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序章
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太陽が美しい光を周囲に照らし、澄み切った風が心地よい日であった。
石でできた要塞や幾つもの貴族用の塔に囲まれた王国
その中央の広場では、血生臭い異臭が漂っていた。
或る女が血に酔いしれ、興奮状態にある民衆に囲まれて、投石され、額や体中に青痣と血が滲みながらも、静かに毅然とした態度で立っていた。
女は稀代の悪女として、この王国に災いをもたらした魔女として断罪される。
民衆の怒号や、下衆な野次にも女は関心を示さず、唯かつての情人フランシス皇太子の端整な、しかし目は無機質な冷えた性質を示していた姿を見上げた。
彼は貴族の塔に立ち、女の処刑を眺めていた。
女は、かつてその目が熱情を湛えていた過去を偲び、目を僅かに細めた。
愛ではなく朽ちた花の残骸を懐かしむようであった。
『私を殺すのですね。フランシス様・・。いと悲しき事。でもこうなる予感もありましたわ。』
ふっと女は淋し気な笑みを浮かべ、広場の中央にある断頭台、ギロチンまで、木製の粗末な階段を慎重に昇った。
処刑人はこれをみて瞠目した。大抵の女や犯罪人は恐怖で泣き喚いたり、震えているのが常であった。
だが、この女は死を恐れず、悠然と受け入れる態度はどこか神々しかった。
美しいと処刑人は不謹慎にも感じた。処刑人は惜しいと僅かに処刑を躊躇った。
だが、すぐに平常に戻り、淡々と、女のほっそりした首を木の首穴に固定した。
女の上には、日で煌めいている刃があった。
それでも女は俯かず、唯、魔女と罵る民を無感情に硝子のような瞳で見つめた。
中には、黒い布で顔を覆った人物もいた。どこかで見知ったような気もしたが、女はもう考えるのを止めた。
女はふとこの余興をもっと楽しませてやろうと思った。
彼女は高らかに民に呪いの言葉をかけた。
『なにが、悪女か?そなたらが弱く愚かなのが悪いのだ。私は唯、愛しただけ。恥じぬことはない。恥ずべきは、無知で愛も知らぬそなたらよ。そなたらには永遠に愛の意味は分からぬ。唯、生きるだけの無知な輩よ。私ほど愛を知っている者はいない。そなたらは下らぬ世界で這いつくばっているがいい。』
美しい声で彼女は侮蔑と嘲笑と呪いを周囲に振りまいた。
思わず怯む民も居たが、すぐに憤怒に変わった民は早く処刑しろと喚き散らした。
『私は死なぬ。愛が私を蘇らせる。フランシス皇太子を愛したのも全ては運命の為せる業。私は
受け入れただけ。』
彼女は、嫣然と微笑んだ。 煌めく刃が彼女の美しい首を胴体から切り離した瞬間でも彼女は微笑んでいた。
それはとても美しい笑みだった。
フランシス皇太子は唯、それを無表情に虚ろに眺めていた。
無意識に頬に苦い水が伝っているのを彼は感じていた。
『残酷な女よ。俺を置いていくのか。また運命の環は、お前と俺を引き離す。』
『女よ。お前が去ったら、この国を滅ぼそう。歴史は俺をこういうだろう。国を滅ぼした狂皇子とな。』
数年後、皇子は即位し、敵味方拘らず、生者を屠り続けた。
『ここにあるものは俺の所有物だ。貴様らが悪いのだ。我が愛妾を下らぬ冤罪によって引き離しおって。貴様らの命など俺にとっては塵芥同然よ。』
僅かな覚悟と勇気をもった若者たちが、死を覚悟して皇子を暗殺するまで、国は恐怖と死の嵐の粛清に呑まれた。
しかし、時遅く、国は滅び、僅かな生き残りがいるだけであった。
『愛によって滅んだ女に滅ぼされた国』と後に伝えられるようになった。
石でできた要塞や幾つもの貴族用の塔に囲まれた王国
その中央の広場では、血生臭い異臭が漂っていた。
或る女が血に酔いしれ、興奮状態にある民衆に囲まれて、投石され、額や体中に青痣と血が滲みながらも、静かに毅然とした態度で立っていた。
女は稀代の悪女として、この王国に災いをもたらした魔女として断罪される。
民衆の怒号や、下衆な野次にも女は関心を示さず、唯かつての情人フランシス皇太子の端整な、しかし目は無機質な冷えた性質を示していた姿を見上げた。
彼は貴族の塔に立ち、女の処刑を眺めていた。
女は、かつてその目が熱情を湛えていた過去を偲び、目を僅かに細めた。
愛ではなく朽ちた花の残骸を懐かしむようであった。
『私を殺すのですね。フランシス様・・。いと悲しき事。でもこうなる予感もありましたわ。』
ふっと女は淋し気な笑みを浮かべ、広場の中央にある断頭台、ギロチンまで、木製の粗末な階段を慎重に昇った。
処刑人はこれをみて瞠目した。大抵の女や犯罪人は恐怖で泣き喚いたり、震えているのが常であった。
だが、この女は死を恐れず、悠然と受け入れる態度はどこか神々しかった。
美しいと処刑人は不謹慎にも感じた。処刑人は惜しいと僅かに処刑を躊躇った。
だが、すぐに平常に戻り、淡々と、女のほっそりした首を木の首穴に固定した。
女の上には、日で煌めいている刃があった。
それでも女は俯かず、唯、魔女と罵る民を無感情に硝子のような瞳で見つめた。
中には、黒い布で顔を覆った人物もいた。どこかで見知ったような気もしたが、女はもう考えるのを止めた。
女はふとこの余興をもっと楽しませてやろうと思った。
彼女は高らかに民に呪いの言葉をかけた。
『なにが、悪女か?そなたらが弱く愚かなのが悪いのだ。私は唯、愛しただけ。恥じぬことはない。恥ずべきは、無知で愛も知らぬそなたらよ。そなたらには永遠に愛の意味は分からぬ。唯、生きるだけの無知な輩よ。私ほど愛を知っている者はいない。そなたらは下らぬ世界で這いつくばっているがいい。』
美しい声で彼女は侮蔑と嘲笑と呪いを周囲に振りまいた。
思わず怯む民も居たが、すぐに憤怒に変わった民は早く処刑しろと喚き散らした。
『私は死なぬ。愛が私を蘇らせる。フランシス皇太子を愛したのも全ては運命の為せる業。私は
受け入れただけ。』
彼女は、嫣然と微笑んだ。 煌めく刃が彼女の美しい首を胴体から切り離した瞬間でも彼女は微笑んでいた。
それはとても美しい笑みだった。
フランシス皇太子は唯、それを無表情に虚ろに眺めていた。
無意識に頬に苦い水が伝っているのを彼は感じていた。
『残酷な女よ。俺を置いていくのか。また運命の環は、お前と俺を引き離す。』
『女よ。お前が去ったら、この国を滅ぼそう。歴史は俺をこういうだろう。国を滅ぼした狂皇子とな。』
数年後、皇子は即位し、敵味方拘らず、生者を屠り続けた。
『ここにあるものは俺の所有物だ。貴様らが悪いのだ。我が愛妾を下らぬ冤罪によって引き離しおって。貴様らの命など俺にとっては塵芥同然よ。』
僅かな覚悟と勇気をもった若者たちが、死を覚悟して皇子を暗殺するまで、国は恐怖と死の嵐の粛清に呑まれた。
しかし、時遅く、国は滅び、僅かな生き残りがいるだけであった。
『愛によって滅んだ女に滅ぼされた国』と後に伝えられるようになった。
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