迷宮攻略企業シュメール

秋葉夕雲

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第四章 天命

第四十八話 集結

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 もうもうと湧き上がる砂煙を上空から眺める。
 次の瞬間、上空にまで届いた衝撃に思わず顔を庇う。
 塔の倒れる方向には何もない場所を選んだのでおそらく死傷者はいないはずだ。
 衝撃が収まった上空で歓声が上がる。
 難攻不落だった塔を文字通り地面に引きずり下ろしたのだから喜びは無理もない。だが、まだ何も終わっていない。
「まだです! 日暮れまでに塔の頂上に行かなければ意味がありません!」
 そして塔から降りた冒険者は落下傘を操作して滑空して、もともと地上にいた人々は一斉に塔の頂上を目指す。
 カロッサのおかげで多少落下傘は操作できるようになっているが、もともと運動神経の悪いエタは悪戦苦闘していた。
(急げ、急げ! もう時間がない!)
 夕暮れはだんだんと地平線に近づいており、刻限まで本当にぎりぎりだった。
 もっと早く落下したいという欲求にかられるが、無理に操作して落下すれば目も当てられない。
 だが、そんな焦燥を見抜くかのように、塔から魔物が次々と現れた。
(読みが甘かった! 塔を倒しただけで攻略できるほど簡単じゃない!)
 地上にいた冒険者たちがまもなく魔物の群れが交戦するだろうが、明らかに数で負けている。
(永遠の掟である以上、おそらくこの魔物の群れは途切れない。でも……)
 ここまで来て……いや、どうあってもここで諦めるわけにはいかない。
 もはや退路はない。例え無謀でも挑まなければならない。
 だがそこでミミエルが叫んだ。
「エタ! ウルクの方を見て!」
「え?」
 エタが振り向くとそこには動く小さな点がいくつも……あれは。
「人が……あんなにたくさん……塔の頂上に向かってる……? 一体だれが?」
 疑問をつぶやくエタに応えたのは携帯粘土板だった。
『私はラバシュム。ウルクの国王。今、塔の頂上を目指しています』
 ぎょっと目をむいて空中で驚いた。まさか国王であるラバシュムがこの場にいるとは思わなかったのだ。
『私は希望したウルク市民を率いています。今、頂上に向かっている冒険者、傭兵、すべての人々。あなたたちだけに責任を押し付けたりしません。あなたたちだけに戦わせたりしません。私たちは、戦います。私たちも戦います。この愛すべきウルクを守るために!』
 その宣告を受けてどこからも雄たけびが上がる。
「本当に……君が国王でよかったよ。ラバシュム」
 まだウルクは折れていない。なくなっていない。
 だから。
「行こう。僕たちも」
 小さな声で、シュメールの仲間に向けて声をかける。
「ええ!」
「うん!」
「おう!」
「ああ」
 それでも声は届き、答えてくれた。



 焦れる心を抑え、地上に降り立ったエタたちを待っていたのは乱戦だった。
 魔物の群れと、ウルクの市民が激しく競り合う。
 あるものはオオカミと組みあい、あるものは巨大な蛇に咬まれながらその頭を貫く。
 おおよそこの世の光景ではなかった。
 そしていまだにエタは血になれない。こんな土壇場でも気を失いそうになる。
 そんなエタの手を引くのはミミエルだった。
「エタ! もうあんた目をつむってなさい!」
 怒鳴りながら空いた片方の腕で槌を振るい、石の人形の頭を吹き飛ばす。
「うん! あなたはひたすら進んで!」
「おう! あたしらがやってやるぜ!」
「わかってるだろう。この戦いは、お前を頂上に連れていく戦いだ」
 全員が心を一つにしていた。
 見ると指揮を執るトエラーの姿もある。
 きっとこの戦場のどこかにラバシュムもいる。あるいは、エタが今まであった人のほとんどはこの場にいるのだろう。
(うん。やっぱり僕はウルクが好きだ。この国に生まれてよかった)
 今まで辛いこともたくさんあった。しかし嬉しいことも少なくはなかった。
 この国の仄暗い一面も知った。だがそれでも、この国がなくなっていいとは思わない。
 徐々に隣を走る人々は少なくなっている。少しだけ片耳しか聞こえないことに感謝した。状況が掴めないからこそ、恐怖は半減していた。
「エタ。あとは……目を開けてまっすぐ走りなさい。あたしを信じられる?」
「わかった。信じるよ」
 即答した。
 ふっと手が離れる。エタはそのまま走り出す。
 背後で世にも恐ろしい咆哮が轟き、何かと打ち合う気配があった。
 見ると、塔の頂上、そこに金色に輝く扉が横倒しになっていた。
 気のせいか、背後に何かが追走している気配がある。無視する。ミミエルが走れといった。きっと走れば間に合うと確信していたからそう言った。なら、信じるだけだ。
 背後に迫る気配がより一層強くなる。
 そして。
 エタは黄金の扉に触れた。
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