うちの猫は液体です

秋葉夕雲

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第一章

第55話 提案

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 ラプラスが消えて静寂が戻った部屋で嘆息した。
「人類文明の否定。究極の殺人能力の代償が殺人の禁止だなんて、皮肉かしら」
「ですがこういう矛盾した条件のある能力が強力になりがちです」
「そうかもしれないけど……この能力、むしろデメリットじゃない?」
「ですね。ギフテッドにはまったく役に立ちませんし、下手をするとギフトで攻撃された場合でもさつまのギフトが強化されないかもしれません」
「役に立たなすぎる……」
「しかし妙なギフトですね。八岐大蛇は自然の化身なんですよね。何故人類に有効な能力になるのでしょうか」
「多分、八岐大蛇の成り立ちが原因ね。八岐大蛇は製鉄民がモチーフだとされてるの。鬼とかもそうだけど」
「八岐大蛇を倒すことで……えっと、天叢雲剣を手に入れたというのは、製鉄民を支配することで鉄の剣を手に入れたということですか?」
「そうそう。あくまでも諸説あるけどね。つまり八岐大蛇は倒されることによってかつての日本が自然と自分たちに従わない集団を征服したという見方ができるの」
「生物学的にも、人間は本能的に蛇を恐れるそうですからね。ある種の天敵であると言えるでしょう。まあ、あなたのギフトでもあるので人間の天敵は人間とも言えるのかもしれませんが」
「そうかもね。何しろ人間は人間を世界で二番目に殺している生き物らしいし」
 昨日何度となく繰り返したギフトの考察。
 彼女たちは気づいていないが、お互いに何かを説明したり、説明を聞いたりするのが好きなのかもしれない。
「あなたは人間が嫌いなんですか?」
「別に? 私も人間だし、文明の恩恵を受けてるんだから一般的な道徳はあるわよ。ただそれよりも大事なものがあるって思ってるだけ」
 嫌いや好きではなく、単に興味の問題なのかもしれない。あるいは……顔の見えない彼女にとって人類を愛着ある相手として認識できないのか。
 ふと、思い付きが口に出た。
「以前の質問の確認をしてもよろしいですか?」
「確認? え、嫌な予感するんだけど」
「あなたが動物の知識がそれほどでもない理由ですが……」
「うぇ? いや、それは……」
「もしかして他の動物に目移りするのが怖いからではないですか?」
「んな!? なんで、わかっ」
「それはわかりますよ。あなたかなり動物が好きでしょう? それなら普通は知識を蓄えるはずです。なら意図的にそうしていないのは猫のためと考えるべきでしょう」
 五月の台詞に葵は頭を抱えて悶えていた。
「あの、どうしてそんなに恥ずかしがっているんですか?」
「だ、だって」
「だって?」
 葵はちらりとさつまに視線を向けてばつの悪そうに小声で答えた。
「浮気みたいじゃない」
「……あなた、もしかして馬鹿ですか?」
「はあ!? こっちにとっては生きるか死ぬかの問題なのよ! いい!? 動画見たりして、つい魔が差して他の動物と触れ合ってそのにおいがついてさつまに嫌われちゃったらどうすんのよ!?」
「嫌われないかもしれないじゃないですか」
「それはそれでなんか嫌!」
「めんどくさい人ですね……」
 激しく憤る葵だったが、急に勢いを失った。
「と、とりあえずこの話は内密に」
「おや、タダでそのような条件を飲めと?」
 表情はもちろん変わっていないが、珍しく他人をからかう口調になった五月だった。
「ぐ、何かあんの?」
「ええ。少しばかり。その前に、これを」
 五月はリボン代わりに使っていたハンカチをほどいて葵に手渡した。
「一応洗っておきました。これから長い付き合いになりそうですから」
 それを受け取りながら答える。それが二人の関係を示すことになると理解しながら。
「そうね。ちなみにオーナーって何人いるの?」
「当初は百対百の予定だったらしいです。ただ、悪側は適当なので……」
「はっきりとしないのね」
「はい。少なくとも百組以上のオーナーとギフテッドが倒されたことは間違いありません」
「もう半分以上は倒されてる……はずよね。悪側がやたらギフテッドを増やしていない限り」
「ええ。そこで一つ、提案があります。ちなみにこれは特害対のボスからの提案でもあります」
「ほぼ命令じゃない。何よ」
 少しだけ逡巡して、やや俯き加減になりながら五月は言葉を紡ぐ。
「あなたと一緒に暮らしても構いませんか?」
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