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045 堺から熟女真~生女真
しおりを挟む「南蛮へ行かれるのですか!?」
堺に到着後、納屋を訪ねてフランス行きを告げたら、主の今井宗久は驚いて叫んだ。
「ああ、少しばかり用ができたんでな」
「ここに居るフランスの商人アントワーヌ・レグノウこと、
公爵令嬢ルイーズ・ド・モンモランシーが向こうのお偉いさんと繋がりがあるみたいなんな」
「……それで、南蛮まで行かれるわけですか」
今井宗久は納得したようだったが、同時に不安を顔に出して言う。
「ですが、そうなると安倍様との繋ぎは難しうございますね」
「それは仕方ないが、今川家の方は取引に支障が無いように、申し送りはしてある」
納得がいったという表情で宗久が頷く。
「重ねて言うが、フランス人が来ていることはスペインポルトガル船とバテレンどもには内密に頼む」
「なるほど、安倍様の言われるバテレン対策ですね。
それでフランス船は清水港と蝦夷地以北にしか入らないというわけですか」
「そういうことだ。今はまだ、フランスのユグノーが日本でバテレンに対抗できる地力がないからな」
「わかりました。では商談の方と参りましょうか」
「よろしく頼む」
話し合いが終わり、商談となって、俺は大太刀と手入れ用品を購入を打診する。
幸いなことに他所で在庫があったようでそれを取り寄せてもらうことになった。
山椒や生姜もまとめ買いしておく。
「甲冑などは如何でしょうか?」
「見せて貰おう」
大太刀を流してくれた商人がしきりに勧めるので見せてもらうことにする。
長持ちから出てきた甲冑をみて俺は「おおっ」と声を上げた。
「綺麗……」
初めて見る日本の甲冑にルイーズが感嘆の声を上げる。
それは古い時代のもので、全体が赤く塗られていた。
手入れもされているようで、聞けば元寇の頃のものだという。
俺は即座に購入を決断した。
鉄砲の普及によって防具としての意味は下がっているかもしれないが、儀典用としては別だろう。
フランス人は審美眼が高く、美術品を見る目が肥えているから高く売れるに違いない。
「これはいいわね。売れるわ!」
ルイーズが鼻息も荒く、甲冑の周囲をぐるぐると回りながら言った。
さすがに公爵令嬢だけあってルイーズも見る目があるようだ。
フランスでの取引の成功を確信しつつ納屋を辞去するが、
問題はどうやってフランスまで行くか、となる。
今回、海路は考えていない。
荷はアイテムボックスに入れればいいから船便でなくても問題は無し。
往復を考えればそれほど猶予は無いんだがどうするべきか。
しばし悩んだ末にウラジオストクあたりから上陸してみることにした。
船着き場で誰も見ていないことを確認して荷をアイテムボックスに収納。
荷車を埠頭にある納屋の事務所に返して何食わぬ顔で博多行きの船に乗る。
「荷物の方は大丈夫ですか?」と聞かれたので手ぶらだと胡麻化した。
アイテムボックスを初めて見たルイーズは「何なの? これ?」と驚いていたのはお約束だろう。
博多で王汝賢のところに顔を出す。
「大陸へ行く船は出てないか?」
「明は海禁だ。お前だけならこっそり入れるかもしれんが、後ろの二人は駄目だろう」
王汝賢は俺の背後に立つお市とルイーズを見て言った。
「南蛮人は目立つというわけか」
「そういうことだ」
そこで王は書類をぱらぱらとめくって一葉を俺に差し出す。
「だが、大陸に行くことはできなくもない」
差し出された海図には朝鮮半島に寄港してウラジオストクに向かう航路が描かれていた。
ウラジオストクの地点には永明城と書かれている。
「永明城は金の領土だ。そこから上陸するといい。朝鮮半島で下船するのはやめておけ。
あそこも明に負けず劣らず役人の腐敗が酷いからな」
俺達は王汝賢の勧めに従って永明城行きの船に乗ることにした。
途中、船は朝鮮の釜山に寄港したが、下船せずに船内で過ごすことにする。
「東へ向かって正解だったな」と港を見てルイーズがつぶやいた。
航海は釜山を出て北に進む。
上陸地点の永明城が見えた時には、一見して寂れた町のようだった。
「元朝の頃には栄えていたんですがねぇ」
船員の誰かが言う。
この町の名はここが「絶やされることのない永遠の灯火」の城市だったということだが、今ではその面影はない。
俺達が下船する際に朱儁(しゅしゅん)が注意をうながす。
「この辺りの女真は漢化された熟女真ですが、女真は女真、
海西のまつろわぬ生女真共々用心を怠らぬよう」
「助言、感謝する」
それだけ言って俺は女騎士二人を引き連れて船を下りた。
「さて、ここから先は当分馬の旅だ。ルイーズ、お前は馬に乗れるか」
「当たり前よ。私は聖墳墓騎士団でエルサレムに居たんだからね」
「なら問題はない。馬をあたるとしよう」
当然の事だと言うルイーズの返答を受けて俺達は馬を探した。
元朝崩壊により交通網も途切れがちになってはいるようだが、何とか馬を手に入れることに成功する。
俺を先頭にして、ルイーズ、お市の順で隊列を組み西へ向かう。
「暑いな……」
馬上のルイーズが涼し気な顔でそう漏らした。
額から流れ落ちる一筋の汗を彼女は手の甲で拭って息を吐く。
「確かに暑いな。北に来たというのにこの暑さは何なのだ?」
「アンジェリカ、俺を睨むな」
お市がルイーズと同様の疑問を俺にぶつけてくる。
「この辺りは夏がクソ暑くて冬はクソ寒いんだ。あきらめろ」
そう。この辺りを含むシベリアは冬季の間は極寒の地だが、夏になると灼熱地獄と化す。
気温も摂氏で四十度近くまで行く熱帯夜も多いから、熱中症の死者も毎年出るという過酷な土地だ。
そんな土地を突っ切って俺達は馬で旅をしている。
「もう少し進めばモンゴル高原、北元の領域だ。そこまで行けば湿気は減る」
気休めを口にして、俺は二人を前に進ませた。
「……元? モンゴルか?」
ルイーズが俺の言葉に反応して声を上げた。
欧州にモンゴルの恐怖が黄禍論として根付いていることがルイーズの言動からうかがわれる。
北元は元だ。
元寇の失敗以降、元は内紛で国力を消耗した末に明朝の攻撃によって消滅したような印象があるがそれは違う。
二度目の元寇から二百八十年後も、モンゴル高原に撤退した元はまだその命脈を保ってはいた。
この元を北に遷移した元という意味で北元という。
実際には内部分裂して抗争を繰り広げているわけだが、対外的には元朝であることに変わりはない。
ここで俺達は馬から牛に乗り換えた。
牛に馬具を取り付けているとお市が解せぬという顔で聞いてくる。
「なぜ牛に乗るのだ。先を急ぐのだろう?」
「そうよ」
見ればルイーズも納得がいかないようだ。
「牛は馬と違って体が頑丈にできている。それに午も走れば馬に負けず劣らず早い。
この先の中央アジアで立ち往生してられないからな」
「そうかしら……」
「とりあえずは乗ってみろ」
渋る二人を牛に乗せて俺はさらに西へ急いだ。向かう先はトルファンである。
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