5つの花の物語

栗菓子

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チョコレートコスモスの章

第5話 ショコラの男

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ショコラの処女は、チョコ菓子を与えた男のものとなった。
なるべくしてショコラは男の性奴隷として生きながらえた。男は無知だがどこかショコラの意図を見透かしているように澄み切った眼をしていた。こんなに無知なのに何故瞳だけは雨の後、晴れた青空のように天空の青の瞳をしているのだろう。それだけは男の持つ美しいものだった。

ショコラは男の瞳だけは美しいと思っていた。

ショコラは、男に囁いた。甘く蕩けるように囁いた。ねえ怖いからずっと貴方の元にいたいわ。
なんだか怖いの。貴方のところにずっといないとどうかなりそう。
ショコラは男に依存しきった女に見せかけた。

ショコラの演技は大したものだった。震えながらどこか怯えた風情をみせる女奴隷は愚かで哀れに見えたことであろう。

男はうっとりと、哀れな女を助ける勇敢な騎士のように精悍な顔を見せた。
大丈夫だよ。俺が守るから。男はショコラの破瓜の血が付いたシーツを愛おしげに見て、ショコラを菓子のように食べた。ショコラは菓子になった。人ではない。食べ物だ。
男への甘い毒菓子だ。

トロトロと黒い液体が、男に染み込む。ショコラの味、カカオ農場の味。かすかに腐臭と死臭がする味だ。

ショコラは男を農場の肥料にしたかった。この男の体をカカオの実の養分にしたらどれほどすっきりするだろうか。
ショコラは殺意を秘めながら愛を囁いた。

男は無邪気にショコラを抱きしめて、自分の所有物のように扱った。
ショコラの体を娼婦以下のように卑猥に扱った。ショコラも倒錯的な行為に耽溺した。

この世はショコラにとって悪夢だ。ならばショコラも快楽を味わって何か悪いのだ。
ショコラは刹那的に男への奉仕に浸る自分に酔いしれた。

ショコラは酔いしれる自分をどこかで客観的に見ている自分を把握した。
そのもう一人の自分に操られるようにショコラは動いた。その行動は全て正しかった。

ショコラは男を悦ばせ、男を絡めとり虜にした。

ショコラは、高い壁を通り抜け、男の家の性奴隷となった。

こんなに壁はすり抜けられるのね。

ショコラは男の家の窓から、周囲を見た。

とても裕福そうな人たちで溢れていた。でもショコラにとっては獣のようにしか見えなかった。

いつ叩き潰されるかわからない敵でショコラは囲まれている。

皮肉にも虜にしたショコラの青い瞳をした男だけがショコラのものだった。

ショコラはいつまでこの馬鹿馬鹿しい遊戯が続くか思った。

ショコラが年老いて男が飽きるまでだろうか?

かすかに農場が気になった。きな臭い匂いはしていた。ショコラは巻き込まれたくなかったので男に縋り付いて逃げた。これが本当に正しい行動かは分からない。

ショコラには選択があまりなかった。
農場に留まるか。
男の性奴隷として暮らすか。

ショコラは農場で朽ち果てるよりは、男の性奴隷として少しでも世界を見たかった。
結果、ショコラは男に従い、世界を少しでも見られるようになった。

ショコラはあまり目立たないよう擬態した。下手に目をつけられたら一巻の終わり。
男は子どものように無邪気でドライだった。
今はショコラに溺れているが、いつ飽きるか分からない面があった。

何かあれば男は即座にショコラを裏切って見放すだろう。ショコラには解っていた。

その前に男を殺害する瞬間をショコラは何度も思い浮かべ訓練した。

殺意は密やかに膨れつつあった。

ショコラは甘い顔で擬態した。男は笑ってショコラを見た。男の前では甘い甘い恋人のように見えただろう。

ある日 男が言った。
あの農場はとても偉い人が何かの実験で造ったみたいだよ。何の試しだろうね。
よく考えたら、監視人も奴隷も血が繋がっているの多いしね。
これじゃあ、家族同士で争っているみたいだね。それが目的なのかな?

男は首を傾げて、ショコラに呟いた。
面白いのかな?偉い人の考えることは分からないね。

ショコラは思った。もしそれが目的だったら、それこそ悪魔でしょうよ。わたしたちをこんな地獄へ突き落とし馬鹿らしい人生を送らせているのは化け物に違いないわ。

ショコラは分かりたくもなかった。
彼女はひたすらに男へ奉仕した。男の醜い一物が反応して膨れあがり、血管が肉塊に見えるようになればショコラの勝利だ。後はショコラの胸に出すか、穴や不浄の穴に出すかだ。

男がショコラの体に出す度に嗚呼まだ飽きていないな。生き延びられると実感できた。

これはショコラの一人だけの生存の戦いだった。

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