【完結】名前もない悪役令嬢の従姉妹は、愛されエキストラでした

犬野きらり

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35夏休み

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交流会は、あのまま流れて夏休みに入った。あの後から、生徒会メンバーはみんな忙しそうで、生徒会室には来なかった。
私は、最後片付けと記録だけ書き残した。チラッと見た今までの生徒会の議事録だけみても、ローズリーさんが、どれだけ優秀だったかわかる。
バタンと閉めた扉がとても重かった。

私は、領地に向かった。早く学園から出たかった。エリオンが手配してくれた馬車に乗り、エリオンにも少し領地でのんびりした方がいいと告げた。

私は、エリオンに言い出せなかった。私がローズリーさんにもう一つ警備隊を増やした方が良いと言ったこと、警備隊がローズリーさんのご実家の警備隊だと知っていたこと、アステリア王国の関係者ばかりだったこと、何か起こすのではと思った事。
「ごめんなさい、エリオン様」
言えなかったことを空に向かって言った。ミリーは、目をパチパチさせていた。深くは聞かないところがミリーだ。

「ただいま帰りました」

明るく迎えてくれる家族、使用人達。私は幸せだ。お母様とお祖母様が待っていてくれる。笑顔で抱きしめてくれる。
「あら、まだ子供ね」
泣きたい気持ちは抑えて、もう一度、
「ただいま」
と言った。

二人には、お茶を飲みながら、今回のアステリア王国の交流会の件を話した。私がした事、エリオンが恋心を失ったかも知れない事。そして私の考えとフランツ王子の考えの違い。
「フランツ王子様は、第一王子としてこの国を統治する者として、当たり前のことをしたまでです。計画したけど計画通りにいかなかったから許しましょうは、駄目でしょう。アーシャだってわかっているんでしょう?だから取り押さえるよう警備配置を変えたわけでしょう」
お祖母様に言われ、私は、
「それは、ローズリーさんだけとは限らないです。それにローズリーさんが襲うとは考えられなかった。司会をして王子様に近づき何か言おうとしていて、護衛騎士に払われたのです。アステリア王国の交流学生の中に襲撃事件の関係者がいたかもしれないと思ったからです。生徒会は婚約候補者の関係者ばかり、巻き込まれてもおかしくなかったです、だから警備の配置を変えました」
これも言い訳として言った。もう少し上手くやれただろうと言われたらきっと出来た。もっと情報を聞き出したり、情報操作をしたりすれば良い。私には一日前には情報が入っていたのだから。

「少し疲れているわね」
お母様が私の背中を摩ってくれる。そして自部屋に帰った。
いつものベッドにいつもの机。
4カ月離れただけなのに、恋しかった空間。
バサッと雪崩れ込む布団の中で私は、安心して眠った。

「先生、王子一人じゃインパクト弱くなってきましたよ」
「そうね、ヒロインの一途さもいいけど、揺れる恋心も描きたいわね」
「エリオンやゼノンは弱いのよね、どの設定がいい、隣国の王子、魔界でも出す?」
「先生少女漫画です。ありふれた設定の胸キュンを!」
「困ったわね、二人の王子の奪い合いなんてあるあるよ。あとは、イケオジ!」
「少女漫画ですよ、おじさんはちょっと」
「いやいや、おじさんは言い方悪かったなぁ?イケ兄は!」
「ヒロインに兄がいた設定ですか?」
「いや、いや、それじゃ、王子の方!」
「キャラが足りないとはいったのは、こちらですが、突然兄出てきたら、変ですよ。でも例えば、従兄弟だ、隠し子だのは…」

「綾ちゃん、先生達揉めているね」
「なんで、連載終わりに出来ないんですか?かなりヒロインと王子、ラブラブじゃないですか?」
「ああそれは、最後コラボが…」


「アーシャ様アーシャ様、起きて下さいな」
えっ?
「コラボ!」
「はい?コラボって何ですか?」
コラボって何?いや、それより、今の予告書?
「ごめん、ミリー、後10分だけ手紙を書かせて、すぐだから」
と書き綴る。
私の夢、妄想、想像?
覚えている限りを、

王子に兄、従兄弟、隠し子。
ヒロインと王子はラブラブ

おや、書いていておかしな言葉、ラブラブって何だ。恋ってことかしら?
マリーさんとフランツ王子は、恋しているのかな?今はいないけど。

「アーシャ様、10分です。ご用意して夕食です」

久しぶりの家族全員での食事は暖かくて美味しかった。

領地休養は、ゆっくり魚釣りから始まった。まだまだゴロゴロ過ごすぞと心に決めている。

王宮では、エリオンとフランツが言い合いになっていた。
「何故、あのようにみんなの前で捕らえたのですか?見せしめのように、どう考えてもわざとアステリア王国の者達がいる前で捕らえたようにしか見えない。何かしようとしたかもしれませんが、武器も持ってない令嬢でしたよ」
とエリオンが怒った。フェルナンドが前に出た。しかしフランツは片手を上げて
「アステリア王国の前で捕まえる。リオンに王太子の座は渡さないと何度でもわからせなければいけない。それが国や立場を守るためだ。エリオン、宰相の息子として甘いんじゃないか?もう私の執務室に来なくていい」
無表情のまま、フランツは、エリオンに言った。
「王子殿下、学園とは、学生同士の交流の場、身分も関係なく同じ勉強をし体験をし、新しい発見をする。その場に政治を持ち込んだ殿下を私は、非難します。失礼します」

私の知らない所で、また予告書とは違う話が展開されていた。

「全く釣れない。小さい魚さえも。餌が悪いのかしら?林の腐葉土から虫を捕まえてみようかしら?」
「おやめください、令嬢ですよ」
「ミリー、少し厳しくなったわね」
「それがですね。ガレットさんにメイドの心得や王宮の給仕など教えて頂いて、私成長したんです」
「良かった、良かった」
「お嬢様、口の利き方!」

領地内の学校をマークと視察に行った。元公爵家の使用人達が引退して講師を務めている。
その様子を見て、みんな生き生きしている。学校は、何も子供だけじゃない。手が空いている妊婦さんや怪我をした猟師など幅広くいる。主に字を学ぶことが多いが、剣術、算術、礼儀作法もある。
「絵を描く時間があったっていいじゃない」
すぐにお父様に提案した。
仕事に結びつかないかもしれないが、心を豊かにしてくれると母様も同意してくれた。
好きな事をもう少し時間を持ってみんなが出来たらいいね、とマークに話したら、自分が領地を継ぐ時には、そうすると言った。相変わらず、可愛い弟だ。
ドミルトン伯爵家は、安泰だと思う。

そう言えば、フランツ王子の領地の視察はどうなったんだろう?エリオンが言っていたがドミルトン伯爵領は外されたのかな。久しぶりに魚釣りや的当て、手押し相撲をやりたかったが、お父様も何も言わない。
エリオンは、どうしたかな?

本当にあっと言う間に夏休みも終わりが近づいた。ミリーは、また荷物をまとめ始めた。
私は、お祖母様、お母様のそれぞれの茶会に顔を出しつつも、やはり印象が薄いのか、以前もいましたか?扱いで見合い話など出てこない。

フゥー、また寄宿舎に戻るのですか。学園に行かなくても良いんじゃないかと思っている。空を見ていれば、伝書鳩が飛んできた。
フランツ王子から手紙が届いた。
いつも手紙など付いてないのに!

見ると、
『婚約者が決まった。ルイーゼ・ドミルトン』

話が見えなかった。あと4人いたはずなのに、何故突然?
あの時交流会の日の生徒会メンバーの立って見てた表情を思い出した。
彼らは、いやエリオン以外、驚いてなかった。なんかギラっとしたものを感じたんだ。それは、誰かに対する怒りとかじゃなくて。手押し相撲を始める時の瞬間に似ている感じ。
いや、今はそんなこと関係ないか。
これは、フランツ王子の意志なのかを確認する手紙を鳩につけて送ったが、返ってこなかった。

私が領地を発つ日、お祖父様宛に手紙が来た。
「ルイーゼが、第一王子フランツ殿下の正式な婚約者に決まった。婚約パーティーが近く開催される。アーシャにも招待状がきているぞ」
と怪訝そうに話された。お祖母様も少し怪しげな顔をしたが、おめでたい話でもあるので、パーティーのドレスは、王都で買いましょうねと微笑まれた。

夏休みの終わりは、そのニュースでもちきりだった。

そして私は、今、婚約パーティーという場違いな煌びやかな王宮にいる。


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