黄金の狼の傭兵団

栗菓子

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第26話 カテイサ視点

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 最近、マルーンの様子がおかしい。何故だ?

セレストは、本当に変わった。
十年以上、孤児たちの面倒を見て、子どもたちの目が生き生きして、精悍な大人になる様は、カテイサも少し思うところがあった。
セレストは父親のようになって成長し続けている。目の輝きが違う。子どもとともに、セレストも成熟していっている。若い頃にはなかった魅力が増している。

とても素晴らしい人になっている。人間とはこうも変わるものか?

カテイサは、親とは何だろう、子とは何だろうと思わずにはいられなかった。

マルーンはその様子を見て、暗い目をした。いい知れぬ濁った眼だ。

カテイサはそれをみてぞっとなった。


密偵として、ここサイカの最下層の社会の中に潜んでしばらく時がたった。
カテイサは、すっかり溶け込み、不信をいだかれないように同化している。しかしゴルデア様には逐一情報を届けている。それこそがカテイサ達の任務でもあるのだから。

グレイは、傭兵みたいな仕事をして、サイカの実情を密かに調べている。
勿論、マルーンもともに同行させていた。監視の意味もある。危ういマルーンから目を何をするかわからないからだ。

しかし、今、グレイは珍しく体調を悪くして、監視の任務をカテイサが代わりにすることになった。

マルーンの様子がおかしくなったのは、セレストが、破顔して間もなく子どもに会える。実の子に・・。

と呟いたからだ。


サーラが密かに、セレストに便りを出したのだ。まもなく時が満ちる。貴方の子に会わせられる時が来る。という内容だった。

マルーンはそれを盗み見をして、鬼の形相をした。

マルーンにとって裏切りに近い話だったからだ。マルーンはセレストが父親になったことをいまだに認められない
脆弱な心の弱い変化を全く好まない永遠の子どもだった。


裏切り者・・とマルーンは身勝手な理屈でセレストを殺そうと思った。

その異変にカテイサも薄々察して、危険を悟った。

マルーンはセレストに悪意を持っている。 どうすべきか。ああ見えてマルーンは実力者だ。カテイサより腕が立つ。

しかし、止めなければならない。
「おい、おかしな真似は止めろ。いい加減セレストの変化を受け入れろ。お前はおかしくなっている。セレストをどうするつもりだ。」


カテイサは分かっているのだぞと警告を言った。しかし濁った瞳をしたマルーンには届かない。

カテイサは舌打ちして、剣を抜いた。力ずくでもわからせなければこの子どもは永遠に、もう元には戻れない事を理解しないままだ。カテイサはそう悟って、マルーンに剣を向けた。

「いい加減にしろ。人間は変わるんだ。マルーン。お前も受け入れろ。」


カテイサは分かってくれと切なる思いを抱いて、マルーンを諭した。

しかしマルーンには届かなかった。

「セレストの味方をするの? 仲間のくせに?あんたも敵だ。」

異様なマルーンにカテイサは思わず斬りかかった。 しかしマルーンのほうが上手だった。

ひらりとマルーンはかわし、すかさず、カテイサの急所を狙って殴った。

「ぐうう・・。」

カテイサは衝撃に呻きながらも必死で体勢を立て直そうとした。
しかしマルーンの急襲にはかなわなかった。

致命傷にいたらなかったが、カテイサは横たわった。激痛のあまり動けない。

「・・ま、まて・・。」

必死でカテイサは、マルーンを制止しようとしたが、無駄だった。

マルーンはそのままセレストに向かって、殺そうと走った。

嗚呼・・お許しください。ゴルデア様。マルーンを止められなかった。


これから始まる悲劇を思い浮かべながら、カテイサは気を失った。

グレイ・・グレイ来てくれ・・マルーンを止められなかった。すまない。

カテイサは必死で祈った。







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