黄金の狼の傭兵団

栗菓子

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第28話 シン将軍の最期

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シン将軍は、いつものように鍛錬を終え、己の邸へ帰還しようとしていた。

その時、シンは異変を感じた。見張りの兵や、監視しているはずの密偵がいない・・。

どういう事だ。 シンは何者だ!と怒号を上げ、この異変をもたらした者を呼んだ。

ひらりと窓のカーテンが揺れた。そのカーテンの裏に、人影が見えた。

「曲者め。何者だ。名乗り出るがいい。このシンを狙うとはな・・。」

くすくすと曲者は笑いながら、君の兵や、監視者は処分したよ。呆気ないねえ。と溜息をついた。

月の光が、その姿を現した。 「ルーン王子・・。貴様が‥何故だ?」

ルーン王子は子どものように微笑んで、こともなげに言った。

「邪魔だから殺したよ。」「君もいい加減目障りだから殺すよ。」

「だってもうすぐ、お父様に会えるんだ。知っている?僕の母が選んだ父は、セレストという男だよ。嗚呼やはり母が見込んただけあって魅力的だったよ。あの男が父親なんで嬉しくてたまらなかったよ。」

「でもその前に、邪魔な奴らを殺さなきゃあ僕の憂いは晴れない。」

わざとらしく、ルーン王子は己の手を自身の頬にあてた。

忌々しいほどにそれはよく似あった。

「師匠に向かって、刃を向けるか。獣の如き心を持った奴よ。」
シン将軍は侮蔑の目を向けたが、ルーン王子は肩をすくめて、僕たちは同族嫌悪なんだよとこともなげに言って、
「いつか殺そうと思っていた。今がその時だね。」

剣をもって、シン将軍に斬りかかった。弟子だけあって、剣の上達は並外れている。技量もいつの間にか卓越している。これがルーン王子の実力か・・。

なるほど確かに、ルーン王子はいつの間にかシン将軍に拮抗する実力を得てきた。

だが、まだ甘い。弟子の剣の癖は師匠であるシン将軍が見抜いていた。甘い箇所もいくつかある。

殺意を抱いて、真剣にルーン王子は、シン将軍を殺そうと獣となったが、なかなか決着が付かない。

お互いに強いからだ。こんなに長い間戦いあうのは久しぶりだ。しかしまだ若輩のルーンがだんだん形勢不利になっていた。息を切らし始めた。

シン将軍はニヤリと歪んた笑いをして、まだまだだな。ルーン王子。いやルーン。もはやこれまでだな。

さらばだ。とシン将軍は最後の力を振り絞って、ルーン王子の剣を手からはたき飛ばした。

武器は無くなった。これで戦意喪失するかと思いきや、ルーンはガアアと唸って、手でシン将軍の利き腕を掴んだ。彼はその腕に犬歯を突き立てた。

獣のように、腕を骨が届くまで、噛みついたのだ。
生存本能が理性を凌駕して、ルーンは獣のように怒り狂って手で歯で、全身で殴りかかった。噛みついた。鋭い牙をかけた。
ぐううとシン将軍は呻いた。まさかルーン王子のような貴人が獣のような戦いをするとは思わなかった。


首を噛まれ、頸動脈に達した傷は、血を流し、致命的な傷になったが、まだ生きている体で、シン将軍は、ルーンを叩き潰し、止めをさそうとした。

「今度こそ、さらばだ。ルーン。お前は手ごわい敵だった・・。」
シン将軍はよろよろと止めを刺そうとしたが、どんと背中に灼熱の痛みが奔った。心臓に剣を突きさされた。
目がかすむ。めまいがする。誰だ・・。
ルーンがにやにやして、知っているかい。勝利の女神って女だよ。と軽口を叩いた。

黄金に光る瞳と長い髪。 「アテルナ・・。お前か・・。」

「ええ‥わたくしよ。貴方はずっとルーンの邪魔だったわ。安心して、わたくしはサーラとずっと貴方が気になっていた黄金の女神と謳われたゴルデアと言う男の娘だから・・娘にかかって満足でしょう。貴方はゴルデアを気にかけて居たものね。」

「・・ゴルデアの娘か!」

嗚呼・・勝利の女神、何故女神なのかとずっと思っていたが、確かに女神だ。女神の娘がこうやってシン将軍に死の刃を向けて、シン将軍を敗北させた。

女神は直接戦わなくても間接的に殺す。女にはそういう事がある。

やはりゴルデアが要だったか・・。

シン将軍は己の勘が正しい事を悟り息絶えた。

勝者になったルーンとアテルナは勝ち誇った笑みを浮かべた。

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