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第一章
第46話 笑顔
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降りしきる雨の中、灌木に紛れた男、狙撃手であるオーナー、レーン・サイドルは弓の残心を緩めた。
防水ジャケットの首元を締め、音を聞き逃さないようにあえてフードではなく帽子を被ったその横顔は日本人とは思えないくっきりした顔立ちだった。
「カー! 矢は二人に当たったようです! カー!」
彼の目線と同じ高さの枝にとまっているのは黒いカラス、スマイル。彼のギフテッドである。スマイルは優秀な観測手であり、偵察兵でもある。葵たちの会話の一部はスマイルに盗み聞きされていた。
「二人か。スマイル。老婆は仕留めたか?」
「カー! 間違いなく!」
「よし。治療のギフテッドがすでにいないのなら仕留めるのをためらう理由はない。少女を殺すのは忍びないがこれも戦いだ」
彫りの深い顔立ちは獲物をしとめた後でさえ微動だにせず、近くの樹に立てかけた杖を掴む。
「レーン。歩けますカー?」
「問題ない。代償のせいで視力は下がっているが、足元くらいなら……」
「カー! 敵が来ます!」
「こっちにか?」
「カー! まっすぐに!」
思わずレーンは見えないと分かっていても振り向く。
スマイルの目には家から飛び出した飛び跳ねる水が徐々に大きくなっているのが見えた。
「これほど離れてもまだギフトが使えるということは暴走しているのかもしれんな。逃げるぞ」
「カー!」
スマイルのギフトは刃のある道具をスマイルから他人に渡すことでその道具に必中効果を付与するというものだ。一度でもスマイルが目視していればどんな相手でも当たるが、相手まで攻撃を届かせるのはレーンの技量が必要になる。
代償は視力の一時的な喪失。
それも距離が離れれば離れるほど視力の低下は激しくなる。
もはやレーンの視力はほとんどなくなっており、あと一度か二度ギフトを使えるかどうかというところだった。
戦いはできない。
それゆえ、ろくに前が見えなくとも山歩きするしかない。視力の低下は慣れたものであり、母国スウェーデンで狩猟を嗜んでいたころには森歩きも珍しくなかった彼にとってこの逃避行は決して不可能ではない。
だが。
「カー! 振り切れませんカー!?」
スマイルはレーンの肩にとまっていた。
カラスは小回りが利きにくいため、森の中を隠れながら飛ぶことに適していない。さらに視力が下がったレーンの道案内も勤めなければならないため、彼から離れられない。
そうしている間にもさつまの姿は大きくなり、もはや家一個分の猫の姿をした水の塊だった。
ただし。
その水の塊には首がついていなかった。
「くそ! こんな話は聞いていないぞ!? 本当になり立てなのか!? スマイル、お前だけでも逃げ……」
レーンの言葉は終わることなく、その体ごと水に押し流された。
防水ジャケットの首元を締め、音を聞き逃さないようにあえてフードではなく帽子を被ったその横顔は日本人とは思えないくっきりした顔立ちだった。
「カー! 矢は二人に当たったようです! カー!」
彼の目線と同じ高さの枝にとまっているのは黒いカラス、スマイル。彼のギフテッドである。スマイルは優秀な観測手であり、偵察兵でもある。葵たちの会話の一部はスマイルに盗み聞きされていた。
「二人か。スマイル。老婆は仕留めたか?」
「カー! 間違いなく!」
「よし。治療のギフテッドがすでにいないのなら仕留めるのをためらう理由はない。少女を殺すのは忍びないがこれも戦いだ」
彫りの深い顔立ちは獲物をしとめた後でさえ微動だにせず、近くの樹に立てかけた杖を掴む。
「レーン。歩けますカー?」
「問題ない。代償のせいで視力は下がっているが、足元くらいなら……」
「カー! 敵が来ます!」
「こっちにか?」
「カー! まっすぐに!」
思わずレーンは見えないと分かっていても振り向く。
スマイルの目には家から飛び出した飛び跳ねる水が徐々に大きくなっているのが見えた。
「これほど離れてもまだギフトが使えるということは暴走しているのかもしれんな。逃げるぞ」
「カー!」
スマイルのギフトは刃のある道具をスマイルから他人に渡すことでその道具に必中効果を付与するというものだ。一度でもスマイルが目視していればどんな相手でも当たるが、相手まで攻撃を届かせるのはレーンの技量が必要になる。
代償は視力の一時的な喪失。
それも距離が離れれば離れるほど視力の低下は激しくなる。
もはやレーンの視力はほとんどなくなっており、あと一度か二度ギフトを使えるかどうかというところだった。
戦いはできない。
それゆえ、ろくに前が見えなくとも山歩きするしかない。視力の低下は慣れたものであり、母国スウェーデンで狩猟を嗜んでいたころには森歩きも珍しくなかった彼にとってこの逃避行は決して不可能ではない。
だが。
「カー! 振り切れませんカー!?」
スマイルはレーンの肩にとまっていた。
カラスは小回りが利きにくいため、森の中を隠れながら飛ぶことに適していない。さらに視力が下がったレーンの道案内も勤めなければならないため、彼から離れられない。
そうしている間にもさつまの姿は大きくなり、もはや家一個分の猫の姿をした水の塊だった。
ただし。
その水の塊には首がついていなかった。
「くそ! こんな話は聞いていないぞ!? 本当になり立てなのか!? スマイル、お前だけでも逃げ……」
レーンの言葉は終わることなく、その体ごと水に押し流された。
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