16 / 18
episode4 帰れない夏
episode4-3
しおりを挟む
海を見ながら手をつないだ時か、呑み込まれるような波音の中でキスをした時か。それともホテルに入った時か、セックスが終わった時か。
どのタイミングだったかはわからない。知哉さんと別れようと決めた。もちろん北嶋とも、もう会わない。知哉さんとも北嶋とも離れる。そんな簡単な答えに、どうして今まで気付かなかったのか。
シャワールームから出ると、北嶋はベッドに座っていた。少しうつむいて、いったい何を思っているのか。きっと罪悪感に苛まれて、心が押しつぶされそうになっているのだろう。
高校生だった北嶋の笑顔を思い出す。今、北嶋に、そんなにつらそうな顔をさせてしまっている自分に嫌気がさしてくる。
「北嶋。電車があるうちに帰ろう」
「え……、ああ」
顔を上げた北嶋は、うつろな目をしていた。
「帰ろう、北嶋」
もう会わないよ。これが別れ。
身支度を整えて、先にドアのほうへと向かう。
「峰」
ふいに、後ろから腕をつかまれた。
「何?」
「さっきは軽蔑してるとか言ってごめん。本当はそんなこと思ってないから。やっちゃったら情が湧いて、峰が俺のこと好きだとか言い出したら困るなって」
「ふふ、平気だよ」
「そうだよな。ちょっと自惚れてた。兄貴とは、今まで通り……」
訴えかけるように話す北嶋の目を真っ直ぐに見て告げた。
「知哉さんとは別れる」
「えっ」
「もう決めてるから」
「お願いだからそれは……」
「ごめん。でも、北嶋が自分を責めることない。知哉さんと別れるから北嶋に付き合ってくれとか言う訳じゃない。ふたりにはもう会わない。知哉さんと別れ話をしたら携帯番号も変えるし、引っ越しもする」
「別れ話って、なんて……」
「北嶋のことはもちろん言わないよ。就職を機に色々考えてとか、知哉さんが言うように一緒に住むみたいなイメージができないとか、……なんか適当に」
北嶋の表情が少し変わる。鋭い眼差しを向けられた。
「適当とか言うなよ。兄貴に対して適当な態度取るな」
「……ごめん」
「あ、俺こそごめん。兄貴を裏切ったのは俺なのに。……兄貴も大事だし、峰も好きだし、もう訳わかんないんだ」
つかんでいた手を離し、北嶋はベッドに座ってうなだれた。
「ずっとつらかったんだ」
そう北嶋に告げると、ゆっくりと北嶋は顔を上げる。
「知哉さんと付き合ってて、ずっとつらかった。本当に好きなのは、恋人の弟なんだ。そんなの、……つらいよ」
「峰」
「ふたりとはもう会わない。それが一番いい」
ひとりで先に帰ろうと思った。これ以上、顔を合わせているのは、お互いに限界だ。
「知哉さんとはバーで出会ったんだ。そこのバーで、知哉さん、すごいモテてた。だから、俺なんかよりもっと素敵な恋人ができる。北嶋も、……元気で」
だいたいホテル代の半分かなと思う金額を置いて、部屋を出た。
電車の中で確認すると、知哉さんからメールがきていた。『返信、遅くなってごめんなさい。明日にでもまた連絡します』と送る。すぐに着信がきたけれど、電車の中だったし取らなかった。家に帰ってもかけ直せなかった。
どのタイミングだったかはわからない。知哉さんと別れようと決めた。もちろん北嶋とも、もう会わない。知哉さんとも北嶋とも離れる。そんな簡単な答えに、どうして今まで気付かなかったのか。
シャワールームから出ると、北嶋はベッドに座っていた。少しうつむいて、いったい何を思っているのか。きっと罪悪感に苛まれて、心が押しつぶされそうになっているのだろう。
高校生だった北嶋の笑顔を思い出す。今、北嶋に、そんなにつらそうな顔をさせてしまっている自分に嫌気がさしてくる。
「北嶋。電車があるうちに帰ろう」
「え……、ああ」
顔を上げた北嶋は、うつろな目をしていた。
「帰ろう、北嶋」
もう会わないよ。これが別れ。
身支度を整えて、先にドアのほうへと向かう。
「峰」
ふいに、後ろから腕をつかまれた。
「何?」
「さっきは軽蔑してるとか言ってごめん。本当はそんなこと思ってないから。やっちゃったら情が湧いて、峰が俺のこと好きだとか言い出したら困るなって」
「ふふ、平気だよ」
「そうだよな。ちょっと自惚れてた。兄貴とは、今まで通り……」
訴えかけるように話す北嶋の目を真っ直ぐに見て告げた。
「知哉さんとは別れる」
「えっ」
「もう決めてるから」
「お願いだからそれは……」
「ごめん。でも、北嶋が自分を責めることない。知哉さんと別れるから北嶋に付き合ってくれとか言う訳じゃない。ふたりにはもう会わない。知哉さんと別れ話をしたら携帯番号も変えるし、引っ越しもする」
「別れ話って、なんて……」
「北嶋のことはもちろん言わないよ。就職を機に色々考えてとか、知哉さんが言うように一緒に住むみたいなイメージができないとか、……なんか適当に」
北嶋の表情が少し変わる。鋭い眼差しを向けられた。
「適当とか言うなよ。兄貴に対して適当な態度取るな」
「……ごめん」
「あ、俺こそごめん。兄貴を裏切ったのは俺なのに。……兄貴も大事だし、峰も好きだし、もう訳わかんないんだ」
つかんでいた手を離し、北嶋はベッドに座ってうなだれた。
「ずっとつらかったんだ」
そう北嶋に告げると、ゆっくりと北嶋は顔を上げる。
「知哉さんと付き合ってて、ずっとつらかった。本当に好きなのは、恋人の弟なんだ。そんなの、……つらいよ」
「峰」
「ふたりとはもう会わない。それが一番いい」
ひとりで先に帰ろうと思った。これ以上、顔を合わせているのは、お互いに限界だ。
「知哉さんとはバーで出会ったんだ。そこのバーで、知哉さん、すごいモテてた。だから、俺なんかよりもっと素敵な恋人ができる。北嶋も、……元気で」
だいたいホテル代の半分かなと思う金額を置いて、部屋を出た。
電車の中で確認すると、知哉さんからメールがきていた。『返信、遅くなってごめんなさい。明日にでもまた連絡します』と送る。すぐに着信がきたけれど、電車の中だったし取らなかった。家に帰ってもかけ直せなかった。
0
あなたにおすすめの小説
【完】君に届かない声
未希かずは(Miki)
BL
内気で友達の少ない高校生・花森眞琴は、優しくて完璧な幼なじみの長谷川匠海に密かな恋心を抱いていた。
ある日、匠海が誰かを「そばで守りたい」と話すのを耳にした眞琴。匠海の幸せのために身を引こうと、クラスの人気者・和馬に偽の恋人役を頼むが…。
すれ違う高校生二人の不器用な恋のお話です。
執着囲い込み☓健気。ハピエンです。
【完結】ベイビーダーリン ~スパダリ俳優は、僕の前でだけ赤ちゃん返りする~
粗々木くうね
BL
「……おやすみ。僕の、かわいいレン」
人気俳優の朝比奈(あさひな)レンは、幼馴染で恋人の小鳥遊 椋(たかなし むく) の前でだけ赤ちゃんに戻る。
癒しと愛で満たす、ふたりだけの夜のルーティン。
※本作品に出てくる心の病気の表現は、想像上のものです。ご了承ください。
小鳥遊 椋(たかなし むく)
・5月25日生まれ 24歳
・短期大学卒業後、保育士に。天職と感じていたが、レンのために仕事を辞めた。現在はレンの所属する芸能事務所の託児所で働きながらレンを支える。
・身長168cm
・髪型:エアリーなミディアムショート+やわらかミルクティーブラウンカラー
・目元:たれ目+感情が顔に出やすい
・雰囲気:柔らかくて包み込むけど、芯があって相手をちゃんと見守れる
朝比奈レン(あさひな れん)
・11月2日生まれ 24歳
・シングルマザーの母親に育てられて、将来は母を楽させたいと思っていた。
母に迷惑かけたくなくて無意識のうちに大人びた子に。
・高校在籍時モデルとしてスカウトされ、母のためにも受けることに→芸能界デビュー
・俳優として転身し、どんな役も消化する「カメレオン俳優」に。注目の若手俳優。
・身長180cm
・猫や犬など動物好き
・髪型:黒髪の短髪
・目元:切れ長の目元
・雰囲気:硬派。口数は少ないが真面目で礼儀正しい。
・母の力になりたいと身の回りの家事はできる。
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
十七歳の心模様
須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない…
ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん
柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、
葵は初めての恋に溺れていた。
付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。
告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、
その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。
※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。
雪色のラブレター
hamapito
BL
俺が遠くに行っても、圭は圭のまま、何も変わらないから。――それでよかった、のに。
そばにいられればいい。
想いは口にすることなく消えるはずだった。
高校卒業まであと三か月。
幼馴染である圭への気持ちを隠したまま、今日も変わらず隣を歩く翔。
そばにいられればいい。幼馴染のままでいい。
そう思っていたはずなのに、圭のひとことに抑えていた気持ちがこぼれてしまう。
翔は、圭の戸惑う声に、「忘れて」と逃げてしまい……。
平凡ワンコ系が憧れの幼なじみにめちゃくちゃにされちゃう話(小説版)
優狗レエス
BL
Ultra∞maniacの続きです。短編連作になっています。
本編とちがってキャラクターそれぞれ一人称の小説です。
《完結》僕が天使になるまで
MITARASI_
BL
命が尽きると知った遥は、恋人・翔太には秘密を抱えたまま「別れ」を選ぶ。
それは翔太の未来を守るため――。
料理のレシピ、小さなメモ、親友に託した願い。
遥が残した“天使の贈り物”の数々は、翔太の心を深く揺さぶり、やがて彼を未来へと導いていく。
涙と希望が交差する、切なくも温かい愛の物語。
キミがいる
hosimure
BL
ボクは学校でイジメを受けていた。
何が原因でイジメられていたかなんて分からない。
けれどずっと続いているイジメ。
だけどボクには親友の彼がいた。
明るく、優しい彼がいたからこそ、ボクは学校へ行けた。
彼のことを心から信じていたけれど…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる