異世界勇者の信長いじり~~ゾンビがあふれた世界になるのを防ぐために信長の足を引っ張ります

上梓あき

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066 フランス革命阻止作戦Ⅱ

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コンデ公のパリ屋敷を離れた俺はコリニー提督と別れると一人、ロワール渓谷に向かった。
特に急ぐことはないので馬屋で馬を見繕っての旅とする。
もっとも、それは日本に西洋馬を持ち帰る際の参考にするためだが。
そんなわけで俺はペルシュロンとかいうノルマンディー産の馬に跨っていた。
この馬は軍馬に使われる種類の馬で非常にでかい。
足が太くて毛色は青みがかった白という、日本にはない馬だ。
性格はというとこの馬種はもともとおとなしいのだが、牝馬ということもあって更に温和である。
俺は牝馬を選んで見ているのにも当然理由があった。
生物学的にいって、異種交配による混血では、雄よりも雌の方の発現形質が強く出る傾向がある。
これは異人種間の混血でも同様で、母親の人種的特徴の方が父親のそれよりも表に出やすい。
そういうわけで俺が日本に持ち帰るならば牝馬を中心にしたいと思っている。

おっと、話がそれたな。
それでペルシュロンという馬種は馬力があって頑丈だが、それがために鈍重でもある。
なのでぱっかぱっかと進むわけだ。
こちらの切り崩し工作によってカトリック支持層内部にも亀裂が生じ始めているからギーズ公も積極的には動けない。
そして、ここで必殺の一手を放つ。
そのためにもこれから向かうターゲットにはすぐに近づかずに状況を読むべくゆっくりと進む。

向かう先はアンボワーズ城。フランス国王シャルル九世の居城である。

「行くぞ、セーラ」

俺が呼びかけると馬が「ひひん」といななく。
歩き出した彼女の胴を踵で軽く蹴るとセーラは早足になった。
そのままの勢いで暫く進んでいると後方から俺を追いかけてくる騎馬がある。

「待て、逃げるな!」

その声に振り向くと、仏頂面のラヴィニアが馬首を寄せてきた。

「何の用だラヴィニア。セーヌの生霊はどうなった?
 それにそもそもコリニー提督の許可は得ているのか?」

「う……、それは……」

俺の突っ込みにしどろもどろになるラヴィニア。
そもそも今回はお前の出番は無いと言ってやりたいのだが、お市と違ってこいつは俺のものではない。

「無断での出奔は敵前逃亡になる可能性があるぞ? ん?」

「い、いや、無断ではない。置手紙は置いてきたから大丈夫だろう。……大丈夫だよな?」

「そこで俺に聞くな。それでお前は一体何の用だというのだ?」

俺がそう畳みかけるとラヴィニアは黙り込んだ。
金髪の縦ロールが風に吹かれて揺れている。

「お前は信用できない。どこかで何かをやらかす気なのだろう。
 閣下はお前を信用しているようだが、私は違う。お前の仕業は見届けさせてもらおう」

まるでお市のような言い草に俺は溜息を吐いた。
ちなみにお市はルイーズと共にコリニー邸で留守番というか勉強中だ。
なんでも、ルイーズがフランス貴族としてのマナーをお市に仕込むつもりらしい。
どういう風の吹き回しか知れないが、お市もそれに乗り気である。
そんなわけで監視役がいないからはっちゃけられると思っていたらこいつがやってきた。
オルレアンを通り越してブロアまで来てしまった以上、一人で追い返すわけにもいかない。
何しろここからパリまでは百五十キロ近くあるのだ。
いくらこの女が剣の達人とはいえ、一人で行かせる気にはなれん。

「……仕方がない。付いてきたければ付いてくればいい。
 だが、お前の出番は無いと思えよ」

「余計なお世話だ。そんなことは私が決める」

お市にしてからがそうだが、いつもの事とはいえ、何たる物言いか。
これを、身から出た錆ではないかとの指摘があるかもしれないが、そんなものを受け付けるつもりはない。


アンボワーズに着いてすぐにしたのは宿屋探しだ。
厩舎のある宿を探してしばらくの間投宿すると宿の主に告げる。

「それでどれくらいお泊りになられますか?」

「とりあえず一週間は泊まりたい。部屋の方は……と」

俺がラヴィニアを見ると彼女が宿の主人に要求する。

「二人部屋はないか?」

「男女同室となりますがよろしいので?」

「構わん。私はこの男を監視する」

困惑顔の主人にラヴィニアがそう告げると、宿の主が俺を見た。
「お前、何をやらかしたんだ?」と。

「……わかりました。部屋は二階の奥の突き当りになります。
 それと夜はあまり騒がずにお願いします」

俺に鍵を渡しながら宿の主人が念を押してくる。
ラヴィニアは意味がわからないといった風情で俺達を見た。


部屋に入ると俺は柱と柱の間に綱を張ってシーツをロープに掛けて目隠しとした。
それを見ながらラヴィニアが問う。

「それで何をする気だ」

「今は何もしない。夜まで待つ。
 それまでの間、お前は外で情報収集でもしてきたらどうだ?
 ニンジャ学校の授業で教えた通りにな。俺は寝る」

そう言ってベッドに横になっていびきをかき出すと、ラヴィニアの気配が近づくのを感じた。
おそらくは狸寝入りではないかと観察しているのであろう彼女は、俺が本当に寝たと思い込むと、ようやく宿を出て行った。
いびきを止めた俺は仰向けにごろんと横になり、両腕を枕にして天井の一点を見詰める。

なにゆえに俺が他国であるフランスの国内戦争に干渉しているのかを整理しようと思う。
その理由の第一は、西洋諸国の武力を背景にしたカトリックによる文化侵略を阻止するためだ。
通説的な、カトリックを利用した西洋諸国による植民地支配の阻止などではない。
見誤るな。敵はヨーロッパ列強という括りでは捉えきれないものだ。

そして俺はこれを阻止したい。
もしも、そうしなければ鎖国や禁教令をどれだけやっても、日本へのキリスト教の流入は避けられないだろう。
実際問題、明治維新から十年も経たないうちに、東北諸藩から欧米に送り込まれた武士の子弟が大勢キリスト教に改宗している。

これには外様も譜代も関係無くだ。
どうしてそんなことがありえるのか?
答えは一つしかない。
江戸期を通じて東北諸藩の武士階層にキリスト教が浸透していったのだ。
島原の乱に加担したキリスト教徒を東北に流したのがこういう結果をもたらしたと考えるのが妥当だろう。
日本に迫る禍根を断つためには、この時代でローマ教会を破壊するしかない。
そのためにはヨーロッパのハートランドたるフランスとドイツを新教国に変えてしまう必要がある。
独仏を中核とする新教国家群にローマの手足たる国家群を叩き潰させて、本丸を狙う。そのための工作がこれだった。

そういう訳で俺の狙いはあくまでも日本の統一性の維持である。
それ以外にはない。


日暮れ前にラヴィニアは帰ってきた。
憮然とした表情のまま、今夜出ると言う。
「そうか」とだけ俺は言った。
恐らくはセーヌの生霊としての用事なのだろう。
彼女は剣の手入れを始めた。

こちらとしてはラヴィニアが野暮用をこなすというのは結構、好都合ではある。
他人を連れて城に忍び込むのははっきり言って面倒だ。
やっていることの一部始終を余人に知られるわけにはいかない。
だが、念のために指輪を渡しておいた。

「これは何だ?」

指輪を渡されたラヴィニアが不審さを隠さず俺に訊く。

「いざという時のための保険だ。着けろ」

「断ると言ったらどうする」

そう言ってラヴィニアは微動だにしない。
着ける気配は全くなかった。
そのままじっと無言で突っ立っている。
いい加減面倒くさくなってきた俺はラヴィニアの手を取るとその指に指輪を通した。
瞬間、ラヴィニアの脳内に電子音が響く。

「ニューラルリンク……コネクティング……ドーン。
 緊急時強制召喚システム起動しました。
 これより装着者が危機に陥ると、対象者の強制召喚シークエンスが起動します」

「おい! これはなんだ! 私の頭が、頭がっ!!」

「落ち着け。特に害はない。
 お前が命の危機に晒された時に俺が呼ばれるように設定しただけだ」

「は? 何を言っている? お前を呼ぶだと?
 世迷い事もいい加減にしたらどうだ」

「なら実際にやってみせよう」

俺はラヴィニアの手を取り指輪に向かって話しかける。

「テストモード起動。パスワード……富士山麓オウム泣く」

「アクセス承認……テストモード開始します」

これが俺とラヴィニアの脳内に響いたから、彼女はこんらんした。

「まただ!」

俺は錯乱するラヴィニアから離れた。

「ラヴィニア、いいから俺を呼べ」

俺が語調鋭く命じると俺はどこかに引っ張られるのを感じた。
次の瞬間、俺はラヴィニアの隣に出現する。

「……? ……!!」

目を見開いてラヴィニアが絶句する。信じられないという面持ちだ。

「お前……何だ、これは……」

辛うじてそれだけを言うラヴィニア。

「見ての通りだ。これでお前は地球の裏側からでも俺を一瞬のうちに召喚することができる」

「なぜこんなことをする」

「お前に死なれては俺の目論見が狂うからさ」

これは事実であって事実ではない。
本心にあるのはユグノーに降りかかるリスクの回避。
危険なはねっかえりとなるリスクを抱えたラヴィニアにはそのためのマーカーになってもらう。
たかが女一人の命を救いたいわけではない。
恨めしそうな目で俺を睨んでいるがそんなの知ったことか。

こうしてひと悶着はあったものの、人気が絶えた頃を見計らって俺とラヴィニアは動き出した。
宿の二階からラヴィニアはロープを伝って下りていく。
俺はそのまま飛び降りた。
着地の衝撃は回転によって相殺する。

「行くぞ」

ハンドサインで声を掛けると向こうもそれに反応して宿から離れた。
すぐに二手に分かれて、それぞれに用のある方角へ向かう。
ラヴィニアがどこへ向かうのかは分からない。
が、俺の向かう先は視界の先に聳え立っていた。

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