見習い薬草師はイケメン騎士団長からの察してくれアピールを察せない

宮永レン

文字の大きさ
2 / 5

2.ランメルトの想い

しおりを挟む

「どうでしたか、ランメルト様」

 騎士団の宿舎に戻ってきたランメルトに声をかけてきたのは、朝の紅茶を優雅に口にしていた部下のリュカである。



「ああ。とても喜んでいたよ」

 にこやかな笑顔を見せたランメルトに対して、リュカはティーカップをソーサーに戻して目を輝かせた。



「ほらぁ! 薔薇より効果あったでしょう? で、で? やっと告白できたんですね?」

 リュカは身を乗り出して尋ねる。



「それはしていない」



「はあぁ? またですか?」

 きっぱりと答えたランメルトに、リュカは椅子にぐったり体重を預けて大きなため息をつく。



 アリスの笑顔が見られただけで幸せだ、とランメルトは心の中で呟きながらマントを脱いで壁のフックにかける。



「アリスは俺の話をまったく聞いていなかったし、手が触れても一切動揺がなかった。もう脈ナシかもしれない……」

 薬草を摘んでいた手は少し冷たくて、ぎゅっと握って温めてやりたかった。そう思わせてくれるのはアリスだけだというのに。



「はっきり好きだと言えばいいじゃないですか。というかランメルト・ルーセル公爵閣下からの求婚なんて平民が断れるわけ――」



「そんな権力を振りかざすような卑怯な真似はしたくない。アリスの気持ちの方が大事だろう!」

 ランメルトは机にバンと勢いよく手を置く。



 変な所で頑固なんだから……とリュカは苦笑いを浮かべるが、そういう不器用な所が団長のいい所なので生温く見守るしかないのだ。



「このまま進展しなくてもいいんですか~?」

 リュカは肩をすくめて、冷めかけた紅茶に口をつける。



「それならそれでもいい。一目見るなり媚びを売ってくる女たちと違って、俺に全然興味を示さないところがまたいいんだ」



「ぶはっ! やべーですね、それ」

 リュカは飲んでいた琥珀色のを噴き出した。



「じゃあいきなりデレてきたらどうします?」



「それはそれでかわいいから許す」

 そんな彼女の様子を想像しているのか、わずかに耳を赤くしているランメルトがかわいいとリュカは思ったが、それは口に出したら怒られそうなのでやめた。



「……幸運を祈ります!」

 ハンカチで口元を綺麗にしながらリュカは爽やかに笑った。



「いや、面白がっているだろう、おまえ」

 ランメルトはジト目で部下を軽く睨む。



 初めてアリスと出会ったのは、王国の南部で頻発していた盗賊団を鎮圧し、王宮に帰還した時だった。敵勢が多く、手持ちの回復薬が足りなくて、急いで追加の薬を依頼した時、押し寄せてきた女性たち。自分の他にも重傷者がいるというのに、彼女たちは恩着せがましくランメルト一直線だった。



 さすがにブチ切れそうになった時、一人の娘がくるくると宿舎の広場を駆け回っている様子が目に入った。籠いっぱいの回復薬を手にして、的確に重症度の高い者から薬を渡していた。懸命な姿、励ます笑顔、そしてランメルトを見てもまったく表情も態度も他の人間と変わらない姿勢――早朝に咲く水晶花のように清らかで純真な輝きをもつ彼女にたまらなく惹かれた。



 だが、子供の頃から整った面立ちの彼は常に女性に囲まれていたため、その秋波に辟易し、女性を拒絶する体になっていた。そのせいか、自分がもし相手に同じことをして同じように拒絶されたらどうしようという恐怖が心を覆い、まっすぐに気持ちを伝えることができないでいた。



 リュカには深く考えすぎですよと笑われるのだが、あの男はむしろ女慣れしすぎているのであまり当てにならない。



 競技会で一位になればアリスも王宮専属薬草師として、騎士団の宿舎に訪れる機会が増える。

 今の関係が続けば、きっとアリスもランメルトの気持ちを察してくれるにちがいない。




しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

王太子殿下の想い人が騎士団長だと知った私は、張り切って王太子殿下と婚約することにしました!

奏音 美都
恋愛
 ソリティア男爵令嬢である私、イリアは舞踏会場を離れてバルコニーで涼んでいると、そこに王太子殿下の逢引き現場を目撃してしまいました。  そのお相手は……ロワール騎士団長様でした。  あぁ、なんてことでしょう……  こんな、こんなのって……尊すぎますわ!!

【完結】余命半年の元聖女ですが、最期くらい騎士団長に恋をしてもいいですか?

金森しのぶ
恋愛
神の声を聞く奇跡を失い、命の灯が消えかけた元・聖女エルフィア。 余命半年の宣告を受け、静かに神殿を去った彼女が望んだのは、誰にも知られず、人のために最後の時間を使うこと――。 しかし運命は、彼女を再び戦場へと導く。 かつて命を賭して彼女を守った騎士団長、レオン・アルヴァースとの再会。 偽名で身を隠しながら、彼のそばで治療師見習いとして働く日々。 笑顔と優しさ、そして少しずつ重なる想い。 だけど彼女には、もう未来がない。 「これは、人生で最初で最後の恋でした。――でもそれは、永遠になりました。」 静かな余生を願った元聖女と、彼女を愛した騎士団長が紡ぐ、切なくて、温かくて、泣ける恋物語。 余命×再会×片恋から始まる、ほっこりじんわり異世界ラブストーリー。

好きすぎます!※殿下ではなく、殿下の騎獣が

和島逆
恋愛
「ずっと……お慕い申し上げておりました」 エヴェリーナは伯爵令嬢でありながら、飛空騎士団の騎獣世話係を目指す。たとえ思いが叶わずとも、大好きな相手の側にいるために。 けれど騎士団長であり王弟でもあるジェラルドは、自他ともに認める女嫌い。エヴェリーナの告白を冷たく切り捨てる。 「エヴェリーナ嬢。あいにくだが」 「心よりお慕いしております。大好きなのです。殿下の騎獣──……ライオネル様のことが!」 ──エヴェリーナのお目当ては、ジェラルドではなく獅子の騎獣ライオネルだったのだ。

大好きだけど、結婚はできません!〜強面彼氏に強引に溺愛されて、困っています〜

楠結衣
恋愛
冷たい川に落ちてしまったリス獣人のミーナは、薄れゆく意識の中、水中を飛ぶような速さで泳いできた一人の青年に助け出される。 ミーナを助けてくれた鍛冶屋のリュークは、鋭く睨むワイルドな人で。思わず身をすくませたけど、見た目と違って優しいリュークに次第に心惹かれていく。 さらに結婚を前提の告白をされてしまうのだけど、リュークの夢は故郷で鍛冶屋をひらくことだと告げられて。 (リュークのことは好きだけど、彼が住むのは北にある氷の国。寒すぎると冬眠してしまう私には無理!) と断ったのに、なぜか諦めないリュークと期限付きでお試しの恋人に?! 「泊まっていい?」 「今日、泊まってけ」 「俺の故郷で結婚してほしい!」 あまく溺愛してくるリュークに、ミーナの好きの気持ちは加速していく。 やっぱり、氷の国に一緒に行きたい!寒さに慣れると決意したミーナはある行動に出る……。 ミーナの一途な想いの行方は?二人の恋の結末は?! 健気でかわいいリス獣人と、見た目が怖いのに甘々なペンギン獣人の恋物語。 一途で溺愛なハッピーエンドストーリーです。 *小説家になろう様でも掲載しています

【完結】「君を愛することはない」ということですが、いつ溺愛して下さいますか?

天堂 サーモン
恋愛
「君を愛することはない」初夜にそう言い放たれたクラリッサはとりあえず寝た。そして翌日、侍女のミーナからあるジンクスを伝え聞く。 ―初夜の「君を愛することはない」いう発言は『溺愛』を呼ぶのだと。 クラリッサはそのジンクスを信じるでもなく、面白がりながら新婚生活を送る。けれど冷徹な夫・フリードリヒには誰にも言えない秘密があって……

優しすぎる王太子に妃は現れない

七宮叶歌
恋愛
『優しすぎる王太子』リュシアンは国民から慕われる一方、貴族からは優柔不断と見られていた。 没落しかけた伯爵家の令嬢エレナは、家を救うため王太子妃選定会に挑み、彼の心を射止めようと決意する。 だが、選定会の裏には思わぬ陰謀が渦巻いていた。翻弄されながらも、エレナは自分の想いを貫けるのか。 国が繁栄する時、青い鳥が現れる――そんな伝承のあるフェラデル国で、優しすぎる王太子と没落令嬢の行く末を、青い鳥は見守っている。

冷徹公爵閣下は、書庫の片隅で私に求婚なさった ~理由不明の政略結婚のはずが、なぜか溺愛されています~

白桃
恋愛
「お前を私の妻にする」――王宮書庫で働く地味な子爵令嬢エレノアは、ある日突然、<氷龍公爵>と恐れられる冷徹なヴァレリウス公爵から理由も告げられず求婚された。政略結婚だと割り切り、孤独と不安を抱えて嫁いだ先は、まるで氷の城のような公爵邸。しかし、彼女が唯一安らぎを見出したのは、埃まみれの広大な書庫だった。ひたすら書物と向き合う彼女の姿が、感情がないはずの公爵の心を少しずつ溶かし始め…? 全7話です。

メイド令嬢は毎日磨いていた石像(救国の英雄)に求婚されていますが、粗大ゴミの回収は明日です

有沢楓花
恋愛
エセル・エヴァット男爵令嬢は、二つの意味で名が知られている。 ひとつめは、金遣いの荒い実家から追い出された可哀想な令嬢として。ふたつめは、何でも綺麗にしてしまう凄腕メイドとして。 高給を求めるエセルの次の職場は、郊外にある老伯爵の汚屋敷。 モノに溢れる家の終活を手伝って欲しいとの依頼だが――彼の偉大な魔法使いのご先祖様が残した、屋敷のガラクタは一筋縄ではいかないものばかり。 高価な絵画は勝手に話し出し、鎧はくすぐったがって身よじるし……ご先祖様の石像は、エセルに求婚までしてくるのだ。 「毎日磨いてくれてありがとう。結婚してほしい」 「石像と結婚できません。それに伯爵は、あなたを魔法資源局の粗大ゴミに申し込み済みです」 そんな時、エセルを後妻に貰いにきた、という男たちが現れて連れ去ろうとし……。 ――かつての救国の英雄は、埃まみれでひとりぼっちなのでした。 この作品は他サイトにも掲載しています。

処理中です...