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暗殺完了
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凶刃にさらされた瞬間の絶望が引いていき、カトレアは痛む身体を励ましながら立ち上がった。奇妙な高揚感が湧き上がると同時に、一抹の不安がよぎる。
「何故、おまえはそんな小細工をするの? これじゃまるで、わたしを逃がして、望み通りにさせようとしているものだわ」
ジャックは短剣をしまい、そうかもな、と口元をつり上げた。
「といっても、俺の仕事はお前をラランジャへ連れて行くことではない。誰かに見つかると面倒だ。王宮を出る手助けはしてやるが、その後俺はイーデンに暗殺完了の報告をする」
ふと、イーデンの隣に控えるレイの姿が脳裏をよぎる。カトレアが腕にすがりつくと、噛まれた箇所が痛んだのか、ジャックは顔をしかめた。
「待って! イーデンの企みということは、レイもそれを承知で加担しているの!?」
イーデンが首謀者と知った時よりも、さらに大きな不安が渦巻く。あのレイが、微笑みの裏で陰謀に思考を巡らせていたと思うと、彼との温かな絆が粉々に崩れてしまうような気がした。
ジャックはカトレアを振りほどくと、真顔で返した。
「どこまで加担しているかは知らないな。だが、知らない訳がない」
「そんな……レイが」
隣室で休んでいるはずのレイが、喧騒に気づかない訳がない。それにもかかわらず、一向にやって来る気配がないのが、何よりの証拠だった。
愕然とするカトレアに構わず、ジャックは書机から便箋と羽ペン、インク壺をかっさらうと、テーブルの上に並べた。
「遺書を残せ。ついでに、レイへのお別れも書くことだな」
雑多に置かれた手紙用の一式を目の前に、カトレアは立ち尽くす。縁談の断りどころではない。この世に対する自らの断りを、書けというのか。
ジャックは舌打ちを挟み、無理矢理カトレアを椅子に着かせると羽ペンを持たせた。
「何でもいいから書け。書けないのなら、俺が大体の文面を組み立てる。これがあるかないかで、お前の自殺の信憑性は明らかに変わってくる」
つまり遺書を残すことで、偽装工作の成功確率が上がる。生きるために、今までの人生に別れを告げるのだ。
かろうじてインク壺にペン先を浸すことは出来たが、レイを思うと手は動かない。見かねたジャックが深々と嘆息し、自ら文面を口にし始めた。
もう、余計なことを考えて、心を殺したくない。カトレアは言われるがまま、遺書を便箋に書きつけた。見慣れた自分の筆跡で、誰かの悲痛な心境が綴られた。
遺書と道具を書机に散らばせると、ジャックは事務的に述べた。
「後は、遺髪が必要だ。俺がお前を暗殺した証拠としてな」
言うなり、先程の短剣を持ち直し、失意のまま座るカトレアの背後に回る。ふと、幼い頃母と交わした会話が脳裏に浮かんだ。
――おかあさま、わたしもリカステさまのような、きれいなかみのいろがよかったな。
――あら、わたしはカトレアの髪の色が大好きよ。どんな絹糸よりもなめらかで、気高い色だわ。
本来、黒髪は平民の出の証だ。王族らしからぬ成り上がりの証だと、陰で囁かれることもままあった。けれど母の言葉があったからこそ、カトレアは毎日髪を丁寧にほぐし、保湿に良い花の香油を染み込ませ、いたわってきた。
だが、遺髪をくれてやることでイーデンを欺けるのなら、惜しくはない。タルトの一切れと同じだ。
「……おまえのような男は、本来触れることもかなわないものよ。丁重に扱いなさい」
重く口にした言葉を承諾と捉えたのだろう。ジャックは内側の髪を一房すくい上げると、ためらうことなく断ち切った。一房の髪束を結んで懐にしまいこみ、男は目線を向けた。
「手筈は整った。ここから出るぞ」
立ち上がり、ありったけの荷物を詰め込んだトランクを手に取ると、ジャックはそれを奪い、中からナイフと飲み水用の革袋のみ出し足蹴にして寝台の下に滑り込ませた。戸惑いまじりの抗議の目を向けても、ジャックはびくともしない。
「王女の身の回りの品なんざ持ち歩いていたら、すぐに足がつくぞ」
一瞥をくれて、ジャックはナイフと革袋をテーブルの上に放る。咎める間もなく、有無を問わずカトレアの衣装箪笥を漁り始めた。
「何をするの!?」
止めにかかっても、ジャックは一心不乱に箪笥の中をかき回す。引きずり出したのは、着古した冬用の外套と、麻の簡素なワンピースだった。さらに革靴を見つけると、それらをカトレアに押し付け、身に着けるよう命じる。
意図は、否が応でも理解出来た。祝い事の度に仕立てさせた豪奢なドレスを着る王女は、もう存在しない。残るは、路頭に迷う一人の娘だ。
欝々とした気持ちで旅装束に着替え、適当なベルトを選ぶと、ナイフと革袋を提げた。ジャックが扉の外から手招きする。カトレアは乱雑になった私室を見渡した。
ここから離れなければ、理想はこの命もろともイーデンに握りつぶされる。なのに思い出すのは、レイと季節の茶菓子を味わいながら談笑したり、贈られた品々を部屋いっぱいに広げ、老齢の教育係に散々説教をくらった、とりとめのない記憶ばかりだ。
当たり前のように積み重ねられた日常が、カトレアを縫い止めようとする。
立ち尽くすカトレアにしびれを切らし、ジャックが手を引っ張る。今は感傷ごと置き去りにするほか、術はなかった。
ジャックが事前に追い払ったのだろう、部屋の外にいたはずの兵士は見当たらない。足音を忍ばせながら、一階の東のはずれにある裏口を介し外に出る。霧雨が王宮を包み込んでいた。
温室を横切る。カトレアがいなくとも、庭師やオリーブが花の世話をしてくれるだろうが、後ろ髪をひかれる思いで東門から出る。ジャックはイーデンから渡されたのか、東門の鍵を持っていた。
後方には轟々としぶきを上げる滝がそびえ、丘陵地帯の下方には城下町の町並みが仄暗い影をかたどっている。
ジャックはようやく手を放し、滝の方に頭を巡らせた。
「あの急流に身を投げたお前は、朝方には下流の方に流されているだろう。捜索には数日を要する。イーデンは体面上、捜索隊を派遣するだろう」
体面上。イーデンにこの上なくぴったりの響きは、カトレアの扱いそのものだ。
「わたしの遺体が見つからなかったら、おまえは証拠不十分にならないの?」
「俺がお前を殺害後、自殺に見せかけて滝底に遺体を投げ込んだと話せば、いずれにせよ好都合だ。水死体が見つからないのは、よくある話だ」
当の本人を目の前にして、よくも淡々と言ってのけられるものだ。寒気がして、カトレアは外套をきつく巻き付けた。
「馬を連れて行きたいところだけど、どうせ足がつくと言うのでしょう?」
「論外だ。言っただろ、王宮を出る手助けはしてやるが、俺はこの後部屋に戻って寝る」
「それじゃあ、わたしはこれから着の身着のままで、一人ラランジャを目指すという訳?」
言い募り、カトレアは別の思惑を読み取る。感情の起伏に乏しい暗殺者から、一歩退く。
「まさか……このままわたしをのたれ死なせるのが、おまえの本来の目的なの?」
ジャックはさあな、と肩をすくめ、底意地の悪い笑みを浮かべた。
「戦い方を、知っていくんだろう? 繰り返すが、俺はお前の騎士じゃない。後はお前次第だ」
あっけないほどに、ジャックは踵を返し元来た道を歩いていく。後を追い、手を伸ばすが空を切る。ジャックがこちらを顧みる様子はない。
今まで、親しい人を失っても、誰かにしがみつくことで何とか立ち、歩くことが出来た。それはレイだったり、時にはジャックでもあった。
カトレアがしがみつく柱は、もう一本もない。自分を支えていた王女という主柱すら、切り落とされたのだ。
最早、蘭姫の名など無意味に等しい。今のカトレアは、道端に投げ捨てられた一輪の花でしかない。
カトレアは、進むことも戻ることも出来ずに、霧雨の中にしばらく立ち尽くしていた。
「何故、おまえはそんな小細工をするの? これじゃまるで、わたしを逃がして、望み通りにさせようとしているものだわ」
ジャックは短剣をしまい、そうかもな、と口元をつり上げた。
「といっても、俺の仕事はお前をラランジャへ連れて行くことではない。誰かに見つかると面倒だ。王宮を出る手助けはしてやるが、その後俺はイーデンに暗殺完了の報告をする」
ふと、イーデンの隣に控えるレイの姿が脳裏をよぎる。カトレアが腕にすがりつくと、噛まれた箇所が痛んだのか、ジャックは顔をしかめた。
「待って! イーデンの企みということは、レイもそれを承知で加担しているの!?」
イーデンが首謀者と知った時よりも、さらに大きな不安が渦巻く。あのレイが、微笑みの裏で陰謀に思考を巡らせていたと思うと、彼との温かな絆が粉々に崩れてしまうような気がした。
ジャックはカトレアを振りほどくと、真顔で返した。
「どこまで加担しているかは知らないな。だが、知らない訳がない」
「そんな……レイが」
隣室で休んでいるはずのレイが、喧騒に気づかない訳がない。それにもかかわらず、一向にやって来る気配がないのが、何よりの証拠だった。
愕然とするカトレアに構わず、ジャックは書机から便箋と羽ペン、インク壺をかっさらうと、テーブルの上に並べた。
「遺書を残せ。ついでに、レイへのお別れも書くことだな」
雑多に置かれた手紙用の一式を目の前に、カトレアは立ち尽くす。縁談の断りどころではない。この世に対する自らの断りを、書けというのか。
ジャックは舌打ちを挟み、無理矢理カトレアを椅子に着かせると羽ペンを持たせた。
「何でもいいから書け。書けないのなら、俺が大体の文面を組み立てる。これがあるかないかで、お前の自殺の信憑性は明らかに変わってくる」
つまり遺書を残すことで、偽装工作の成功確率が上がる。生きるために、今までの人生に別れを告げるのだ。
かろうじてインク壺にペン先を浸すことは出来たが、レイを思うと手は動かない。見かねたジャックが深々と嘆息し、自ら文面を口にし始めた。
もう、余計なことを考えて、心を殺したくない。カトレアは言われるがまま、遺書を便箋に書きつけた。見慣れた自分の筆跡で、誰かの悲痛な心境が綴られた。
遺書と道具を書机に散らばせると、ジャックは事務的に述べた。
「後は、遺髪が必要だ。俺がお前を暗殺した証拠としてな」
言うなり、先程の短剣を持ち直し、失意のまま座るカトレアの背後に回る。ふと、幼い頃母と交わした会話が脳裏に浮かんだ。
――おかあさま、わたしもリカステさまのような、きれいなかみのいろがよかったな。
――あら、わたしはカトレアの髪の色が大好きよ。どんな絹糸よりもなめらかで、気高い色だわ。
本来、黒髪は平民の出の証だ。王族らしからぬ成り上がりの証だと、陰で囁かれることもままあった。けれど母の言葉があったからこそ、カトレアは毎日髪を丁寧にほぐし、保湿に良い花の香油を染み込ませ、いたわってきた。
だが、遺髪をくれてやることでイーデンを欺けるのなら、惜しくはない。タルトの一切れと同じだ。
「……おまえのような男は、本来触れることもかなわないものよ。丁重に扱いなさい」
重く口にした言葉を承諾と捉えたのだろう。ジャックは内側の髪を一房すくい上げると、ためらうことなく断ち切った。一房の髪束を結んで懐にしまいこみ、男は目線を向けた。
「手筈は整った。ここから出るぞ」
立ち上がり、ありったけの荷物を詰め込んだトランクを手に取ると、ジャックはそれを奪い、中からナイフと飲み水用の革袋のみ出し足蹴にして寝台の下に滑り込ませた。戸惑いまじりの抗議の目を向けても、ジャックはびくともしない。
「王女の身の回りの品なんざ持ち歩いていたら、すぐに足がつくぞ」
一瞥をくれて、ジャックはナイフと革袋をテーブルの上に放る。咎める間もなく、有無を問わずカトレアの衣装箪笥を漁り始めた。
「何をするの!?」
止めにかかっても、ジャックは一心不乱に箪笥の中をかき回す。引きずり出したのは、着古した冬用の外套と、麻の簡素なワンピースだった。さらに革靴を見つけると、それらをカトレアに押し付け、身に着けるよう命じる。
意図は、否が応でも理解出来た。祝い事の度に仕立てさせた豪奢なドレスを着る王女は、もう存在しない。残るは、路頭に迷う一人の娘だ。
欝々とした気持ちで旅装束に着替え、適当なベルトを選ぶと、ナイフと革袋を提げた。ジャックが扉の外から手招きする。カトレアは乱雑になった私室を見渡した。
ここから離れなければ、理想はこの命もろともイーデンに握りつぶされる。なのに思い出すのは、レイと季節の茶菓子を味わいながら談笑したり、贈られた品々を部屋いっぱいに広げ、老齢の教育係に散々説教をくらった、とりとめのない記憶ばかりだ。
当たり前のように積み重ねられた日常が、カトレアを縫い止めようとする。
立ち尽くすカトレアにしびれを切らし、ジャックが手を引っ張る。今は感傷ごと置き去りにするほか、術はなかった。
ジャックが事前に追い払ったのだろう、部屋の外にいたはずの兵士は見当たらない。足音を忍ばせながら、一階の東のはずれにある裏口を介し外に出る。霧雨が王宮を包み込んでいた。
温室を横切る。カトレアがいなくとも、庭師やオリーブが花の世話をしてくれるだろうが、後ろ髪をひかれる思いで東門から出る。ジャックはイーデンから渡されたのか、東門の鍵を持っていた。
後方には轟々としぶきを上げる滝がそびえ、丘陵地帯の下方には城下町の町並みが仄暗い影をかたどっている。
ジャックはようやく手を放し、滝の方に頭を巡らせた。
「あの急流に身を投げたお前は、朝方には下流の方に流されているだろう。捜索には数日を要する。イーデンは体面上、捜索隊を派遣するだろう」
体面上。イーデンにこの上なくぴったりの響きは、カトレアの扱いそのものだ。
「わたしの遺体が見つからなかったら、おまえは証拠不十分にならないの?」
「俺がお前を殺害後、自殺に見せかけて滝底に遺体を投げ込んだと話せば、いずれにせよ好都合だ。水死体が見つからないのは、よくある話だ」
当の本人を目の前にして、よくも淡々と言ってのけられるものだ。寒気がして、カトレアは外套をきつく巻き付けた。
「馬を連れて行きたいところだけど、どうせ足がつくと言うのでしょう?」
「論外だ。言っただろ、王宮を出る手助けはしてやるが、俺はこの後部屋に戻って寝る」
「それじゃあ、わたしはこれから着の身着のままで、一人ラランジャを目指すという訳?」
言い募り、カトレアは別の思惑を読み取る。感情の起伏に乏しい暗殺者から、一歩退く。
「まさか……このままわたしをのたれ死なせるのが、おまえの本来の目的なの?」
ジャックはさあな、と肩をすくめ、底意地の悪い笑みを浮かべた。
「戦い方を、知っていくんだろう? 繰り返すが、俺はお前の騎士じゃない。後はお前次第だ」
あっけないほどに、ジャックは踵を返し元来た道を歩いていく。後を追い、手を伸ばすが空を切る。ジャックがこちらを顧みる様子はない。
今まで、親しい人を失っても、誰かにしがみつくことで何とか立ち、歩くことが出来た。それはレイだったり、時にはジャックでもあった。
カトレアがしがみつく柱は、もう一本もない。自分を支えていた王女という主柱すら、切り落とされたのだ。
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