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2.ランメルトの想い
しおりを挟む「どうでしたか、ランメルト様」
騎士団の宿舎に戻ってきたランメルトに声をかけてきたのは、朝の紅茶を優雅に口にしていた部下のリュカである。
「ああ。とても喜んでいたよ」
にこやかな笑顔を見せたランメルトに対して、リュカはティーカップをソーサーに戻して目を輝かせた。
「ほらぁ! 薔薇より効果あったでしょう? で、で? やっと告白できたんですね?」
リュカは身を乗り出して尋ねる。
「それはしていない」
「はあぁ? またですか?」
きっぱりと答えたランメルトに、リュカは椅子にぐったり体重を預けて大きなため息をつく。
アリスの笑顔が見られただけで幸せだ、とランメルトは心の中で呟きながらマントを脱いで壁のフックにかける。
「アリスは俺の話をまったく聞いていなかったし、手が触れても一切動揺がなかった。もう脈ナシかもしれない……」
薬草を摘んでいた手は少し冷たくて、ぎゅっと握って温めてやりたかった。そう思わせてくれるのはアリスだけだというのに。
「はっきり好きだと言えばいいじゃないですか。というかランメルト・ルーセル公爵閣下からの求婚なんて平民が断れるわけ――」
「そんな権力を振りかざすような卑怯な真似はしたくない。アリスの気持ちの方が大事だろう!」
ランメルトは机にバンと勢いよく手を置く。
変な所で頑固なんだから……とリュカは苦笑いを浮かべるが、そういう不器用な所が団長のいい所なので生温く見守るしかないのだ。
「このまま進展しなくてもいいんですか~?」
リュカは肩をすくめて、冷めかけた紅茶に口をつける。
「それならそれでもいい。一目見るなり媚びを売ってくる女たちと違って、俺に全然興味を示さないところがまたいいんだ」
「ぶはっ! やべーですね、それ」
リュカは飲んでいた琥珀色のを噴き出した。
「じゃあいきなりデレてきたらどうします?」
「それはそれでかわいいから許す」
そんな彼女の様子を想像しているのか、わずかに耳を赤くしているランメルトがかわいいとリュカは思ったが、それは口に出したら怒られそうなのでやめた。
「……幸運を祈ります!」
ハンカチで口元を綺麗にしながらリュカは爽やかに笑った。
「いや、面白がっているだろう、おまえ」
ランメルトはジト目で部下を軽く睨む。
初めてアリスと出会ったのは、王国の南部で頻発していた盗賊団を鎮圧し、王宮に帰還した時だった。敵勢が多く、手持ちの回復薬が足りなくて、急いで追加の薬を依頼した時、押し寄せてきた女性たち。自分の他にも重傷者がいるというのに、彼女たちは恩着せがましくランメルト一直線だった。
さすがにブチ切れそうになった時、一人の娘がくるくると宿舎の広場を駆け回っている様子が目に入った。籠いっぱいの回復薬を手にして、的確に重症度の高い者から薬を渡していた。懸命な姿、励ます笑顔、そしてランメルトを見てもまったく表情も態度も他の人間と変わらない姿勢――早朝に咲く水晶花のように清らかで純真な輝きをもつ彼女にたまらなく惹かれた。
だが、子供の頃から整った面立ちの彼は常に女性に囲まれていたため、その秋波に辟易し、女性を拒絶する体になっていた。そのせいか、自分がもし相手に同じことをして同じように拒絶されたらどうしようという恐怖が心を覆い、まっすぐに気持ちを伝えることができないでいた。
リュカには深く考えすぎですよと笑われるのだが、あの男はむしろ女慣れしすぎているのであまり当てにならない。
競技会で一位になればアリスも王宮専属薬草師として、騎士団の宿舎に訪れる機会が増える。
今の関係が続けば、きっとアリスもランメルトの気持ちを察してくれるにちがいない。
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