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薬花
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窓から射す光が、冷涼さに代わり早春の温かみを帯び始めた頃、カトレアは『三会議』に出席することとなった。
コルデホーザの政は、北の大国グリーシアンの制度を踏襲している。上院である元老院と下院の貴族院による二院制を採用し、会議が毎日開かれる。時には緊急会議により、一日に数度議論が交わされることも珍しくない。
元老院のほとんどは大国から移り住んだ貴族で、会議に出席する代表者は長のイーデンを含め四名。一方貴族院は、建国の祖ウィルの部下であった三名が功績を称えられ、爵位を得ることで構成された組織である。
国王は議案の最終決定権を持っているが、現在は元老院長であるイーデンが国政を取り仕切っているため、カトレアは父の崩御以後、決議された文書に目を通すのみだった。
三会議は両院が必要と判断した際、国王もしくはそれに準ずる王族が会議に同席し、議論に加わるというものだ。無論、カトレアが出席するのは初めてである。
出席の依頼はイーデンからのものだった。叔父は次のように話した。
「王女殿下に二人の騎士がついたことで、暗殺の首謀者もうかつに手が出せない状況となりました。それがヴェルダの手の者であれば尚更のこと。我々としては、そろそろ戴冠の儀の準備を再開するにあたり、王女殿下に三会議の出席を願いたいのですが」
カトレアは表面上快く承知したが、本心は今更かと不愉快だった。今まで勝手に議論を進め、決議した内容を寄越してきただけのイーデンは、カトレアが政に口を出す余地を与えないようにしていたのも同然だった。
イーデンの思惑がどうであれ、カトレアはようやく得た発言権をものにするべく、勇み足で会議室へと赴いた。今日はレイの勧めで、知的な藍天鵞絨の丈の長いドレスを着用している。騎士二人も同行した。
会議室には、長丁場の際にも居心地が良いよう大きな暖炉に火が灯され、英雄ウィルの戦いを描いた壁画が奥に飾られている。それに見守られるように、樫製の長机と人数分の豪奢な長椅子が備えてあり、カトレアが着いた頃には既に自分とレイ以外の席が埋まっていた。
カトレアは壁画を背に、レイはイーデンの隣に腰を下ろし、ジャックはカトレアの脇に起立した状態で開会した。早速イーデンが議題を述べる。
「まず、先延ばしとなっている王女殿下の戴冠の儀についてだが、五の月に行われる『百花祭』に伴い行おうと考えている。いかがかな」
「百花祭ですか。カトレア様の戴冠に相応しい頃合いですね」レイが目を細める。
百花祭とは、花々が一斉に咲き乱れ、緑鮮やかになる春をコルデホーザの象徴とし、国を称える祭である。戦時中は規模を縮小して行っているが、カトレアも両親が存命の頃は父と馬に揺られ城下町まで行進し、花で埋め尽くされた町で行われる催しの数々を設けられた高座から母に抱かれて見物したものだ。
幼い日の懐かしい情景が浮かび、カトレアも自然と口元を緩める。
イーデンの提案に、元老院の一人が胸元まである白髭を撫でつけながら意見した。
「ふむ、時季としては良い頃合いではないかの。しかし当初の予定通り、暗殺を目論む首謀者を捕らえ、処罰してからでも遅くはないと思うのじゃが」
「それについては目星がついている。生誕の宴に紛れ込んでいた下手人を絞り上げた結果、案の定ヴェルダの手の者だったそうだ」
やはりな、と次々にため息が漏れた。下手人は宴に招かれた貴族の従者に成りすまし侵入したという。
「王宮内への立ち入りについてはどうなっていたのだ? いとも簡単に賊を通すなど、まかりならぬぞ!」
警備への不信感を露わにする公爵に対し、イーデンは表情を曇らせた。
「それが、立ち入り前に取り調べをしたというのだが、どうやら私の名を出し、特別に献上するものがあるという名分で侵入したそうだ」
卓上の者たちは顔を見合わせ、重い息をつく。カトレアは身を乗り出した。
「わたしを狙うということは、首謀者はこの国に恨みを持っている……ヴェルダのアルベール王ということ?」
イーデンは深くうなずき、カトレアの瞳を真っ直ぐ見つめた。
「そうです。我が国との戦で、アルベール王の弟君が戦死しておりますからね。
我々は、王女殿下が即位したのち、すぐさまヴェルダとの戦を再開したく思います」
両院の間では既に合意していたのだろう。カトレアは顔をひきつらせ、長机を囲む者たちを見回した。
王宮は国境から遠く、国領の北西に位置する。今まで兵士や騎士団を戦地に送ってはいたものの、戦火を浴びることはなかった。王宮で育ったカトレアも、最早戦から目を背けることは出来ないのだ。
「……つまり、あなたたちは戦を再開するために、わたしを玉座に据えようとしているのね?」
会議室は沈黙に染まった。
急に呼び出したからには何か意図があるとは思っていた。カトレアは力強く長机を叩き、立ち上がった。
「この十年の間でどれだけの血が流れたと思っているの? 確かにヴェルダは仇敵なのには違いないわ。だけど、わたしは暗殺の首謀者が処罰されたら十分よ! これ以上、争いで傷つく者を出したくないのよ……!」
拳を握りうなだれるカトレアの肩に手がかけられた。ジャックの眼差しが落ち着けと訴えている。彼はカトレアがどう訴えたところで、イーデンたちが意に介さないことを知っているのだ。一方レイは異論を唱えられるはずがない。
カトレアがのろのろと着席すると、イーデンは気を削がれたように嘆息した。
「王女殿下は、戦の再開には反対だと予想しておりました。ですが、これは貴女だけの問題ではないのです。ここで仮に休戦協定でも結ぼうものなら、決着がつかず斃れていった者や、何より貴女の母君、父君が浮かばれない」
「お母様は、こんなことを望んではいないわ! 薬花によって繁栄したこの国が、その全てを排除して弔い合戦をいつまでも続けるなんて……わたしは、もう一度薬花をこの地に」
黄金色の目が、怜悧な色へと変貌した。
「あの、呪われし花を? 貴女の母君は、その薬花の研究によって亡くなられた。しかも、研究に必要な花を送ってきたのは、アルベール王の弟君なのですよ? 積もり積もった因縁の中、薬花をこの国に取り戻そうというには、それなりの算段があるのでしょうね?」
試すような、それとも所詮絵空事かとでもいうような視線が纏わりつく。カトレアは返す言葉が見つからず、唇を噛んだ。イーデンを睨みつけても、叔父は為政者としての態度を崩さない。その傍らで、レイが唇をきつく結んでいる。
この国を、イーデンたちのいいようにはさせたくない。だがそれを覆し、自分がこの国を望むようにするには、何もかも力が及ばない。カトレアは力なく席を立った。
「……退席するわ。気分が悪い」
長机に背を向けるカトレアをレイが呼び止めたが、イーデンに諌められる。呆れたような、憐れむようなため息を背に浴び、カトレアは屈辱に耐え会議室を後にした。
レイは、追ってこない。彼はイーデンの補佐となることを条件に、カトレアの騎士となったのだから。
カトレアに忠誠を誓いながらも、イーデンには絶対に背くことが出来ない。それ以外に、レイの歩む道はないのだ。
孤独感に苛まれ、立ち止まったカトレアの後を追ってくる者の気配がした。
「気取っているだけかと思っていたが、思っていたより脳みそはあるようだな」
前方に回り込んできたジャックは、腕を組み意地悪く微笑む。カトレアはドレスの裾を握りしめた。
「……わたしの望みは言うことが出来た。だけど、イーデンたちにはその選択すら毛頭ないというのが、嫌というほど分かったわ」
「それで、どうする?」
ジャックは面白がるように続きを促す。カトレアの胸には、亡き母へのやりきれなさが去来していた。
「言ったでしょう? 気分が悪いのよ。温室の花たちの様子を見に行くわ」
カトレアはジャックが追ってこられないようほこりを巻き起こしながら、早足で王宮の外を目指した。
コルデホーザの政は、北の大国グリーシアンの制度を踏襲している。上院である元老院と下院の貴族院による二院制を採用し、会議が毎日開かれる。時には緊急会議により、一日に数度議論が交わされることも珍しくない。
元老院のほとんどは大国から移り住んだ貴族で、会議に出席する代表者は長のイーデンを含め四名。一方貴族院は、建国の祖ウィルの部下であった三名が功績を称えられ、爵位を得ることで構成された組織である。
国王は議案の最終決定権を持っているが、現在は元老院長であるイーデンが国政を取り仕切っているため、カトレアは父の崩御以後、決議された文書に目を通すのみだった。
三会議は両院が必要と判断した際、国王もしくはそれに準ずる王族が会議に同席し、議論に加わるというものだ。無論、カトレアが出席するのは初めてである。
出席の依頼はイーデンからのものだった。叔父は次のように話した。
「王女殿下に二人の騎士がついたことで、暗殺の首謀者もうかつに手が出せない状況となりました。それがヴェルダの手の者であれば尚更のこと。我々としては、そろそろ戴冠の儀の準備を再開するにあたり、王女殿下に三会議の出席を願いたいのですが」
カトレアは表面上快く承知したが、本心は今更かと不愉快だった。今まで勝手に議論を進め、決議した内容を寄越してきただけのイーデンは、カトレアが政に口を出す余地を与えないようにしていたのも同然だった。
イーデンの思惑がどうであれ、カトレアはようやく得た発言権をものにするべく、勇み足で会議室へと赴いた。今日はレイの勧めで、知的な藍天鵞絨の丈の長いドレスを着用している。騎士二人も同行した。
会議室には、長丁場の際にも居心地が良いよう大きな暖炉に火が灯され、英雄ウィルの戦いを描いた壁画が奥に飾られている。それに見守られるように、樫製の長机と人数分の豪奢な長椅子が備えてあり、カトレアが着いた頃には既に自分とレイ以外の席が埋まっていた。
カトレアは壁画を背に、レイはイーデンの隣に腰を下ろし、ジャックはカトレアの脇に起立した状態で開会した。早速イーデンが議題を述べる。
「まず、先延ばしとなっている王女殿下の戴冠の儀についてだが、五の月に行われる『百花祭』に伴い行おうと考えている。いかがかな」
「百花祭ですか。カトレア様の戴冠に相応しい頃合いですね」レイが目を細める。
百花祭とは、花々が一斉に咲き乱れ、緑鮮やかになる春をコルデホーザの象徴とし、国を称える祭である。戦時中は規模を縮小して行っているが、カトレアも両親が存命の頃は父と馬に揺られ城下町まで行進し、花で埋め尽くされた町で行われる催しの数々を設けられた高座から母に抱かれて見物したものだ。
幼い日の懐かしい情景が浮かび、カトレアも自然と口元を緩める。
イーデンの提案に、元老院の一人が胸元まである白髭を撫でつけながら意見した。
「ふむ、時季としては良い頃合いではないかの。しかし当初の予定通り、暗殺を目論む首謀者を捕らえ、処罰してからでも遅くはないと思うのじゃが」
「それについては目星がついている。生誕の宴に紛れ込んでいた下手人を絞り上げた結果、案の定ヴェルダの手の者だったそうだ」
やはりな、と次々にため息が漏れた。下手人は宴に招かれた貴族の従者に成りすまし侵入したという。
「王宮内への立ち入りについてはどうなっていたのだ? いとも簡単に賊を通すなど、まかりならぬぞ!」
警備への不信感を露わにする公爵に対し、イーデンは表情を曇らせた。
「それが、立ち入り前に取り調べをしたというのだが、どうやら私の名を出し、特別に献上するものがあるという名分で侵入したそうだ」
卓上の者たちは顔を見合わせ、重い息をつく。カトレアは身を乗り出した。
「わたしを狙うということは、首謀者はこの国に恨みを持っている……ヴェルダのアルベール王ということ?」
イーデンは深くうなずき、カトレアの瞳を真っ直ぐ見つめた。
「そうです。我が国との戦で、アルベール王の弟君が戦死しておりますからね。
我々は、王女殿下が即位したのち、すぐさまヴェルダとの戦を再開したく思います」
両院の間では既に合意していたのだろう。カトレアは顔をひきつらせ、長机を囲む者たちを見回した。
王宮は国境から遠く、国領の北西に位置する。今まで兵士や騎士団を戦地に送ってはいたものの、戦火を浴びることはなかった。王宮で育ったカトレアも、最早戦から目を背けることは出来ないのだ。
「……つまり、あなたたちは戦を再開するために、わたしを玉座に据えようとしているのね?」
会議室は沈黙に染まった。
急に呼び出したからには何か意図があるとは思っていた。カトレアは力強く長机を叩き、立ち上がった。
「この十年の間でどれだけの血が流れたと思っているの? 確かにヴェルダは仇敵なのには違いないわ。だけど、わたしは暗殺の首謀者が処罰されたら十分よ! これ以上、争いで傷つく者を出したくないのよ……!」
拳を握りうなだれるカトレアの肩に手がかけられた。ジャックの眼差しが落ち着けと訴えている。彼はカトレアがどう訴えたところで、イーデンたちが意に介さないことを知っているのだ。一方レイは異論を唱えられるはずがない。
カトレアがのろのろと着席すると、イーデンは気を削がれたように嘆息した。
「王女殿下は、戦の再開には反対だと予想しておりました。ですが、これは貴女だけの問題ではないのです。ここで仮に休戦協定でも結ぼうものなら、決着がつかず斃れていった者や、何より貴女の母君、父君が浮かばれない」
「お母様は、こんなことを望んではいないわ! 薬花によって繁栄したこの国が、その全てを排除して弔い合戦をいつまでも続けるなんて……わたしは、もう一度薬花をこの地に」
黄金色の目が、怜悧な色へと変貌した。
「あの、呪われし花を? 貴女の母君は、その薬花の研究によって亡くなられた。しかも、研究に必要な花を送ってきたのは、アルベール王の弟君なのですよ? 積もり積もった因縁の中、薬花をこの国に取り戻そうというには、それなりの算段があるのでしょうね?」
試すような、それとも所詮絵空事かとでもいうような視線が纏わりつく。カトレアは返す言葉が見つからず、唇を噛んだ。イーデンを睨みつけても、叔父は為政者としての態度を崩さない。その傍らで、レイが唇をきつく結んでいる。
この国を、イーデンたちのいいようにはさせたくない。だがそれを覆し、自分がこの国を望むようにするには、何もかも力が及ばない。カトレアは力なく席を立った。
「……退席するわ。気分が悪い」
長机に背を向けるカトレアをレイが呼び止めたが、イーデンに諌められる。呆れたような、憐れむようなため息を背に浴び、カトレアは屈辱に耐え会議室を後にした。
レイは、追ってこない。彼はイーデンの補佐となることを条件に、カトレアの騎士となったのだから。
カトレアに忠誠を誓いながらも、イーデンには絶対に背くことが出来ない。それ以外に、レイの歩む道はないのだ。
孤独感に苛まれ、立ち止まったカトレアの後を追ってくる者の気配がした。
「気取っているだけかと思っていたが、思っていたより脳みそはあるようだな」
前方に回り込んできたジャックは、腕を組み意地悪く微笑む。カトレアはドレスの裾を握りしめた。
「……わたしの望みは言うことが出来た。だけど、イーデンたちにはその選択すら毛頭ないというのが、嫌というほど分かったわ」
「それで、どうする?」
ジャックは面白がるように続きを促す。カトレアの胸には、亡き母へのやりきれなさが去来していた。
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