うちの猫は液体です

秋葉夕雲

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第一章

第25話 犯人はお前だ

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「で、最初に戻るけど……この体温を上げるギフトは相性がいいの?」
「おそらく。全体的な傾向ですが、遠距離から攻撃できるタイプは相性が良くないと条件が厳しくなったり命中率が大幅に低下したりします。発動条件がかなり厳しかったりすればそのあたりは緩和されますが」
「……いや、でもそもそもミツバチって虫よね。体温の上げ下げなんて関係ないんじゃない?」
「いいえ。ミツバチは昆虫としては例外的に、複数の個体間で協力して巣の中や自分の体温を調節することができます。そしてその性質を攻撃にまで昇華させたものが……熱殺蜂球です」
「ねっさつほうきゅう。……なんだかやたら必殺技みたいな名前ね」
「実際に必殺技ですからね。スズメバチなどに対抗するために体温を大きく上げて敵を蒸し殺す。そういう防衛策です」
 ちなみにこの熱殺蜂球を行うのはニホンミツバチで、飼育しやすく、広く流通しているセイヨウミツバチは行わないのだが、そこはあえて説明を省いた。
「ぶ、物騒ね。でもそれなら体温を上げるギフトにもつながるわね」
 とりあえずこれで折り返し地点かな、と葵が考えたところで焦れた黒井が叫んだ。
「なあ。君たちいったい何の話をしてるんだ!?」
 今まで比較的落ち着いていた店主の黒井が怒りをあらわにしたことには全員が少し驚いているようだった。
「ギフトとかなんとか……もうちょっと現実的な話をしてくれ!」
「ではわかりやすいようにお伝えしましょう。皆本さんとその飼い猫は何者かに毒を盛られていたようなものです。実際に、さつまが飲んでいたお皿からわずかに蜂蜜の匂いがしたそうです」
 端的な指摘に顔を青くしたのは怒っていた黒井だった。
「それって、さっきの蜂蜜がどうのこうのってことよね。蜂蜜に毒が入っていたの? じゃあ、怪しいのは店主のおじさんじゃない! 蜂蜜を用意したのも、お皿を用意したのも、黒井じゃない!」
 鬼の首を取ったように香山がわめきたてる。飲み物を提供した相手を疑うのは当然だろう。
「ま、待ってくれ! あの蜂蜜はこのあたりで蜂を飼っている人からもらったものだし、猫に渡したお皿は野良猫用なんだ! このあたりには野良猫が多いからたまにエサや水をやってるんだよ!」
 泡を食ったような言い訳を続けるその姿は誰が見ても怪しいだろう。
 だが。
「いいえ。黒井さんが犯人である可能性は高くありません」
「そうなの?」
 さっぱり犯人に心当たりがない葵は驚いていた。
「ギフテッドがグループ型の蜂であると仮定すると、オーナーは蜂に襲われないように、同時に嫌われないように最大限の注意を払わなければいけません」
「どうして? 普通のギフテッドは会話できるはずよね」
「はい。ですがグループ型の場合、多くはリーダーがいます。リーダーではないギフテッドは十分な知性をもちません。ミツバチのギフテッドなら女王蜂が指示して他の働きバチは女王蜂の言うことを聞くという形を取ります」
「必要以上に刺激したらダメってことね。ペットを飼う基本ね」
「その意味では黒井さんの格好は適切とは言えません。蜂は濃い色、特に黒色の衣服を着た人間を集中的に襲います。獣と見間違える、黒が目を刺激するからなどと言われています」
 事実として蜂の防護服などはそのほとんどが白、ないしはかなり明るい色になっている。
「ほら言ったじゃないか!」
 今度はしたり顔でほっとする。人間の本性が垣間見える一幕だ。
「ちょっと待ちなさいよ! 今度はあたしを疑うの!?」
「そうだ! 俺たちは何もしてねえぞ!?」
 松本と香山は先ほどまで言い争っていたとは思えぬほど見事な連帯を見せた。
「ここで重要なのは飲み物です。黒井さん。香山さんが飲んでいたものは何ですか?」
「君と同じハーブティーだけど?」
「それが重要です。念のためにお聞きしますがハーブの中身は何ですか?」
「えっと……三つ葉や紫蘇、ミントだけど……」
「ありがとうございます。アポロ。間違いありませんね?」
「はいですワン! この中でハーブティーを飲んでいたのは五月様と、香山様だけですワン!」
 いきなり会話を始めたドーベルマンに三人はぎょっとした。
 葵はさすがに慣れてきたが、これが本来普通の反応なのだ。
「ハーブがそんなに重要なの?」
「はい。基本的にミツバチはハーブ、特にミントの香り成分が苦手です」
「ってことはなんだ? こいつは蜂に襲われないためにわざとそんなものを飲んだのか?」
 まくしたてる松本に香山は反論しようとするが、それを制するように五月が言葉をつなげた。
「その可能性も考えましたが、このハーブティーはかなり匂いがきついので、しばらく体や口臭にミントの匂いがつく可能性が高いでしょう」
「んー……私たちにとってはさわやかな匂いだけど、蜂からすれば悪臭ってことよね」
 香山は誰が悪臭をさせているだって? と言わんばかりの視線を向けてきたが、葵はそれに全く気付いていないようだった。
「はい。それはおそらく、蜂にとって不愉快です。わざわざ自分の相棒にそんな思いをさせるとは思えません。皆本さんも言っていたように、ペットを必要以上に刺激することは極力避けるべきです」
 これはほぼありとあらゆるペットに言えることだが、ペットと人との距離感が大切だ。攻撃性を刺激するのはもちろん駄目だが、相手を必要以上に遠ざけさせる行為はペットのストレスにつながる。
「ってことは」
 三人のうち二人が容疑者から外れた。
 すべての不可能を除けばそれがどのようなものであっても真実になる……消去法によって導かれる答えは単純だ。
 この場の全員が松本を見る中、五月は宣言した。
「松本雄太さん。オーナーはあなたです」
 ぱんぱかぱーん、という奇妙なファンファーレが響いた。
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