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72夜会 3

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「早く踊りましょう、クラード様~で次は、シリル様よ。そちらに並んでいて」
と満面の笑みで言っている。
優先順位は自分が一番らしい。他国の王子の話も聞かない…

「まずは、話を聞きたいのですが、ルーベラ王女殿下…食事を別室に用意しますのでご一緒に移動していただけませんか?」
と丁寧にクラード殿下は言っているけど、その表情はとても固い。

「いやよ。私は踊りたいのです!」
と不貞腐れた表情になった。どう見ても化粧やドレスを着ている姿は、9才よりも大人ぽく見える。それは手足が長く身長も9才にしては高いからだろうか?

貴賓席に座る時も確かに子供扱いだったような…なら何故ブランカ先輩に突然噛みついてきたんだろう。
でも今の言葉は子供的な…駄々を捏ねてる子供みたいで…笑顔は本物にしか見えない。さっきの言葉とチグハグでブランカ先輩には、決まった定型文をいわされていた?
この違和感、怖いと感じたのは、あの時ミンネも無理矢理言葉を言わされていた時に感じた強制的な危険のような。

この方に王女としての威厳とか気品とかを感じない。
我儘な貴族令嬢ぽい…

またトリウミ王国の貴族がやって来たのを見て、クラウス殿下が、
「クラード、姫君のお願いを叶えてあげなさい」
と言えば、クラード殿下も状況を見てから、王女様に手を出しダンスを誘った。

私達は、興が冷めたというべきか壁際に移動する。クラウス殿下がシルベルト様とシリル殿下に、別室の準備を手配しておくべきと指示した。

私を心配そうに見るシルベルト様に、
「はい大丈夫ですよ。ブランカ先輩やカミューラ様とこちらでお待ちしております」
と伝えれば、困ったような顔をしたが、
「すぐ戻る」
と言って足早に扉の方に向かった。

ここで残っているのは、クラウス殿下、カミューラ様、ブランカ先輩、私…こんな時にログワット様はどちらに行ったのかしら?
チラッとルーベラ王女を見れば、楽しそうに踊っている。その姿は少女だった。化粧の下に隠れている本当の顔は、やっぱり少女じゃないのかしらと考えに耽っていると、

すぐに状況が変わった。

まず、クラウス殿下の周りに挨拶したい貴族が集まってきて、次にカミューラ様にシリル殿下との関係を聞きたい令嬢達やご夫人方が集まってきた。そうすれば、もちろんブランカ先輩とクラード殿下の関係が気になる方達ばかりで、ブランカ先輩もあっという間に飲み込まれた…

「あれ?」
気づけば、私、一人…

人の集りが左と右に出来ていて、私がまるで谷間のようにポツンと一人。

ウエイターが飲み物をちょうど近くまで配りに来ていたので、取りに移動する。

「果実水を頂けませんか?」
と聞くと、そのウエイターは、
「申し訳ございません、私は、アルコールしかご用意しておりません。果実水なら、扉の近くの女性が給仕しております」
と言われ、ちらりと後ろを見るとまだ賑やかに問い詰められている惨状を見て、あの中には入りたくないと思う。飲み物ぐらい取りに行ってもと、周りに告げずに果実水を取りに行った。

「果実水をください」

「はい」
と渡されたグラスは、手袋からスルリと抜け落ちた。

給仕の女性が持っていたハンカチ、それが最後見た光景だ。



そして現在…別室にいる。
カバーがかかったソファーに横になっている。縛られてはいない。痛みもなかった。ただ頭がすこしボゥーとしている。
微かに夜会の音楽が聴こえてくる。
まだ王宮のどこかにいるらしい。

扉の側に見張りの騎士二名…
どうして、私?

あぁ、あの時給仕の女性にハンカチを顔に当てられ、気を失ったんだわ。
あの時グラスが割れた音が鳴らなかったのかしら?
誰にも気づかれず、この場所に運びこまれた?普通ならありえない。だって王宮よ、入り口にも騎士が立っていたわ。

考えようとしても、あの時の状況が、あの場面で切られていて、どうしてここに辿りついたかわからない。

これは、まずいわ、シルベルト様にも皆さんにもご心配をおかけしてしまうわ。

…でも何故私?

扉を叩く音
「準備ができた。すぐに移動する」
とメイドが一名、シーツなどを回収する荷台車を持って現れた。

移動?外に出るって事?身体が勝手に震える。震えるとドレスが擦れる音が鳴ってしまった。

「すぐ目覚めたな」
こちらを見られた。

「仕方ないわよ、顔に当てられたのなんて少しの時間よ」
と言ったのは、給仕のメイド。

「静かにしてもらえますかね、こちらも手荒な真似はしたくないので」
と騎士が私の側にやってくる。

すぐという言葉にあれから時間が経ってない事に安堵した。

「どうして、私?」
震える声で聞くと、
「黙りなさい」
とまだ鞘に入った剣を当てられた。本気というのを見せてきたらしい。

「気づいたのなら、早く行動に移した方がいいわ。連絡はしてあるの、急いで」

ガラガラと荷台車が室内に入れば、剣を私に向けている騎士が、中に入れと促す。
こんな狭い中、頭が飛び出してしまうわよ。
震える足で立ち上がる。
それが逃げようと算段していると見えたのか、遅いと判断されたのか、もう一人の騎士が、私を抱え、その中に無理矢理入れた。
ガタンと大きな音と背中や腰に痛みが伴う。

「痛っ」
と言えば、私を放った騎士と目が合う。

「三人の内だれでも良かったんだ、運が悪いと諦めな」
とボソッと言った。

三人?私とカミューラ様とブランカ先輩ってこと?お金目的の人攫いではない?

「余計なこと言わないで、行くわよ」
と上から乱雑にシーツを押し当てられた。それもかなり押し込む勢いで…
せっかく公爵家のメイドさんに髪を巻いてもらったのに…綺麗にしてもらったのに。

『運が悪い』ですって

確かにこの状況、最悪だわ。一体何のためにかがわからないですもの。でも、その言葉は御法度よ。
散々、運の悪いビルド侯爵家と言われやってきた私にとって、その言葉は悔しいけど、自分を奮い立たせるトリガーになった。

諦めてやるものか!

私は、この荷台車の籠の中で体勢を整えた。
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