5つの花の物語

栗菓子

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チョコレートコスモスの章

第2話 異端の子

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農場では異端の子と呼ばれ忌避されている子どもがいる。
監視している男が戯れに子どもー奴隷を犯して生まれた混血種である。その中には優れた頭脳も稀に生まれる。
何かに秀でた子ども達は大抵、大人に利用されて消耗されて死ぬのが殆どである。

しかしごくまれに普通の子どもとして擬態している子どもがいる。
それでも子どもは何もする気になれなかった。
唯、ここで淡々と仕事をして終える人生を送るのだとそう思い込んでいた。

しかし運命は異端の子どもを普通の運命には置かせなかった。
農場の娘 ありふれたチョコレート色をした娘は男に犯されて自死した。

奇妙な果実のようにぶら下がっている娘を見た瞬間、羨ましくも思い、憤怒もあった。
彼女はとにかく自分で自分の運命 死を選んだわけだ。

しかし異端の子どもはまだ何も選んでいない。唯流されて生きるだけだ。
それが歯がゆがった。子どもはまだ自分の選択をしたことはない。

普通の子どもたちが涙を流しているのを見て異端の子は奇妙に思った。
彼らの涙は分からない。
あれが良い子というものだろう。

異端の子は自分に名前を付けることにした。親はいない。とうに殺されたか、下らない監視をしている父親などはじめから不要だ。

異端の子もまもなく初潮がくる。そろそろ卑しい獣が果実を求めて襲い掛かる時期だ。
彼女は上手く普通の子ども達に混じって空涙を流した。
そして普通の子ども達にそれとなく復讐を誘導した。
カカオの実からお菓子や何かが作れるらしい。
監視している男に一度だけもらった事がある。ほのかに甘い黒い菓子だった。舌で溶けた味は苦いが甘くもあった。
笑いながら男は言った。それはカカオで作った菓子だ。ショコラというんだ。
偉い人がそれをもとにたくさんの人に売って大儲けしてるんだ。時々俺たち下っ端にもくれるんだ。

上手いだろ。ちゃんとお前ら働くんだぞ。
男は自分がどれだけ無知で残酷か分からずに笑いながら言った。

皮肉気に異端の子 ショコラは三日月の笑いをした。
お礼に、男にショコラは胸や陰部を触らせた。男は幼児趣味もあったらしい。頬を赤らめてまだ初潮も来ていないショコラを雌としてみなし発情した雄犬のように目をぎらぎらさせ、まだ小さい性器を必死で開けようと指を動かした。痛みはあったが、こんな小さい穴にも執着するなんて滑稽だとショコラは男をどうしようもない生き物だと確信した。

上手くショコラは何も知らぬ無知な幼い娼婦にみせて男を誘った。
男を悦ばせたら、ショコラには食べ物や、時おり柔らかなベッドのある部屋に連れていかれたり、外の情報や面白気に色々価値のあるものを寄越した。

ショコラはカカオの実の農場で生まれたから、ショコラと自分で名前を付けた。
ショコラはお菓子だ。とびきり甘い猛毒のお菓子になるのだ。

甘い言葉と甘い身体で男を誘惑し続け溺れさせ、何でも言うことを聞いてくれるようにしなければいけない。

ショコラはそっと私の仲間が死んだの。他の男たちに襲われたみたい。可哀そうに。自殺してしまったわ。
独り言のように男に囁いた。

男は少し目を見開き、あいつかな・・と汗を垂らして思いあたりのある奴らの顔を思い出そうとしていた。

誰がやったのかしら。ショコラは不思議そうに囁いた。

ショコラは何故か他の男には襲われなかった。理由は分かっている。
菓子をくれたこの男がショコラを所有物として自分だけのものにしようとしていることは知っていた。
時折、男が他の男を連れて行っては処分していることもショコラは目撃していた。

男は無知だが強かった。その強さをショコラは愛していた。それを利用しようと無意識にショコラは考えていた。


他の子ども達も、彼女の死のせいで何かに目覚めつつあった。子ども達は自分たちの境遇がいかに悲惨か正に直視させられたのだ。それを強いたのは大人であるということも。

彼らの覚醒と不満と怨嗟は徐々に満ちつつあった。ショコラは肌で感じつつあった。
まもなく爆発は来るだろう。
ショコラは、男を頼りにしている依存した娼婦のように、男に縋り付いた。

反乱はもうすぐ来る。
ショコラは男を必死で悦ばせた。男の力がショコラには必要なのだ。

男はうっとりとショコラに溺れた。

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