うちの猫は液体です

秋葉夕雲

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第一章

第36話 レベル

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「もしかして、あなたが猫を好きなのは猫なら表情が見えるからですか?」
 相貌失認がもしも人の顔を見分けられない病気……否、体質であるのならばもしかすると動物ならば見分けられるのではないかと思ったのだ。
「それはさすがに夢見すぎね。私はどんな生き物でも顔は見分けられないわよ。でも、猫……ううん、猫だけじゃないけど動物って表情よりも体で語るじゃない」
 あんたもわかるでしょ? そういう意味の問いかけだったのだが。
「……その。私はオーナーになってからアポロを飼い始めたので……犬とのコミュニケーションに苦労したことがありません」
「それは損してるわね。私がさつまを見ていて一番楽しいことはその感情を探っているときよ。もちろん、話が出来たらそれはそれでいいとは思うけど」
「覚えておきます。それにしても……ここまで話してくれるとは意外でした」
「恩があるからね」
「恩? 何かしましたか?」
「あのままだったら私死んでたでしょ。だったら質問にくらい答えるわ」
「義理堅いですね。返礼というわけではありませんが……私の過去も話しておきます」
「え、いらないけど」
 反射的に返した葵の言葉に五月は無表情のままむすっとした声を出した。
「勝手に話します。私の父は私が六歳のころに亡くなりました。それから祖父に育てられました」
「猟師で農家なんだっけ」
「はい。さらに若いころ、ある生物学者のフィールドワークにも同行したようです」
「じゃああんたが生物関連に詳しいのってその人の影響? 私はあんまり詳しくないのよね」
「意外ですね。動物を飼っている人は自然とそういう知識を身につけるものと思っていましたが」
 そう五月が言うと葵は妙な反応をした。
「い、いや、それはまあ……それより、おじいさんはどんな人だったの?」
 無理矢理話題を変えた葵にはとくに言及せず、そのまま返答した。
「楽しい人でした。母の仕事の都合で私は外国を転々としていましたが、その時もいろいろな場所に連れて行ってくれました」
 懐かしむように、慈しむ声。
 葵は他人の表情がわからない分、声から感情を悟るのが得意だった。
「聞いていいのかわかんないけど、お母さんとはどうだったの?」
「……母とはあまり……折り合いが良くありませんでした」
 その口調から葵でなくともかなり言葉を選んだということは察せられた。
「それで、お母さんとおじいさんは今どうしているの?」
 ここまでくれば気になって勢いがついたのか、おそらく一番の地雷に自ら首を突っ込んだ。
「……ギフトにレベルがあるのは覚えていますね」
 唐突な話題の転換だったが、真剣さは伝わってきたので真面目に答える。
「そりゃね。それがどうしたの?」
「レベルは基本的にギフテッド同士が戦えば戦うほど上がります。これは追加されたルールです」
「追加された? そんなことあるの?」
「今までに何度かあります。どうも善の神も悪の神も人間社会の仕組みをちゃんと把握していないようなのです」
「そんなゲームのメンテナンスじゃないんだから……」
「どうでしょう。神々からすればゲームみたいなものなのかもしれません。そして追加されるルールはほぼ間違いなく一度に二つ。おそらく善と悪が一つずつ出していると思われます」
「じゃあ、レベルの概念が導入された時、もう一つルールが追加されたの?」
「はい。レベルの上げ方です。レベルは単純に戦うだけでなく、オーナーまたはギフテッドの二親等以内の生き物を殺しても上昇します」
 ふと、今朝の会話を思い出した。
(なるほどね。私の両親が死んだときの話に食いついたのはそういうわけ)
 おそらく両親がレベル上げのために殺されたのかもしれないと思ったのだろう。
 そしてそういう想像をするということは、おそらく実際に親兄弟を殺された人間を知っているのだ。
 あるいは。
「それ、実体験?」
「……はい」
 感情を押し殺した声で五月は答えた。それで葵もおおよその経緯を察した。
 五月の母と祖父はオーナーとギフテッドに殺されたのだろう。
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