とりあえずこれで折り返し地点かな、と葵が考えたところで焦れた黒井が叫んだ。
「なあ。君たちいったい何の話をしてるんだ!?」
今まで比較的落ち着いていた店主の黒井が怒りをあらわにしたことには全員が少し驚いているようだった。
「ギフトとかなんとか……もうちょっと現実的な話をしてくれ!」
「ではわかりやすいようにお伝えしましょう。皆本さんとその飼い猫は何者かに毒を盛られていたようなものです。実際に、さつまが飲んでいたお皿からわずかに蜂蜜の匂いがしたそうです」
端的な指摘に顔を青くしたのは怒っていた黒井だった。
「それって、さっきの蜂蜜がどうのこうのってことよね。蜂蜜に毒が入っていたの? じゃあ、怪しいのは店主のおじさんじゃない! 蜂蜜を用意したのも、お皿を用意したのも、黒井じゃない!」
鬼の首を取ったように香山がわめきたてる。飲み物を提供した相手を疑うのは当然だろう。
「ま、待ってくれ! あの蜂蜜はこのあたりで蜂を飼っている人からもらったものだし、猫に渡したお皿は野良猫用なんだ! このあたりには野良猫が多いからたまにエサや水をやってるんだよ!」
泡を食ったような言い訳を続けるその姿は誰が見ても怪しいだろう。
だが。
「いいえ。黒井さんが犯人である可能性は高くありません」
「そうなの?」
さっぱり犯人に心当たりがない葵は驚いていた。
「ギフテッドがグループ型の蜂であると仮定すると、オーナーは蜂に襲われないように、同時に嫌われないように最大限の注意を払わなければいけません」
「どうして? 普通のギフテッドは会話できるはずよね」
「はい。ですがグループ型の場合、多くはリーダーがいます。リーダーではないギフテッドは十分な知性をもちません。ミツバチのギフテッドなら女王蜂が指示して他の働きバチは女王蜂の言うことを聞くという形を取ります」
「必要以上に刺激したらダメってことね。ペットを飼う基本ね」
「その意味では黒井さんの格好は適切とは言えません。蜂は濃い色、特に黒色の衣服を着た人間を集中的に襲います。獣と見間違える、黒が目を刺激するからなどと言われています」
事実として蜂の防護服などはそのほとんどが白、ないしはかなり明るい色になっている。
「ほら言ったじゃないか!」
今度はしたり顔でほっとする。人間の本性が垣間見える一幕だ。
「ちょっと待ちなさいよ! 今度はあたしを疑うの!?」
「そうだ! 俺たちは何もしてねえぞ!?」
松本と香山は先ほどまで言い争っていたとは思えぬほど見事な連帯を見せた。
「ここで重要なのは飲み物です。黒井さん。香山さんが飲んでいたものは何ですか?」
「君と同じハーブティーだけど?」
「それが重要です。念のためにお聞きしますがハーブの中身は何ですか?」
「えっと……三つ葉や紫蘇、ミントだけど……」
「ありがとうございます。アポロ。間違いありませんね?」
「はいですワン! この中でハーブティーを飲んでいたのは五月様と、香山様だけですワン!」
いきなり会話を始めたドーベルマンに三人はぎょっとした。
葵はさすがに慣れてきたが、これが本来普通の反応なのだ。
「ハーブがそんなに重要なの?」
「はい。基本的にミツバチはハーブ、特にミントの香り成分が苦手です」
「ってことはなんだ? こいつは蜂に襲われないためにわざとそんなものを飲んだのか?」
まくしたてる松本に香山は反論しようとするが、それを制するように五月が言葉をつなげた。
「その可能性も考えましたが、このハーブティーはかなり匂いがきついので、しばらく体や口臭にミントの匂いがつく可能性が高いでしょう」
「んー……私たちにとってはさわやかな匂いだけど、蜂からすれば悪臭ってことよね」
香山は誰が悪臭をさせているだって? と言わんばかりの視線を向けてきたが、葵はそれに全く気付いていないようだった。
「はい。それはおそらく、蜂にとって不愉快です。わざわざ自分の相棒にそんな思いをさせるとは思えません。皆本さんも言っていたように、ペットを必要以上に刺激することは極力避けるべきです」
これはほぼありとあらゆるペットに言えることだが、ペットと人との距離感が大切だ。攻撃性を刺激するのはもちろん駄目だが、相手を必要以上に遠ざけさせる行為はペットのストレスにつながる。
「ってことは」
三人のうち二人が容疑者から外れた。
すべての不可能を除けばそれがどのようなものであっても真実になる……消去法によって導かれる答えは単純だ。
この場の全員が松本を見る中、五月は宣言した。
「松本雄太さん。オーナーはあなたです」
ぱんぱかぱーん、という奇妙なファンファーレが響いた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について
沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。
かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。
しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。
現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。
その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。
「今日から私、あなたのメイドになります!」
なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!?
謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける!
カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
俺は陰キャだったはずなのに……なぜか学園内でモテ期が到来した件
こうたろ
青春
友人も恋人も居ないボッチ学生だった山田拓海が何故かモテだしてしまう。
・学園一の美人で、男女問わず憧れの的。
・陸上部のエースで、明るく活発なスポーツ女子。
・物静かで儚げな美術部員。
・アメリカから来た金髪碧眼でハイテンションな留学生。
・幼稚園から中学まで毎朝一緒に登校していた幼馴染。
拓海の生活はどうなるのか!?
三歩先行くサンタさん ~トレジャーハンターは幼女にごまをする~
杵築しゅん
ファンタジー
戦争で父を亡くしたサンタナリア2歳は、母や兄と一緒に父の家から追い出され、母の実家であるファイト子爵家に身を寄せる。でも、そこも安住の地ではなかった。
3歳の職業選別で【過去】という奇怪な職業を授かったサンタナリアは、失われた超古代高度文明紀に生きた守護霊である魔法使いの能力を受け継ぐ。
家族には内緒で魔法の練習をし、古代遺跡でトレジャーハンターとして活躍することを夢見る。
そして、新たな家門を興し母と兄を養うと決心し奮闘する。
こっそり古代遺跡に潜っては、ピンチになったトレジャーハンターを助けるサンタさん。
身分差も授かった能力の偏見も投げ飛ばし、今日も元気に三歩先を行く。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる