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約束は絶対守るよ
しおりを挟む見知らぬ天井を見つめながら、やはりこうなったのかと思う。真っ白な部屋にこれまた真っ白なベッド。あまり力の入らない右手には、呼び出し用のブザーが握られている。いつかそうであったように、左腕の内側には針が刺さり、針に繋がるチューブの先には以前にも見た点滴があった。ふと痛みを感じる肩を覗き見ると、ユートに噛まれた場所がガーゼで処置されている。
ブザーを鳴らすことなく、私は今共にいないユートの事を考える。私がここにいるということは、彼は捕まったということだろう。それとも……、逃げ切ったのだろうか。
あの家に警察が来ることも、彼が捕まるであろうこともわかっていた。あの地下二階で見た光景も、少年の泣き出した顔も、その後に入った浴室で赤い水が流れていたことも。ユートが恐ろしい人物だと、私とは相容れない存在だとはわかっていた。でも離れられなかった。離れたくなかった。
「うっ……」
成り行きを周りに任せたのは私。行動しなかったのは私。正しいことをしたと思うのに、私の目からは涙がポロポロとこぼれる。いやだいやだと文句を言い出す。私の涙を拭い取ってくれる人は、ここにはいない。
彼は殺人鬼で、人の肉を食べる。どう考えたって課せられる罪は重いはずで、死刑や終身刑は避けられないだろう。被害者の遺族はそれを願うに決まっている。私もそれが正しいとはわかっている。わかっているのに――
「ゆぅと……っ」
もうあの優しい手で、舌で拭われることのない涙が只々落ちていく。一人布団を濡らす私の元に、ガラリと音を立てて男が一人、個室に入ってきた。
――誰……?
頭に包帯を巻いて、顔中にガーゼを張り付けた男がドアの前に立っている。服装は違うが、その男があの警官だとわかった。
「あなたは、あの時の……」
「木榑 愛さん、ですね?」
「……はい」
彼は私に名刺を渡してくる。
「僕は立花 正義と申します。あの時は助けられずに、本当に申し訳ございませんでした」
「頭を上げてください。私は助けなど求めていなかったのですから」
立花は深く、深く頭を下げ、ゆっくりと頭を上げた。
「聞きたい事は沢山あるでしょうが、まずは僕があの場所から逃げ出したところから、お話ししましょう。」
◇◆◇◆
立花の話によると、彼が逃げ出した次の日の早朝に、特殊急襲部隊があの家を取り囲み、突入したらしい。あの部屋でユートは無抵抗であっさりと捕まり、私は保護された。そして、ユートは今、拘置所に収監されており、彼への取り調べが行われているようだ。
私は一カ月近く監禁されていたらしく、地下室からは大量の子供の骨が発見された。時計やカレンダーが無かったため時間感覚がなかったが……。
――そっか……。私は一カ月と少し、彼と一緒にいたんだ……。
長いようで短くもあった監禁生活を思い返していると、立花が咳払いをした。
「実は困ったことに、君を監禁していた犯人の身元が、未だ掴めていないんです」
――え、どういうこと……?
「あの時……。僕の記憶の限りでは、木暮さんは犯人を『ユート』と呼んでいましたね?」
「はい」
「実はあの家の本来の持ち主は既に亡くなっているんです。持ち主の名前は吉永隼人。吉永家はあの地域の地主だったらしいんです」
地主の家系ならば広い土地を持っていてもおかしくはない。道理であの家は屋敷と呼べるほど広かったのだと納得した。だが――
「10年前に吉永家の一家は家族旅行へ出かけたきり、連絡が取れなくなったようで。吉永が勤める病院から通報があって、警察による捜索が開始されたんですが、何の目撃情報も得られず、捜査は打ち切りになったそうです。数カ月後、彼らが向かったとされる旅行先の近くの山中で、彼とその息子の焼死体が見つかったと通報がありました。吉永だと特定できたのは遺留品の中に、彼の携帯電話がすぐ傍に落ちていたからだと聞いています」
「……」
あの家の持ち主が不審死で亡くなったことは分かったが、それが何だというのか。私がj彼が言わんとしていることがわかっていないことに気付いたのか、立花は少し押し黙った後、私の目を見た。
「吉永は息子と焼死体で見つかったと言いましたよね?」
「はい。山中で見つかったんですよね?」
「そうです。そして、息子の名前は吉永唯人なんです」
――ゆうと……?
「身元が一切不明な彼のことを、君が『ユート』と呼んでいたのを思い出しまして。彼は自分のことを何か言っていませんでしたか?」
「……」
「ちなみに吉永の息子は当時8歳だったと聞いてます。犯人の年齢とか知りませんか?」
今、私はどんな顔をしているだろうか。ピッピッとなる機械音や立花の声、空いた窓から聞こえる外の喧騒。決して、今ここは、あの場所みたいに静かとは言えないのに、私の心臓がドクドクドクと早鐘を打っている音と、自分の少し浅い呼吸の音だけが、やけにはっきりと聞こえる。
あの家の持ち主の息子の名前は吉永唯人。彼は10年前に亡くなっている。私をその家に監禁した男の名前はユート。そして彼は18歳だと言っていた。それに一度だけ書いてもらった『唯人』という文字は、息子の名前と全く同じ。
いや、そんなはずがない。死体は見つかっていると立花は言った。ありえない。あるはずがない。これは偶然。偶々同じ名前だったというだけ。
立花に変な疑いを捨ててほしくて、私は何も知らないと答える。彼は何度もしつこく聞き返すが、私の答えは変わらない。
「私が知っているのは、ユートと言う名前。それだけです」
「本当に、ほんの些細なことでもいいんです!」
吉永など、その息子など知らない。そう。私が知っているのはユート。それに可愛らしい笑顔と、暖かい体温。優しさと狂気的な衝動――カニバリズム――を併せ持ち、私を捕らえ、愛してくれた人だということだけ。それだけ、それだけでいい。
私が立花から問い詰められていると、再びこの部屋に訪問者が訪れる。その白い白衣をきた男の顔を見て驚く。身奇麗に髪や服を整えているが、彼はユートの家を訪れていたドクと呼ばれていた男に違いなかった。
――な、なんで……!?
私が混乱して何も言わないことをいいことに、彼はまるで他人のように振る舞い、医者として私に話しかけてくる。彼と目が合っても、愛想笑いを向けられ、自分が一人勘違いしているのかと疑ってしまう程に、彼は冷静に医者を演じる。
「愛さん、目覚められたんですね。体調はどうですか?」
――いいや、間違いない。この男はドクだ。
彼の心情は一切読み取れないが、私は彼をドクだと確信している。首にぶら下げているカードを盗み見ると、そこには『手崎』と書いてあった。
――手崎……?
『ドク』には掠りもしないが、彼はあの家で私に脅しをかけてきた男に違いない。どんなに着飾っても、私があの鋭い目を見間違えることはないのだ。
しかし、何もわからない状況だとしても、下手なことは言わない方がいいことだけはわかる。私達は立花の前で、あくまで医者と患者としてふるまった。
手崎から簡単な問診を受けた後、「大きな怪我もないため、様子を見て三日間入院してください」と言われる。彼はそれ以上は特に何も言わず、部屋を去っていった。
――ドク、いや。手崎ともう一度会って、真相を聞かなければ……。
「木暮さん?」
「え? 何ですか? すみません、ボーっとして」
「あぁ、お疲れですよね。また出直します」
立花は私に一礼して部屋を出ていく。私はドクンドクンと脈を打つ肩に手を添えて、混乱する頭を落ち着かせるように、大きく深呼吸した。
◇◆◇◆
二日後。立花は再び私の元へ訪ね、捜査状況を教えてくれた。どうやら状況は芳しくないようだ。
ユートは捕まってから一度も、自身のことやあの家にいた理由、子供の骨に関して完全黙秘を決め込んでいるらしい。しかし、それとは逆に、私の所在や状況については何度も聞いてくるのだと言っていた。そして、所内の食事には一度も口を付けていないことを教えてもらった。
ユートの近況を聞いて、私はユートに会えないか立花に尋ねる。被害者である私が加害者であるユートに会うのはタブー扱いされているらしいが、私はどうしても彼に会いたいのだと伝えた。
立花は方々に連絡を取り、面会は何とか了承された。許可が下りた理由は、私と話せばユートが何か重要なことを話すかもしれないと思われたからだ。会話は録音すると言われ、私はそれを了承した。
◇◆◇◆
私はこれから医師による最後の診断を受け、家に戻ることになっている。私を担当する医者は、いつの間にか手崎から別の担当者に代わっていた。いや、正確には診断する科が違う。
「こんにちは。木暮さん。私は精神科医の高島です。いくつか質問させていただきますね」
今の心情。監禁中に感じたこと。ユートのこと。これからどうしたいか。眠れているのか。動悸や頭痛は起こっているか。
矢継ぎ早に聞かれたことを、頭に浮かんだままに答える。
しばらくして、私に名づけられた病名は心的外傷後ストレス障害。所謂PTSDと呼ばれるもの。死の危機に直面した被害者が、その恐ろしい体験を常に思い出し、動悸や不眠に陥る病気だという。
「さぞかしお辛かったことでしょう。落ち着けるようにお薬出しときますからね」
――辛い?
確かに辛いこともあったけど、それだけじゃない。そんな一言で片付けて欲しくない。
この医者は信用ならない。確かに怖い目には沢山あった。でも今ユートの事を考えて、睡眠不足になったり、落ち着かなくなっているのは、彼が私の傍にいないから。そう、辛いのは会えないからだ。
ユートの事は立花から伝え聞くばかりで、彼の声が聞けていない。早く面会日が来てほしい。早く明日が来てほしい。
病院からは頓服と睡眠薬が渡されたが、私には必要ない。一人、個室で家に帰る支度を始める。私を心配してくれる家族はもういない。愛する彼氏は檻の中。少ない荷物をまとめ、タクシーの運転手に住所を伝える。
――結局、ドクから話を聞くことはできなかったな……。
病院側に「手崎先生と会わせてほしい」と言ったら、「臨時の先生なのでもういません」と返事が返ってきたのだ。今はもうどこにいるかもわからない。
――あの胡散臭い医者め。
窓から外の風景を見ながら、毒を吐いた。
◇◆◇◆
家に戻り、自分の部屋のあり様に驚く。捜索のため部屋の中が調べられたとは立花から聞いていた。しかし、こんなにも部屋が荒らされているとは……。ちなみに、事件に関係がありそうなものとして押収されていた物は、後日返却されるらしい。
実は私が勤めていた会社から警察に通報があったらしい。無断欠勤が続き、連絡を取ろうにも返事はなく、自宅に行っても私はいない。真面目な勤務態度だった私が無断欠勤なんてするわけがないと思った上司と同僚が、警察に通報したのだ。
しかし、捜索を開始する前に、会社に私の退職届が届き、捜索は取り止めとなった。だが、私とは連絡が一切つかないままということ、そして家に長らく帰っていない様子から、保留扱いではあったようだ。
そんな時に子供の誘拐事件を追っていた立花に発見された少女――行方不明だった私が見つかり、警察は混乱していたと立花から聞いた。
そんなわけで部屋は荒らされており、そのあり様を見てため息をつく。
――喉が渇いたな……。
私は冷蔵庫の中を開ける。もちろん大したものはなく、中には調味料や飲料水しか入っていない。飲料水を取り出し、喉を潤す。部屋を片付けた後、私はスーパーへと出かけた。
◇◆◇◆
――今日はリハビリがてらに、自炊をしよう。
今日と明日分の食材をポイポイとカートに入れていく。あの家で散々レトルト食品は食べたので、しばらくは勘弁願いたい。自炊は時間がかかるが、今の私には時間が沢山あった。会社は退職しているし、今は自由だ。ちなみに退職届を出した会社からは、いつ戻ってもいいと言われた。本当にありがたい話だった。
家に帰り、料理を作る。一人で食べて、片付ける。風呂に入り、布団にもぐる。
何をするでも一人きり。以前はそれが普通であったのに、ここ一カ月、毎日ユートとくっついて過ごしていた分、物足りなさや孤独を感じる。
――ユート……。
ほとんど眠れないまま目を閉じていたら、いつのまにか朝になっていた。
立花との約束の時間まで、あと二時間。今日はユートとの面会の日だ。ベッドから起き上がり、顔を洗った後、私はお弁当を作るため、キッチンに立つ。小一時間ほど使い、肉肉茶色の肉肉しいお弁当が出来上がる。
――ユートは、これを食べられるのかな。
私はユートのために作ったお弁当を眺める。彼が人肉以外、口にできるのかわからない。私用のレトルト食品を食べている姿は見たことがないし、彼の食事に関しては徹底的に聞かない様に心掛けていたのもあって、よく知らない。
でも、私が手料理を作ると言った時に、彼は人肉料理を浮かべていた。おそらく望みは薄いだろう。でも、それでも、私はできるなら、彼に私のお弁当を食べてほしいと思った。
身支度を整え、立花が来るのを待つ。約束の時間少し前に、部屋のインターホンが鳴り、私はお弁当箱を入れた鞄を持って、立花と挨拶を交わす。
「今日はよろしくお願いします」
私は立花の車へ乗り込み、ユートが収監されているという拘置所に向かう。窓から外の景色を静かに眺めていると、立花が声をかけてきた。
「大丈夫ですか?」
「えぇ、大丈夫です」
大層な門をくぐり、立花は駐車場に車を止める。彼の後ろに付いていき、手続きを行う姿を眺める。
――はやく……。はやく、ユートに会いたい。
制服を着た警備員の横を通りすぎ、私は建物の奥へと誘導される。
「こちらです。お荷物はこちらへ」
警備員はお弁当が入った私の鞄を指さす。
「これユートに作ったお弁当が入っているんです」
「差し入れは拘置所内にある売店のものしか、許可されておりません」
そんなこと聞いてもないし、知りもしなかった。
「で、でも! ずっと食べていないって聞いて!」
「許可されていません」
「……」
私は仕方なく荷物を警備員に渡す。深呼吸をした後、ゆっくりとドアノブを回し、ドアを引いて部屋に入ると、そこにはグレーの服を着たユートがいた。
ドンッ。
私の顔を見たユートは、拳を仕切りに当てて大きな音を立てる。そして、ゆるゆると沈んでいき、こちらを見る顔はひどく安心したようだった。
――ユート……。やっと、やっと会えた……っ!
私はすぐに彼に近づき、彼の前に立つ。
「アイちゃんっ! アイちゃんっ!」
少しこもったユートの声が聞こえる。あぁ、この声が、この声が聞きたかったのだ。待ちわびていたのはユートも同じだったようで、彼は私に触れようとアクリル板の仕切りに手を当てる。彼に触れることは出来ないが、私も彼の手に合わせた。
――そうか。そう言えば、面会室には仕切りがあったね……。
失念していた。彼は目の前にいるのに触れることは敵わない。そして、そもそもこのぶ厚い仕切りがあるのだから、彼にお弁当を渡すことなどできるはずがなかった。
「四日間もアイちゃんと会えなくて、死ぬかと思ったよォ……」
彼は眉を八の字にして、顔だけをこちらに向け、机の上に突っ伏す。その力ない様子に、私は数日前から気がかりで仕方がなかったことを、彼に問う。
「ねぇ、ユート。ちゃんとご飯食べてる? 所内でも食事は提供されるでしょ?」
彼の姿はいつもよりもやつれて見える。立花が言っていた通り、食事を取っていないことは明白だった。
「食べないよ、オレ」
「ダメだよ、ちゃんと食べて? じゃないと死んじゃう」
彼は私の言葉に首を横に振る。
――やはり、普通の食事は食べられないということだろうか。
この場にお弁当を持ち込むことはできなかったが、結局彼は人肉以外食べられないのだ。そう思っていたのに――
「オレ、次に口に入れるのは、アイちゃんの手料理って決めてるカラ」
――なっ……。
「何を、言っているの?」
「オレは、アイちゃんの手料理シか食べないよ」
思わぬ発言に驚きを隠せない。彼は私の手料理を待っていた? いや、違う。彼は私の人肉手料理を待っているのだ。
「無理でしょ!? どうせ、私の手料理なんか食べられないでしょ!?」
私は声を荒らげてしまう。だって、だって、食べられるわけがないのだ。
「ウウン。アイちゃんの手料理が食べたい」
「……っ! 無理だよ! 私の手料理は食べられないんだよ!」
頑として首を縦に振らないユートに、私はさらに一層声を大きくする。
「絶対無理! 私ユートが食べてないって聞いて、何とか食べて欲しいって思って。お弁当を作って持ってきたけど、差し入れできないんだもん! それに――」
――ユートは人の肉しか、食べられないでしょう?
私が作った料理は全て肉料理。だけど、それは鳥や豚、牛の肉だ。スーパーに人肉なんて売っているわけがない。
彼の願いは二つの意味で叶えられない。一つはユートの欲する人肉料理は私には用意できない。もう一つはこの拘置所ではユートに私の手料理を渡すことはできない。どうあがいたって、彼は私の手料理を口にすることはできないのだ。
「ねぇ、ユート。私ユートに死んでほしくないの」
「ウン。オレも死にたくない」
「! じゃあ、じゃあさ、食べてみようよ。所内の食事を、少しずつでもいいからさ!」
――最初は無理でもいい。吐いてもいい。でも挑戦してみて? 死にたくないって思うんでしょ? お願い……。お願いだから、頷いて……?
私の願いとは反対に彼は首を振る。
「それはイヤだ」
「なんで……」
――何で、何でよ……。ユート……。
私は力なく項垂れ、頭に手を当てる。どうすればいいのか、どう言えばいいのか、全く分からない。
ユートに名前を呼ばれ、私はゆっくりと顔を上げる。その目に映った彼の姿は、いつか見た悲しそうなのに、嬉しそうな。普段見せることのない表情が、私に向けられる。
「オレ、ホントに、嬉シかったンだ」
――やめて。
「アイちゃんがオレのために、手料理を作ってくれるって言ってくれたコト」
――もうやめて。
「一緒に食べようって言ってくれたコト」
――その約束だけは、
「オレとアイちゃんの、初めての約束なンだ。絶対に守るよ」
――諦めてよ……。
ユートの言葉に目頭が熱くなる。
「やめてよ、早く諦めてよ! 約束が果たされることはないんだよっ!?」
私がどんなに叫んでも、頼んでも、泣いても。彼は頑として首を縦に振らない。私の視界が歪み、彼が見えない。零れだした涙と共に、私は彼に隠していた罪までボロボロと吐き出していく。
「なんでぇっ!? わたしっ、私知ってたんだよ!? あの場所が警官にバレて、逃げなきゃユートが捕まるって! わかってたんだよ!? だけど、わたし言わなかった……っ。ユートに逃げてって言わなかった! どう!? あなたをこの場所に閉じ込めたのは私。もう約束なんて――」
騒ぎを聞きつけた警備員がドアを開けて入ってくる。私は腕を掴まれ、離せ離せと藻掻いて暴れる。
私の叫び声、警備員の怒声。喧噪の中、彼の声を聞き取ることはできないが、ユートから目を離せない。ゆっくりと彼の唇が動き、口内の舌が見える。開いて閉じて窄んで。
『約束は絶対守るよ』
そう言ったのだと理解した。
◇◆◇◆
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