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第一章
第54話 文明の破壊
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窓の外からやわらかな光が差し込む。
昨日の雨が嘘のようにうららかな春。
残念ながら人工的に室温が管理された病室ではそれを感じることができない。
目覚めた葵はそれを一瞬だけ寂しいと感じ。
「さつま!」
昨日と同じように、しかし昨日よりも早く愛猫の名前を叫んだ。
「落ち着いてください。さつまはここにいます」
目の前のだれかがキャリーバッグを持ち上げており、そこにはさつまがいた。
目の前の誰かは頭の左側に青い……ハンカチを巻いていた。
「ん? それ私のハンカチじゃない。ああ、私に見分けられやすくするためね。いえ、そんなことよりさつまを預かってくれてありがとう、五月」
葵はベッドから半身を起こしながら頭を下げた。
五月もやはり無表情だったが、内心ではきちんと自分を見てくれたことを嬉しく思っていた。
「どういたしまして。どこか痛いところはありませんか?」
「ないわ。死んだと思ったんだけど、もしかして八岐大蛇のギフトが発動したの?」
問いかけながらキャリーバッグを受け取る。
病院は基本的に動物禁止だが、ギフテッドは普通の人には見えないのでお目こぼしいただこう。
キャリーバッグの中に指を入れてさつまと遊びながら話を続ける。
「それは間違いないはずです。ただ……皆本さん。そこの点滴スタンド、壊せますか?」
「はあ? いや、怪力はスキルだから壊せるわけないんじゃない?」
「やってみてください」
「……? まあいいけど」
点滴スタンドには点滴するためのバッグがなく、ただの置物になっていたが、邪魔だからと言って太い棒を粉砕できるはずもない。
だが。
軽く力を込めただけで点滴スタンドは折れ曲がった。
「は? いや、え、どうなってんの?」
「どうもあなたは道具などを壊せるようになっています。ちなみにあなたが寝ているベッドは二つ目です」
「え、壊したの?」
「はい。寝返りで」
「それは何とも申し訳ないというか……そういえばお腹すいてる気がするんだけど……点滴もしてないの?」
ちなみに点滴をしていると人間はそれだけで栄養補給しているため空腹にならない。
「ええ。なぜかあなたに針を刺せないらしいです」
「どうなってんの?」
「おそらく……」
五月が推論を口にしようとしたところで、耳障りな声が病室のテレビから響いた。
『けけけけ。そりゃ、お前のギフトがそういうもんだからだよ』
テレビにはやはり潰れたカエルのような顔。ぎろりと突き刺す視線と棘のある言葉を送る。
「ラプラス。私のギフトは何なの?」
『簡単に言えば人類文明の破壊だよ。人類そのもの、あるいは人類が作った道具では傷つけられず、逆に壊すことができる。今のお前なら核兵器でも傷一つつけられないし、スカイツリーもデコピンでぶっ壊せる』
「なるほどね。ちなみにそれ、自分でつけた傷には適用されるの?」
『いいや。ギフトは人類の文明から外れた力だからそれを持つお前は人類にカウントされない』
なるほど、と葵は納得した。
さつまのギフトを使うために自分でつけた傷は治らない。反対に狙撃手が与えた傷は矢傷。だからギフトで治せる。
もしも狙撃のギフトが石を飛ばすとか、さつまを助けた時に落下した地面が天然の土だったりしたら死んでいたかもしれない。
「ずいぶんと丁寧ですね。昨日はあんなにも口が堅かったというのに」
『けひひ。ちょっとしたサービスってやつだよ。ラットのスキルと八岐大蛇のギフトが混ざるのはこっちにも予想外だったからな。ついでだ。代償も教えておくぜ。お前の代償は罰則型。殺人の禁止だ』
ぷつんとテレビの画面が真っ黒になる。言いたいことだけ言ってあっさりラプラスは消えた。
昨日の雨が嘘のようにうららかな春。
残念ながら人工的に室温が管理された病室ではそれを感じることができない。
目覚めた葵はそれを一瞬だけ寂しいと感じ。
「さつま!」
昨日と同じように、しかし昨日よりも早く愛猫の名前を叫んだ。
「落ち着いてください。さつまはここにいます」
目の前のだれかがキャリーバッグを持ち上げており、そこにはさつまがいた。
目の前の誰かは頭の左側に青い……ハンカチを巻いていた。
「ん? それ私のハンカチじゃない。ああ、私に見分けられやすくするためね。いえ、そんなことよりさつまを預かってくれてありがとう、五月」
葵はベッドから半身を起こしながら頭を下げた。
五月もやはり無表情だったが、内心ではきちんと自分を見てくれたことを嬉しく思っていた。
「どういたしまして。どこか痛いところはありませんか?」
「ないわ。死んだと思ったんだけど、もしかして八岐大蛇のギフトが発動したの?」
問いかけながらキャリーバッグを受け取る。
病院は基本的に動物禁止だが、ギフテッドは普通の人には見えないのでお目こぼしいただこう。
キャリーバッグの中に指を入れてさつまと遊びながら話を続ける。
「それは間違いないはずです。ただ……皆本さん。そこの点滴スタンド、壊せますか?」
「はあ? いや、怪力はスキルだから壊せるわけないんじゃない?」
「やってみてください」
「……? まあいいけど」
点滴スタンドには点滴するためのバッグがなく、ただの置物になっていたが、邪魔だからと言って太い棒を粉砕できるはずもない。
だが。
軽く力を込めただけで点滴スタンドは折れ曲がった。
「は? いや、え、どうなってんの?」
「どうもあなたは道具などを壊せるようになっています。ちなみにあなたが寝ているベッドは二つ目です」
「え、壊したの?」
「はい。寝返りで」
「それは何とも申し訳ないというか……そういえばお腹すいてる気がするんだけど……点滴もしてないの?」
ちなみに点滴をしていると人間はそれだけで栄養補給しているため空腹にならない。
「ええ。なぜかあなたに針を刺せないらしいです」
「どうなってんの?」
「おそらく……」
五月が推論を口にしようとしたところで、耳障りな声が病室のテレビから響いた。
『けけけけ。そりゃ、お前のギフトがそういうもんだからだよ』
テレビにはやはり潰れたカエルのような顔。ぎろりと突き刺す視線と棘のある言葉を送る。
「ラプラス。私のギフトは何なの?」
『簡単に言えば人類文明の破壊だよ。人類そのもの、あるいは人類が作った道具では傷つけられず、逆に壊すことができる。今のお前なら核兵器でも傷一つつけられないし、スカイツリーもデコピンでぶっ壊せる』
「なるほどね。ちなみにそれ、自分でつけた傷には適用されるの?」
『いいや。ギフトは人類の文明から外れた力だからそれを持つお前は人類にカウントされない』
なるほど、と葵は納得した。
さつまのギフトを使うために自分でつけた傷は治らない。反対に狙撃手が与えた傷は矢傷。だからギフトで治せる。
もしも狙撃のギフトが石を飛ばすとか、さつまを助けた時に落下した地面が天然の土だったりしたら死んでいたかもしれない。
「ずいぶんと丁寧ですね。昨日はあんなにも口が堅かったというのに」
『けひひ。ちょっとしたサービスってやつだよ。ラットのスキルと八岐大蛇のギフトが混ざるのはこっちにも予想外だったからな。ついでだ。代償も教えておくぜ。お前の代償は罰則型。殺人の禁止だ』
ぷつんとテレビの画面が真っ黒になる。言いたいことだけ言ってあっさりラプラスは消えた。
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