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崩壊
疑惑
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先生によると、亜梨沙は風邪で休みだということだった。本当に風邪なのかどうか、私にはわからない。けれど、私は、どうしたらいいのだろう。いや、できることなど、今の状況ではなにもないんだけれど。
学校が終わったら、亜梨沙の家にお見舞いに行ってみようか?
今朝の私なら、迷わずそうしただろう。でも、今は。
私は、亜梨沙に避けられている。それは、たぶん、確定で。とすると、私は……どうしたらいいんだろう。
こういう場合、どう対処するべきなのだろう。わからない。泣きたかった。
こんな風に拒絶されるのは、初めてかもしれない。親友だと思っていた人に拒絶されることが、こんなにもつらいものだなんて、知らなかった。
誰とも話したくなくて、私はそっと教室を出る。休み時間ということで、廊下には生徒が結構いた。トイレにでも行こうかと思った。
私の所属する一組からトイレまでは、近い。けれど、故障中で使えない個室がふたつもあって、混み合ってしまう。だから、私は反対側の西階段のほうのトイレに向かう。
廊下を横断するので、否応なしに各教室の様子が目に入る。三組の教室に近づくと、不意に、そこは駿河くんのいる組だということを思い出した。今日は亜梨沙のことが気になっていて、駿河くんのことをすっかり忘れていた。
いったん思い出すと気になってしまって、私は三組の教室のドアを見る。すると、廊下の壁に貼られた掲示板の前に、その駿河くんが立っているのに気づいた。
はっとする。
彼と話しているのは、彼のそばにいるのは、いつものふたりの男子じゃなかった。
女の子。綺麗な髪をしていて、気が強そうな、美人だった。
誰、と考えるまでもなかった。親しげなその様子、まるで互いのことを昔から知っているような、そんな気安い雰囲気。
橋田さん、なんだろう。
私は今まで、彼女を見たことはなかった。でも、気づかなかっただけで、見かけてはいたのかもしれない。てっきり、違う学校なのだと思っていたから、気づかなかったのかもしれない。
でも、そんなことよりも、ふたりから目を離せない。
がやがやと周りは騒がしいはずなのに、なぜか、ふたりの会話が明瞭に耳に飛び込んでくる。
「――そういえば、あたしのあげたストラップ、してくれてる?」
「うん、ちゃんとしてるよ」
駿河くんは周りを気にしながら、ポケットからケータイを取り出した。そして、彼女に向けてそれを左右に振る。ケータイにつけられたストラップがふたつ、チャラチャラと鳴った。緑色のビーズでできたクマのストラップと、半透明の青い六面体のストラップ。
橋田さんは、嬉しそうにクマのストラップのほうを手に取った。
「あ、ほんとだ、嬉しい。ありがとー」
それから、六面体のストラップのほうも手に取る。軽く首を傾げたのが、私にもわかった。
「こっちは? 前はつけてなかったよね?」
「ああ、それは」
駿河くんは眩しい笑顔を見せた。それが、少し照れくさそうに見えた。いつもの友人たちといるときには見たことのない、その表情。
「もらったんだ」
ああ、と思う。私は何も知らなかった。
もしかしたら、あの五日前に見かけた駿河くんは、あのあと橋田さんと会ったんじゃないだろうか。待ち合わせの相手は、彼女だったんじゃないのか。
心臓に水をかけられたような、そんなヒヤッとした気分になる。
本当に、泣きたい気分だ。
私は足早に、ふたりの前を通り過ぎる。そのとき、橋田さんの、
「亜梨沙ちゃんのことだけど――」
という言葉が聞こえた。
亜梨沙。
彼女は、駿河くんと橋田さんが一緒に出掛けたことを、知っているのだろうか。私に連絡してこないのは、それが私にばれることを恐れて? 私に気を使っているの?
それとも……
そこまで考えて、私は最大級にヒヤッとした。
もしかして、亜梨沙は、ふたりのデートに協力したんじゃないだろうか?
学校が終わったら、亜梨沙の家にお見舞いに行ってみようか?
今朝の私なら、迷わずそうしただろう。でも、今は。
私は、亜梨沙に避けられている。それは、たぶん、確定で。とすると、私は……どうしたらいいんだろう。
こういう場合、どう対処するべきなのだろう。わからない。泣きたかった。
こんな風に拒絶されるのは、初めてかもしれない。親友だと思っていた人に拒絶されることが、こんなにもつらいものだなんて、知らなかった。
誰とも話したくなくて、私はそっと教室を出る。休み時間ということで、廊下には生徒が結構いた。トイレにでも行こうかと思った。
私の所属する一組からトイレまでは、近い。けれど、故障中で使えない個室がふたつもあって、混み合ってしまう。だから、私は反対側の西階段のほうのトイレに向かう。
廊下を横断するので、否応なしに各教室の様子が目に入る。三組の教室に近づくと、不意に、そこは駿河くんのいる組だということを思い出した。今日は亜梨沙のことが気になっていて、駿河くんのことをすっかり忘れていた。
いったん思い出すと気になってしまって、私は三組の教室のドアを見る。すると、廊下の壁に貼られた掲示板の前に、その駿河くんが立っているのに気づいた。
はっとする。
彼と話しているのは、彼のそばにいるのは、いつものふたりの男子じゃなかった。
女の子。綺麗な髪をしていて、気が強そうな、美人だった。
誰、と考えるまでもなかった。親しげなその様子、まるで互いのことを昔から知っているような、そんな気安い雰囲気。
橋田さん、なんだろう。
私は今まで、彼女を見たことはなかった。でも、気づかなかっただけで、見かけてはいたのかもしれない。てっきり、違う学校なのだと思っていたから、気づかなかったのかもしれない。
でも、そんなことよりも、ふたりから目を離せない。
がやがやと周りは騒がしいはずなのに、なぜか、ふたりの会話が明瞭に耳に飛び込んでくる。
「――そういえば、あたしのあげたストラップ、してくれてる?」
「うん、ちゃんとしてるよ」
駿河くんは周りを気にしながら、ポケットからケータイを取り出した。そして、彼女に向けてそれを左右に振る。ケータイにつけられたストラップがふたつ、チャラチャラと鳴った。緑色のビーズでできたクマのストラップと、半透明の青い六面体のストラップ。
橋田さんは、嬉しそうにクマのストラップのほうを手に取った。
「あ、ほんとだ、嬉しい。ありがとー」
それから、六面体のストラップのほうも手に取る。軽く首を傾げたのが、私にもわかった。
「こっちは? 前はつけてなかったよね?」
「ああ、それは」
駿河くんは眩しい笑顔を見せた。それが、少し照れくさそうに見えた。いつもの友人たちといるときには見たことのない、その表情。
「もらったんだ」
ああ、と思う。私は何も知らなかった。
もしかしたら、あの五日前に見かけた駿河くんは、あのあと橋田さんと会ったんじゃないだろうか。待ち合わせの相手は、彼女だったんじゃないのか。
心臓に水をかけられたような、そんなヒヤッとした気分になる。
本当に、泣きたい気分だ。
私は足早に、ふたりの前を通り過ぎる。そのとき、橋田さんの、
「亜梨沙ちゃんのことだけど――」
という言葉が聞こえた。
亜梨沙。
彼女は、駿河くんと橋田さんが一緒に出掛けたことを、知っているのだろうか。私に連絡してこないのは、それが私にばれることを恐れて? 私に気を使っているの?
それとも……
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