74 / 82
074 婿取物語
しおりを挟む「それで、今回の訪仏は女王の婿取り話の件で来たと?」
「そうでござる。どうやらフランスの外交方針に変化があった様子ゆえ、ご機嫌伺いに参った次第でござる」
変なサムライ口調に戻した麻生陽子=ヘクター・マクドナルドは今回の訪仏の目的を口にした。
ヘクターの話によると現スコットランド国王のメアリー・スチュアート女王は1542年12月生まれの19歳で、二年前の1560年12月まではここフランスの王妃だったという。
「フランス王妃?」
「左様、現国王の亡き兄君であらせられる、国王フランソワ二世陛下の妃でございましたが、フランソワ二世陛下の崩御によりフランスを離れ、スコットランドに戻られて王位に就かれたのでござる」
ヘクターの話によるとメアリー・スチュアートがフランスに渡ったのは六歳の時で、それ以来フランス宮廷で育てられたという。
そういった流れの中で彼女はアンリ二世の王太子フランソワ二世と婚姻を結んで夫婦となるが、
一年半ほどの夫婦生活の中で子が生まれなかったため、フランス王室を離れたということだった。
「女王陛下も二十歳でござる。世継ぎのこともあり、婿取りに関しては周辺諸国とすり合わせをせねばならぬと思っておったゆえ、罷り越した次第」
「それで正使殿がコリニー閣下らと諮っているというわけか」
俺は陽子の説明に納得した。
はっきり言ってしまえば、ヨーロッパの婚姻関係は複雑怪奇である。
入り組み過ぎて何が何だかよくわからない。
陽子の話によると、メアリー女王の婚姻相手には色々な候補が出ているらしい。
今年の夏にスコットランド旧教派貴族最有力のゴードン家が起こした叛乱が鎮圧できたため、体制固めを行おうということだった。
「だが、政略結婚にはデメリットもある」
俺の指摘に陽子は黙って耳を傾けてはいた。
「第一に、姻戚関係が国外に広がるため、王位継承をめぐる争いが対外戦争になる危険がある」
「それはわかるが、血による婚姻同盟は戦争を抑制する意味もあるでござる」
「それはそうだ。だが、第二の問題として……俺はこっちの方が問題だと思うのだが、
王家と国民との血の繋がりが薄くなる。国民と血の繋がった王家ではなくなったなら、誰が命を懸けて守ろうとするのだ?
そうなっては所詮、お飾りの王だぞ。お飾りの神輿なれば、軽くてパーな方が良いに決まっている」
「……なれど」
陽子が言い募る。
それを聞いて俺は陽子の中指に指輪を嵌めた。
途端、陽子の脳内に電子音声のアナウンスが響く。
きゃっ、と彼女は小さな悲鳴を上げた。
「な、なに、太郎?」
「コミュニケーター。以心伝心の魔道具だ。これがあれば国のトップ同士で直接のやり取りができる」
さっ、と陽子の表情が変わる。
「太郎、どういうことなの?」
「あの日、ゾンビの群れに呑まれた俺は異世界に召喚されたんだ。魔王から国を守る勇者として」
「……嘘。信じられない。……でも、こんなものはこの世界の何処を探したってありえない。
いったいどういうことなの? あの日から太郎に何があったのか教えてよ」
素に返った陽子の問いかけに俺は今までの経緯を教えた。
黙って聞いていた陽子は、話し終えた俺をやにわに抱きしめる。
「そんなことがあったんだ……。そしてわたし達を救うために戻ろうとしたけど叶わずに中世に来てしまったんだね。
……でもなんだか嬉しいな」
そう言って、陽子が俺を見た。
「だって、わたしと太郎の友情と同盟は永遠だから」
♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡
折衝の席に割り込んだ陽子が正使に意見具申してスコットランド女王の国際結婚話はお流れになった。
念話アイテムを実際に装着してみた正使が驚愕のあまり「これで外交の歴史が変わる」と放心して婿取の話どころではなくなったというわけだ。
それにそもそも、シャルル九世にとってメアリー・スチュアートは兄嫁であり、婚姻以前においては姉のような存在であったというのも大きい。
テレビ電話よろしく以心伝心でコミュニケーションが取れれば、遠く離れていても信頼関係は維持できる。
……となれば、関係維持のための婚姻同盟はさして重要とはいえなくなる。要は利害関係を共有できていればいいのだ。
そんなわけで、史実では中間派だったスコットランド女王メアリーはプロテスタントへと立ち位置を変えていくことになるだろうというのが陽子の見立てである。
現状、ヨーロッパで仕掛けられる工作はこれくらいだろう。
そう判断した俺は日本へ戻る頃合いだと判断した。
とりあえずコリニー閣下には報告しておこう。
「……そうか。ジャポンへ戻るか」
「はい。今のところはこれ以上俺が関われることはそう多くないと思いまして」
状況の変化によってはどうせまたすぐに戻ってくることになるとは思いつつも、閣下へはそう告げた。
「正式な公使を送る件については了承した。すぐに手配はする」
「はい」
ここでコリニー閣下が口ごもった。
「ルイーズも連れて行ってくれないだろうか。ジャポンとの貿易で稼ぎたいと言って聞かないのでな」
身内の心情としては遠くに行かせたくはないが、ユグノーの勢力扶植のためには信頼できる身内を派遣したい。
そういう微妙な心理がコリニー提督の表情からは窺えた。
俺としては本人次第なため、その旨を言うしかない。
結果、ルイーズと共に日本へ舞い戻ることになる。
一方、ドイツから戻ってきたラヴィニアはコリニー家武装メイド隊に配置転換となった。
「……では、叔父上、行ってきます」
「任せた」
短い挨拶を済ませたルイーズは馬首を南に向ける。
その後に俺とお市が続いた。
向かうはマルセイユ。地中海に面した港町。ここで船に乗り、地中海を東進してサン・ジャン・ダクル(アッコン)に向かう。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
「お前みたいな卑しい闇属性の魔女など側室でもごめんだ」と言われましたが、私も殿下に嫁ぐ気はありません!
野生のイエネコ
恋愛
闇の精霊の加護を受けている私は、闇属性を差別する国で迫害されていた。いつか私を受け入れてくれる人を探そうと夢に見ていたデビュタントの舞踏会で、闇属性を差別する王太子に罵倒されて心が折れてしまう。
私が国を出奔すると、闇精霊の森という場所に住まう、不思議な男性と出会った。なぜかその男性が私の事情を聞くと、国に与えられた闇精霊の加護が消滅して、国は大混乱に。
そんな中、闇精霊の森での生活は穏やかに進んでいく。
なぜ、最強の勇者は無一文で山に消えたのか? ──世界に忘れられ、ひび割れた心のまま始めたダークスローライフ。 そして、虹の種は静かに育ち始め
イニシ原
ファンタジー
ダークスローライフで癒しに耐えろ。
孤独になった勇者。
人と出会わないことで進む時間がスローになるのがダークスローライフ。
ベストな組み合わせだった。
たまに来る行商人が、唯一の接点だった。
言葉は少なく、距離はここちよかった。
でも、ある日、虹の種で作ったお茶を飲んだ。
それが、すべての始まりだった。
若者が来た。
食料を抱えて、笑顔で扉を叩く。
断っても、また来る。
石を渡せば帰るが、次はもっと持ってくる。
優しさは、静けさを壊す。
逃げても、追いつかれる。
それでも、ほんの少しだけ、
誰かと生きたいと思ってしまう。
これは、癒しに耐える者の物語。
***
登場人物の紹介
■ アセル
元勇者。年齢は40に近いが、見た目は16歳。森の奥でひとり暮らしている。
■ アーサー
初老の男性。アセルが唯一接点を持つ人物。たまに森を訪れる。
■ トリス
若者。20代前半。アーサー行方不明後、食料を抱えて森の家を訪れる。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
~唯一王の成り上がり~ 外れスキル「精霊王」の俺、パーティーを首になった瞬間スキルが開花、Sランク冒険者へと成り上がり、英雄となる
静内燕
ファンタジー
【カクヨムコン最終選考進出】
【複数サイトでランキング入り】
追放された主人公フライがその能力を覚醒させ、成り上がりっていく物語
主人公フライ。
仲間たちがスキルを開花させ、パーティーがSランクまで昇華していく中、彼が与えられたスキルは「精霊王」という伝説上の生き物にしか対象にできない使用用途が限られた外れスキルだった。
フライはダンジョンの案内役や、料理、周囲の加護、荷物持ちなど、あらゆる雑用を喜んでこなしていた。
外れスキルの自分でも、仲間達の役に立てるからと。
しかしその奮闘ぶりは、恵まれたスキルを持つ仲間たちからは認められず、毎日のように不当な扱いを受ける日々。
そしてとうとうダンジョンの中でパーティーからの追放を宣告されてしまう。
「お前みたいなゴミの変わりはいくらでもいる」
最後のクエストのダンジョンの主は、今までと比較にならないほど強く、歯が立たない敵だった。
仲間たちは我先に逃亡、残ったのはフライ一人だけ。
そこでダンジョンの主は告げる、あなたのスキルを待っていた。と──。
そして不遇だったスキルがようやく開花し、最強の冒険者へとのし上がっていく。
一方、裏方で支えていたフライがいなくなったパーティーたちが没落していく物語。
イラスト 卯月凪沙様より
老衰で死んだ僕は異世界に転生して仲間を探す旅に出ます。最初の武器は木の棒ですか!? 絶対にあきらめない心で剣と魔法を使いこなします!
菊池 快晴
ファンタジー
10代という若さで老衰により病気で死んでしまった主人公アイレは
「まだ、死にたくない」という願いの通り異世界転生に成功する。
同じ病気で亡くなった親友のヴェルネルとレムリもこの世界いるはずだと
アイレは二人を探す旅に出るが、すぐに魔物に襲われてしまう
最初の武器は木の棒!?
そして謎の人物によって明かされるヴェネルとレムリの転生の真実。
何度も心が折れそうになりながらも、アイレは剣と魔法を使いこなしながら
困難に立ち向かっていく。
チート、ハーレムなしの王道ファンタジー物語!
異世界転生は2話目です! キャラクタ―の魅力を味わってもらえると嬉しいです。
話の終わりのヒキを重要視しているので、そこを注目して下さい!
****** 完結まで必ず続けます *****
****** 毎日更新もします *****
他サイトへ重複投稿しています!
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる
アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。
でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。
でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。
その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。
そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる